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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


光揺らせば

●序
 何かを無くした気がする。それが何かは思い出せないけれど。

 草間興信所に、一人の女性が訪れた。町内会長を営んでいるという、片岡・妙子(かたおか たえこ)だ。年は40過ぎくらいであろうか。何処にでもいる、所謂おばさんだ。
「最近うちの近所でねぇ、女の子の幽霊が出るって言うのよぉ」
 片岡は、お茶を出してきた零に「どうもぉ」と言いながらお茶を啜る。
「それがねぇ。夜8時に、公園に現われてね。『何処にも無い、何処にも無い』と言いながら歩くんだって」
「何処にも無い?……何がです?」
「知らないわよぉ。見た人皆、逃げちゃうんだから」
 けらけらと下品に笑いながら片岡は言った。草間は苛々する自分を慰めるかのように、煙草を一本口にする。
「ただね……あら嫌だ、私が言ったっていうのは内緒よぉ?噂なんだから」
「はあ」
 こういうのは逆らわないのに限る。草間はとりあえず聞く事に集中する事にした。
「横田(よこた)さんの家の久美子(くみこ)ちゃんじゃないかって。それがね、久美子ちゃんは変な子でねぇ。小学校3年生なんだけど、いつも公園で丸い石を探していたのよ」
「その久美子ちゃんはどうしたんです?」
「先日事故で亡くなってねぇ。……変な子だったけど、悪い子ではなかったのよ。やっぱりお父さんしかいなかったから、しっかりしていたのかしら」
 大袈裟に溜息をつきながら片岡は言う。
「それで?その女の子の幽霊を何とかすればいいんですね」
「そうそう。本当に久美子ちゃんなら、成仏させてあげたいしねぇ」
 草間は溜息をつき、即座に承諾した。一刻も早く、この興信所から片岡にお帰りいただきたかったというのもあった。草間は吸っていた煙草を灰皿に押し付け、苦笑する。
「丸い石、か」
 草間はそう呟き、二本目の煙草に火をつけるのだった。

●思い出
 カタン、と引出しを開けて海原・みなも(うなばら みなも)は何かを取り出した。それを青の目でじっと見つめ、微笑む。その拍子に青の髪がさらりと揺れる。
「結構、物騒なんですけどね」
 ふふ、とみなもは笑いながら手にしたものを見つめた。それは、ライフル弾の薬莢だった。ペンダント仕様にしてあるが、どう見てもイミテーションには見えない。つまりは、本物。みなもはそれをそっと胸に抱く。
(お母さんからもらった、大切なものですから)
 小さい時に母親から貰った、ライフル弾の薬莢。大事なものには変わりが無いが、物騒である事にも変わりが無い。
「ある意味凄いものですけどねぇ」
 苦笑しながら言うものの、顔は完全に笑っている。どんなに物騒であっても、それがみなもにとって大事なものであるのは間違いないのだから。
「ああ、もうこんな時間」
 みなもはペンダントをそっと引き出しにしまう。草間興信所に行く予定にしていたのだ。

 草間興信所には、六人の男女が集まっていた。全員を草間はぐるりと見回し、煙草に火をつけた。白煙がゆらゆらと天井に昇っていく。
「公園に思い出の石でも落としたのかしらね?」
 口元に手を当てながら、シュライン・エマ(しゅらいん えま)は考える。皆に同意を求めるかのように、黒髪と共に青の目を皆に移しながら。
「そうですね、大人から見ればたいした事がない物でも宝物って事よくありますよね」
 こくり、と大矢野・さやか(おおやの さやか)が同意する。その拍子にふわりとした茶色の髪が揺れ、青の目が光る。
「上にいけないくらい、大事な物って事ですよね。だったら、一緒に探してあげたいです」
 目に決意を秘めながら、みなもは言った。髪が風に揺れる。
「そうじゃな。捜している宝物を一緒に探して、心残りを消して自然と成仏させたいですな」
 うむ、と小さく呟きながら網代笠から覗く銀の目を閉じ、語堂・霜月(ごどう そうげつ)は言った。
「探すとすれば、場所を特定した方がいいかもしれないな。……公園の何処でよく見ていたか、とか」
 金の髪を揺らしながら煙草を取り出し、それに火を付けながら真名神・慶悟(まながみ けいご)は言った。黒の目はじっと火のついた煙草に向けられている。
「そうね。探すのならば、場所もだけど……具体的な石の把握もしておきたいわね」
 シュラインはそう言いながら頷く。
「それにしても、どうして『丸い石』にこだわるんですかね?」
 ぽつり、と緑の目を光らせながら露樹・故(つゆき ゆえ)が口を開いた。黒髪がさらりと揺れる。
「ずっと考えていたんですが、死んだ母親に関係しているのではないですかね?」
 故が言うと、それに霜月が同意する。
「父子家庭、という事じゃったからのぅ……。死んだ母親に貰った物なのかもしれぬ」
 とすれば、形見となる。もしそうならば、探しつづけている理由もそこに繋がってくる。
「まだ久美子ちゃんと断定したわけじゃないから、なんとも言えないけどね」
 シュラインが苦笑しながら皆に言う。先入観は良くない。
「ともかく、公園に行ってみませんか?」
 みなもが言うと、皆が頷く。こうして6人は、揃って公園へと向かうのだった。

