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<東京怪談・PCゲームノベル>


河童の花嫁

*海原・みなも*

「―――と、いうわけで、ここに居る先輩を助けてほしいんだけど」
 下校途中にあるいつものネットカフェに雫は声を掛けた協力者3人に岡本奈枝(おかもと・なえ)を紹介した。
 『結婚』という言葉を持ち出したためなのか、それはそろいも揃って女性だった。
「泳げないのに水泳勝負とは恐れ入ったわね、ふ。これはもう決定ね嫁入り。永久就職。……就職……――――――祝電のひとつも打ったげましょーかーーーーー!?」
 村上・涼(むらかみ・りょう)は店にきた時にはすでにこんな有様であった。こんな有様とは具体的に言うと、1.真昼間から飲んでるんじゃないの!? と思わず確認したくなるような絡み具合、2.据わりきった目つき、3.リクルートスーツのタイトスカートだというのもかまわずに椅子に片足を乗せんばかりの座り方……それらを総合して、台詞だけ聞いているととても協力者には見えない。
「ど、どうしたんでしょうか?」
「何かあったの?」
「ん〜、ここ来る前にまた履歴書返ってきちゃったみたいよ、この前受けた就職試験の」
 夏菜、雫、奈枝、海原みなも(うなばら・みなも)の就職などまだ先である中高生組みがひそひそと、一人目が据わっている涼について話していた。
 極力声は押さえていたつもりであったが、
「聞こえてるわよぉ」
と、にっこり微笑まれて、とりあえず全員揃って笑顔を返す。
 夏菜は話を聞いた時から思っていたことを奈枝に提案した。
「でもぉ、まずサブロー君も奈枝ちゃんも2人ともごめんなさいしなさいなの。だって奈枝ちゃん嘘ついちゃったんでしょ?」
「確かに、嘘は良くないけど……でも、本当に死ぬかと思ったのよ、その時は。心神喪失状態だったのよ……」
「だぁから、自分で言った事に自分で責任とらないってのはどう言う了見よ」
 正論ではあるのだが、部分的にヤツ当たりも多少入っているのは否定できない。
「でも、だからこそ自分が言った事の責任取るために水泳勝負で決着つけることにしたんです!」
 バンと両手をテーブルに着いて奈枝が立ち上がった。
「涼さんも奈枝さんも落ち着いて下さい」
 静かにみなもが言う。涼は聞いているのか居ないのか、
「社会の厳しさ学ぶためにも嫁入り決定。解決」
「涼さん」
「――――ってわけにもいかないか」
 ようやく傍観者であった雫、とみなもが胸を撫で下ろした。
「まー水泳は誰かに教えてもらうとして」
「あ、それはあたしが」
と、みなもが手を上げる。
「水泳を教えるくらいのお手伝いは出来ます。代理…というのは、個人的にも何かが違うような気もしますから」
「夏菜は勝負する場所とかを考えるね。いくらみなもちゃんが水泳教えて奈枝ちゃんが泳げるようになったとしてもやっぱり河童のサブロー君相手じゃハンデは必要だと思うの」
 協力者の3人が真剣に話し合ってくれているのを見て奈枝は、
「よろしくお願いします」
と、頭を下げた。
「その件はそれでいいとして、とりあえずその色ボケガッパに聞きたいこともあるしツラだけでも拝ませてもらいたいとこね」
「そうですね、その昔のことについて聞きたいこともありますし。それによってはこちらの対応も変わってくるでしょうから」

