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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


正体



■ オープニング

「編集長、新しいネタを仕入れてきました!」
 月刊アトラス編集部。いつになく、覇気のある三下が碇編集長の元へやって来た。
「あら、三下君。おかしなものでも食べたの?」
「た、食べてませんよ! っと、それよりもこれを見てください」
 気を取り直し、三下が碇編集長に差し出したものは数枚の写真だった。一枚目は、古めかしい純和風の建物の外観を写したもの。屋根には瓦が三分の二ほどしかなく、見るからにボロボロであった。
 二枚目はその建物内の様子だった。これまた一枚目と同様に無残なものである。今にも崩壊してしまいそうだ。
 三枚目は夜に撮ったものなのか真っ暗だったが中央付近に白い物が写っている。
「この屋敷は数年前から無人らしいのですが、最近、夜に屋敷の玄関付近で、白い物体が目撃されていまして、幽霊なんじゃないかって噂になっているようです」
「よし、三下君行って来なさい。今すぐに」
「ぼ、ぼ、僕がですか〜〜〜?」
 慌てふためく三下。
「私は編集長よ? 拒否権なんてものは、私の下についた時点で剥奪されているのよ!」
「ぼ、ぼ、僕〜、別の原稿がありますからああ〜〜〜!!!」
 三下は脱兎のごとく逃げ出した。碇編集長はそれを無言で見送ると、表情を変えずに社内を見渡した。次のターゲットを探す碇編集長…。その目は鋭利な刃物よりも殺傷能力を秘めているらしい…。
「誰か行って来てくれるわよね?」
 彼女の明朗な声が室内に響き渡った。



■ 屋敷前

 時刻は、午後9時。そこは、人為的な雑音などはなかった。聞こえてくるのは虫の音ぐらいなものである。住宅街から少し離れた場所にひっそりと佇む屋敷は、近所の間では『幽霊屋敷』と安易なネーミングで呼ばれているようだ。
「ふう…」
 車から降り、陵・彬は一息ついた。
「怪しげな屋敷じゃ」
 次に降りてきたのは椿・茶々。宙に浮いているが何を隠そう彼女は座敷童子なのである。
「よーし、準備しなくっちゃー」
 今度は海原・みあおだ。バッグの中から懐中電灯やら軍手などの道具を確認している。しかし、お菓子やジュース類などの食料(?)まで準備しているようだ。
「ここか…」
 ライ・ベーゼが車に寄りかかり気だるそうに呟いた。彼の肩の上では使い魔の鴉であるアルファスが居眠りをしていた。
「みなさん、準備はよろしいですか?」
 運転席から降りてきたのは三下だ。結局、碇編集長には逆らえない彼は、4人と共にこの幽霊屋敷へとやって来たのだった。4人が彼に着いてきた理由は様々なのだが、運命と言う言葉で片付けてしまおう(目が合ってしまったとか、偶々編集部に立ち寄って碇編集長に捉まったとか、ただの好奇心とか、三下が可哀想だったとか言う理由は、ここでは運命と呼ぶ)。

 一行は、まず昼の間に屋敷付近の住民へ聞き込み調査を行った(主に三下が)。それによると、この屋敷は5年前から無人だと言う。近所付き合いが悪かったらしく、詳しい話を知っている者はあまりいなかったのだが、飛行機事故で家族全員が亡くなったのだということだけは皆知っていた。
 また、この屋敷の現在の所有者なのだが、付近の住人たちの多くが『よく分からない』と答えた。しかし、ある一人の住人によると、この屋敷は2年前に取り壊される予定だったとの事だ。だが、業者が屋敷を訪問中に事故に遭い、数名が死亡したと言う事件があったらしい(大手の業者だった為、表沙汰にしないように警察に根回した為、この事件はニュースにもなっていない)。ここまでは事実に基づく話である。
 そして、今回問題になっているのは幽霊騒ぎだ。最近、目撃されているのは白い物体なのだが、住人たちの間では屋敷に住んでいた人間たちの彷徨える霊なのではないかと噂になっているようだ。

「それでは、屋敷の中を調査しましょう。えっと、僕は、ここで連絡係を…」
「えー、三下来ないの?」
 みあおが声を上げて三下を非難する。三下は眼鏡のズレを直しながら、
「それが、編集長から4人の足手まといになるといけないから、外で待機しているようにと言われまして…」
 と、少し俯き加減にボソボソと呟いた。
「まあ、少人数の方が動きやすいだろ」
 彬が言った。
「そうじゃな、屋内の調査じゃからあまり大人数になると、何かあった時に困るからのお」
 茶々も彬に同意しているようだ。その後ろでライも頷いている。
「もう、しょうがいないなあ。じゃあ、三下行って来るねー」
「はい、皆さんお気をつけて」
 4人は三下に見送られながら屋敷の玄関へと向かった。



