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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


変神幻想 〜褌キングダム〜

●オープニング
 ふと、後悔する一瞬がある。
 しかも、とめどめもなく、そして目の前が真っ暗になるような。
 今の草間の状態がそれであった。
「‥‥本気なのか?」
「本気です」
 尋ねると、その依頼人である村長は厳粛な面持ちで頷いた。
「さて、帰るか」
「おっ、お待ち下さい! 契約を破棄するのですか!?」
「‥‥うっ」
 それを言われて渋々と足を止めるが、先程見た光景を思い出して、やぱっりバス停へと足を向ける。
「この依頼に適しているエージェントを派遣するから、それまで待っていろっ!」
 携帯電話を取り出して、歩きながら四方八方に声をかける、草間。
「――いいか。この村に出てくる妖(あやかし)を退治するだけでいいんだからな。楽な仕事だろ? 詳細はここの村長に尋ねるといい」
 それ以上、何も言わずに携帯の電源を切る。
 依頼があったので、その村まで訪れて現れた村長は褌一つの姿だったとか、村おこしの一環でこの村に入るのは褌だけにならなければならないとか、この村――褌村。古来より褌が正式装束だと言う――に現れる妖が村人の褌を奪い取って、イケナイ行為をして迷惑しているとか。
 そういうのは忘れる事にした。
 まぁ、女性に対して褌は強要していないし、女性に対して妖は興味持ってないみたいだし、いいか。などと思いはしたが。
 とりあえず。快く引き受けてくれた面々が、青空の向こうに笑顔を見せているのが見えた。
「終わったら、線香の一つでもあげてやるかな」
 唇に挟んだ煙草の煙が、その青空に消えていった。

●褌村の六人
 珍しく、褌村のバス停に人が降り立った。男二人に女四人。
 誰もが面白そうに辺りを見回しているのは気のせいだろうか、いや、気のせいではないだろう。
「別に野郎が褌取られよーと、男の裸一つで大騒ぎする歳でもないしねっ!」
 と、言ったものはいいものの、自分でちょっと悲しくなってしまう、冴木紫。恥らう自分もいるのに。いや、見たくないね。と、自己完結。
「へー、こんな村にどんなネタがあるのかな?」
 きょろきょろと興味深げに村上涼は周囲を見渡すが、ただの穏やかな農村だ。
「いやもーおっさんナイス! いい仕事見つけてくるわねー。いや、もう、こんなんなら自腹切ってでも見物しに行くわよ。絶対!」
 と、爆笑しながら草間の肩を叩いて来たのだが、ちょっと不安になる。
「もう村の名前だけで素晴らしくネタね、ネタよね。ネタでしかないわよね」
 まぁ、『褌村』と単純で明朗快活な名前なのだから。
「ってわけだから村上涼いっきまーす!」と、勢いよく出てきたのだ。後には引けない。
 一体、この村でどんな面白い事が待ち構えているのか。ただ、それだけの思いがあった。まぁ、女性陣は平和で安心できるし。
 そこへ、村長が彼らを迎えにやって来た。
「う゛ーっ!」
 暑くて喉が渇いていたので、迎えが来る間にペットボトルの茶を飲んでいた、藤井葛。その飲みかけていた茶を、思わず噴出してしまった。何故ならば、その迎えに来た村長の姿が、褌ひとつ、という姿だったからだ。
「ちょっ‥‥なんだよ、その姿は!」
 村長の説明によると、この格好は先祖代々伝わる、正式な装束。この村の中では、男は褌姿でなければならない。
「褌ですか、それがこの場所のシキタリなら着替えますが」
 その言葉を聞いて、海原みそのは、いそいそと服を脱ごうとした。普通の黒のチアガールの衣装。勿論、『ぼんぼん』つき。
 バスの中で誰かが、どうしてそんな格好をしているのか、と尋ねれば、「“てれび”で見ましたから」、だそうだ。
