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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


恐怖の試写会

■試写会にご招待
 夏休みも終盤に入り、前半遊びすぎた学生達が宿題との戦いにラストスパートをかけはじめる頃。
 駅前にある小さなインターネットカフェに彼らは集まっていた。
「ついに来たわね。この季節が」
「ああ、来たな……」
「今年もやるの?」
「……もちろん」
 丸いテーブルを囲み、向かい合う少年少女達。その中のひとり、瀬名雫の言葉に全員息を飲んだ。
「今年は去年より更に凄いネタみつけてきちゃったの。お友達が勤めてるアニメスタジオなんだけど、かなりヤバいらしいのよ。スタッフのほぼ全員が何かしら音を聞いてたり、夜中に作業中してると誰もいないはずなのに冷たい視線を感じたりするんだって。実際とり憑かれた人もいるらしいよ」
 雫はそう言って、ジンジャーエールを一口すする。
「で。来週の土曜、試写会するそうだからこないかって誘われたの。もちろん夜中に……」
 それが何を意味するのかその場にいた全員が理解していた。すなわち試写会と銘(めい)打ったきもだめし大会だ。
「ああいうところって24時間開いてるから色んなのが集まるらしいよな。明かりに誘われてくる虫みたいに……」
「ね、その上映する作品って?」
「今度劇場でやる作品らしいよ。タイトルは……たしか『エターナルヴォイス』だったかな」
 作品には興味あったが、さすがにすぐに「行きたい」と声を出す者はいなかった。
「あんまり広くない試写室みたいだからあんまり人は呼べないと思うけど、見たい人は今度の土曜日。西武池袋線の中村橋駅集合ね」

