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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


マンイーター・ホールへ


■序■

 千葉の閑静なベッドタウンを、悪臭と恐怖が襲う――

 八月である。
 北海道の気温すら30度を越えている日々だ。
 そんな暑い日を凌ぐには、ある意味もってこいのネタがアトラスに舞い込んできた。
「下水道も蒸し暑いのかしらね、三下くん?」
「な、なんで僕に聞くんですか?」
「なんででしょうね」
 麗香は他人事のように切り返すと、投書を置いて腕を組んだ。
 好奇心だけは強いからか、三下がおそるおそる麗香のデスクに近づき、その投書を手に取った。


『はじめまして。僕は千葉県の中尾町に住む高校生です。調査してほしいところがあるのでお手紙を書きました。
 調べてほしいのは、中尾町の下水道です。
 最近、マンホールからすごく嫌なにおいがしてくるんです。チーズが腐ったような臭いと、カエルみたいな臭いが混じってる感じです。それだけじゃなくて、何か動物の声みたいなのも聞こえてくるときがあります。
 なんか、町が口止めしてるみたいなんでニュースにはなってないんですけど、噂では、中に入った清掃業者が戻ってこなかったらしいんです。
 においはどんどんひどくなってきているんですが、みんな噂を信じていてマンホールには近づきません。僕もすごく怖いんです。家の前のマンホールの蓋が、ガタガタ動いているところを見てしまいました。この町の下水道には絶対何かすんでいます。
 原因だけでも知りたいんです。よろしくお願いします』


 三下は、へえ、と声を漏らした。
 届く投書がどれも真実を知らせるものとは限らない。と言うより、扱っている記事の性質上、どうしてもからかい半分のものや確証のないガセネタの方が多いのだ。
 だが――この投書は、信用できた。
 字は震えていた。
 そして、その便箋にまで、おぞましい悪臭がかすかにこびりついていたのである。


■ムカデが這う道■

 麗香の呼びかけに応じて集まったのは6人だった。
 だが、千葉の中尾町に赴くのは全部で8人だ。アトラス編集部から、御国将という記者がひとり行くことになった。べつに6人では心もとないという理由からではないらしい。ケーナズ・ルクセンブルクが入手した(どういった筋で手に入れたのか、誰も訊かなかった。訊いたとしても、ケーナズが答えることはないだろう)下水道地図を見る限り、現場は6人では少し手に余る広さであることがわかったからだ。
 来栖麻里という少年が別筋でこの事件を知り、すでに中尾町に入っていることを、アトラス編集部に集合した7人は知らなかった。