「いや、男だけだってば」
 折角の衣装が無駄になりましたね、といいつつ服を脱ごうとする、みそのを、紫は慌てておさえる。
「別に構わんのにー」
 と、残念そうに見つめる村長を、葛は、きっ、と強く睨んだ。
「そういえば、草間様から“けいたい”でお話を受けまして来ましたが‥‥詳しい話はまだお聞きしていませんでしたね」
 話を聞いたのは、正確には、妹のみなもに、だったが。彼女は忙しいのでその代役として来た。
「そもそも、褌とはどのようなものなのです?」
「うむ、この通りだ」
「そのまんまじゃん」
 みそのが尋ねると、村長が自慢げに己の股間を強調し、涼があっさりと言い放った。
「へぇー、可笑しな依頼だって言うから、一体何かと思えばこれが『褌』か。俺様の衣装と同じじゃん♪」
 まじまじと村長の褌を見つめながら、気楽そうに言ったのは、鬼頭郡司。
 一見、十五歳程の少年にしか見えないが、その本性は雷鬼。今はその力を封印されている。
 その雷鬼である為、虎皮の褌一丁というのが本性の姿。よって、褌に抵抗はない。
 というか、早速褌姿になってるし。
「コレいいだろ? コレはなぁ八百五十六年前に、俺様がそれは大きな虎と戦った際の戦利品だぜ!」
 自慢げにその褌を見せびらかす、郡司。
「あれは嵐の日だった。俺と虎は互いに眼光鋭く睨み合い、牽制しつつ、じりじりと間合いを詰め‥‥」
 ただ独りで語っているが、誰も聞いてはいなかった。
「あれ、涼。カメラ持って来たんだな」
 灰色の髪の青年が、涼が手にしていたカメラに気づく。
 赤い瞳。
 それでも、れっきとした日本人だ。白い肌が、端正な顔を更に際立たせている。
「やっぱカメラは持参でしょ、カメラは!」
 当然、というように答える、涼。
「妖の正体とか、まあ、そんなのを調査する為よ。調査できたらの話だけど‥‥あーオナカ痛い」
「‥‥なぁ。どうしてそんなにおかしいんだ?」
 いつまでも笑っている涼を見て、葛は疑問を投げかけた。
「あれ? おっさんから聞いてなかったの?」
 ごにょごにょっと、涼は葛に耳打ちする。そして、聞き終わると顔色を蒼くして、何故か遠くを見る、葛。
「‥‥この依頼は村に出てくる妖を退治すればいいんだよな? とりあえず他は忘れよう」
 特にイケナイ行為とかイケナイ行為とかイケナイ行為とか。
 先程聞いた言葉が頭の中で目まぐるしく回転してしまう。一体、その行為とはどんな事なのだろう。やはり、あんな事やこんな事なのだろうか。
 ちらり、と、男性陣に視線をやる。とりあえず、心の中で手を合わせる葛であった。

●囮
「つまり、男は被害に合うけど、女は犠牲になる男どもを傍観決め込みつつ、ゆっくりのんびり調査できるってことでしょ。楽勝楽勝」
 それに妖は女には興味持っていないし。
「それなら堂々と近づけてオールオッケーじゃないの」
 紫は煙草の煙を唇から吐き出すと、気楽そうに言った。
「そうよねー。私、乙女だし。危険はなさそうだし。こりゃ、もう後学のためにも、濃い世界見物して、後々被害者指さして笑いものよね絶対」
「‥‥乙女なの?」
 同意した涼の言葉に何か含むものを感じたのか、紫がジト目で見つめる。実際には涼の方が一つ上なのだが、持った雰囲気からか、紫の方が年上のように見える。
 まぁ、学生と社会人なので、一応落ち着いた雰囲気を身に纏っているかどうかだろう。一応。――多分。
「‥‥今、男性陣を囮にして、妖とやらをおびき出す方法を考えたんだが‥‥やっぱりダメだよなー」
 心の傷は癒せないものだし。そう葛が悩んで呟いた言葉に、彬はびくっとした。
「男性陣って、俺と郡司しかいないんだが‥‥」
「まぁ、草間のおっさん、逃げたからね」
 涼の言葉の通り、この場に草間はいない。結果的に囮候補は即座に浮かび上がるわけで。
