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<東京怪談・PCゲームノベル>


あやかし荘奇譚 夏に降る雪

■あやかし荘では
TVでもいきなりの積雪に特別報道を報じる。何せ、季節は夏。すでに、積雪量は5cmを超え、冬本番並みの寒さとなった。人工衛星の映像では、日本のほとんどが冬の気圧配置となっており…当然、どこからわいてきたのか【その手に詳しい】と自称する専門家を招いて「あーだ、こーだ」と語っている。
「気になるのだが、こいつらどこからわいてくるんぢゃ?」
嬉璃がTVを視て呟く。
管理人室はすっかり冬模様。ストーブにコタツ、温かいお茶、ショウガ湯、ポンチョに褞袍…。ストーブの上にはやかんが蒸気を噴き出している。
「あの時のサンタさんでしょうか?」
窓を眺めながら、恵美はかすかに聞こえる、シャンシャンという音を気にしていた。
「かものう…しかし一寸違うきがする…」
と、嬉璃が答える。
「それにしても…季節の移り変わりは早いものですわね…」
と、雪が降る前から嬉璃と遊ぶ為に来ていた、榊船亜真知がニコニコしながら言った。
「これで、色々遊べるというものぢゃな」
亜真知の言葉にショウガ湯を飲みながらニタリと笑う嬉璃。
「寒くなると『お鍋』が恋しくなりますわ♪」
またもにっこり答えてお鍋の準備をせがんでいた。

鈴白ゆゆが、毛布にくるまってあやかし荘を駆け回っている。
「さむいよー」
遊びに来たのは良いが…いきなりの冬到来なので、鈴蘭にはキツいのだ。
急な環境変化は自然生物に大ダメージを及ぼす。
駆け回っている理由は簡単、「遅れすぎてやってくる」サンタを捜していたのだ。
幸い自宅の家族も暖房を急いで取り出して、彼女の【本体】に大きな被害はないのだが…鈴蘭の精の状態では…寒い事この上ない。
いきなり玄関の扉が開いて外から突風が…。
「きゃぁ」
風にあおられ…ゆゆは尻餅をついた。
「いったい〜」
「すまない…急いで来たものだから…」
積雪で雪男状態の田中祐介が寒そうにやってきたのだ。
エルハンドに天空剣特別訓練の申し込みをするため来たモノの、突然の吹雪…。当然夏服である。
唇がもう紫色になり、ガタガタと体を震わせている。
「あらら〜大変だったね…」
「まさか都会で遭難しそうだったよ…」
ゆゆは彼の積雪をはらってあげて、管理人室に案内した。

一方、時音家族は…
「本名が良いのだけど」
とのんびりまったり…歌姫と赤子の名前をどうするか相談していたのだ。
赤子の本名が分かればそれに越したことはないのだが…。エルヴァーンから何も聞いていない。
いつの間にか金色の猫が居座っており、赤子に遊ばれている。
窓を見ると、雪が降っているので…。
「綺麗だな〜。雪にちなんだ名前も良いよね…。夏に降る雪…か…って?あれ?」
雪に混じって「ボンドに決まりだよ!時音君☆」「クラリスが良い♪」と例の皆様のお節介チラシが舞っていた…。
「またですか!いい加減に…っ!」
窓を開けると…その方々はいない。いきなりの突風で顔が真っ白に化粧される…。
赤子はそれを見て笑い出す。
「只、ついでだったのね…。あの人達、時と場所を全く考えないから…」
時音はため息をついて扉を閉めた。

犬の首輪に似たバンドを着けている雨柳・凪砂はネタ探しを兼ねて、コンビニに買い物をしていた。
アイスや弁当などを選んでかう。
「今年は冷夏だから、お米って大丈夫なのかな?」
とか呟きながらの買い物。
そんなときに…店員達がざわめき始めて、外をみる。
「真夏に雪?」
窓から見える雪は小降りだが、徐々に強くなっていく。
「この先…あの建物のしかないよな?あそこの住人が何かしでかしたのか?」
「あの建物って何です?」
「あ、あやかし荘っていう古いながらもバカでかいぼろアパートですよ」
「へぇ〜」
店員は雪が降り始めた方角を指す。
(ネタ発見!)
と、凪砂は考えアイスを追加して買い物を済まし
「ありがとうございます〜気を付けてくださいね」
と店員に見送られ、あやかし荘に走っていった。
そして、丁度玄関先で空を見ているエルハンドに出会い、何事もなく迎え入れられる。
「取材?一度TV取材もあったから大丈夫さ。アトラス経由ならおそらく…な…」