「おーまーえーかー! 御国将ってェのは!」
「ぐええ?!」
 編集部に入ってくるなり、御母衣武千夜は雄叫びを上げて三下の首を締め上げた。将本人はすぐそばで立ち尽くしていた。眠たげな目ではあったが、呆気に取られているのであろうことは容易に察しがつく。
「ちっ、ちがいま……ぼ、僕はみ……みのした……」
「あの、御国さんはこちらですけども」
 将が黙ったまま何も言わないので、助け舟を出したのは今野篤旗であった。ケーナズ・ルクセンブルクと海原みそのは可笑しげに見守っているだけだし、賈花霞は将のパソコンでネットでの情報を探っているし、葛城伊織は将のデスクに腰かけて件の投書を睨んでいるので、それどころではない。三下は相変わらず哀れだ。
「ぬっ? ……そうだったのか。眼鏡をかけた男としか倅からは聞いてなかった」
「わ、かったら……は、はなし……く、くるし……」
「三下が死んじまいます」
 ようやく、将が口を開いた。それを聞いて、ようやく武千夜は豪快に笑いながら三下を解放した。解放しただけで、謝りはしなかった。
「倅が世話になってるそうだな」
「いや、俺が世話になってると言ったほうが……」
「花霞もおせわしてるよ!」
「僕も前に一緒に仕事させてもらいましたわ」
「わたくしは、いつも気にかけておりますのよ」
「ほう、大人気ですね、ミクニさん」
「……」
 ケーナズの言葉が誉め言葉ではなく、ちょっとした皮肉であることに、将は気がついているようだ。渋い顔でマグカップの緑茶をすすった。
「なあ、事態は深刻なようだ。調査員が全員揃ったなら、そろそろ行かねえか」
 投書の臭いを嗅いで顔をしかめ、伊織が将のデスクから降りた。
「俺は、下水道に入る前に町の様子を調べたい」
「あ、花霞もー」
「僕もそっち行きましょか」
「おう、俺はどんな相手なのか早く見てェのよ! 先に行くぞ! お前ももちろん一緒に来い!」
 将は無言で武千夜に引きずられ、早々に編集部から退場した。みそのは黙って微笑んでいたが、将と武千夜を追って、ドレスの裾をかばいながら出ていった。
「さて……私も、先行組について行くとしましょうか」
 ケーナズは眼鏡を直し、伊織に向き直る。伊達眼鏡は、まだ外すときではない。
「何かありましたら、私に呼びかけてください。テレパシーの『回線』を開けておきます」
「わかりました。下水道に入ったときにも、一応連絡しときます」
 篤旗の言葉に、ケーナズは頷いた。彼は将たちを追おうとし――思い出したように足を止める。
「ホアシアさん、清掃業者のことを気にかけていらっしゃいましたね」
「うん。イオリちゃんもアツキちゃんも気にしてるよ」
「……ちゃん……?」
「残念ですが、本当に戻ってこなかったそうです」
 ケーナズがどこでその情報を手に入れたのかは、やはり謎のままだ。出所が定かではない情報を信じるのは危険なことだが――花霞はそれを信じた。可愛らしい顔を曇らせて俯き、「そう」とだけ、短く答えた。ケーナズの口振りは冷静ではあったものの、無感情なものではなかった。
「キミの考えている通り、事態は深刻です。私たちの手で解決させましょう」
「ああ」
「もちろんです」
 伊織と篤旗の答えと視線は、強いものだった。


 ――財団は一体何を考えてやがるんだ。
 悪臭の原因は『財団』ではないが、どうしても『財団』を恨んでしまう。来栖麻里は、じめじめとした下水道の中で身震いした。彼の鼻に、この臭いはきつすぎる。どうしてこう立て続けに、鼻が痛めつけられる任務ばかりがまわってくるのだろうか。
 ――きったねェしくせェし……あアあ、腹ァ立つ!
 麻里に中尾町の下水道の調査を任せたのは、月刊アトラスではなく某『財団』である。その存在を知る者が多いか少ないかなど、麻里には興味も影響もないことだった。麻里が問題とするのは、『森』の過去と未来と現在だ。この下水道の悪臭と怪異が、どこをどう辿れば神聖な『森』と結びつくのだろうか。
 しかし、麻里は『財団』に刃向かうことは出来ない。せいぜい、任務を終えた後に文句をぶちかませる程度だ。
 彼はやり場のない怒りを、澱んだ下水にぶつけた。
 激しい勢いで蹴り上げられ、下水はコンクリートの天井と壁に振りかかった。
 飛沫の音は、いつまでも地下に響き渡っている。囁きと呻きのように。
「……!」
 その異変に気がついたとき、彼はすでにバランスを崩していた。脚を掴んだ何かが、下水の中に潜んでいることにも気がついたが――麻里の身体は、どぶんと下水の中に沈んだ。


■瘴気■

「いやあ、これは、ひどいなあ」
 篤旗はバスを降りるなり、鼻をつまんだ。息を止めてから手を離し、大学のバイオ研究所から失敬してきたフィルタマスクをつける。
「あ、花霞もほしーい」
「ええよ。人数分もろてきたから」
「ちゃんと断って持ってきたのか? ああ、いや、俺はいい」
 伊織は首筋のツボに、つんと針を打った。それだけで、彼の嗅覚はすっかり麻痺した。本当は調査が済んでからにしたかったのだが、中尾町に溢れる臭気はただごとではなかった。かりそめの五感を持っているにすぎない、付喪神の花霞ですら、マスクをほしがったほどなのだ。町中が不快感をもたらす臭気に包まれている。吐き気を催す臭いとは、また違った悪臭だ。なぜか、肌が泡立つような――他に喩えようもない臭いだった。投書にあった通り、チーズをはじめとした動物質のものが腐ったような臭いに、澱んだ淵の臭いが混じっていた。
 これほどの悪臭が町を覆っているのなら、マスコミも嗅ぎつけそうなものだが――町か、それともそれよりも更に大きな圧力が、この異変を町の中に閉じこめているのかもしれない。
「お手紙くれはった学生さんは、2丁先に住んではりますね」
「2丁も歩くのか。はア、参ったな」
「においがなければ、さんぽするのが楽しい町だろね」
 花霞は、篤旗と伊織の一歩先を歩く。花飾りのついた長靴に、薄水色のレインコートが可愛らしい。大切な雨具だったが、それが汚れることを彼女は覚悟していた。