●公園
 何処にでもある、ごくごくありふれた公園。滑り台やシーソー、ブランコなど子ども心を揺さぶる遊具が置いてある。そこで、子どもや大人の姿が見られる。
「俺は横田さんのお宅に言って、父親に話を聞いてみようと思うんですが」
 故が言うと、シュライン口を開く。
「私も一緒に行っていいかしら?」
「ええ」
 快く、故は頷く。それからさやかの方を向き、微笑む。
「さやかさんには、学校に行って貰っても構いませんか?」
「え?」
「学校での久美子ちゃんの状態を知りたいんですが、俺が行くと目立ちますから」
 故が言うと、さやかはにっこりと微笑む。
「ええ。私で良ければ」
「じゃあ、あたしはこの公園で久美子ちゃんの話を聞いてみますね」
 みなもが言うと、それに霜月と慶悟も同意する。
「そうじゃな。まずは石とやらを探す為にも、その少女に会わぬと」
「……子どもに逃げられないようにな」
 慶悟がぼそりと呟く。霜月と慶悟は互いに互いを見つめる。旗から見ると、不思議な二人に違いない。坊主とホスト。尤も、慶悟は外見がホストであるだけなのだが。
「みなもちゃん、頑張ってね」
 シュラインはあえてみなもにだけ声をかける。この三人の中で普通に大丈夫そうなのはみなもだけだと判断したのだろう。みなもはにっこり笑って胸をぽんと叩く。
「任せてください!」
「……贔屓じゃ……」
 ぼそり、と霜月が呟いたが、あえて皆聞こえないふりをした。今はそのような事を議論している場合でもなかった。
「じゃあ、7時半にこの場所に集合しましょうね」
 さやかがそう言うと、皆は頷き、それぞれ思う場所に向かうのだった。