■■■■■

 翌日、三郎に会うために村上涼(むらかみ・りょう)、石和夏菜(いさわ・かな)、海原みなも(うなばら・みなも)の3人は奈枝の高校へ来ていた。
 学校というのは警備は手薄な割に排他的で、他校の制服を着て校内をうろついていると教師に追い出される恐れがあるため、悪目立ちしないためにも夏菜とみなもは奈枝が友人から借りてきた制服を着ている。
 そして、涼はといえばいつものリクルートスーツである。
「ねぇ、涼さんは教育実習の下見って言う設定なんですよね?」
「そうよ」
「……じゃあ、その手にしてるものは?」
 恐る恐る涼が手にしている細長いある種の球技に使われる棒を指す。
「ん? バットだけど?」
 まるでバットを持っているのが常識のように言われて問い掛けた奈枝の方が間違っているような気がしてくる。
 バットのグリップの辺りにはしっかりと涼のイニシャルが入っていた。どうやら相当愛用のものらしい。所々へこんでいるところがそれを物語っている。
 何に使うんですか? とは、恐ろしくて聞けずに、促されるままに奈枝は教室に待たせている池ノ元三郎(いけのもと・さぶろう)の元へ3人を案内した。
 普通に開けるだけでも、立て付けが悪いのかやたら大きな音を立てる教室の入り口の扉を開けると自分の席に突っ伏していたらしい三郎が顔を上げた。
「奈枝……?」
 奈枝の姿をみつけて嬉しそうに満面笑顔を浮かべた三郎だったが、奈枝の後ろにいる3人を見て不思議そうな顔をする。
 無理もないだろう、そのうち2人は見たことのない顔だが同じ制服を着ているが、1人はバットを担いでいるのだから。
「えぇと、コンニチハ」
 とりあえず三郎はぺこりと頭を下げる。
 一見、ごくごく普通のどこにでもいそうな童顔の少年だった。
 これが河童だというのだろうか?
 しかもどうも、3人が思っていたよりもまともそうな河童だった。とはいっても、『まともではない河童』というのを見たことがあるわけではないのだが。
「海原みなもちゃん、石和夏菜ちゃん、村上涼さん。今度の勝負のことで協力してもらうんだけど――――」
「こんにちは、海原みなもです。お伺いしたい事があって無理を言って奈枝さんに連れてきてもらったんですけど」
「……? 答えられる事だったら」
「まず、2人ともごめんなさいしなさいだと、夏菜思うの。だって、奈枝ちゃんは嘘ついたんだし、サブロー君は溺れさせたんだもん」
 夏菜の台詞にはじめて三郎は驚いた顔をした。
「オレじゃないよ! 溺れさせたのは……そりゃあ、オレのダチだけど、オレは奈枝を溺れさせてなんてないって」
 みなもはその姿に思わず拍子抜けしたような顔をする。もしも、本当に三郎自身が溺れさせて助けたのだとしたら河童だの人間だの言うより男として間違っていると、勝負をする前に渾身の力で一発叩いてやろうと思っていたからだった。
 少なくとも必死に弁解する顔を見る限り、どうも嘘をついているようには見えなかったからだ。
「でもキミねー、6歳児に命と引き換えに嫁になれってかなり無茶って言うか無理って言うか変態入ってるって言うか―――」
 その涼の声を遮る声が上がった。
「三郎タン! 君は間違えているよー。助けたから嫁に来い? ダミだよぉ♪ はじめての出会い!偶然街で再会する君と僕! 触れ合う手と手! んでもって、卒業式が終わったら伝説の木の下という段取りを踏まないで、好きなんて言っても奈枝タンが混乱するだけだぜぃ♪ 漏れは愛の狩人として、そんな交際を認めるわけにはいかねえ!」
 呆然とする三郎、奈絵の当事者2人。
 そして同じく呆然とするしかないみなも、涼、夏菜の3人。
 そんな周囲の反応も気づいていないのか気づくつもりもないのか、彼は更に、
「そんな君には、奈枝タンはやれん! 代りに漏れが嫁に貰う! 奈枝ターン♪」
 いきなりの乱入者はの奈枝をお姫様抱っこしようと飛びかかってくる。
「イヤぁぁ、なにぃ〜〜」
 奈枝が悲鳴を上げた。
 その悲鳴にようやく我に返った面々は、背後から涼が蹴り、みなもが平手打ちで思いっきり顔を引っぱたき、夏菜はとっさに奈枝の前にでて持っていたカバンでその少年を叩き落とした。
 集中攻撃を受けて床に這いつくばった彼―――黒乃楓は、
「酷いよぅ」
と、うめく。
