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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


鎌倉、パワーストーン
●オープニング

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  【題名】教えてください!
  この前、友だちと鎌倉に行った時に、
  パワーストーンのお守りを買いました。
  それが、ものすごく効果があったので、
  もう一つ買おうと思って、同じ場所に
  行ったんですが、見つかりません。
  北鎌倉から鎌倉に行く道の途中で、
  20歳くらいの男の人が売ってました。
  どこかに移動してしまったみたいなので
  どこに行ったか知っている人がいたら、
  教えてください。
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「最初は宣伝かと思ったの。でも、よく読んだら人探しだったから、残しておいたのね。そしたら‥‥」
 雫は画面をスクロールさせる。
「一晩で、こんなにレスが付いたんだよ」
 20件くらいはあるだろうか。ただ、どれも「自分も探しています」という便乗質問ばかりで、肝心の男の居場所については書かれていない。
「それでね、一つ気になる書き込みがあって‥‥」
 そう言いながら、マウスを動かす。
「これこれ。二つ買おうとしたら、一つしか売ってもらえなかったって。このお守り、一人一つに決まってるんじゃないかなあ?」
 だから、一度売った相手には姿を見せない。そう考えれば辻褄は合うが、だとしたら、随分と記憶力が良く、すばしこい男だ。
「これだけ『買った』っていう人がいるんだから、嘘じゃないと思うんだ。誰か調べてみない? あ、お土産は『鳩サブレー』でいいからねっ☆」

●それぞれの思惑
「ふーん‥‥。効き目バッチリならサギじゃないし、今のところ、何か悪い反動がって兆候もないみたいだし。不思議なハナシ、だな」
「でしょ、でしょー?」
 葛妃曜の呟きに、雫は敏感に反応した。
「曜さん、行くんですか?」
 背中合わせに座っていた志神みかねが振り返る。
「んー。どうしようかな。カッコいいデザインのなら、買いに行ってもいいんだけど」
「そういえば、デザインのことは書いてませんね」
 曜が何やら書き込んでいる間に、みかねは携帯電話を操作する。
「マリヱさんにメール?」
 雫の問いに、みかねは指を動かしながら頷く。
「鎌倉って、小さい時に行ったっきりだから、久しぶりに行ってみようかなって」
「ほらぁ。曜さんも行こうよ」
 行こうよと言いながら、雫は自分で行く気はないらしい。
「みかね。手分けして探してみるか? 北鎌倉から鎌倉って広いんだろ?」
「そうですねぇ」
「帰りだけ落ち合ってさ。時間決めたらメールくれよ。メアド置いとくからさ」

●小町通り
 その次の土曜日。みかねとマリヱは連れ立って鎌倉駅に降り立った。掲示板には「北鎌倉から鎌倉」と書いてあったが、ならば、「鎌倉から北鎌倉」に向かってもいいわけだ。
「今日、雫さんの所に、巧さんっていうジュエリーデザイナーさんと、お守りのことを最初に書き込んだ人が来るんですって。さっきメールが届きました」
「あら、そうなの?」
 マリヱは、特に「ジュエリーデザイナー」という部分に興味を持った様子。
「ところで、どっちに行けばいいのかしら」
 みかねは、マリヱが開いたガイドブックの地図を覗き込む。
「‥‥鶴岡八幡宮って、きっと、鳩がいますね」
「みかねちゃん、鳩に何か想い出があるの?」
 大仏を見に行って、鳩に群がられた話をすると、マリヱはおかしそうに笑った。
「なんだか想像すると可愛らしいわ」
「そうですか?」
「まあ、ここにいても仕方ないから、八幡宮にでも行ってみる?」
「これが若宮大路で、こっちが小町通り‥‥。お守り屋さんがいるとしたら、こっちですね」
 そう言って、みかねが指さしたのは、小町通り。

