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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


尾根崎心中【SIDE:B 後編】
●オープニング【0】
 都内某所、尾根崎山の山中を源流とする尾根崎川で青年と少女の水死体が見付かったのは約1ヶ月前、関東地方が梅雨入りして間もなくの朝から強く雨が降っていた日のことだった。尾根崎川に架かる皆家橋のたもとに、その水死体が流れ着いていたのだ。
 青年の名は油井徳平、そして少女の名は小鳥遊初音。発見された時、増水し流れが速くなっていたにも関わらず、徳平が初音の身体をぎゅっと抱き締めていた状態だったそうだ。
 そんな発見時の状況などと、2人の交際が互いの両親に反対されていたこともあり、警察は心中事件として処理を行った。
 だがそれに納得出来ない徳平の父親、油井正明は広告の引き上げをちらつかせ月刊アトラスに調査を依頼した。この事件の真実を暴け――初音に徳平が騙されたことを証明しろ、と。
 編集長の碇麗香から頼まれ、手分けして調査を引き受けた一同。しかしいざ調査をしてみると、どうも2人は安易に心中を選ぶような人間ではなかったことが分かってくる。
 尾根崎山にUFOが墜落したなどという与太話や、2人の解剖結果に気になる部分もあったけれども、依頼主が望むような話は出てこない。
 そんな時だった。尾根崎川で調査をしていた1人が、水中から何かに足をつかまれ沈められようとしたのだ。
 それだけじゃない。そのすぐ後、尾根崎川で青年と10歳くらいの少女の水死体が別々に見付かったのである。
 いったい尾根崎川で何が起きているのか――その真相を暴くことは出来るのか?

●仮にも【1B】
「発光事件?」
「ああ、1ヶ月前の」
「……ひょっとして尾根崎山の?」
「そ。麗香さんならその辺詳しく調べてるだろ、仮にもオカルト雑誌の編集者なんだし」
 月刊アトラス編集部――苦笑した御崎月斗は麗香相手にそんな話をしていた。
「仮にもは余計。けどその事件ねえ……」
 何故か渋い顔をする麗香。妙に思った月斗は、その理由を聞いてみることにした。
「何でそんな渋い顔してんだよ?」
「……のよ」
 麗香の言葉がはっきりと聞こえない。
「は? 何て、麗香さん?」
「調べてないのよ」
 明後日の方を向いて麗香は言った。
「やっぱ仮にもだ」
 呆れたようにつぶやく月斗。すると麗香は月斗を睨み付けた。
「仕方ないでしょ! タイミングが悪かったんだからっ」
 麗香の語るには――その発光事件の少し前、別の場所で火球騒ぎがあった。それを調べてみた所が、オカルトのオの字もない結果に終わったのだそうだ。そのため、この発光事件の調査は放置されていたという……。
「しょうがねぇなぁ」
 月斗はやれやれといった様子で言った。と、そんな時にちょうど守崎啓斗が編集部に姿を見せた。
「あ、啓斗! 大丈夫だったのか?」
「ああ。異常なし、健康体ってお墨付きだ」
 声をかけた月斗に対し、啓斗は懐から出した診断書をひらひらとしてみせた。先程まで大学病院で検査を受けていたのだ。
「そう、よかったわ」
「心配かけたみたいで……」
 申し訳なさそうに首を竦める啓斗。そこに麗香はもう一言付け加えた。
「お見舞い金出さずに済んで」
 冗談か本気か判断つかない麗香の言葉に、啓斗は苦笑した。
「そんなことより、サーモグラフィー使えるよう手を回してもらえません?」
 唐突に麗香にそんな頼みを言い出す啓斗。麗香は一瞬きょとんとしたが、すぐにこう言った。
「伝手を辿れば大丈夫だと思うけど、何に使うのよ?」
 怪訝な表情の麗香。それを説明しようとした時、月斗が啓斗に話しかけてきた。
「あ、啓斗。こっちも頼みがあるんだけど」
 月斗の頼みとは、啓斗を使って再度徳平の霊を呼び出す試みをしたいという物だった。愛用のペンも借りてきたとのこと。
「でもな……きっと呼んでも来ないと思うぞ?」
 別に形代となること自体は構いはしないが、啓斗は試みが不成功に終わるような気がしていた。