「もしかして‥‥俺らがやらなきゃいけないのか?」
 紫がニヤリ、と、笑う。
「とーぜん」
「‥‥幸運を祈ってるからな」
 ちょっと渋っていた葛も、後押しする。
 まぁ、故郷では褌が半分流通しているようなところだし、彬自身も子供の頃や、村の祭事の際には着用したいた事から、褌を身に着ける事に抵抗はないのだが。――褌一丁で駆け回れるかどうかは、別である。更に何かイケナイ事をされるのであれば、尚更だ。
「まぁ‥‥褌姿になるぐらいなら別にいいが」
 天然だった。
 ただ、囮となって妖を引き付けてもらうだけで、この面子が満足するはずがない。
 紫と涼の瞳が、キュピンッ、と、光った。
「‥‥頑張れよ」
 彼の身に起きるであろう災いを予想して、葛は涙流しながら、肩を叩いてやった。
「――って、おい! てめぇら俺の話を聞けコラッ! ちくしょー!」
 今頃になって、誰も話を聞いていない事に気づいたか、郡司が暴れだし始めた。
 その様子を見て、またしても、紫と涼の瞳が、キュピンッ、と、光る。
「やっぱ、囮は二人いた方がいいわよね」
「そうね。確実だし」
 クックックッと、邪悪そうな笑いをする、二人。
 かくかくしかじか、と、郡司に囮を頼む。
「‥‥で? そのチンケな妖をブッ倒しゃいいんだな? 任しとけって! 郡司の名にかけて俺様が奈落の底に沈めてやっからよ!」
 ちなみに、彼の本名は郡司ではない。郡司と言うのは、彼を育ててくれた緑仙の役職名。人間界で、彼はこの名を名乗っているのだ。
 これで、準備は完了。後は見物――もとい、退治をするだけである。
「なぜこの村ではそのようなシキタリが発生して定着したのでしょうか?」
「‥‥実はな、褌は聖なる衣として、古に土地神様から授かったものなのだ‥‥」
 傍では、みそのが村長に色々と聞いていたようだ。
 みそのは、こくんと頷くと更に質問をする。
「その、褌様は、何をなされているのです?」
「う‥‥それを聞くか」
 ちょーっと、婦女子に聞かせれるような内容ではないので、たじろいでしまう、村長。
 まぁ、言葉を濁す。
 夜間、外出している褌姿の村民(男限定)が、突然闇から何かに襲われ、褌を奪われてしまう。そして、ある意味肉体的ダメージや精神的ダメージを与えてる、という事を教える。
「あまり詳しくないようですが‥‥。あと、一度、土地神様にご挨拶をしたいのですが、社の場所を教えて頂けないでしょうか?」
「ふむふむ。感心な娘さんだな。よかろう、ついて来るがいい」
 村長に導かれ、みそのは社へと向かって行った。
「何か濃い会話がされてたような気がするのだが‥‥」
 二人の後姿を見送りながら、葛は茫然といて呟いた。どうやら一部始終聞いていたらしい。
「褌様‥‥って、そんなもの、いたのか」
 呆れているのか驚いているのか。同じように呟いた、彬。

●生贄
 夏の夜に虫の音が騒がしく、それでいて心地よく響き渡る。今年は冷夏だと言っても、やはり蚊は出るので、防虫スプレーはかかせない。
「さーって、頑張って逝くとしますかっ!」
 張り切っている、涼。男性陣にとっては、誤字に非ず。
「なぁ‥‥もしもの時は、助けてくれるんだよな?」
 己の武器の改造モデルガンを持った彬が、不安そうに皆の顔を見渡す。
「えーとまあ‥‥流石に知り合いがどうこうされるのは、気の毒だからね。一応金属バットを持ってきてるわよ」
 心強そうに、そのバットを軽く叩く。最近の専用武器だ。妖に効くかどうかは知らないが、何とかなるだろう。
「俺も‥‥何も持ってかないのもアレなんで、これを持って来たぞ」
 葛が持つのは、木刀と護符。こちらも念の為に持って来た、というものだった。
 夜の田舎道は暗く、民家の灯りがぽつぽつと遠くに見える。ただでさえ人が少ない村なのに、最近の事件で夜中出歩く者はいない。もしかすると、今、外にいるのはここにいる六人だけかもしれぬ。村長は彼らをあっさりと置いて帰ったし。