●公園内部
 公園に残った慶悟・みなも・霜月の三人は、調査に赴くメンバーを見送り、公園を振り返った。
「あたし、本当は久美子さんのお家に行って事情をお聞きしたいって思ってたんですけど」
 みなもはそう言って、二人を振り返る。
「正直に言うと、娘さんを亡くしたばかりの方に聞けるほど……その、大人じゃないんで」
 霜月は「ふむ」と小さく呟き、笑う。
「じゃが、そのお陰でここにこうしておる訳ですな?」
「え?」
 みなもが聞き返すと、霜月は慶悟と自分を指差しながらにやりと笑う。
「考えてもみなされ。一見ホストの真名神殿と、坊主の私が二人で聞き込みなどしていたら、怪しい事限りないではないか」
「あのな」
 慶悟はそう言って煙草をくわえた。みなもは二人が小さな子どもになるべく怖がらせないように必死になる姿を想像し、思わず吹き出す。
「海原まで!」
 慶悟は苦い顔をし、煙を吐き出す。その様子に思わずみなもと霜月は顔を合わせて笑い合う。
「ああ、でも聞き込みはちょっとだけお任せしてもいいですか?あたし、試したいことがあるんで」
 みなもが言うと、霜月と慶悟はこっくりと頷き、それぞれ子どもや親のところに向かった。どうやら霜月が親、慶悟が子どもに聞き込みをするらしい。
(その様子を見てみたい気もしますけど)
 みなもは小さく笑ってから、顔をきり、と引き締めた。ポケットからそっと霊水を取り出す。光を受け、きらきらと光る霊水に視線を落とす。
(ちょっと、裏技みたいですけど)
 みなもはそれを目薬のように目にさし、ぱちぱちと何度か慣らしてから公園をぐるりと一望する。公園でよく目撃されたという久美子。8時になれば姿を現すといわれていたが、もしかすると姿の見えない状態で公園に存在しているのかもしれない。だとすれば、自分が久美子を見ることの出来る状態を作れば、姿を現していない久美子と話すことは可能なのではなかろうか。
(公園で探していたのなら、公園にいるはずですからね)
 人が死しても尚、習慣というものは早々抜けぬ筈だ。特に理由は無い。だからこそ、習慣というのはごく自然にあるものなのだから。
 みなもは周囲に注意を払いながら、公園内をゆっくりと歩く。公園内には、特に外も無さそうな霊が所々に見られた。子どもの発する明るさに惹かれてきたものや、町の中にある数少ない自然に触れようとして来ている者達が。
(久美子ちゃんは……)
 時々霊水をさしながら、みなもは探す。が、久美子らしき少女の霊は見当たらない。
(公園で探してはいないんでしょうか?)
 みなもは小さく不安になる。久美子に会えれば、話をして一緒に探し物を探してあげようと思っていた。物さえ分かれば、公園近くにある交番に届けられていないかも聞ける。が、その肝心の久美子が見つからない。
(いない、という事でしょうか)
 みなもは小さく溜息をつき、ふと茂みの方に目をやる。木々が植えてあり、その下には石と雑草が入り混じっている。柵などはしていない為、容易に入る事が出来る。頻繁に草むしりをしていないのであろう、雑草がよく茂っている。
「もうちょっと成長したら、草刈するつもりなんでしょうね」
 みなもは小さく苦笑し、久美子を探す事を諦めようとした……その時だった。万が一と茂みの中を覗き込むと、そこには少女の霊がうずくまっていた。
「久美子ちゃん……?」
「みなも殿、何か見つけられましたかのぅ?」
 突如後ろから声をかけられ、みなもは一瞬びくりとしてから振り返った。そこには、霜月が立っていた。
「ああ、びっくりしました……」
 ほっと胸をなでおろすみなもに、霜月は苦笑する。
「ここら辺りで、久美子殿がよく石を探していたと聞いたのじゃが」
「ああ、やっぱりそうなんですか」
 みなもは納得する。霜月は「やっぱり?」と呟き尋ね返す。
「さっき、ここにうずかまった女の子の霊が見えたんです」
「どれ?」
 霜月はそっと茂みを覗く。が、そこには少女の霊など見えない。
「私には見えぬのじゃが……みなも殿には今も見えますかな?」
「いえ……さっきは見えたんですけど」
「ふむ。それで、見間違いかもと思ったんですかな?」
「ええ」
 先程までは見えていた霊。だが、それはすぐにいなくなってしまった。見間違いかとも思ったが、霜月の言葉でやはり見間違いではなかったと確信したのだ。
「……今日は、久美子殿の初七日らしいですな」
「え?」
 みなもは思わず聞き返す。
「あそこにおられる親達が仰っていましたから、間違いないと思われますな」
「初七日、ですか」
「そんなにも最近の事だったんですな、久美子殿の事故は」
「そうだったんですね……」
「……おい」
 しみじみと霜月とみなもが話していると、後ろから何故か疲れている慶悟が現れた。
「これは真名神殿。お疲れですな」
「子ども相手はどうでしたか?」
 みなもが聞くと、慶悟は大きな溜息をつく。
「世の中には不思議な遊びが蔓延していることが良く分かった」
 その一言に、思わず霜月とみなもは吹き出す。慶悟はむっとして二人を軽く睨む。
「ここで、よく石を拾っていたと子どもが話していたんだが」
「私も親達にその話を聞きましてな」
「あたしは、ここでさっき久美子ちゃんらしき霊を見ました。……今は、もう見えないんですけど」
 互いの情報を交換し、その中で慶悟が一つ付け加える。
「ここらにある石は、殆ど久美子嬢が取ってしまったため、無いんだそうだ」
「なるほど、それを探しておるというわけですかな」
「となると、やっぱり丸い石というのは普通の石のことなんでしょうか?」
「かもしれないな」
 そう言いながら、慶悟は時計を見る。既に7時になっていた。