■緊急会議?
管理人室では、いつの間にか亜真知は恵美と鍋の準備をしており、他は今後の対策を練っていた。
元気そうにしている凪砂と亜真知を除く、ゆゆや祐介、は温かいお茶をいただく。
「寒いならこれをどうですか?」
と、祐介がトランクに入れている…冬物メイド服をゆゆと恵美、嬉璃に見せた。
「お前は萌え者か〜!」
嬉璃の突っ込みの怒号。
―問題なのは自分の冬物はなく、何故メイド服なのですけどね…。
「楽しそうですわねぇ」
と、亜真知はメイド服に興味を持ったようだ。
「私は恵美さんから借ります」
ゆゆは遠慮した。流石に幾ら寒いといえどもメイド服で歩きたくはない。
「歌姫に…着せた方が良いのかな…寒がっていたし…」
と時音。
「そこで何を考えている?時音?」
「エル先生…いえその」
―萌え者に詳しい人、約二名います…というか関わりやすい運命のようですから…。
「小説のネタとしてよろしいでしょうか?」
と凪砂が責任者の嬉璃と恵美に打ち合わせをしている。
食事をしているときは、会議と言うより雑談になるものだ。

しばらくはのんびりとTVを観て、ラジオを聴いてみて状況を把握していく。
一応、吹雪は収まったが、完全に交通機関は麻痺し、外国でも取り上げられるほど、大きな話題になっていた。
凪砂はフェンリルの「影」と融合しているため寒さには耐性を持つし、正当神格保持者のエルハンドと亜真知、時音には気候の変動を気にすることはない。
亜真知は気に入ったのかメイド服に着替えて遊んでいた。
「兎に角…サンタの雪車が上空に飛んでいるように考えるのが自然と思います」
エルハンドから黒マントを借りている祐介が言った。メイド服ももっているとまるでどこかの変態に見える気もしないわけでもない。
「今も鳴り続いてますからね」
と時音。
「サンタさん前にも来たけど…その時は雪じゃなく暖炉だったよ?」
ゆゆが別意見。
「では別の遅れてくるサンタかな?やっぱ外を調べないとわからないや…」
時音が頭をかく。
凪砂には、話を聞いているだけでもネタの宝庫だと思い、嬉々としてメモをとっていった。
ふと恵美が窓の外をみると…かわうそ?が雪だるまを作って遊んでいた。

亜真知とエルハンドだけは意識分体を飛ばして詳しい天候変化の規模を調べている。TVの天気図とほぼ同じのようだ。しかし停滞している。
音がする方向を中心にどんどん規模が大きくなっているようだ。
「あの音は…やっぱりサンタさんですよね?」
「たしかに。…しかし…人間型生物反応がない…トナカイらしい生物反応が2つ…」
「精霊体のトナカイ…本当ですわ…」
「意識体を目印に時音に回収を願うか」
「ええそうしましょう」
意識体の2人は、シャンシャンと音がする方向へ進んでいった。


■そこにあるもの
外に出て、調べようにもこの寒さだと誰も外には行きたくない。
しかし雪車が見つかったので、回収するため庭に出る。
時音が、神2人の意識体とリンクして時空跳躍するのだ。
「では行ってきます」
「行ってらっしゃい。そのころには鍋ができてますわ♪」
「鍋食べながら事件の真相を調べる…。凄いところですね」
時音の言葉に返事した亜真知。それに感心している凪砂だった。
周りのモノは苦笑するしかない。
跳躍した時音がみたものは…トナカイだけが走っているサンタの居ない雪車だった。
「どうしてだろう?」
神格で飛行能力を得て、近づく。
雪車の後ろには、謎の機械がモーター音を出して動いている。異国の文字らしく読めない。
仕方ないのでトナカイを御してそのまま跳躍で戻ってきた。

「なんなのでしょう?」
凪砂が奇妙な機械を調べている。
ゆゆは恵美から借りた冬物の服を着込んでトナカイと仲良く遊んでいるようだ。
「解読しますね」
凪砂が小さな辞書を片手にもって、機械に書かれている文字を解読していく。
時音や亜真知、祐介は、持つ主を捜す方法を話し合っている。
サンタのいない雪車、謎の機械。
雪車の材質も特殊な木材だし、トナカイも精霊種。
「サンタさんが居ないのはおかしいですわね?」
と亜真知が小首傾げに言った。
「事故で落ちてしまったとか?」
「あり得るな…」
「空も渋滞してますからね…」
「此処で話し合っても寒いだけだ、中で鍋をつつこう…」
「わかりましたぁ☆」
鍋をつつきながら、サンタを捜す計画を練っている。
何処で落ちたのか、何が原因なのか、機械を持っている目的はなにかも考えた。
凪砂が解読したモノを説明する。
「雪製造器らしいですよ。しかし、小さいので天候を此処まで悪化させることができるのか疑わしいです」
「アーティファクトなら考えられんでもない…」
エルハンドは程よく温まった豆腐をお椀に入れて答えた。
「神々が作った魔法物品。神器や魔器とも言う」
「目的は何かですね…エルハンド師匠」
祐介がエビの皮を剥きながら言う。
「其れはたぶん北から南半球に向けてあの装置を送ろうとしたのではないでしょうか?」
と剣客の代わりに凪砂が答えた。
「一番手っ取り早いのは…『遅れてやってくるサンタ』と言う方と、連絡が取れればいいのですよね」
と、話を続けた。