 鶴岡八幡宮の正面、バスも通る広い通りが若宮大路。それに対し、小町通りは一本裏手に入った路地で、比較的小さな店が軒を連ねている。
 みかねは、とあるアクセサリーショップでパワーストーンのキーホルダーを見付けた。手に取って眺めていると、店の主がさり気なく近付いて来る。
「いらっしゃいませ」
「あ、あの‥‥」
 こんなことを聞くのは失礼かと思いながらも、みかねは尋ねる。
「こういう石のお守りを売っている男の人の噂、知りませんか?」
 店主は苦笑いを浮かべた。
「あー。よく聞かれるんですけど。向こうさんも、商売敵と思ってるんだか、うちの近くで見たことはないですねえ」
「そうですよねえ‥‥」
「まあ、出店出すなら、もうちょっと八幡宮に近い方じゃないかな」
 みかねは礼を言って店を出る。
「あれ? マリヱさん?」
 やや遅れて、マリヱが店から出てきた。
「教えてくれたお礼にね。石は付いてない方がいいと思って」
 紙袋の中には、シンプルな銀のチョーカーが入っていた。

 そこから更にしばらく行くと、突然、建物が途絶えた。
「あ、さっきのおじさんが行ってたのって、これかな?」
(特に危険な兆候はなし、か‥‥)
 マリヱの内なる声は、何も告げていない。
「あっ。マリヱさん、ほら‥‥」
 みかねが指さす先には、噂通りの男の姿があった。

「いらっしゃい。何かお探しですか」
 おどけるような調子で、男は話し掛けた。
「ええと‥‥。すごい効果があるお守りを売っているって噂を聞いて来たんです」
「あはは。そんなに噂になってるのか。参ったな」
 みかねの後ろから、マリヱも覗き込む。特筆すべきデザインではないが、お守りと割り切れば、身に付けるのに抵抗のある物ではない。
「あたしも一つ買って行こうかしら」
 その時、マリヱの頭の中に警報が響く。
「ちょっと待って!」
「何ですか?」
 怪訝そうな男に、マリヱは厳しい声で尋ねた。
「このお守り。とてもよく願い事を叶えてくれるらしいけれど、それだけなの?」
「‥‥どういう意味でしょう?」
「何か代償があるんじゃないの?」
 短いような長いような沈黙の後で、男は微笑んだ。
「そうですね。相対的に、他の運が悪くなるかもしれません」
「相対的に?」
「ええ。たかが石ですから。何もかもがうまくいくなんて、そんな力はありませんよ」
「あなた、そんなこと一言も言わなかったじゃない」
 穏やかな笑みを崩さず、男は続けた。
「悪くなると言っても、普通の人には分からない程度です。害を与えるようなことはありません。僕は、人を幸せにしたい。喜んでもらいたいんですから」
「あの‥‥。これはどんな効果があるんですか?」
 みかねは、白っぽい石の付いた携帯ストラップを指さした。
「みかねちゃん!」
「だって、これ、とても綺麗だし‥‥」
「それはブルーレース。気持ちを落ち着ける効果がありますよ」
 みかねは、納得した表情で頷いた。
「これ、ください」
 男は、ストラップを持つと、字を書くように手を動かした。
「はい。これはもう、あなた専用です。他の人にあげても、効果は移りませんよ」
「へえ。面白い‥‥」
 石を見ていると、本当に気持ちが落ち着く気がする。
 はらはらしながら見守るマリヱに、男は静かに言った。
「ご心配なく。効果は次第に薄れて、せいぜい1年しか持ちません。1年経てば、大抵、必要なくなるんです」
「それでも、その前に悪いことが起きたら?」
「砕いてしまえば、この石は力を失います。簡単でしょう?」
 自分の意志で効果を打ち切ることができ、そうでなくても1年で終わるのなら、それほど害はないのかもしれない。何より、みかねの嬉しそうな顔を見ると、とても「止めなさい」とは言えなかった。
「‥‥まあ、お守りなんて、どれもそんな物かもしれないわね。ところで、あなた。一度売った相手には姿を見せないって評判だけど、どうやってるの?」
「近付いて来るのは、石が教えてくれるんですよ。どうやって隠れるかは、企業秘密ってことで」
「何よ、それ」
「こっちも追われたくないんで。勘弁してください」