●丸い石
 7時半、皆が再び公園に集まった。それに加え、一人増えていた。久美子の父親だ。
「久美子ちゃんのお父さんにも来て貰ったの」
 シュラインが言うと、さやかが微笑む。
「良かった……是非、来て頂きたかったですから」
「久美子かもしれない、と聞いたので」
 父親は苦笑しながら言った。心なしか、寂しそうな笑顔だ。
「情報を交換しましょうか。まず、俺とシュラインさんで横田さんのお宅に行って来て、丸い石は飛石の練習に使われていたのではないかと聞きました」
 故がそう言うと、さやかが「あ」と声を出す。
「私も、久美子ちゃんの担任の方に同じ事を聞きました。丸い石は、飛石をするのに適していると」
「親子三人で、よく川原に行っていたそうです。そこで飛石もしていたそうよ。そうですよね?」
 シュラインが確認するかのように、父親に言う。父親はこっくりと頷いた。
「私、担任の先生に飛石で向こう岸まで行くと、願いが叶うと聞いたんです。そのような話は久美子ちゃんにされた事はありますか?」
 さやかが尋ねると、父親は「うーん」と小さく呟いてから口を開く。
「多分、あると思います。よくは覚えてませんが」
「公園はどうでしたか?」
 故はみなも・霜月・慶悟の方を向く。
「あたしは、そこの木の生えている所……あそこで久美子ちゃんらしき霊を見ました。一瞬ですけど」
 みなもが指差すと、父親は「あ」と呟く。
「あそこは、よく久美子がいた場所です。たまに見かけた事がある程度でしたが」
「話し掛けたりは?」
 シュラインが聞くと、父親は笑う。
「ありますよ。何をしてたのかと聞いても、教えてくれなかったですが」
「私の得た情報も、海原殿と似通ってますな。ただ、付け加える情報は久美子殿の初七日であった事くらいかのう。……目の前で言う事ではなかったですな。失礼を」
 父親に向かい、霜月は頭を下げた。父親は「いえ」とだけ言って小さく笑う。
「俺は、久美子嬢が最近は石が無いと言っていたという事くらいしか付け加えられない。……あとは、不思議な遊びを知ってしまったくらいか」
 慶悟は何かしらを思い出し、遠くを見つめる。
「……もうすぐ、8時ですね」
 みなもが時計を見て、ぼそりと呟いた。皆、しんと静まり返って辺りを窺う。その時だった。みなもが先程指し示していた場所に、ぼんやりと白い影が浮かんできたのだ。
『無い』
 ぼそり、と影が呟いた。
『何処にも無い……』
 それは、少女の霊だった。「あ」と父親が声を上げる。
「間違いないです……久美子!」
 父親は走り出し、霊に駆け寄る。霊は一瞬そちらに目をやると、再び目線を逸らして歩き始める。
「久美子、どうしたんだ?どうしてなんだ?」
『まだ……まだ、駄目だもん』
「何がだ?何が駄目なんだ?」
「……まだ、練習中だから?」
 ぼそり、とシュラインが呟いた。はっとしたように久美子はシュラインを見る。
「願いを叶えようとしているの?」
 さやかがそう言って久美子を見る。久美子はじっとさやかを見つめた。
「石は、もうここには残ってないそうだ。お前が取りつくして」
 慶悟が言うと、久美子は寂しそうに顔を歪める。
「うずくまっていても、石は見つからないですよ」
 みなもが言うと、迷ったように久美子は首を傾げる。
「川の流れで丸く削られていった石、それを探しているのですかな?」
 霜月が言うと、久美子はこっくりと頷いた。
「尤も、大事なのは丸い石じゃ無くそれにまつわる思い出だと思いますけどね」
 溜息をつきながら故が言うと、久美子はびくりと肩を震わせた。
『思い出……そっか。久美子、思い出を……』
 久美子はそう言って小さく頷いた。何故こんなにも石を探していたのか、漸く思い出したかのように。
「……久美子、久美子にどんな願いがあるかは分からないが……父さんが変わりに投げちゃ駄目かな?」
 父親が言うと、久美子は暫く考えてから笑った。そして、首を横に降ったのだ。
『あのね。……お母さんとお父さんと三人で、また一緒に遊びたかったの』
 久美子はそっと話し始める。
『だけどね、久美子……死んでしまったでしょ?だからね、お父さんが寂しくないように願いをかけようと思ってね』
「……久美子」
『だけどね、石が無くてね。川原に行ったら良いのかなって思ったけど、久美子、何故かここから離れられなくてね。だから、せめて丸い石だけでもお父さんにね、渡そうと思ったんだけどね』
 願いを叶える為の布石を。
 願いを叶えるという石飛を成功させる丸い石を。
 願いを叶える為の石飛が一番上手な父親に託す為に。
「久美子……ごめんな」
『どうしてお父さんが謝るの?』
 久美子は不思議そうに首を傾げる。『だって、久美子は丸い石を見つけられてないのに』
「そうか……違ったな」
 ははは、と父親は流れる涙も拭わずに笑う。
「有難う、だ。久美子、有難う」
 父親がそう言うと、久美子はにっこりと笑った。その瞬間、突如女性の姿が現われて久美子を抱き、一瞬のうちに消えてしまう。
「……あれって」
 小さくみなもが呟く。
「お母さん、ですか?」
 さやかがそう言いながら父親の方を振り返った。だが、父親がその質問に答える事は無かった。父親は声を奥底から絞り出しながら、泣いていたのだから。