◇スタジオ訪問
 中村橋駅から徒歩15分。住宅街の隅っこにある雑居ビルのような建物が今日の目的地である製作会社SOVスタジオだ。入り口に小さく表札のようなものがある以外、ただのビルにしか見えないため、関係者でなければ素通りしていただろう。
 日も暮れて街灯の明かりがともりだしたころ。雫をはじめとする一同はスタジオの前へと到着していた。
「こんにちはー……」
 重いガラス扉を開けて声をかけるが、人が出てくる気配がない。
「日にちを間違えのかな?」
 小首をかしげながら海原みあお(うみばら・みあお)は辺りを見回した。入り口付近は誰もいないかのようにしんと静まり返っている。そう広くないビルなので、人の気配があれば気づくはずなのだが……
 程なくして、目の前にあった階段から男性が駆け下りてきた。彼は雫達をみるなり、あっと声をあげる。
「もう来てたのか……ええと、確か試写会見学者だよね? まだちょっと時間あるからスタジオの方を見学していくかい?」
「はいっ!」
 一同の中で一番元気なみあおがすかさず声をあげる。
「制作の裏側を見学できるなんて、そうそうない機会だしな」
 陵・彬(みささぎ・あきら)も興味ありげに呟く。その言葉を聞いて、傍らにいた草壁・鞍馬(くさかべ・くらま)が心配げな視線を向けた。
「……あまり変なものみつけても手を出すんじゃないぞ?」
「それって霊の類のことか?」
「ま、まあ、そういうのもあるけど。他にも社外秘みたいなのとかあるだろ?」
「そういうのは表にだしてないだろうよ。まあ心配しなくてもそれ位わきまえてるさ」
 不意に一番後ろにいた志神・みかね(しがみ・みかね)があっと小さく声をあげた。
「……いま階段のところに何かいなかった?」
「え……? どこどこ?」
「ほら、あそこ。あそこの窓のところ」
 その場にいた全員が、みかねが指差す窓へ一斉に目を向けた。だが、窓から見えるのは夜の闇に溶け込んだ灰色の壁が見えるだけだ。
「あそこの窓と壁の隙間は10センチほどしかないから、何もいるはずないよ。誰かの影が反射したのがみえたんじゃないかな?」
 男性は肩をすくめて苦笑する。確かに建物に入る際の外見では、ビル同士が猫の通る道もないほどにぴったりとくっついていた。単なる光の反射か目の錯覚なのかもしれない。
 階段を上がってすぐの扉の先にあるのが、今回の映画を製作した第1スタジオだ。そのほかにも階を分けていくつかスタジオが分かれており、それぞれの作品を制作しているらしい。
 もう夜の7時を迎えたというのに、スタジオ内は人であふれていた。皆、もくもくと机に向かい作業をしている。
「皆様、一生懸命のようですわね」
 感心した様子で榊船・亜真知(さかきぶね・あまち)が声をもらした。階がはなれていたとはいえ、エントランスに人が来ても誰も迎えに出ようとしないのは少し無用心だが……。
 スタッフの机はどれも大量の紙で埋まっていた。中にはフィギュアだらけで作業するスペースが殆ど見当たらない机などもあるが、それでもちゃんと仕事しているのは職人技というべきなのだろうか。
 スタジオの奥に進むにつれ、みかねの顔色が悪くなっていることに亜真知は気づいた。
「大丈夫、ですか?」
 亜真知の不安げな顔にみかねは大丈夫、と笑顔を返す。だが、その笑顔とはうらはらにみかねはちょっとしたことに過敏に反応していた。ちょっとした音や気配があるたびに思わず身をすくめてしまう。
 だが、彼女が脅えるのも無理はなかった。無害とはいえ、かなりの量がここに集まってきているのが亜真知にも肌でかんじられた。直接何かをするというわけでもないので、今はまだ特に問題ないだろうが、対処しておいたほうが良いかもしれない。
「とりあえず軽く、おはらいしておきましょう」
 ふわり……と亜真知は懐に入れておいた香袋を取り出し、香りを軽く振りまいた。香独特のすこし深みのある甘い香りが辺り一面に優しく広がっていく。
「へえ……なんだか気持ちが軽くなったみたいだ」
「お香の力はわたくし達が思う以上に素晴らしい効果をもっておりますもの。多少の邪気はこれで充分のはずですわ」
 にっこりと亜真知は微笑む。確かにスタジオ内の空気がなんとなく軽くなったような気がした。
「ふーん……私の部屋にも置いてみようかな……これって何のお香?」
「桐の木片とキンモクセイですわ」
「良い香り……ほんと、すっきり出来そう♪」
 女性陣が香りの話題で盛り上がる中、男性郡は実際の制作の話に耳を傾けていた。
「「っと。そろそろ上映時間ですね。小さい試写室ですので、早めに席をとっておいたほうがいいですよ」
 スタッフは時計にちらりと視線を向ける。何時の間にかもう予定の時刻の10分前だ。
 製作スタッフに挨拶を済ませ、少し早めにと試写室へと向うことにした。

◆うしろのしょうめんだぁれ
 試写室へ向かう途中のことだ。みかねはふと誰かに叩かれたような気がして、後ろを振り向いた。
 だが、後ろに誰もいるはずはない。闇に包まれたうす暗い廊下が見えるだけだ。
「どうかしたか?」
「う、ううん……なんでもない」
 たぶん気のせいだろう。そう思い、みかねは先にいった仲間達に追い付こうと足を進める。
 また、誰かが肩に触れた。今度ははっきりそれを感じた。
 同時に背筋に嫌なものが走る。みかねは本能に近い感覚で危険を察知し、振り向かずにその場を駆け抜けた。
 角をまがった瞬間、パッと目の前が明るく輝いた。
 眩しさにめまいを感じて立ち止まる。その途端、背にあった嫌な感覚が急に消え失せていった。
「どうしたの?」
 明かりの正体である懐中電灯を持ったみあおが不思議そうに見つめている。
「この辺、電灯きれちゃってるんだって。一緒にいこ♪」
 屈託のないみあおの笑顔にみかねはなんとなく心が軽くなった。
「うん……」
 差し出された手をぎゅっと握りしめる。握られた手から感じる体温のせいだろうか、どこかほっと安心できた。
「ねえ、さっきの廊下……何か感じなかった?」
「え? 何かいた?」
「うん……たぶん……」
「そっかぁっ。さっきね、あの廊下で写真撮ったんだ。もしかしたら何か写ってるかもね♪」
 楽しげにみあおは言った。乾いた笑いをかえし、みかねは何も写っていませんように、と心の中でそっと呟いた。
 
