コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


夏の片隅

+オープニング+

「おとうさんを、探して欲しいです」
外見では少女とも少年とも班別のつかない子供が、草間を前にして言った。
大人を相手に、精一杯丁寧に喋ろうとしている所為か、時折言葉につまる。
「あの、ここは、人を捜してもらえるんですよね?おとうさんも、探してもらえますか?」
年は10歳前後……、黒目がちな目で、草間を見上げる。
「おとうさん、お仕事に行ったまま、帰って来ないんです。夕方には帰るからねって、言ったんです。でも、ずっと帰ってこないんです」
この小さな子供を残して失踪してしまったと言う事だろうか。
「君、お母さんは一緒じゃないのかな?一人で来たのかい?」
草間の言葉に、子供は不安気に頷く。
「おかあさんはいません。おとうさんと二人でした。探してるけど、分からなくて、どうしたら良いのか分からなくなったので、ここに来ました」
フム、と草間は溜息を付く。
何かしら事情があり、父親が姿を消した。恐らくこの子供は親戚か友人かに預けられているのだろうが、誰もきちんと説明をしていない。
それで、どうにか自分で探そうとここを尋ねて来たのか。
「お父さんの名前は何て言うのかな?勤めている会社の名前は?」
子供はゆっくりと首を傾げる。
「おとうさんは、おとうさんです。会社は……、おしごと?」
決してからかっている訳でも冗談を言っている訳でもなく、真剣な面持ちで話す子供。
10歳近くになって、父親の名前も勤め先も分からない子供がいるだろうか?
暇つぶしに、探しても良いかと考えながら、草間は溜息を付く。
さて、どうやって探そうか……?