●結
 一同は父親を家へと送ってから、一度草間興信所に戻ろうと言う事となった。最初、皆しんとしていたが、シュラインがその静寂を破った。
「ねぇ、今度石飛大会でもする?」
「石飛大会、ですか?」
 みなもが不思議そうに聞き返すと、シュラインはにっこりと笑う。
「そう。一番飛んだ人には豪華商品あり、とかで」
「ほほう、一体商品とは何ですかな?」
 霜月が言うと、シュラインは苦笑する。
「それは、武彦さんが考えるのよ」
「メシとかどうだ……?豪華中華三昧」
 慶悟は煙草の煙を吐き出しながら言う。
「ペア旅行券とかがいいですよ。ね?さやかさん」
 すっかり取る気満々の故に、さやかはただ微笑む。
「故さんといられるのなら、何でも……」
 さやかは皆に聞こえないようにぼそりと呟く。故だけはそれが聞こえたようで、にっこりとさやかに微笑みかける。
「では、私は新曲のCDがいいですな。限定ぽすたー付きの」
 うっとりと言う霜月に、皆が「似合わない」と心の中で突込みを入れる。
「草間さん、そういうお金があるんですか?」
 飛躍していく皆の言葉に、みなもはそっとシュラインに尋ねる。シュラインは苦笑して「まさか」と答える。
「ああ、でも禁煙したらそれくらいのお金が出るかもしれないわよ」
 シュラインはそう言って悪戯っぽく笑った。
 石飛で願いは叶うのではなく、どうやら草間に叶えさせることになるのかもしれない。皆それぞれが願いを胸に抱き、興信所へと向かう。
「晴れるといいですね」
 みなもが空を見上げて言った。それにつられて、皆も空を見上げた。晴れた日に石飛をすれば、川の水が光を反射してきっと綺麗な事であろう。
 まるで丸い石が、光を揺らすかように。

<願いは果て無き光を呼びながら・了>

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 0086 / シュライン・エマ / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト 】
【 0389 / 真名神・慶悟 / 男 / 20 / 陰陽師 】
【 0604 / 露樹・故 / 男 / 819 / マジシャン 】
【 0846 / 大矢野・さやか / 女 / 17 / 高校生 】
【 1069 / 護堂・霜月 / 男 / 999 / 真言宗僧侶 】
【 1252 / 海原・みなも / 女 / 13 / 中学生 】

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■         ライター通信          ■
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 お待たせしました、コニチハ。霜月玲守です。この度は「光揺らせば」にご参加いただき有難うございます。久しぶりに分かりにくいオープニングだったと思います。すいません。
 丸い石が何なのかという核心に触れた方がいらっしゃらなかったです。分かりにくかったですか?因みに私は丸い石と言って思い浮かべるのは、石やきいもとかだったりしますけど(笑)
 海原・みなもさん。再びのご参加有難うございます。「最後まで頑張る」という姿勢がとても素敵でした。宝物、何かしらの物語がありそうでドキドキです。
 今回も個別の文章となっております。宜しければ他の方の文章と比べていただけると嬉しいです。
 ご意見・ご感想等、心よりお待ちしております。それでは、またお会いできるその時迄。