 その言葉通り――と言ってはいけないのだろうが――月斗の試みはまたしても失敗に終わってしまったのだった。
(また失敗か。啓斗が襲われたってことは……やっぱ、あの川に何か居るってことだよな。気配はあれど姿が見えない……いや、もしかして見えてるのかもな。水そのものが意志を持ってる可能性も……霊が呼び出せなかったことも、仮にそいつに取り込まれてるんだとしたら、ちと厄介だな)
 月斗は小さく溜息を吐き、そう考えていた。
 啓斗は先程中断した説明を、麗香に対して行っていた。月斗はそれを見ながら、『なぁんか危なっかしくて、俺が付いててやんないとな』と思うのであった。

●嵐の前の【3A】
 日が落ち、夜を迎えた尾根崎川。そこに架かる皆家橋の上流、両側の土手には合わせて20人近い人間が集まっていた。川には7つ前後だろうか、ゴムボートが連なって固定されていた。両岸をこれで渡ることが出来そうだ。
 一方の土手には、黒の曼珠沙華の浴衣に身を包んだ少女が居た。海原みそのである。みそのは灯篭の乗せられた小船を片手に抱えていた。いわゆる灯篭流しのあれだ。
 みそのの近くには、戸隠ソネ子や御崎月斗、神谷虎太郎に十桐朔羅、それから守崎啓斗の姿があった。啓斗の足元には、何が入っているのか小袋がいくつも並んでおり、その間を縫うように蛇が這っていた。
 朔羅の前にはサーモグラフィーがセットされており、それを見ている朔羅と虎太郎に啓斗が二言三言何か話していた。この様子では啓斗が調達してきた物を、2人に代わって見てもらっているようだ。
 もう一方の土手には真名神慶悟や藤河小春、海原みなもに沙倉唯為といった面々の姿がある。そこから少し離れた場所には花房翠や天薙撫子、シュライン・エマ、宮小路皇騎、神崎美桜、桜井翔、それから草間武彦や碇麗香の姿があった。
「あれなら移動は出来ると思うけど」
 ゴムボートを見て言う麗香。どうやらあれは麗香が手配した物のようだ。そのゴムボートの写真を手にしたカメラで撮っているのは翠である。フリージャーナリストとして、これから起こる出来事をカメラに収めようというのだろう。
 そうこうしているうちに、みそのが灯篭の乗せられた小船を地面に置き、静かに川の中へと入っていった。それに呼応するかのように、反対側のみなもも川の中へと潜ってゆく。
「話し合いをするとか言っていたな」
 吸っていた煙草を携帯灰皿で消しながら、説明をする草間。話し合いで片がつくのなら、まだその方がいいだろう。が、決裂したのなら……取るべき行動は1つとなる。
「何をしているんだ?」
 草間たちの背後で、男の声がした。振り返ると何故かそこには小鳥遊弘が立っていた。
「あー、いや……そちらこそ何を」
「わしは……何故かよく分からんが、ここに来たくなって……!」
 草間の問いに答えている最中、小鳥遊は大きく目を剥いた。
「馬鹿油井……どうしてここに!!」
 小鳥遊の怒鳴り声にはっとして見ると、別の方向からやってきたのか、何故か油井正明がそこに居た。
「それはこっちの台詞だ、馬鹿小鳥遊!! 私は何故か足がこっちに向いただけだ!! お前が居ると分かってたら、来るはずないだろう!!」
「何をっ! 貴様ぁっ……!!」
 小鳥遊は油井に向かい、つかみかかろうとした。油井も小鳥遊のその行動に黙っているはずがない。
「やる気か!!」
 たちまち揉み合いとなってしまう2人。手が出始めた所ではさすがに放っておく訳にもいかず、草間や翔、皇騎や撫子らが2人を引き離そうとする。が、2人の腕が絡んでいたりして少し手こずっている。
 呆れ顔のシュラインや麗香。翠はフィルムの無駄かもしれないと思いつつも、とりあえず1枚だけその光景を撮っていた。
「……いい加減にしてください」
 美桜の声が聞こえてきた。途端に2人の揉み合いが止まった。別に美桜は叫んだ訳ではない。しかし、この言葉には強い意志が感じられた。それを感じ、2人は揉み合いを止めたのであろう。

●出現【4】
「微妙に温度が違う……」
 サーモグラフィーを覗いていた朔羅は、川の中の温度の様子を見て言った。みなもやみそのの居る場所は別として、それ以外の場所で不自然に微妙に温度が違う部分があったのだ。しかも、それは移動している。
「見て、あれ!」