+ + + + + + + + + + +


程良くエアコンの効いた応接室には、深々とソファに腰掛ける男女の姿。
その男女の視線が自分に集中しているのが、子供はどうやら落ち着かないらしい。
また、漂ってくる煙草の煙が苦手なようで、時折鼻にシワを寄せて顔をしかめる。
「あのう……、むりですか?」
子供は訊ねた。
この子供からどれ程の情報が得られるのか定かではない状態でどう返答をしてよいものやら、と草間は暫し考えたのだが、口を開くよりも早くソファから声が上がった。
「勿論、大丈夫。探せますよ。安心して」
応接室の中で最も子供に年齢の近い少女、海原みなも。
「ほんとう?」
子供がおずおずと訪ねると、その横から声が上がる。
「でも、その為にはもっと協力してもらわないとな。色々質問をするけれど、答えられるかな?」
子供を怯えさせないよう押さえた声で言うのは柚品弧月。
「困っている子供を助けるのは大人の義務です。草間さん、今回は無料で依頼を受けますよ」
弧月の隣に腰掛けた水上巧が言い、漸く草間は思い至った。
そう言えば、この子供の依頼については誰が料金を支払うんだ、と。無料で引き受けると言ってるから構わないが。
3人の言葉に、子供は少し安心したらしい。強張っていた頬が僅かに弛んだ。
「しかし、さっきまでの話じゃいくらなんでも情報が少なすぎる」
子供が煙りを嫌がっている事に気付いたらしい真名神慶悟が短くなった煙草を灰皿に押しつけながら言った。
「そうねぇ……、順を追ってお話して貰いましょうか」
子供に冷えたオレンジジュース、他のメンバーにコーヒーを配ってからシュライン・エマは子供の隣に腰掛けた。
「こんな暑い時に熱いコーヒーなんて」
と、出先から暑さに負けて避暑にやって来たライ・ベーゼの言葉は軽く無視。子供の目の高さまで身体を屈めて、微笑みかける。
「まずは、基本的な質問ですよね」
言って、みなもは子供に名前と年齢、そして外見や声からでは判別出来ない性別を訊ねた。
「名前は、はるです。年は、えっと……、」
そこで困ったように首を傾げ、わかりませんと言い、性別を告げる。
少女だ。
全員がどうしようもない程、訝し気な顔で少女を……はるを見た。
10歳程度と判断していたが、背格好より幼いのだろうか。それにしても、自分の年齢が分からないほど幼くは見えない。
この興信所には時折、人ではない種族もやって来る。動物であったり妖怪であったり様々だが……、もしやこの目の前の奇妙な少女も人外だろうか。口には出さないが全員が想像した。
「鳥の子か何かかしらねぇ?巣立ちのシーズンとか言うんじゃないでしょうね、実は?」
シュラインは反対隣に腰掛けた慶悟に言った。
「動物でもあるとも人であるとも言ってないからな……。10代で曖昧な事が多いのは具体的な知識そのものが無い存在だからではないのかと言う事も考えられる」
人間の常識を外して訊くのが肝要かと付け足して、慶悟はコーヒーに手を伸ばす。
と言っても、殆どの場合この興信所にやって来る依頼は人間の常識が通用しないのだが。
「具体的な知識そのものが無い存在。成る程……」
呟いて、弧月は暫し考え込む。
何やら自分は変な事を言ってしまったらしいと気付いたはるは少し身を固くして全員の表情を伺う様に目を動かした。
「調査するのはその子供の身元じゃなくて父親だろう?父親の事を聞かなくてどうするんだ?」
暑苦しそうな顔でコーヒーを啜るライが口を開く。
元々子供が苦手な上に、目の前の少女が何だかもたもた頼りないので少々苛々しているらしい。
「それもそうね」
シュラインは気を取り直してはるの目を覗き込んだ。
「お父さんの事を教えて貰わなくちゃね」
「お父さんの名前は分からない、だったかな?それじゃあ、お父さんはどんな仕事をしてるんだろう?」
巧の質問に、はるは首を傾げる。
「あの、わからないです……」
「お父さんはどんな風に仕事に行くのかな?毎日?朝?夜?帰るのは何時だろう?そして、どんな格好で仕事に行くんだろう?この人みたいな服か……、それとも、私みたいな服か……」
巧は慶悟と自分の服を指して見せる。が、やはりはるは首を傾げた。