 夏菜とみなももはとにかく驚いた顔をして楓を見ている。
「なんなのコイツは」
 涼は息を切らせて物凄い目で楓を見てから奈枝に問い掛けたが、心当たりがない奈枝は涼の問いかけに首を力いっぱい横に振った。
「奈枝タ〜ン」
 懲りずに楓が再び奈絵に抱きつこうとした時、どこからともなく現れた素早い人影が楓を押さえた。
 乱入者が再び現れたわけだが、今度の乱入者は奈枝の知っている顔だった。
「み、三嶋クン!?」
 2人目の乱入者は去年、今年と同じクラスの三嶋秋穂(みしま・あきほ)だった。
「悪いとは思ったんだけど気になって、聞いちゃったんだ――――でも、聞いた以上は黙ってられない。岡本サン、俺と付き合って下さい!」
 まるで、一昔前に流行ったテレビ番組のように秋穂が頭を下げて奈枝に向かって手を差し出した。
「……へ!?」
 全く予想外の出来事に、奈枝は年頃の乙女だというのに実にお間抜けな反応をした。それはそうだろう、奈枝の中での秋穂の印象はあくまでなんだか他の人とは少し違った雰囲気を纏った級友であり、それ以上でもそれ以下でもなかったのだからこの告白は全く奈枝の中にはない選択肢だった。
「駄目かな?」
 それに答えたのは奈枝ではなかった。
「駄目に決まってんだろう! 奈枝は俺と結婚するんだって!」
「テーマは愛っ♪ 奈枝ターン♪ ZOKKONラブっ」
と、お互い違った意味で人外魔境な2人が割り込んでくる。
「奈枝!」
「奈枝ターン」
「岡本さん!」
 押し迫ってくる3人、後退る奈枝。
 その均衡を破ったのは、涼の一振りだった。
 涼の金属バットが物凄い音を立てて空を斬る。
「それ以上やると、頭かち割るわよ」
 3人は一斉に身を引いた。
「強引なのは良くないと思います」
「お付き合いを強制しちゃ駄目なの」
「キミ達、そろいも揃ってもっと真っ当に声掛けてお付き合いとか申し込んでみないでどうするってのよ」
 しかし、それぞれ至極真っ当に声を掛けたつもりであるので涼のその台詞にはとても心外そうな顔をしている。
「説教が嫌なら専属武器の金属バットでいくらでも体に教え込んであげるわよ――――っていいたいところだけど、どっちみちそこの河童クンと奈枝で水泳勝負する予定だったんだから、この際全員ひっくるめてやっちゃいなさいよ」
「そうだよね。サブロー君もすぐに結婚じゃなくてまず恋人でも良いと思うの。だから、サブロー君と三嶋君と、えぇと……そこのもう1人の人と奈枝ちゃんとで水泳勝負ってことにしたらいいんじゃないかなぁ?」
「そうですよね。それなら最初の奈枝さんと三郎さんの約束も守れますし」
と、みなもは涼と夏菜の提案に諸手を挙げて賛成する。
「えぇとすいません……この場合、勝負するまでもなくお断りしたい人が居るんだけど……約1名だけは」
 チラリと、奈枝は楓を見る。
 しかし、
「どうせ勝っちゃえばいいんだから」
と涼は協力するとは言っても所詮他人事なのでにこやかにそれを却下する。
 一応、涼は涼なりにどぉーしても負けるわけにはいかない相手が1人でもいる方が奈枝もやる気になるだろうと考えての事だった。
 見たところ、ちょっと(?)精神的に幼いということと本当は河童だということを除けば――――三郎が河童であるということは一般的に言えば問題なのだが今の涼の頭の中ではそれは大して重要なことではないらしい。どの程度重要でないかといえば、三郎の性格が少し幼いということと同レベルにしてしまえる程度である――――三郎はそんなに害となる存在にはなりそうにもなかったし、奈枝が三嶋くんと呼んだ少年に関していうなら級友だというし。
少なくとも全くの初対面でこの暴走ぶりの楓さえ押さえてしまえばこの際、三郎か三嶋少年のどちらかと奈枝が付き合う事になるというのも奈枝には自己発言に責任をとると言う社会勉強の一つにはなるだろう。
「涼お姉さん、夏菜勝負は川でやったらいいと思うの。サブロー君達は下流から、奈枝ちゃんは上流から泳ぐの。ハンデになるよね! きっとサブロー君は河童さんだから下流でもちょっと距離を長めにすれば良いと思うし」
「それ、いいね。うまくすればナマで『河童の川流し』が見れるのよね。見たいわ、ナマ河童川流れ」
 そんなこんなで、勝負の場所とルールがようやく以下のように決定した。