「ここですわ、枝名くんの家」
 一軒の住宅の前で、篤旗が投書のリターンアドレスを確認した。表札は『枝名』。何の変哲もない家だ。伊織がインターホンを押すと、投書人本人が3人を出迎えた。とりあえず、元気で暮らしているのは何よりだ――3人はほっと胸を撫で下ろした。
 だが、
「だれも外に出てないね」
 花霞は声さえ落として、そう言った。
 その通りだ――3人はバス停から投書人の家まで、数百メートルを歩いた。だがその間、誰ともすれ違うことはなかったのである。
「はい……臭いがひどくなってきてから、みんな家に閉じこもるようになっちゃって。今夏休みでよかったですよ」
 投稿人はそこで、声を落とした。身を乗り出し、3人に耳打ちする。
「実は、父さんと母さんの話だと……この悪臭騒ぎ、僕が小さい頃にも一度あったらしいんです。だから、親の年代の人たちは『またか』って感じで……」
 3人は、顔を見合わせた。花霞がネットを探っても見つからなかった情報だ。
「で――蓋が動いてたマンホールってのは、あれなのか?」
 伊織は顎で近場のマンホールを指した。これまた、何の変哲もないマンホールだ。蓋がずれているというわけでも、ひびが入っていると言うわけでもない。だが、頷く投書人の顔色は青褪めていた。


■喉の奥■

 ぎぎぎぎぎぎぎぇ……
 ぐぶぶぶぶ……
 ああああああああぉ……
 がががががが……

 ぴしゃん、
 ぱしゃん、

 ぎぎぎぎぎぎぎ……

「やな音するね」
 マンホールの蓋を見下ろして、花霞は眉をひそめた。
「待て」
 しっ、と伊織が唇に人差し指を当てる。

 ぴしゃん、ぱしゃん、ぴしゃんぴしゃんばしゃん、

「何か暴れてるぞ」
「蓋、開けてみましょう!」
 言うなり、篤旗はマンホールの蓋をバールで持ち上げ、ぽっかりと開いた深淵を覗きこんだ。
 彼の青い目は、確かに、ひとつの熱源をとらえる。そのひとつの他には、何もない。ただ、寒々とした水と悪臭が渦巻いているばかりだ。
「中に誰かおりますよ! 生きてはります!」
「何人?!」
「ひとり!」
「行くぞ!」
 消える人間は、気の毒な清掃業者で終わりにしなければならない。
 伊織は黙っていた。彼の元に転がりこんできた依頼は、アトラスからのものだけではなかった。消えた人間を真剣に捜している者がいたのだ。彼らは、現代の忍びを頼ってまで、家族の消息を捜しているのである。
 それを伊織は、無碍には出来なかった。
 ひゅん、と風のように、彼はマンホールの中へと飛びこんだ。まるで質量を持たない動きで、花霞がそれに続く。篤旗はマスク越しの深呼吸をした後、ふたりを追った。
 ぱくり、
 ごくんと、
 マンホールは3人の人間を飲みこんでしまった。