 シュラインが川を指差した。ちょうどみそのがみなもに押し上げられながら、月斗たちが居る川岸に上がる所であった。
「話し合いにもなりませんでした……応じる姿勢が全く見られなくて」
 上がって早々、みそのはそうつぶやいた。それを聞いた虎太郎が、手で大きくバツを作ってみせた。その間に、みなもも川岸へ上がる。話し合い不成立ということが、反対側の面々にも伝わった。
 その瞬間、反対側に居た慶悟が川の中、遠くへと何かを投げ込んだ。霊峰富士の土――至上の土気を撒き奉じたのだ。水中に潜む『何か』を封じるために。そして同時に予め用意していた桧をも燃やした。
 すると、月斗たちの居る方に近い川の中から、『何か』が一気に姿を現した。それはまさしく巨大なアメーバと言ってもよい生物であった。
「見たままだな……」
 その『何か』の姿を、翠がしっかりカメラに収めてゆく。
「こいつか!!」
 これが自分を襲った奴だと認識し、思わず啓斗は叫んでいた。粘液を出して当然の奴だ。
 慶悟は『何か』に向かって、式神十二神将の騰蛇と青竜に禁呪の行使を命じ、捕縛を同時に仕掛けさせた。それは効果あったようで、『何か』の動きが止まった。月斗がそれを見逃さなかった。
「今だ行け、珊底羅!!」
 すると、啓斗の近くを這っていた蛇の姿が瞬時に変わり、人型へと変貌した。蛇は護衛としてつけていた式神十二神将、巳の珊底羅だったのだ。
 『何か』は珊底羅により、一瞬にして両断された。途端に『何か』は、氷が溶けるがごとく多量の水滴と化して川の中へ落ちていった。
「やったぜっ!!」
 指をパチンと鳴らし、喜ぶ月斗。これで全てが終わったかと思われた。
「これで心中ではないことが証明出来たかと」
 翔は油井の方に向き直って言い放った。油井は口をへの字に結んでいた。
「しかし……これで本当に終わったかどうか」
 神妙な表情でつぶやく皇騎。その口振りは、まだ『何か』が残っているかのようだった。
 その言葉を裏付けるかのような事態が、直後に起こった。

●悔いる者、悔いぬ者【5】
「ちょっと、あれって……」
 シュラインは目を疑った。中央のゴムボートに何かが這い上がってきたのである。翠のカメラのシャッター音が辺りに響いた。
「初音!!」
 小鳥遊が叫んだ。そう、それは初音の姿をしていたのだ。けれども初音ではないことは誰の目にも明らかだった。何故ならその初音は、半透明だったのだから……。
「初音ぇっ!! わしが悪かった……馬鹿油井の息子だということにこだわってたばかりに……」
 しかし今の小鳥遊には判断がつかないようで、涙を流しながら降りてゆこうとするのを撫子や草間が押さえていた。
「いい青年らしいことは分かってた! しかし……しかしぃ……うっ、うっ……」
 その場に膝をついてしまう小鳥遊。
「もっと早く意地を張るのを止めていたらな……」
 溜息混じりにつぶやく草間。もっともな言葉だ。
「……油井さん。もし初音さんが、小鳥遊さんの娘でなければ同じようなことを思っていたんですか?」
 皇騎が何気なく油井に尋ねた。しかし、油井の言葉は耳を疑うようなものであった。
「……ふん。真面目な息子に手を出してきたんだ。馬鹿小鳥遊の娘でなくとも、反対してたろう。もっと相応しい相手など、私がいくらでも見付けてやったものを……」
 本心なのか、それとも意地を張り続けているのかは分からない。だが、人間性を疑われても仕方ない発言だった。
「…………!!」
 美桜が油井に何かを言おうとしたが、一旦ぐっと飲み込んだ。上手く言葉が出てこなかったのかもしれない。
 その間に初音の姿をした『何か』は、一瞬徳平の姿になった後、また初音の姿に戻っていた。
「行くぞ!」
 日本刀『緋櫻』を手にした唯為は、初音の姿をした『何か』にゴムボートを渡って向かおうとした。反対側からは、小袋を2つ抱えた啓斗が向かおうとしていた。が――。
「待った!」
 サーモグラフィーを見ていた朔羅が啓斗を呼び止めた。先程と同じ状態が画面に表れていたのだ。
 寸前で足を止める啓斗。その時、唯為はすでに1つめのゴムボートに乗っていた。
 その時、唯為の前に新たなアメーバ状の『何か』が立ち塞がった。それに呼応するかのように、啓斗たちの前にも同じくアメーバ状の『何か』が現れた。