 期日は2週間後。
 男3人の誰かが勝てばその勝者が奈枝と付き合う権利を得、奈枝が勝てば全員との話はなかった事にする。

■■■■■

 決戦の日。
 冷夏続きだったがうまい具合にその日は久しぶりの真夏日。
 山手にあるその川が勝負の舞台となった。
「何でそんな色気のないモノ来てきてるのよ」
 涼は視線の先の奈枝の姿を見てそう言う。
 涼が色気がないというのも無理もないだろう、奈枝の水着はキャミソールにタンパンのタンキニといわれる一見普通の服のような水着なのだ。いまどき渋谷を歩いている女の子達の方がよほど露出度が高いだろう。
「勝負のためにも、もっと露出を高くして色気で敵を惑わすくらいの―――ってちょっと無理か」
と、上から下と奈枝の水着姿を評した。
「でも、ほら、あそこの皆さんは奈枝ちゃんたちのことが好きなんだからそんなこときっと気にしないと思うの」
 夏菜はそれを見て必至にフォローするが、
「……まぁ、何せロリコン河童だから」
涼はぼそりととどめの一言を放つ。
「どうせ、凹凸も色気もないですよ!」
 さすがに奈枝もそこまで露骨に言われると少し傷つくようだ。
 女性陣はそんなほのぼのとした(?)会話が交わされていたが、夏菜いわくの『あそこの皆さん』こと男性陣はお互い会話もなく真夏だというのに寒い雰囲気が漂っているようだ。やたらと楓だけが奈枝に向かって何やらアピールはしているが。
 そうそうこうして居ても始まらないので、早速、夏菜からルールの説明がされる。
「まず、ここが奈枝ちゃんのスタート地点。こっちが黒乃くんと三嶋くんのスタート地点。で、ここがサブロー君のスタート地点ね」
 赤い×印を中心にそこから30メートルほど上流に奈枝、50メートル下流に黒乃、三嶋の名前が、そして、その2人より更に下流に30メートルのところにサブローの名前が記されている。
「で、ここの真中の×印にはこの旗を立ててあります。それを最初に取った人が1等賞ね」
「じゃあ、それぞれスタート位置について下さいね」
 そう言われてそれぞれスタート位置へ行く。
「それにしても、結局泳げるようになったわけ?」
「それが、とりあえず―――」
 奈枝はカバンから何かを出して小脇に抱えて行った。
「……アレは……ビート板?」
 それぞれ位置に着いたのを確認して、夏菜が大きな声で、
「よーい、スタート!!」
と叫んだ。
 その声に一斉に4人が泳ぎ始める。
「さすがに2週間ではアレが限界で―――――」
 みなもが苦笑した先では、奈枝は見事なバタ足を披露していた。水飛沫も高々と――――
 実際、顔を水につける事からはじめた事を考えればかなり上達の上達具合ではあるのだが。
 まるで小学生並のバタ足をしている奈枝とは対照的に、楓と秋穂はスムーズにスタートした。そして、問題の三郎はと言えばスタートの声とともに水中に潜水したきり水面に姿を全くあらわさない。河童とはいえ、三郎はもともと池に住む河童なので流れのある川での泳ぎに離れていないらしくなるべく水中に潜水したままの方が慣れない流れの抵抗が少ないと考えたらしい。
「やっぱり流れがあって泳ぎにくそうだなのあの2人」
 奈枝は流れに逆らって泳ぐ楓と秋穂の姿を見ている。
「それに引き換え、流れに乗ればいいだけなのに、何であんなに進まないわけ?」
 思わず呆れが口をついてしまうほど奈枝はなかなか前に進まない。
 そんな時に、突然、現在2位、ずっと平泳ぎをしていた楓が不意にシンクロ並に大きく上体を水面に出したかと思うと、
「奈枝ターン、愛して――――」
と、突然ダイナミックな愛の告白を敢行した―――いや、しようとしたが、言い終わる直前に体が沈んだ。
 どうやら、肝心なところで足がつったようだ。
「沈んだわね……」
「沈みましたね……」
「―――沈ませておいて良いのかな?」
 3人は顔を見合わせたが、
「まぁ、いいか」
という結論に落ち着いた。
「奈枝ターン――――――」
と、言う叫び声とともに、楓はそのままあれよあれよという間に流れに飲まれて流されていった。
「とりあえず、1人脱落、と」
 そんな事を言っている間に、今度は水中で秋穂と三郎のデッドヒートが行われている事に地上に居る3人は気づいていなかった。
 しかし、やはり水中戦となると圧倒的に三郎に利がある。
 三郎は秋穂に追いつきあっという間に追い越した。
 そこでようやく三郎の姿が岸に居る3人にも見えるようになった。
 顔はそのままであったが、持ってきたオペラグラスで見ると指と指の間には水掻きがあり何やら頭上に皿っぽいものも見える。
「本当にサブロー君て河童なんだね〜」
「なかなか流れないわねぇ」
 どうも本気で『ナマ河童川流れ』を期待していたらしい。
 レースも中盤。すでに涼と夏菜はすっかり観戦モードに入っている。
 その中で、1人あまり出来が良いとは言いがたかった生徒が心配でしっかりと見つめていたみなもが、
「見て下さい、奈枝さんがゴールしますよ」
と、指差す。
 みなもに促されて見るといつの間にか、亀並みのスピードだった奈枝がさすがにビート板と川の流れのおかげで旗にたどり着く所だった。
「やった!」
と、奈枝が喜ぶ。
 しかし、そこで喜んだのが間違いだった。
 瞬間、ビート板が流れに乗って流されてしまった。
 そして、当然ビート板なしでは間だまともに泳ぐ事も出来ない奈枝も流される。
「奈枝さん!」
 みなもは慌てて川に走った。
 だが、それよりも早く、
「サブロー君! 奈枝ちゃんが!!」
と、夏菜が三郎に向かって叫んだ。
 旗まであと10メートルというところにいた三郎はその声を聞いて再び水中に潜る。
「……」
「――――」
「――――あ!」
 ゆっくりと、三郎に抱えられるように奈枝が岸に上がってくる。
 その手にはしっかりと旗が掴まれていた。