■ 屋敷内部

 4人の先頭を地図を片手に持った彬が、その後ろを横に並んで、みあおと茶々、そして、少し間を置いて最後尾にライ。真ん中の二人は何やら遠足気分のようだった。
「そういえば、玄関には何もいなかったね?」
 みあおが皆に向かって言った。
「確かに…」
 彬が頷く。
「まあ、屋敷のどこかにおるじゃろうて」
 茶々が能天気な事を言う。
「だが、事故のこともある…。用心した方がよさそうだな…」
 ライが真剣な面持ちで言うと、全員が頷いていた。幽霊騒ぎと聞くと、肝試しのようなレクレーション的な考え方をするのが普通かもしれないが、一応、業者の事故の件があるのだ。ライの一言で、みあおと茶々もその事を再認識したようだ。
「ヘルメット装着おーけー」
 みあおが工事用のヘルメットをかぶる。その瞬間、場の空気が一転して軽くなった。
「まあ…、安全対策はあるに越した事はない…」
 ライが冷静に呟いたが、もしかしたらツッコミなのかもしれない。
「レッツゴー、ってきゃー!!」
 みあおが気合を入れ、前に進もうとした瞬間、廊下の床が抜け落ちた。
「…ふう、何をしておるのじゃ」
 その隣にいた茶々は平然と宙を浮いていた。みあおはと言うと、間一髪、彬がその腕を掴んでいた。どうやら、床が腐っていたようだ。かなり老朽化が進んでいるのだろうか、それとも5年と言う空白の時間が与えたものなのか。気を取り直して4人は先へと進む事にした。

「どうやら、ここが台所みたいだな」
 彬が先に部屋の中へと入っていく。みあおが後ろからライトで部屋の中を照らすと意外に台所は綺麗なものであった。ライがポラロイドで写真を撮り、一枚一枚確認していた。しかし、特に珍しいものは写っていないようだ。
「無人の屋敷にしては綺麗じゃのお」
「そうだね、みあおのイメージだと蜘蛛の巣とか張ってそうなんだけどなあ」
「奇妙だな…」
 みあお、茶々、ライ、共に部屋の様子に違和感を覚えたようだ。
「どういうことだろう…。ん?」
 彬が台所の奥から踵を返し、3人の方を向いて驚いた表情を見せた。
「どうかしたの?」
 みあおが気づき彬に問いかける。
「今、入り口に白いものが…」
「む…」
 茶々がそれに敏感に反応し、廊下へと出て行く。ライはポラロイドを構え、その後を追っていった。

「何かいた?」
 みあおと彬が二人を追いかけると、茶々とライはとある部屋の前に立っていた。
「この部屋の中から何かを感じる…」
 彬が呟いた。他の3人も同様に何かを感じ取っているようだ。彬が再び地図を取り出した。それによると、目の前の部屋は居間のようだ。
「開けるぞ」
 彬が襖に手を掛ける。全員が息を呑んだ。
 居間の中は空気が淀んでいた。少し、生温いようにも思える。広さは約10畳ほど…。殺風景な部屋だった。だから、4人はすぐに白い物体を目視することができた。
「動くでない!!」
 茶々が叫んだ。すると、白い物体はビクッと敏感に反応した。みあおが懐中電灯で白い物体を照らす。ライがポラロイドを構えた。
「何なんですか、貴方たちは?」
「え? きゃ、きゃあ!!!」
 最初にみあおが悲鳴を上げた。
「な、なんと破廉恥な格好を!!」
 茶々はどういうわけか怒っていた。その後ろで彬とライが無言で呆れていた。
 というわけで、白い物体の正体が判明した。その正体はおっさんであった。白いブリーフに白いTシャツを着ている、むさ苦しいおっさん。

「おい、あんた…。この屋敷で何をやっているんだ?」
 彬がおっさんに威圧的に詰問する。
「いや、間借りさせてもらっているだけですが」
「…意味不明だな」
 ライが壁に寄りかかり不機嫌そうに呟く。その後の男の話によると、おおよそ次のようなものであった。

 この男は、以前、この屋敷で執事をやっていたのだと言うのだ。しかし、屋敷の家族が飛行機事故で亡くなり、縁が切れてしまったらしい。それから、再就職先を探したのだがこの歳と不景気でろくな仕事が見つからず、ついには住んでいてアパートを追い出されたそうだ。そして、行き着いた場所がこの屋敷だと言う。何とも不憫なことであろうか…。