●鎌倉駅前
 二人は一通り観光してから、鎌倉駅に戻る。
「ここで曜さんと待ち合わせなんです」
 と、その時。背後で派手な破裂音が。
「こらあっ! どこ見てるうっ!?」
「何しやがるっ! てめぇだって、あの男の前で、鼻の下伸ばしてただろうがっ!」
 こんな所で痴話喧嘩?と、マリヱは目を細め、見覚えのあるペンダントに目を留めた。
「あら? そのペンダント‥‥」
 ボーイッシュな少女は、連れに殴りかかろうという手を止めた。
「これ? 今買ったばかりだけど?」
 マリヱが口を開くより先に、別の声が響いた。
「おーい、みかね。悪ぃ。遅くなったな」
「あ、曜さん」
「‥‥曜って、ゴーストネットの? あ、俺は瀬水月隼。こいつは朧月桜夜。こんな格好してるけど、一応女な」
 桜夜の膝蹴りが隼の腰に命中。
「ああ、やっぱりそうなのね。小町通りで?」
 マリヱに尋ねられ、桜夜は怪訝そうな顔を見せた。
「あたしが会ったのは、明月院の方だったよ」
「えっ? 俺は建長寺の近くで。見失っちまったけど」
 悔しそうな曜。マリヱは眉を顰めた。
「これは‥‥。話を合わせておいた方がいいかもしれないわ」
「だったら、この上が喫茶店になってるんです。そこで相談してから帰りませんか?」
 みかねの提案に、反対する者は一人としてなかった。

●ミニオフ
「雫さん。鎌倉のお土産ですよ〜」
 みかねの声に、雫だけでなく、巧と二人の少女も振り向く。
「あ。来た来た。ほら、鎌倉に調べに行ってくれた人。‥‥あれ? 桜夜さんたちも?」
「鎌倉で偶然会ったのよね」
 桜夜が鎌倉駅前での出来事をかいつまんで話す間に、隼が黄色い紙袋を差し出した。
「せっかくだからミニオフしようぜって。無理矢理連れて来られちまったよ」
 そう言いながらも、別に嫌そうではない。
「それで、何か分かった?」
「別に、どうってことはなかったぜ。許可取ってないから、お巡りに見付かるとヤバいんだとよ。だから、しょっちゅう場所替えしてるらしい。あ、俺、コーラね」
 雫がサブレーの缶を開けようとするのを見ながら、マリヱは椅子を引く。
「効果が強すぎるから、一人一つ。それから、必要がなくなったら、誰かにあげるんじゃなくて、粉々に砕いてしまって欲しいそうよ」
 えっ?と、口を押さえたポニーテールの少女に向かい、桜夜が説明する。
「お守りを処分する時には、色々決まりがあるんだよね。神社で買ったお守りは、その神社で焼いてもらうとかさ。あれみたいなもんじゃないの?」
 曜は早速、サブレーに手を伸ばす。
「ま、あんまり騒ぎ立てると、あいつも出て来にくいんじゃねぇの? 無許可営業だしさ。そっとしといてやれよ」
 巧は、冷めたコーヒーに口を付けながら考えていた。自分が見た物は、言わない方がいいだろうと。

【完】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【0072 / 瀬水月・隼 / 男 / 15 / 高校生】
【0249 / 志神・みかね / 女 / 15 / 学生】
【0442 / 美貴神・マリヱ / 女 / 23 / モデル】
【0444 / 朧月・桜夜 / 女 / 16 / 陰陽師】
【0888 / 葛妃・曜 / 女 / 16 / 女子高生】
【1501 / 水上・巧 / 男 / 32 / ジュエリーデザイナー】

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■         ライター通信          ■
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 東京怪談の皆様には、はじめまして。ライターの小早川です。大切なPCさんは、イメージ通りに書けているでしょうか? お気づきの点がありましたら、遠慮なくテラコン経由でお知らせくださいね。
 今回は個別部分が多いです。時間は大体同じで、場所が違うという構成になっていますので、他の方のノベルも見ていただくのも面白いかもしれません。

 志神みかね様。超常的な現象ではありましたが、目に見える物ではなかったので、特に怖いことはなかったと思います。お守りの悪影響も、ほとんどありませんのでご安心くださいね。

 それでは、またお会いできますように。