■■■■■

「で、この場合、誰が勝ったってことになるわけ?」
 涼は呆れ顔で奈枝と三郎、秋穂の顔を見比べる。
 確かに先にゴールにたどり着いたのは奈枝だっただろう。
 実際に旗は奈枝の手にあったのだから。
 しかし、旗が手に合ったのはある意味偶然で旗を握る直前に奈枝はそのまま流されてしまい、その奈枝を助けたのは三郎だった。
 そのため三郎はゴールまでたどり着く前に奈枝を抱えて岸へあがる事になり、最終的にゴールまでまともにたどり着いたのは秋穂だけだったのである。
 ゴールにたどり着くという基本ルールをクリアできたのは秋穂だけ。
 しかし、旗を取ったのは奈枝。
 そして、その旗を取った奈枝を助けたのは三郎……と。
「あー、もう、今思ったけどスゴイ割れ鍋に閉じ蓋じゃないの? もういっそ挙式ね。挙式しかないわね」
「まって、涼お姉さん。夏菜思うんだけど、頭ごなしに否定するばっかりじゃなくお互いをちゃんと見てみたら? だって、池に住まないんなら困らないんだし、別に今すぐ結婚じゃなくて、お互いの事を知るためにオトモダチでも良いと思うの。相手のことを思いやらないとどんな関係でもダメになっちゃうの。ね?」
 夏菜の意見を黙って聞いていた秋穂が、
「それなら良いんじゃない、岡本さん」
と奈枝に向かってそう言った。
「?」
「ゴメン、岡本さんは気づいてたと思うけど……実は俺も協力者だったんだ」
「じゃあ、問題はないですよね? 結婚の話しも、三郎さんが池に戻る話しも白紙ってことで。今回は引き分けにしましょう? やっぱり良くないですよ、お付き合いを賭け事にするなんて」
 全員が奈枝の方に注目する。
「わかった、わかりました。あたしは結婚っていうのが困るっだけだから」
「奈枝!」
 その言葉に感激したらしく三郎が奈枝に抱き付こうとした。
「だぁから、それを止めろって言ってるのよ!」
 奈枝の声が川原に響いた。
 この先、三郎との関係がどうなるかなんて奈枝自身にも判らないが、でも、まぁ、それも言いかなと奈枝は思う。思えるようになったと言った方が正しいだろう。
 昔と今では奈枝も変わったし三郎も変わったのだ。
 この先だって、きっとお互いに変わっていくだろう。その変わった先にまた新しい関係がきっと生まれるはずだ。
 とりあえず、奈枝は昔は言わなかった台詞を三郎に向かって口にした。

「助けてくれてありがとう」

 この先どう転がるかはまた別の話。

Fin……?


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1687 / 黒乃・楓 / 男 / 17 / 賞金稼ぎ】

【1252 / 海原・みなも / 女 / 13 / 中学生】

【1817 / 三嶋・秋穂 / 男 / 17 / 高校生】

【0381 / 村上・涼 / 女 / 22 / 学生】

【0921 / 石和・夏菜 / 女 / 17 / 高校生】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、遠野藍子です。この度はご参加ありがとうございました。
 毎度のことながらぎりぎり納品となりましたが如何でしたでしょうか。
 今回は、さわやか青春ラブコメです。
 えぇ、誰がなんと言おうとさわやか青春ラブコメなんです。>断言
 これが? とか言わないでやって下さい。多分泣きます。泣く前に暴れるかもしれないけど。
 まぁ、なんだか結局、ラブ2:コメディ8といった配合になってるかなぁ、と。
 なぜ河童!? という声もありそうなんですが、このタイトルだけは今は昔……そう、まだ20世紀の頃に突然思いついたタイトルでタイトルだけが寝かせてあったものなのです。蔵出し。
 ラブコメ極めたい。そんな病にかかっているのできっとまたそんな話しを書くと思います。(懲りてない)
 
 そんなわけなので、また機会があればよろしくお願いいたします。