「おとうさん、あさお仕事に行きます。それで、暗くなったらかえって来ます。でも、ずっとお家にいることもあります。それから、時々だけ、お外に行くこともあります。服は、おとうさんはいつも『しごとぎ』とか『さぎょうふく』って言ってます」
想像すると、父親は毎日朝から夕方、或いは夜まで働いている。仕事には当然休みの日があり……、数時間出掛ける日もあると言う事だろう。スーツやジーンズでもなく、仕事着・作業服と呼ぶところから、工場かどこかで働いていると思われる。
また、動物や妖怪がそんな服を着て働きに行くとは思えないから、間違いなく父親は人間であろう。
と言う事は、やはりこの目の前の妙な少女も人間なのだろうか。
「盆には先祖含めて様々な霊が帰って来るからな……念の為……、」
呟いて、慶悟は軽くはるの頭を撫でた。
盆は過ぎたが、もしかすると迷った霊が残っているかも知れない。
慶悟もライと同じく子供はどちらかと言うと苦手だ。出来る事ならばあまり関わりたくないのだが……、親を捜しているとなると仕方がない、多少は協力しようと言う気になる。
慶悟の手がそっと頭に触れると、はるは嬉しそうに頬を緩め、何か期待するような眼差しで慶悟を見る。
一体何を期待しているのだか……、取り敢えず霊的な存在ではない事を確かめて、慶悟は慌てて手を離す。
「はい、これどうぞ。お父さんはどんな顔してるのか、教えてくれるかな?」
零に断って冷蔵庫から取り出したケーキをはるに振る舞いつつ、みなもが質問する。因みに、おやつで釣ってみようと言う訳ではない。
「目と鼻と口があって、耳はひとつで、えっと……」
ガックリと、みなもは肩を落とした。
そんな事を聞いた憶えはないのだが。
「人探しの基本はモンタージュだろう?描かせてみれば早いじゃないか」
ライの提案に、パッとみなもは顔を上げる。そう、その手があった。
急いで紙とペンを用意し、はるに差し出す。
しかし数分後、はるが描き上げたのは辛うじて人間と分かる以外に特徴のない目と口と鼻と耳と、どこまで本気で描いたのか分からない歪んだ輪郭だった。
「……………」
思わず顔を合わせて言葉を失うライとみなも。
自分が役に立たなかった事を理解してか、画力のなさを恥じてか、はるが下を向く。
この少女の証言を元に父親を捜すのは、骨の折れる作業になりそうだ。
はるから僅かに視線をそらせて溜息を付く面々。
その中で、弧月がそっと手を挙げた。
自分がやってみようと言う意思表示だ。
何を始めるのかと見守るメンバーの中で、弧月ははるに手を伸ばし、慶悟と同じ様に頭に触れた。
再び、はるが嬉しそうな顔をする。
弧月ははるに微笑みかけながらゆっくり頭を撫で、彼の能力であるサイコメトリーを発動させる。
弧月が手を通して読みとるはるの記憶。
はるの中の、最も強い感情が瞬間で弧月に伝わる。
暫く頭を撫で、手を離した弧月は自分が読みとった情報を簡単に説明した。
曰く、はるの父親は50代〜60代後半と見られる、痩せた背の低い人物である。灰色の作業服に短い白髪頭。二人の住居と思われる畳敷きの¥室内で、何時もはるに優しい目を向け、その痩せた手を伸ばして頭を撫でる。
「近所で訊ねてみた方が早そうね。子供には知らせられない事情があったのかも知れないし……、ねえ、住所は分かるの?」
シュラインの言葉にはるは首を振る。
「ここまで来た道を辿って帰る事は出来るのか?」
慶悟が聞くと、はるは強く頷いた。
「じゃ、決まりですね。急いだ方が良いかも知れません。早速行ってみましょう」
ここではるを相手に話していても埒があかないし、もしかしたら事故や事件と言った可能性もある。
みなもは勢い良く立ち上がった。
「ところで、手伝うのか?」
暫く口を噤んで様子を見守っていた草間が、エアコンの風の一番よく当たる場所を陣取っているライに訊ねた。
「え?……っと」
ライは何となく話を聞いて、大した興味も持たず質問していたのであって、実を言うとこのクソ暑い最中に外で調査など勘弁して欲しいのだが……。
「勿論、手伝うわよね?こんな小さな子供を放って置けるはずがないもの……余程薄情な人間じゃなきゃ」
とシュラインに言われて断れる筈もない。
そよそよと心地よい冷風を送るエアコンを名残惜し気に見つつ、ライはしぶしぶ立ち上がった。