「おおっ!?」
 進もうとしていた足を止めた唯為は、後方へと戻り飛ぶことで目の前の『何か』の攻撃を避けることに成功した。
 一方、啓斗たちの前に居る『何か』の下部には髪の毛が縛るかのように絡み付いていた。ソネ子が『何か』を絡め取っているのである。
 啓斗は小袋の1つを『何か』に投げ付けると、すぐさま小袋に手裏剣を投げた。小袋が破れ、白い粉が『何か』に降り注いだ。
「啓斗、今のは?」
「生石灰だよ! 今度はガソリンだ!」
 月斗の質問に答えながら、続け様にガソリンの入った小袋を投げ付ける啓斗。今度は啓斗が手裏剣を投げる前に、小袋が破裂して『何か』にガソリンが降り注いだ。虎太郎が、魔除けとして懐に忍ばせていた独鈷を用い、居合いで生じた衝撃波で小袋を破ったのである。
「仕上げだ!」
 バラバラと懐から取り出した何かを投げ付ける啓斗。同時にソネ子は『何か』を髪の毛の縛めから解き放っていた。すると――炸裂する音と同時に『何か』が突如炎上したのである。
「今ノ……ナニ?」
 ソネ子が啓斗に問うと、短い答えが返ってきた。
「炸裂弾!」
 炎上した『何か』は苦しんでいるように見えた。虎太郎はそんな『何か』に対し、居合いで衝撃波を生じさせた。まさしく一刀両断だった。
 唯為の方でも似たような状況になっていた。咄嗟に駆け降りてきた撫子が、妖斬鋼糸を放って『何か』の動きを一瞬止めたかと思うと、さらに慶悟が先程同様に式神たちに命じて『何か』の動きを止めたのである。こうなると、唯為のやりたい放題だ。
「おおおおおおおおおっ!!」
 気合いを入れた唯為は、『緋櫻』を抜き放ち一太刀、また一太刀と『何か』に斬り付けてゆく。そして三の太刀を叩き込んだ時、唯為の目の前の『何か』の生命は終わった。
 残るは初音の姿をした『何か』だけだった。

●これで、終わり【6】
 初音の姿をした『何か』は両岸を見回した後、草間たちの居る方の川岸へ向かって大きく飛び上がった。まさにひとっ飛びといった所だが、異変が起こった。
 上空で初音の姿をした『何か』は、ぴたっと制止してしまったのだ。見れば眼鏡を外した翔が、まるで睨むかのように『何か』を見ている。どうやら、翔の強力な念動力によってその場に留めているようだった。
 その時、川から新たに現れた生物があった。『何か』がまだ残っていたのかと思い身構えた一同だったが、そこに居たのは7メートルもあろうかという、銀の西洋龍であったのだ。
「……映画のスチールと言っても通じそうだよな……」
 とか何とか言いながら、翠は新たに現れた銀龍の姿をも写真に収めていた。
 姿を見せた銀龍は少し空気を吸ったかと思うと、『何か』に向かって口から炎を吐き出した。
 一瞬にして炎に包まれる『何か』。炎が消えた時には、もう『何か』の姿はどこにも見当たらなかった。
 銀龍は再び川の中に潜り姿を消した。辺りがしんと静まり返る。その状態がしばらく続いたことが、もう『何か』は居ないのだということを表していた。
「初音……初音ぇ……わしが悪かった……ううっ……うっ、うっ……」
 小鳥遊は何度も何度も地面を叩きながら、泣き続けていた。心から反省している様子は明らかだった。しかし油井の方はというと――。
「あいつだ! あいつだな! 息子を殺した奴は……ははっ、あいつが殺したんだ!! やったっ、息子の仇を取ったぞ!!」
 反省の言葉はまるで聞かれない。そんな油井に美桜がつかつかと歩み寄り、腕を握った。美桜は自分が感じた初音と徳平の悲しみの感情を、油井へと流し込んだ。
「ははっ……ははっ……あいつが殺したんだ……あいつが……」
 けれども相変わらずの様子の油井。笑っている。
「違います」
 美桜は静かに頭を振った。
「あなたたち……いえ、あなたが2人を殺したんです」
 小鳥遊は遅きに逸したとはいえ、最後に自分の行動を悔いた。だが油井からはとうとう最後までそんな言葉が聞かれなかった。
「はははっ……あいつ……あいつなんだよ……はははははっ……はははははっ……」
 ……どうも油井の様子がおかしい。
「わはっ……わははっ……あははははっ……あーはっはっはっはっ……」
