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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


鎌倉、パワーストーン
●オープニング

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  【題名】教えてください!
  この前、友だちと鎌倉に行った時に、
  パワーストーンのお守りを買いました。
  それが、ものすごく効果があったので、
  もう一つ買おうと思って、同じ場所に
  行ったんですが、見つかりません。
  北鎌倉から鎌倉に行く道の途中で、
  20歳くらいの男の人が売ってました。
  どこかに移動してしまったみたいなので
  どこに行ったか知っている人がいたら、
  教えてください。
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「最初は宣伝かと思ったの。でも、よく読んだら人探しだったから、残しておいたのね。そしたら‥‥」
 雫は画面をスクロールさせる。
「一晩で、こんなにレスが付いたんだよ」
 20件くらいはあるだろうか。ただ、どれも「自分も探しています」という便乗質問ばかりで、肝心の男の居場所については書かれていない。
「それでね、一つ気になる書き込みがあって‥‥」
 そう言いながら、マウスを動かす。
「これこれ。二つ買おうとしたら、一つしか売ってもらえなかったって。このお守り、一人一つに決まってるんじゃないかなあ?」
 だから、一度売った相手には姿を見せない。そう考えれば辻褄は合うが、だとしたら、随分と記憶力が良く、すばしこい男だ。
「これだけ『買った』っていう人がいるんだから、嘘じゃないと思うんだ。誰か調べてみない? あ、お土産は『鳩サブレー』でいいからねっ☆」

●それぞれの思惑
 嫌な予感はしていた。ただ残念なことに、ここ数日、嫌な予感は絶えなかったから、今日の「特別嫌な予感」に気付かなかっただけだ。
「隼。今度の土曜日、鎌倉行くからねっ」
 同居人の桜夜に宣告され、瀬水月隼は、しばらく固まっていた。
「‥‥なんで?」
「行きたいから」
「鎌倉なんて行ったら、見付かるかもしれねぇんだろ? どうすんだよ」
「だーいじょうぶ♪ 男装してくから」
「そこまでして‥‥」
 隼の頭の中、数時間前に見た、ある掲示板の書き込みが過ぎった。
「‥‥あっ。あれだなっ。ゴーストネットの‥‥」
「あ、バレた?」
「そこまでして首突っ込む話かよ」
「いーじゃん。行きたいんだから。いいよ。あたし一人でも行くから」
「別に害があるわけじゃなし。ほっときゃいいんだよ」
「ふーんだ。せっかく誘ってやったのに。ああ、緑溢れる古都の散策‥‥」
 大体、こういう展開になったら、男の立場は弱い。
「分かった。分かりました。付いてきゃいいんだろ。ったく‥‥」

●小さな美術館
 薄曇りの土曜日。桜夜と隼はブラブラと北鎌倉の道を歩いていたが、ふと、桜夜の歩く速度が緩む。
「どうした?」
「‥‥ほら、あそこ」
 桜夜が顎で指す先を見るが、隼が見る限り、変わった所はない。
「あー?」
「ちょっとオシャレな家があるでしょ。実は美術館なんだけどさ。そこの門の脇」
 隼は眉を顰めた。突然湧き出たかのように、タオルを被ったTシャツ姿の男が見えたのだ。小さな椅子に腰掛け、足元に木箱を開いている様子は、間違いなく露天の雑貨商。しかし、あれほどあからさまな姿を、どうしてさっきは気付かなかったのだろう?
 桜夜は隼の手首を握り、小走りで男に近付く。今度ばかりは、隼も逆らわない。