◇試写室での先客
「一番のりーっ!」
 試写室の扉をばたんと開け、みあおは一番乗りで試写室に飛び込んだ。
「思ったより広いな……」
 中央の座席に腰掛け、彬は室内をぐるりと見回した。音響や映像関係の機器が結構場所をしめているが、それでも人が30人ぐらいは軽く入ることが出来そうだ。いわば小さな映画館といったところだろうか。
 一番最後に入ってきたみかねが扉を閉めた瞬間のことだった。
 パキン……と何かが割れる音がして、部屋の照明が一気に落ちた。
「キャーッ!」
「な、なに!?」
 少女達は互いに寄り添いあい、キョロキョロと辺りを見回す。真っ暗な闇の中、
ドンドンドンドン!
 誰かが壁を叩くような音が徐々に大きく、部屋に響きだし始めた。
「このトラップ音……かなりやばくないか?」
 比較的冷静さを保ってはいるが、鞍馬の額にはうっすらと冷や汗が流れていた。自分と彬だけならともかく、いざというときの場合、この場にいる全員の身を守りきれるか不安だったのだ。もっともこの場に面々は(自覚あるないの違いは多少あるが)それなりに霊象への抵抗力はある。最悪の事態には陥らないだろう。
 ふわり……とどこからともなく現れた青白く光る玉が飛び回り始めた。玉は宙を舞うようにしながらもゆっくりと浮上していき天井へと吸い込まれていく。
「……ひ、ひと……だま……」
 みかねは思わず近くにいた亜真知にぎゅっとしがみついた。あらあら、と小さく呟き、亜真知は優しい笑顔で自分より少し小柄のみかねに微笑みかけた。
「みかね様ご安心ください。すぐに静かにさせますわ」
 すっとみかねから退き、亜真知は懐に納めていた扇子をパンと開いた。
「この地にさまよい御方(おんかた)。今しばらく静かになさいませ」
 凛(りん)とした亜真知の声が会場に響く。一瞬にして爽やかな空気が辺りを満たし、光の玉は掻き消えていった。遅れて照明がともると、扉を開けてスタッフ達が中に入ってくる。
「あれ、君達席に座っていてよかったのに。さあ、そろそろ映画を始めるよ。好きな座席に腰掛けて」
 何事もなかったかのようにスタッフの一人が告げる。仕方なくそれぞれ席に着くものの、やはりどこか落ち着けないでいた。
 特にみかねは先ほどのひとだまが気になるのか、わずかに震えている。
「ご安心下さい、この試写室に結界を張りました。しばらくはさ迷い子もここには訪れませんわ」
「う、うん……」
 小さく返事をするものの不安の色は掻き消せない。
 
 いつの間にか試写室はスタッフで埋まり、上映の時間となった。

◇上映開始
「それでは、今から劇場版エターナルヴォイス『風と水の幻想曲(ファンタジア)』を上映します」
 スクリーンの端に立っていた制作進行の声がし、それと同時にゆっくりと照明が消されて上映が開始された。
「……CM流れないんだな……」
「そりゃ、スタジオの上映会だし」
 軽快に流れるオープニングを眺めながら呟いた彬の言葉に鞍馬は何気なく言葉を返す。
 スタッフ達は皆真剣に映画を見つめており、本来ならば笑うような場面でも表情を崩すことなく、みあおとみかねの笑い声が響くだけだった。
「……みんな真剣だな……」
「そりゃ、自分達の仕事の結晶なんだし」
 ぽつりと呟く彬とそれにさりげなくツッコミをいれる鞍馬。2人の後ろで亜真知は様子を楽しげに眺めてくすくすと笑みをもらした。
「話を見てるより、皆さんの姿をみていたほうが楽しいですわね」