「さて、どんな妖が出るか楽しみだなっ!」
 今夜、自身に降りかかる恐怖を知ってか知らずか。余裕釈然という態度の、郡司。もう一人の生贄――もとい、犠牲者予定は、己の運命に対して少し不満を言っているというのに。
「何で俺が‥‥ぶつぶつ‥‥こんな事を‥‥ぶつぶつ」
「あの‥‥少し、言っても構わないでしょうか?」
 まだ文句を言っている彬に、みそのがおとなしい声をかけた。
「あぁ、いいけど?」
「褌にモデルガンを挟まれると、緩んでしまわれますよ」
「っ!?」
 慌てて己の褌が緩んで、あられのない格好になっていないかを確認してしまう、彬。そういえば、そうだ。褌は身体に密着させてつけるものなので、余分なものを挟んで隙間を作ってしまえば、ほどけてしまう可能性が高い。
「駄目よ、教えちゃ。あとでその姿を見て笑ってあげようとしたのに」
 残念そうな紫の言葉に、「申し訳ありません」と、素直に謝る、みその。
「‥‥知ってて黙ってたのか?」
「とーぜん」
 今度は涼が答えた。二人の悪女を前に、うな垂れてしまう。
 その様子を見て、ともかく自分だけは真面目にしていよう、と決心した葛であった。
「なーなー、そういえば、妖ってどんな事をするんだ?」
 無邪気に尋ねる郡司の言葉に、顔を見合わせる一同。
「‥‥あなた、知らなかったの?」
 呆れ果てる、紫。はぁっ、と、溜息をつくと、郡司を指差す。
「今、丁度やられてるところよ」
「へ?」
 そう言えば、下半身の感覚がいつもと違うような気がする。何だか何かが解けかけているような。
「はぁぁぁぁ? 妖って褌取んかよ!?」
 慌てて取れそうな褌を押さえつける、郡司。その褌の端っこを掴んでいるのは‥‥触手が沢山ある、犬みたいなものであった。
 これが、件の妖であろう。
「うわっ、気持ちわるー!」
 気味が悪い外見に恐れて、涼は後ろに退いた。
「冗談じゃねぇぞっ! コレは俺様の大切なモンなんだぞっ!」
 尻に力をこめ、ケツの谷間に残った褌の布地を食い込ませる、郡司。所謂、尻筋であろうか。頑なに護られた双璧によって、完全に奪われるのを何とか防いでいる。
「俺の引き締まったケツなめんなよ!」
「‥‥ぷ。‥‥駄目もうオナカ痛いー!!」
 またしても笑い出す、涼。郡司の言葉は、妖の外見の気持ち悪さを超えたようだ。
「郡司‥‥褌を取られるだけではすまなそうだぞ‥‥」
 彬の言葉に、危険を感じる、郡司。はっ、と、妖の方を見やると‥‥。
「へ? 何? 変な目でケツ見んな〜!」
 妖の視線はとても厭らしく、その向かう先は郡司の尻。触手がわなわなと震えてこちらに向かっているのは気のせいだろうか?
「何かあったら、まだ見つけてねぇ息子に顔向け出来ねぇ」
 涙流しながら、必死に抵抗する。何を? って、それを聞くというのは酷であろう。
 ただ、触手が入るところを目指してるだけなのだから。
「うわぁぁぁっ! やっ、やめろぉぉぉぉっ!」
 触手は妖の背中から、数えるのが嫌になるぐらいある。郡司に延ばしても、まだ余裕はある。つまり、更なる生贄を求めてる、という事で。
「彬、頑張って‥‥共に生き残ろうぜ!」
「いやだぁぁぁっ! 俺はまだ逝きたくないーっ! 新しい世界なんか開きたくないんだぁぁっ!」
 男どもの悲鳴は絶え間なく続く。もし、この悲鳴が別のものに変われば、それは敗北。
「まあ、事件には盛り上がりとか山場とかが必要だから。頑張って☆」
 紫の惨い励ましの言葉は、彼ら、生贄の耳に届いたのだろうか?

●褌様
 そうやって、犠牲者が必死の抵抗をしている間に、紫は妖にこっそりと近づく。
「さて、さっくりと――どーしようかしら?」
 よく考えれば、自分は攻撃したりするのが苦手だ。
 どうしようか?