+ + + + + + + + + + +


はるは自宅までの道程を、奇妙な動作を交えつつひょこひょこと歩いた。
みなも、シュライン、巧、弧月、慶悟、ライははるの後について歩くのだが、はるがしょっちゅう立ち止まるので進度は遅い。
「……一体何をしてるんでしょう?」
電信柱の影で立ち止まったはるを不思議そうに見て、巧は呟く。
はるは電信柱は街路樹、立て看板を見つけるたびに立ち止まって、何か確認でもするようにそれをじっと見る。
「迷子にならないよう、何か印でも付けて来たのでしょうか?」
弧月の言葉で、一瞬全員がヘンゼルとグレーテルを想像した。
家へ帰り着けるよう、道々小石を落としたヘンゼルのように、はるも何か印を残しているのだろうか。
「そんな知恵があるなら父親の名前くらい覚えていられるんじゃないのか?」
はるから最も離れた場所を歩きながら、ライ。
「それもそうだが……、」
慶悟がその隣を歩きながら頷く。
「そんな事言ったら、まるであの子が馬鹿みたいじゃないの」
この子供嫌いコンビ、と毒づいてシュラインははるを見る。
ちょうど目を輝かせて振り返ったところだった。
「ここです」
興信所からたいして離れていない、住宅地。
立ち並ぶ建て売り住宅とマンションに囲まれた、古い小さなアパートだった。
1階に5部屋、2階に5部屋。
はるはひょこひょこと階段を昇り始めた。
「6畳一間に台所……、トイレ・風呂付きと言ったところですかね?」
巧が呟きつつ、その後について階段を昇る。
「ここです、はるとおとうさんのおうち」
はるは全員が到着するのを待って、古びた茶色い扉を指さした。
「今もここに住んでるの?」
シュラインが問うと、はるは見るからにしょんぼりと肩を落とし、首を振る。
「いま、おうちに入れません。わからないけど、知らない人がたくさんきて、扉が開かなくなりました」
つまり、引っ越したと言う事なのだろうか。
「中の様子が分かれば良いのですが……」
弧月の言葉に頷いて、慶悟は式神を召喚した。
赤い小さな小鳥の姿をしている。
この小さな鳥の見聞きしたものは全て瞬時に慶悟に伝わる。
パタパタと軽やかな羽音を立てて飛び去る小鳥を見送って、慶悟は扉の前で項垂れるはるを見た。
「最初に聞いておけば良かったんだが……、はるは一体何者なんだ?」
きょとん、とはるは目を丸くする。
その丸い目には全く悪意がなく、純粋そのもの。ただ、寂しげに、飢えたように、懸命。
「はるは、はる、です。あの……」
少し口ごもって、はるは言った。
「はるが良い子にしてたら、おとうさんはいつも、かしこいねって撫でてくれるんです。はるは、何か悪いことしましたか?」
「え?」
一瞬、意味が分からず全員が首を傾げた。
「はるが悪いことをしたから、おとうさんははるがキライになって、それで、帰らないんですか?はるが良い子にしてたら、帰ってきますか?わからないから、ずっと、探してます。でも、見付からないです。どこにもいない、おとうさんのにおいがしないです」
はるの目から涙が一粒こぼれた。
「泣かないで、大丈夫。お父さんならちゃんと探してあげるから」
慌ててみなもがハンカチを取り出す。
「近所の方に訊ねて回ってみましょう、私と弧月さんで1階を回りますから、2階はどなたか、お願いします」
言って、巧は弧月と共に1階へ降りる。
「お、俺は2階を回ろう、さあ、行くぞ」
何だか自分がはるを泣かしてしまったようで決まりの悪い慶悟はライを引っ張って一番奥の扉へと向かう。
「私達は周囲への聞き込みと……、そうね、大家さんに連絡でもしてみましょ」
グズグズと嗚咽を漏らすはるの肩をぽんぽんと叩いて元気付け、シュラインは笑ってみせる。
「じゃあ、あたし達は調査するから、ここで休んでてね」
ハンカチを持たせたまま、はるの家だと言う扉の前に待たせてシュラインとみなもは階段を降りた。