「なあ……聞いていいか?」
「ん……?」
 クライマックスの場面でまた彬がつぶやく。生返事を返すも鞍馬は画面に集中していた。
「わざわざ危険になってから助けに来なくても、最初から見てないで手伝えば早いんじゃないのか?」
「や、それじゃあ話にならないし……」
 まだあまり納得がいってないようだったが、彬はそうか……と再び映画に集中することにした。

◇そこにいたものは
 一通りの上映が終わり、ぽつりぽつりと拍手があがる。それと同時にゆっくりと照明がともり始めた。
「あー、面白かった♪」
 身体を伸ばしてながら、みそのは満足げな笑みを浮かべる。
「ん? もしかして終電時間終わったか……?」
 ふと壁にかかっている時計をみやり、鞍馬が言った。
「え……? どうしよう、タクシー乗るお金なんてないよ」
 困った表情でみかねは雫をちらりと見た。肝試しとはいっていたが、終電までには帰れると思っていたからだ。
「じゃ、じゃあ……まずはお家に連絡して、もし外泊OKだったら、仮眠室に泊めさせてもらったらどうかな? 今なら空いて……ますよね?」
「たぶん大丈夫だとおもう。ちょっと寝苦しいかもしれないが、そこは我慢してもらうよ」
「平気だよ! ベッドがちょっとぐらい臭くったって我慢できるもん♪」
「……あ、いや。そういうのじゃなくて……」
 進行はややためらいがちに視線を落とし、ぽつりと告げた。
「あの仮眠室、妙なのがいるみたいなんだ。俺もこの前あそこで寝た時……腹の上に子供が乗っていてさ、ずっとうなされていたんだよ……」
 
 興味半分にと、家族が迎えにくる女性群もつれて、仮眠室に向かった一同はそこで悪夢をみた。
 部屋の奥にあるベッドの上に1人の女性が座っていた。彼女は首だけ動かすと口元だけ動かした笑顔で微笑みかけてきた。
「どう? 面白かった……? 私の映画」

 その後、彼らがみた女性は完成寸前に仮眠室で自殺した監督の織倉真琴だったということが知られた。
「映画に魂を込めすぎて、神経をすり減らして……絶望して死んだんだ」
 フィルムにとりついた亜真知が浄化を施したもののあまり効果はなく、各地の映画館で怪奇現象のため上映が中止されたらしい。その幻の映画は今でもひっ そりとSOVスタジオの倉庫に眠っている。
 
おわり

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名  /性別/ 年齢/ 職業】
 0249 /志神・みかね/ 女/ 15/学生
 1415 /海原・みあお/ 女/ 13/小学生
 1593 /榊船・亜真知/ 女/999/超高位次元生命体
                    :アマチ……神さま!?
 1712 / 陵・ 彬 / 男/ 19/大学生
 1717 /草壁・鞍馬 / 男/ 20/インディーズバンドの
                     ボーカルギタリスト
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■         ライター通信          ■
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 大変お待たせ致しました。
 「恐怖の試写会」をお届けします。
 本当、ぎりぎりの納品になってしまい申し訳ございませんでした。
 この場を借りて、深くお詫び申し上げます。
 
 今回は各個人のサイドストーリーで多少の時間の流れが前後しています。そのため、人によっては一瞬時間が逆戻りしているかもしれません。まあ、それもアニメスタジオのミステリー(え)
 本編そのものの内容はメイルトークRPG「エターナルヴォイス」にご参加されていない方にはさっぱりの内容とおもい、割愛致しました。実際の話になるとそれこそ読み切りではすみませんからね……
 
 ちなみに今回の舞台の元となった場所はスタジオの名前から想像出来るかと思います。キーボードの並びとスタジオの名前をじっと見比べて下さい。そう、名前のSOVより、ほんの1つ左にずらして打ち込めば……
 ネタを提供してくれたYくんに感謝。
 
志神様:ご参加ありがとうございました。霊感強いけれど何も出来ない普通の人ってこういうとき辛いですよね……でも、今回は強い味方がいて無事楽しめられたようです。

 それではまた別の物語でお会いしましょう。
 
 執筆担当:谷口舞