 他に仲間がいるんだから、誰かに任せよう。
 その思考速度は一瞬で終わり、見物に戻る事に決めた。
「と、とにかく、最悪誰かにこーさっくりと、妖をこー倒してもらえたらなー、なんて思うわけよ!」
 罰が悪そうに、それでもやはり人任せで。
 そうやって突然声を上げた紫に妖は驚いてしまう。
 その一瞬の隙を狙って、背後から忍び寄った葛の木刀が、いとも簡単に妖の頭にクリーンヒットしてしまった。
「‥‥あれ? 終わったのか?」
 涙声で、悪夢が終わった事を尋ねる、郡司。もう一人の犠牲者である彬はというと――ガタガタブルブルと震えて泣いていた。余程怖かったのだろう。
「まぁ、これで何よりだ」
 ほっ、と、安心の溜息をついて、葛は気を失っている妖を見下ろした。
 背中に触手さえなければ、ただの一回り大きい犬であろう。だが、どうしてこの妖は褌を奪ったりしていたのだろうか?
 疑問は絶えようとしない。
 その妖にそっと近づく者が、一人。
 みその。
 優しく妖を抱き起こすと、怪我はないかと調べている。
「おっ、おぃっ。危険だぞっ」
 心配する葛の言葉に頭を振り、妖の意識が戻った事を確認する。
「褌様‥‥どうしてこのような事を?」
「‥‥話してるわね」
「見事に会話が成立してるみたい」
「意思疎通ができる存在だったのか、あれは」
 紫、涼、葛の三人が、その様子を見て、声を潜めあった。
「‥‥なるほど、そう言うことでしたか」
 ふむふむと頷く、みその。
 彼女が丁寧に皆に説明した内容は――何ともいえないものであった。
 妖は江戸時代に遡る頃、一人の侍に飼われていた犬であったらしい。侍の褌で遊ぶ事が好きで、いつもはいたままの褌を奪う事が日課であったそうだ。
 そうやって、侍と共に旅している間、妖怪に襲われ、気づけば同化していた。背に触手を生やした姿となって。
 飼い主の侍は驚きはしたが、それでも愛しい愛犬ゆえに、決して手放す事はなかった。
 そこまでは一応美談の部類に入るであろう。
 だが、侍は尋常な趣味の持ち主でなかったらしく、夜な夜な、飼い犬の触手でイケナイ遊びごとに励んでいたようだ。
 犬はそれで飼い主が喜ぶのなら、と、懸命に頑張った。
 その飼い主が亡くなった後も、犬は生き残った。その後、どうしたかというと‥‥予想する事は難しくなかった。
「それで、現在に至る、という訳だそうです」
 締めくくった、みそのの言葉に疲れ果てたような顔を見合わせる一同。
「まぁ‥‥とりあえず、これ、どーすんだよ?」
 郡司の言う事も最もだ。経緯がどうであれ、村人に被害を与えてた妖を取り押さえた。この始末をどうするべきか。
「可哀想な気がするが‥‥」
 でも、葛は首を横に振る。妖は妖だ。また誰かに被害を与えるかも知れない。
「始末するしかないわね」
 紫の言葉に、ビクッと震えて妖は、みそのの身体の後ろに身を隠した。
「他に方法はないの?」と、涼。
 こんな面白いもの、もとい、可哀想なものを殺すなんて酷いような気がする。
「いっその事、この村で飼ってもらう、と、いうのはどうだ?」
 彬の言葉を聞いて、皆は頷いた。こんな変な村だ。変なイキモノが増えたところで、どうといった事はないだろう。
 村長宅に言って、事の顛末を報告し、妖を押し付けていったのは、語るまでもないだろう。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0381 / 村上・涼 / 女 / 22 / 学生】
【1021 / 冴木・紫 / 女 / 21 / フリーライター】
【1312 / 藤井・葛 / 女 / 22 / 学生】
【1388 / 海原・みその / 女 / 13 / 深淵の巫女】
【1712 / 陵・彬 / 男 / 19 / 大学生】
【1838 / 鬼頭・郡司 / 男 / 15 / 高校生】

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■         ライター通信          ■
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 月海です。
 納品が遅れまして、申し訳ありませんでした。
 今回の依頼は如何でしたでしょうか?
 皆様のキャラクターがきちんと立っていらっしゃって、キャラクター同士の会話を楽しく書かせて頂きました。
 あの妖の正体は犬‥‥褌村の犬だから、褌犬‥‥?(遠い目)
 それでは、またご縁がありましたら、よろしくお願い致します。