「じゃ、じゃあ玄関の白い物体って言うのは…」
 みあおが彬の後ろに隠れて男に尋ねた。
「クーラーが使えなかったので…、玄関で涼んでいたことはありますが…」
 男が遠慮がちにそう告げた。まさか、白い物体の正体が下着姿のホームレスまがいの親父だったとは、誰も夢にも思わなかったであろう。
「変じゃないか?」
 彬がそう言うと、全員が彼の方を見た。
「台所で俺が見た白い物体は、あんたじゃない。仮にそうだったとしたら、俺たちがこの部屋に入ってきた時点であんたは俺たちの存在に気づいていたことになる。そもそも、逃げたのも、今のあんたの態度からは説明がつかない」
 彬の説明に皆が頷いていた。
「確かに、私はずっとこの部屋にいましたからねえ」
 男が付け加えた。
「それじゃあ…。他に何かいるってこと?」
 みあおが辺りを見渡す。
「…皆さんが見たのは、たぶんお嬢様の事でしょう」
 男が口を開いた。
「お嬢様じゃと?」
 茶々が聞き返す。
「はい…。お嬢様は昔から体が弱くて、外へ出る事さえ医者に止められていました。ですが、徐々に病気も回復していきましてね…。そして、ある日、ご家族で海外旅行へ行く事になったのですが、その時、飛行機事故が起きてしまったのです…。お嬢様は、亡くなりましたが、成仏できずに、この屋敷へと戻って来たというわけなのです」
「白い物体の正体か…」
 彬が部屋の中を歩きながら俯き加減に呟いた。

「お、お嬢様」
 その時、居間に白いワンピースを着た少女が入ってきた。白いのは服装だけではない。肌も雪のように白く、そして今にも折れてしまいそうなぐらい華奢だった。
「遊んでくれる?」
 少女の顔は無表情だった。4人は一瞬戸惑ったが、みあおが最初に少女に近寄っていった。
「よーし、みあおたちと遊ぼう」
 みあおが少女の手を握る。他の3人もみあおの意図に気がついたのか、笑みを浮かべていた。少女が『かくれんぼ』がしたいと言うのでそうすることにしたのだが、屋敷は思った以上に広く、最初の鬼となったライはかなり苦労していた。
「…少し休ませてくれ」
 ライは体力が極端にないらしく、途中で脱落した。
 少女は終始笑顔だった。執事の男もそれを見て満足気な表情を浮かべていた。

 時刻は午前0時10分。さすがに全員が体力の限界を迎えていた。少女はまったく平気なようだったが。
「皆さん、ありがとうございます」
 執事の男が深々と頭を下げた。少女はその横で微笑んでいる。
 そして、消えた。
 笑顔のまま消えた。
 少女だけではなく執事の男も…。彼も人間ではなかったのだ。
 4人は何も言わなかった。ただ、あの2人が安らかに眠ってくれる事を祈るばかりである。



■ 屋敷前(後日)

 調査から1週間後、茶々は再びあの屋敷を訪れていた。当分は屋敷もこのままなのではないだろうか。夜に見るのとは違い、昼間の屋敷はボロボロなのがはっきり分かったが、どこが神秘的にも思えた。
「それにしても、静かじゃ」
 静寂が辺りを包んでいた。今時の家とは違い、屋敷からは歴史の重みが感じられる。あれから、白い物体は目撃されていないらしい。もう、幽霊騒ぎが起こる事もないのではないだろうか。
 茶々は屋敷を見上げ微笑んだ。
「さて、幽霊に間違われぬうちに退散するかの」
 プカプカと宙を浮きながらその場を去る茶々。
 今回の霊たちは、ただ干渉して欲しかっただけなのかもしれない。茶々はそんな事を考えながら屋敷を後にした。


<終>



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1712/陵・彬/男/19/大学生】
【1745/椿・茶々/女/950/座敷童子】
【1415/海原・みあお/女/13/小学生】
【1697/ライ・ベーゼ/男/25/悪魔召喚士】

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■         ライター通信          ■
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こんにちわ、SWITCHです。
『正体』楽しんでいただけましたでしょうか?
まだまだ、未熟な文章だとは思いますが精一杯書かせていただきました。
この『正体』では、正体が一つだけではなかったわけですが…。
もしかしたら、最初に発覚する白い物体の正体の方が衝撃的かもしれませんね^^;
また機会がございましたら、お会いしましょう。それでは、失礼します。