■幽門■

「あ!」

 花霞は声を上げる。下水にまみれて、何かと格闘している少年を見たのだ。それは、彼女が一度会ったことのある少年だった。この暗闇の中でも煌煌と光る、金色の瞳。
 そして、
「ちいっ、生意気な野郎だ!」
 この悪態。
「アサト! アサトちゃんだ!」
 伊織が咥えていた針を、しゅっと抜いた。だが、必要はなかった。
 眩い光が下水道管内を満たし、黒髪の少年の輪郭をはっきりと描き出す。
 そして――何とも形容し難いもの、少年をのたうつ触手のようなもので捕らえていたものは、光の中に溶けて消滅した。
「下らねェ。オレを喰おうなんざ、10万年早ェんだよ!」
 少年は、来栖麻里。
 彼は悪態をつくと、下水を蹴り上げた。
 そんな不機嫌そうな彼にもまったく臆することなく、むしろ心配しながら、篤旗が駆け寄って手をかけた。
「大丈夫? きみもアトラスの依頼でここに? ――身体、冷えとるよ」
「五月蝿ェな、オレは今機嫌が悪イんだ!」
 篤旗の手を振り払ってから、麻里はハッと気づき――獣の早さで飛び退き、身構えた。
「……ちっ……見られちまったか」
 ぐるるるるるるるるるる、
 麻里の喉の奥からは、人間のものではない唸り声が生まれてくる。
 花霞が慌てて前に出た。
「まって、アサトちゃん。アサトちゃんも、このにおいを消すのが仕事なんでしょ? だったら、今は協力しようよ。まだ、におい消えてないもん……さっきので、終わりじゃないんだよ、ぜったい!」
「協力? 冗談だろ」
 麻里はそこで言葉を切ると、ぎらりと背後を睨みつけた。
 狼のように、彼は耳をそばだてる――
「勝手にやってろよ。せいぜいオレの邪魔にならないようにな!」
 捨て台詞を残すと、麻里は下水の中を駆け抜けていった。闇が彼を呑みこみ、音と唸り声が出迎えていた。
「……あいつは何だ? 知ってるのか、花霞?」
「しってるってほどじゃない……かも。花霞が、かってに気にしてるだけ、かな」
 ぎぎぎぎぎがががががが……
「来ます! 何や、つめたくもあたたかくもないもんですわ……!」
 麻里が走り去っていった方向とはまったく逆方向の闇から、呻き声と鳴き声が入り混じった音が聞こえてくる。
 耳をそばだてたとき、3人は内心首を傾げた。

 ぎぎぎぎぎ……
 うぃいいいいぃぃ……
 マあマ……

 ぞっとするほど陰鬱な鳴き声の中に、機械音が混ざっている。
 その不釣合いな不協和音が、古い下水道管のコンクリートに跳ね返り、異様な交響曲を奏であげた。

 不意に、この闇が光に満ちた。
 それは先ほどの麻里の力がもたらした光とは、まったく別のものだった。膿色に濁った、ライトの光だ。四つの光源が、音とともに近づいてくる。そして、悪臭はマスクのフィルタさえも貫くほどにまで膨れ上がっていた。
「何だ、ありゃア?!」
「あーっ! 花霞、見たよ! あの、きかい――」
 どしん、とその物体は3人の前で停止した。
「下水道を点けんする、リモコンカメラだよ!」
 花霞の言う通り、それはカメラだった。だが、もとの大きさの数倍はあった。四つのライトを持つカメラ部分は、まるで頭部だ。いや、実際、頭部なのだろうか?
 脂と膿にまみれたカメラには、四肢があった。まるでワニのような、不恰好な脚だ――水泡と卵のようなもので、ぶくぶくと膨らんでいる。
 カメラの頭部が、凄まじい勢いで回転した。
 耳障りなその音は、
 ああ!

 まあマ、まあマあ、ママあ、ままままままままままままま、
 ままああああああああああ、まあまあまあまあマあまあま――

 母親を呼ぶ嬰児の嘆きだ!

 花霞は、耳を塞いだ。もとより、気乗りのしない戦いだった。
 しかし、これを聞いてしまった以上、
 彼女はとても、とてもとても刃を振るう気になれない!