 壊れたCDプレイヤーのごとく、笑い続ける油井。目は虚ろ、正気でないことは見て分かる。皇騎が深い溜息を吐いた。
 みそのは灯籠の乗った小舟を川へと浮かべた。灯籠は何かに導かれるかのように川の中央へと行き、皆家橋を越えて下流へと流れてゆく。灯籠の光は次第に小さくなっていった。
 草間や麗香、シュラインはそんな油井に対し哀し気な視線を送っていた……。

●後日談【7】
 事件解決数日後、月刊アトラス編集部。
「進化……なのかしら」
 麗香は今朝翠から送られてきた今回の事件についての記事第1稿をチェックしながら、饅頭を一口かじった。
「何がだよ、麗香さん?」
 ケーキを食べていた月斗は、麗香の言葉に反応した。隣に座っていた啓斗が、月斗にちょっかいをかける。
「……あ、美味しそうだな。一口くれよ」
「やだよ。麗香さんの奢りなんだから」
「知ってるぞ。箱一杯に詰まってたの貰ってたろ」
「……しょうがねぇなぁ。半分やるよ」
 根負けしたのか、啓斗にケーキを半分渡す月斗。何気に啓斗が言う分量より増えている所が面白い。その様子は、まるで兄弟のやり取りそのものであった。
「例のバクテリアよ。あのまま放置してたら、どこまで行ってたのかしらね」
 やれやれといった様子の麗香。近くのテーブルでは、ソネ子が山と積まれた饅頭をぱくぱくと食べ続けていた。この饅頭、油井の家から大量に送られてきた物である。ちなみに――油井の現在の状態は推して知るべし。
「他者を滅ぼした犠牲の上に成り立つ進化ですか」
 苦笑する皇騎。的確な言葉だ。
「『姿形』は進化しても、それ以外が進化するかどうか分からないと思いますね」
 さらっときついことを言うみその。麗香がこくこくと頷いた。
「それもそうね。でもまあ……被害者があれ以上増えずに済んだことを素直に喜ぶべきなのかしら。こういう言葉も適切じゃないと思うけど」
「かもしれませんね」
 相槌を打つ翔。隣に座っていた美桜は終始うつむいていた。そんな美桜の肩に、翔はそっと手を置いた――。

【尾根崎心中【SIDE:B 後編】 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0413 / 神崎・美桜(かんざき・みお)
                   / 女 / 17 / 高校生 】
【 0416 / 桜井・翔(さくらい・しょう)
   / 男 / 19 / 医大生&時々草間興信所へ手伝いにくる。 】
【 0461 / 宮小路・皇騎(みやこうじ・こうき)
        / 男 / 20 / 大学生(財閥御曹司・陰陽師) 】
【 0554 / 守崎・啓斗(もりさき・けいと)
                   / 男 / 17 / 高校生 】
【 0645 / 戸隠・ソネ子(とがくし・そねこ)
           / 女 / 15 / 見た目は都内の女子高生 】
【 0778 / 御崎・月斗(みさき・つきと)
                   / 男 / 12 / 陰陽師 】
【 1388 / 海原・みその(うなばら・みその)
                 / 女 / 13 / 深淵の巫女 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全13場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・大変お待たせして本当に申し訳ありませんでした、ようやく梅雨明けです。後編、ここにお届けいたします。
・元ネタは……複数ありますが、あえて言う必要もないでしょうね。ちなみに危険度で『6』なんて数字が出てましたが、冗談抜きに今回の依頼って危険だったんですよ。
・ちなみに皆家橋、『みなげばし』とも読むことが出来るって気付いてました?
・御崎月斗さん、2度目のご参加ありがとうございます。発光事件に着目したのは正解。ですが、本文のような結果に。ちなみに霊が呼び出せなかったのは、『何か』に魂を完全に喰らわれてしまったからでした。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。