「へー。シルバーアクセじゃん。ちょっと見せて♪」
「‥‥いらっしゃいませ」
 エラくやる気のないヤツだな。自分のことは棚に上げ、隼は内心呆れる。
(‥‥つーよりさ。こいつ、俺たちが来たの、迷惑がってる?)
 桜夜は‥‥と見れば、熱心に品定め中。
「これって、パワーストーンだよね? 恋愛に効くのってない?」
「なーにが恋愛運だ。女ってホント、こういうの好きだよな。ま、最近流行ってるみたいだし、気休めにでもなりゃあいいんじゃねぇの」
 それにしても、どうにも違和感が拭えない。腕組みをし、顔だけ後ろに向ける。すると、違和感の正体らしき物に気付いた。
(なんでこいつら、俺たちの方を見ないんだ? 普通、こうやって人が集まってたら、もう何人か来たりするもんじゃねぇか?)
「これなんか、男性にもお勧めですよ」
 隼の思考を遮るかのように、男が話し掛けた。
「いや。俺、そういうの興味ないから」
「何か困っていることとか、ないんですか?」
 少しはセールストークらしくなってきたと思いながら、気乗りせず答える。
「家庭内安全」
 斜め下から、桜夜の鋭い視線が飛ばされた‥‥気がする。
「それでしたら、フローライトはいかがですか? ストレスを解消させる石です」
「桜夜。恋愛運なんかより、こっちにしろよ」
「なんでよぅ」
「そういやさ。あんたのこと、ネットで評判だぜ」
 何気なく隼が言うと、男は肩を竦めた。
「困りましたね。実は、許可取ってないんですよ。この辺、取り締まりが厳しいから、できるだけ目立たないようにしてたのになあ‥‥」
 桜夜は手を止め、顔を上げた。
「ちゃんと許可取って、堂々と売った方がいいんじゃないの? これ、結構いい石使ってるよね? せっかく評判になってるのに、なんでコソコソしてんの?」
「別に、儲けるつもりはないんです」
「じゃあ、何のために売ってんの?」
「僕が作った物を人が喜んでくれれば、それでいいんです」
(なーんか気に入らねぇ野郎だな‥‥)
 あまりにも優等生的な答えに、隼は苛立つ。何て言ってやろうかと考えているうちに、桜夜は1本のペンダントを取り上げた。
「決めた! 隼ぁ。お財布持ってんでしょー?」
「ったく、こういう時ばっか‥‥」
「‥‥あなたは?」
 隼は首を振りながら、ポケットから財布を取る。
「いらねぇ」
 千円札を差し出すと、男は、一瞬躊躇してから受け取った。
(変なヤツ‥‥)
 何にせよ、用事は済んだ。
「おにーさん。頑張ってねー♪」
 手を振る桜夜を引きずるようにして、隼は逃げるようにその場を去る。

●甘味処にて
 竹藪に囲まれた和風喫茶。桜夜の前にはあんみつ。隼の前にはところてん。
「で、何か感じるわけ?」
 隼は、桜夜の胸元を指さした。
「これだけじゃ、特に何もないね」
「これだけ?」
「あの人さ。精霊とか、そういう類だよ」
 普通の人なら、ここで吹き出すところだろうが、もはや隼は驚かない。
「ああ、そう」
「結界みたいなのを張って、見えないようにしてたんだけどね。それ破っちゃったもんだから、かーなーりー不愉快っぽかった」
 科学的かどうかはさておき、そう説明されれば、一連の「奇妙さ」は納得がいく。
「たぶん、あたしの力に気が付いて、結界張ってたんだよ。だけど、あの程度じゃね。あたしの方が上ってこと♪」
「だったら、例の効き目ってのは何なんだ?」
「仕上げに何かするんでしょ。あたしの力と干渉するような仕掛けかもしれない。だから、あたしのには何もしなかったんじゃないかな。やっぱり、あなたも何か買えば良かったんだよ」
 今さら言われても‥‥。隼はところてんを一気に飲み下した。