+ + + + + + + + + + +


『あの部屋のおじいさんなら、もう何ヶ月も前に亡くなってますよ。え、子供?いませんよ』
『ああ、そうそう、仕事中に倒れてそのまま亡くなったってね。身寄りがないから、大家さんがお寺に頼んで供養して貰ったとか?』
ほんの数分で、簡単に答えは見付かった。
巧と弧月は1階の各部屋で似たような返事を聞いて2階に戻り、ライと慶悟も同じ返事を聞いて二人と合流した。
慶悟が放った式神の目を通して見た室内はもぬけのカラ、人の住んだ形跡は既に見当たらない。
「つまり、父親が死んだ事を子供に誰も知らせなかったって事か?」
蝉の鳴き声に押されつつライが訊ねると、巧が首を振った。
「子供は、いないんですよ」
「ああ、そうだった……、って、それじゃあの子供は何者だ?」
「身寄りがないそうですから、親戚や孫と言った線は有り得ません。まさか誘拐なんて事もないでしょう。誰も、子供の姿や声を見聞きした事がないそうですよ」
壁一枚で隣り合わせた部屋に住んでいれば、意識しなくても声は筒抜けだ。
それでも子供の声を聞いた事がないと言う。
「子供なんて、最初からいなかったのさ」
火の付いていない煙草をくわえたまま、慶悟。その隣で弧月が口を開く。
「あの子が父親と呼ぶ人物が人間だったのでうっかりあの子も人間だと思っていましたが……」
「本当に、うっかりしてたわね。と言うか、あの子があまりにも真剣だったから、考えもしなかったんだわ」
シュラインとみなもが戻って来て、そっと溜息を付いた。
「大家さんに電話で確認して来ました。この部屋の住人……お父さんですけど、半年前に亡くなってます」
死因は、住人も話していた通り、仕事先での突然の病死。
一人暮らしで身寄りがなく、大家と勤め先が葬祭センターで簡単な葬式を出したのだと言う。
遺骨は近くの寺に納められた。
家財道具は大家が処理し、その際になって初めて、死んだ男には同居するものがいたと分かった。
―――うちはそう言うのは禁止してるんでね、本当に、迷惑な話でしたよ。まあ、もういないから良いんですけどね。
電話の向こうで、大家は言った。
「と言う事は、この半年間ずっと……」
弧月が言いかけた時、はるの声がした。
「あれ、あいつ何時の間に下に行ったんだ?」
道路を歩くはるの姿。
ライはそれを見下ろす。
はるはみなものハンカチを持って、泣きながら呼んでいる。
「おとうさーん!おとうさーん!」
うろうろと歩き回って、父親の姿を探している。
「それで?誰が事実を話す?」
はるの声を聞きながら、慶悟が全員を見回す。
「……そうね、どうしましょうか」
父親は死んでしまったのだと正直に話すべきなのか、別の言葉で、別の環境を与えて、忘れさせるべきなのか。
「話さないと駄目ですよね、やっぱり……。可哀想だけど、あんな風にずっと探して歩くのは、見てるのも辛いですし……」
恐らく、はるはこの半年間ずっと父親を捜して歩いていたのだろう。
呼びながら、何度も呼びながら、突然帰らなくなった父親を捜し続けていたのだろう。
「一旦興信所に戻りましょうか。そこで、落ち着いて話をした方が良いでしょう」
同意を求める様に巧が全員を見る……、その時、ふいにはるの声が止まった。
気付いたライが見下ろすと、電信柱の影に倒れたはるの姿。
「大変だ!」
慌てて全員が階段を駆け下りてはるに走り寄った。
「大丈夫かっ!?」
気を失ったはるを、慶悟が抱き起こす。
その身体は妙に軽かった。
そして、殆どの力も体温も感じられなかった。
「すぐ病院へ……」
呟く弧月に慶悟は首を振る。
「いや、もう……、」
触れてみるまで気付かなかったが、はるの身体はこれ以上ないと言うくらいに痩せている。
呼吸はごく浅く……僅かに繰り返している程度。
「どうして気付かなかったんだ……、半年も彷徨ってたなら身体が弱ってて当然だったのに……」
慶悟の横にしゃがんで、はるの力のない身体に触れながら、ライ。
せわしなく蝉が鳴く夏の片隅で、小さな命が一つ、終わろうとしている。
為す術なく顔を見合わせるシュラインとみなも。
その時。
「はる、」
やや低い男の声が、呼ぶのを聞いた。
ピクリとはるが僅かに動き、震える唇を動かした。
「……おとうさん……」
声の方を振り返ると、人の良さそうな老人が一人、立ってはるを手招いている。
「良い子だね、さあおいで」
ふわり、と一瞬身体が軽くなった。
満面に笑みを浮かべたはるが立ち上がり、老人に駆け寄って抱きつく。
はるの頭を本当に愛おしそうに撫でる老人。
老人はゆっくりと背を向け、来た道を戻り始める。
はるもまた、老人の周にくるくるまとわりつきながら歩き始める。
「……お迎えに来てくれたんですね」
慶悟の腕の中に視線を注いで、みなもが口を開く。
「そう言う事ですね」
ゆっくりと弧月が頷く。
慶悟の腕の中には、やせ細った犬が1匹。
まるで微笑むように、口の端を上げて眠っている。
「あの子にとっては、本当に父親だったのね。あの老人にとっても、本当の子供だった……」
言って、シュラインは二人が去った道を見る。
ジリジリと焼け付くアスファルト。
ゆらりと立ち上る陽炎の向こうに、二人の行き着く天国が、あるのかも知れない。



end




□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

1252 / 海原・みなも   / 女 / 13 / 中学生
0086 / シュライン・エマ / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト
0389 / 真名神・慶悟   / 男 / 20 / 陰陽師
1582 / 柚品・弧月    / 男 / 22 / 大学生
1697 / ライ・ベーゼ   / 男 / 25 / 悪魔召喚士
1501 / 水上・巧     / 男 / 32 / ジュエリーデザイナー

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

よく利用する古本屋の値段が上がって寂しい佳楽です、こんにちは。
この度はご利用有り難う御座います。
子供の頃に読んだ本が無性に読みたくなって、よく買い集めるのですが、
75円の値札の上に150円の値札が貼られていて、どうにも納得出来ま
せん。古本と言えば、如何に安く手に入れるかが勝負だと思っている佳楽
には、とっても辛い状況です。
一旦古本屋に行くと、手ぶらでは出られいので泣く泣く高い本を買う事も
あるのですが……。生息市内の古書店の底値を、何時か割り出したいもの
です。(←時間はもっと有意義に使いましょう)
ではでは。
また何時か何かでお会い出来れば幸いです。