「篤旗! あいつの動きを止められるか?!」
 咬みつくような伊織の問いに、篤旗は力強く頷いた。止めてどうする気だとは訊かなかった。
 篤旗の青い目に、光が宿る。この闇を征するには適わないが、充分に強い光だった。その光を浴び、濁った下水が瞬時にして凍りつく。
 四つ目のカメラは四肢を戒められ、咆哮を上げてもがいた。その頭を振り回せば、呪われた鳴き声と膿が飛び散った。
 だが、下水の流れは止まらない――
 篤旗の氷は、流れる汚水に溶かされるさだめ。
 それでも、
「充分だ!」
 伊織は耳を塞いでうずくまる花霞の肩を掴み、やはり咬みつくように言葉をかけた。
「花霞、力を貸してくれ! 奴のツボは――あのカメラの中にある!」
 花霞は、唇を噛んだ。
「頼む、おまえは、刃だろう!」
 彼女の青い瞳にも、光が宿った。

 膿と鉄と錆が、ばかん、と両断される。
 どっと溢れる赤黒い膿と血の中に、胎児を見た。
 望まれることも、生まれることもかなわなかった魂だ。
 しゅリん、と針を回し――
 伊織は、胎児の眉間に針を打った。

 ばちん!

 鉄屑と肉塊、膿が飛び散る。
 凍っていた下水もついに溶け、ざあざあと音を立てて流れ始めた。まるで、洗い流そうとしているかのようだ――
 悪臭は、今や下水のものでしかなかった。

 花霞は下水の中から、鉄の塊を拾い上げた。壊れたリモコンカメラだ。中尾町の清掃会社の刻印が打たれていた。
 ふと、闇の奥を見つめたその青い瞳に、金の目が映る。
「あ……」
 花霞が声をかける前に、金の瞳の少年は消えた。あのときと同じ光に包まれ、忽然と。


■垢といい汗■

 地上に出て、篤旗はマスクを外し、思う存分深呼吸をした。悪臭は……まだある。残念ながら、自分たちから発せられているようだ。だがとりあえず、町を覆い尽くしていた形容し難い悪臭は消えていた。
 やれやれ、と老けた一言をこぼしながら、伊織がマンホールの蓋を閉めた。ツナギから滴る下水の臭いに、彼は顔をしかめる。
「近くに銭湯かなんか、ねえかなあ」
「花霞も、さびちゃうよう」
「ケーナズさんに連絡取りましょか。臭いが消えてるちゅうことは、向こうも上手くやりはったんでしょう。何や、結局、肝心なときに連絡できまへんでしたなあ」
 篤旗は頭をかいて、苦笑した。

 花霞は、マンホールの蓋を見下ろした。
 これで終わったとは、考えなかった。篤旗も伊織もそう考えているはずだ。
 いつまた、この下に流れる想いは、我慢の限界を迎えるのだろう。そのとき、誰がまた同じように無理矢理想いをかき消すのだろうか。
 じっと自分たちの力を見ていた、あの来栖麻里のような者か。
 容赦ない、あのサファイアの狼なのか。
 それとも――

「花霞、近くに家族風呂があるらしいぞ」
「皆でお風呂行こ」
 伊織と篤旗に呼ばれ、花霞は我に返った。
 壊れたリモコンカメラを抱いて、彼女は走る。


(了)

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   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)
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【0527/今野・篤旗/男/18/大学生】
【1388/海原・みその/女/13/深淵の巫女】
【1481/ケーナズ・ルクセンブルク/男/25/製薬会社研究員(諜報員)】
【1627/来栖・麻里/男/15/『森』の守護者】
【1651/賈・花霞/女/600/小学生】
【1779/葛城・伊織/男/22/針師】
【1803/御母衣・武千夜/男/999/スタントコーディネーター】

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               ライター通信
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 モロクっちです。大変お待たせ致しました。
 『マンイーター・ホールへ』をお届けします。当初の予定よりもかなり長いものになりました。このお話はふたつに分割されています。相手になった怪異は同じものですが、別パーティーが気になる方は合わせてお読み下さいませ。片方でしか判明していない事実もあります。
 今回はゲストとして御国将が飛び入り参加しました。彼はパラレルな世界の住人ですが(笑)、結果的に知り合いが意外と多いことになっているようで、面白かったです。そして微妙に役に立っていないのですが、彼が同行したおかげでPCの皆様が碇編集長に提出するレポートをまとめる必要はなくなりました(笑)。
 怪異の小汚い感じが伝われば幸いです。
 それではまた、ご縁があればお会い致しましょう!