●鎌倉駅前
 そこからはお約束通り、八幡宮から小町通りを経て鎌倉駅前へ。そろそろ帰ろうかと駅の方に行くと、帽子で顔はよく見えないが、スタイル抜群の女性がビルの前に立っている。
(おっ。いい女)
 だが、女性の勘を侮ってはいけない。桜夜の平手打ちが、問答無用で隼の左頬を襲う。
「こらあっ! どこ見てるうっ!?」
「何しやがるっ! てめぇだって、あの男の前で、鼻の下伸ばしてただろうがっ!」
「あたしはそんなことしてないっ! それに、あれはプロのモデルっ! 美貴神マリヱとあたしを比べんなあっ!」
「誰も比べてねえよっ!」
 あわや路上で殴り合いか‥‥というところに、当のマリヱが話し掛けてきた。
「あら? そのペンダント‥‥」
 桜夜は胸元に目を落とす。
「これ? 今買ったばかりだけど?」
 もしかしたらネットの書き込みを見て?と問い返そうとしたところに、別の声が響く。
「おーい、みかね。悪ぃ。遅くなったな」
 声の主はショートカットの小柄な少女。マリヱの連れらしいロングヘアーの少女の方へと歩み寄って行く。
「あ、曜さん」
 その名前には聞き覚え、いや、見覚えがある。掲示板のレスの中にあったはずだ。
「曜って、ゴーストネットの? あ、俺は瀬水月隼。こいつは朧月桜夜。こんな格好してるけど、一応女な」
 桜夜の膝蹴りが隼の腰に命中。マリヱはそんな二人を見て、微笑みながら尋ねた。
「ああ、やっぱりそうなのね。小町通りで?」
 何が「やっぱり」なのか、何が「小町通りで」なのか、桜夜には咄嗟に分からなかった。少し考え、ようやく、ペンダントを買った場所を確認されたのだと気付く。
「あたしが会ったのは、明月院の方だったよ」
 ところが、曜は、また違う場所を告げる。
「えっ? 俺は建長寺の近くで。見失っちまったけど」
 マリヱは眉を顰めた。
「これは‥‥。話を合わせておいた方がいいかもしれないわ」
「だったら、この上が喫茶店になってるんです。そこで相談してから帰りませんか?」
 みかねの提案に、反対する者は一人としてなかった。

●ミニオフ
「雫さん。鎌倉のお土産ですよ〜」
 みかねの声に、雫と、細身の男――水上巧と、二人の少女が振り向く。
「あ。来た来た。ほら、鎌倉に調べに行ってくれた人。‥‥あれ? 桜夜さんたちも?」
「鎌倉で偶然会ったのよね」
 桜夜が鎌倉駅前での出来事をかいつまんで話す間に、隼が黄色い紙袋を差し出した。
「せっかくだからミニオフしようぜって。無理矢理連れて来られちまったよ」
 そう言いながらも、別に嫌そうではない。
「それで、何か分かった?」
「別に、どうってことはなかったぜ。許可取ってないから、お巡りに見付かるとヤバいんだとよ。だから、しょっちゅう場所替えしてるらしい。あ、俺、コーラね」
 雫がサブレーの缶を開けようとするのを見ながら、マリヱは椅子を引く。
「効果が強すぎるから、一人一つ。それから、必要がなくなったら、誰かにあげるんじゃなくて、粉々に砕いてしまって欲しいそうよ」
 えっ?と、口を押さえたポニーテールの少女に向かい、桜夜が説明する。
「お守りを処分する時には、色々決まりがあるんだよね。神社で買ったお守りは、その神社で焼いてもらうとかさ。あれみたいなもんじゃないの?」
 曜は早速、サブレーに手を伸ばす。
「ま、あんまり騒ぎ立てると、あいつも出て来にくいんじゃねぇの? 無許可営業だしさ。そっとしといてやれよ」
 巧は、冷めたコーヒーに口を付けながら考えていた。自分が見た物は、言わない方がいいだろうと。

【完】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【0072 / 瀬水月・隼 / 男 / 15 / 高校生】
【0249 / 志神・みかね / 女 / 15 / 学生】
【0442 / 美貴神・マリヱ / 女 / 23 / モデル】
【0444 / 朧月・桜夜 / 女 / 16 / 陰陽師】
【0888 / 葛妃・曜 / 女 / 16 / 女子高生】
【1501 / 水上・巧 / 男 / 32 / ジュエリーデザイナー】

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■         ライター通信          ■
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 東京怪談の皆様には、はじめまして。ライターの小早川です。大切なPCさんは、イメージ通りに書けているでしょうか? お気づきの点がありましたら、遠慮なくテラコン経由でお知らせくださいね。
 今回は個別部分が多いです。時間は大体同じで、場所が違うという構成になっていますので、他の方のノベルも見ていただくのも面白いかもしれません。

 瀬水月隼様。プレイングを読んでいるうちに、桜夜さんに振り回されている様子が頭に浮かんで離れなくなってしまいました。結果、こんなことになってしまいましたが‥‥。書いている方は、非常に楽しかったです。

 それでは、またお会いできますように。