■サンタ来訪と捜索
食堂にいつの間にか暖炉があった。
「あ、あのサンタさんだ!」
ゆゆが喜んで駆け寄っていく。
「久しぶりじゃな、ゆゆちゃん」
「うん!」
「お久しぶりです」
見知った顔の時音は挨拶をした。
恵美と嬉璃も後からついてきて挨拶する。
「ここに天候管理サンタの雪車があることがわかっての、急いできたのじゃ」
それぞれが自己紹介すると、鍋をまたつついての会議に。
彼は鶏肉をほおばりながら、事のあらましを告げる。
皆が予想したように、空の事故でサンタが落下、機械の暴走、そのために…
「…いまでは緊急でFantasy Santa Claus Associationも全員出動で走り回っているってわけじゃ」
とかなりのんびりと説明する。
「あの…ゆっくりしてても良いのでしょうか?」
恵美が訊ねるが、
「サンタの方は…もう見つかったんじゃかなり重傷で。…問題は…あの装置が未だに暴走している事じゃよ」
外に置いている装置のことを言った。
「コレといって目立ったことはないですよ?」
祐介が首を傾げている。
窓から見えるように装置を置いている。いまではかわうそ?が、じーっと其れを見つめているだけ。
「それでも暴走しているようだな…。TVを観てみないか?」
エルハンドがTVのスイッチを入れる。亜真知があやかし荘周辺と東京都、日本の地図を広げた。
確かに、東京中心に寒波が広がっている。今では沖縄にも雪が降っているそうだ。
其れをどんどん縮図で寒波の発生源を地図で調べていくと…あやかし荘になった。
「これだと厄介な機関との接触も考え得る事になる…急いで装置を修理か破壊しないと」
エルハンドが答えた。
「サンタさん…あの装置を直す方法はありませんか?」
時音が訊ねるとサンタは…
「たぶん暴走している時点で破壊するしかないのう。神器と同じようなものじゃて…」
ため息をついて答えた。
しかし亜真知はニコニコしている。
「大丈夫ですサンタさん。わたくしが何とかいたします☆」
「できるの?」
エルハンドを除く皆が信じられないように言った。

時空神のエルハンド、その弟子で退魔神の時音、理力変換を得意とする亜真知が居れば、修理も簡単なのだ。それが人間では出来ない事をやってのけるのが「超越者」なのだから。
エルハンドが「封の技」で動力装置の力を封じ込めたあと、時音が装置を手際よくパネルをはずし、メインボードや部品を引き出す、最後に亜真知が理力変換で暴走源となっている故障部品を修理したのだ。
あとは、組み立て直して完成。
封印を解いたあと…装置は静かに動き出した。
其れを一部始終見ていた人たちは感嘆した。驚いたのは凪砂とサンタだろう。
凪砂も手伝いたかったが、神殺しという力を持っているために皆に怖がられてはと控えていたのだ。
サンタもまさか修理出来るとは思いも寄らなかった。
瞬く間に雪雲は消えて…夏の日差しがまぶしく輝きを取り戻した。


■我慢大会
ゆゆは、凪砂と和服に着替えた亜真知、サンタと一緒に残っている雪で小さな雪だるまと雪ウサギを作っていた。サンタは天候の完全回復を待つまで居るそうだ。
時音は家族とともに雪解けの景色を楽しんでいる。
祐介は、女の子全員にメイド服を着せることが出来ない事で悔やんでいた。
一方、恵美と嬉璃は管理人室に戻って…
「出したモノを片づけなきゃならぬのか…」
と、嬉璃がため息をつく。
しかし…何かを閃いたようだ。
「おい、鍋の具も残っている。皆で我慢大会ぢゃ!」
と縁側に躍り出て皆に伝えた。
「其れ良いアイデアです!」
凪砂と祐介は賛同する。
鍋やコタツがある、冬物メイド服がある。そしてそろそろ真夏日の気温になる。鍋の最終メニュー…雑炊をつくり、暑い中、汗を流して食すのも一興だろう。
体力のある者と、強制参加決定のかわいそうな「あの人」を交えて…管理人室で阿鼻叫喚の熱気最高我慢大会が催された。

我慢大会に参加しないゆゆと亜真知は、サンタと一緒にできた雪だるま達を冷凍庫に置いて、
「本当の冬が来るまで、残っていればいいね」
と、数ヶ月先の季節に思いをはせた。


End


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0428 / 鈴代・ゆゆ / 女 / 10 /鈴蘭の精】
【1098 / 田中・祐介 / 男 / 18 / 高校生兼何でも屋】
【1219 / 風野・時音 / 男 / 17 / 時空跳躍者】
【1593 / 榊船・亜真知 / 女 / 999 / 超高位次元生命体:アマチ…神さま!?】
【1847 / 雨柳・凪砂 / 女 / 24 / 好事家 】

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■         ライター通信          ■
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滝照直樹です。
『夏に降る雪』に参加してくださりありがとうございます。
冷夏と言われていた今年、その反動が今になってきているという異常気象。
今は残暑に耐えて、本当の秋が待ち遠しいです。

雨柳様初参加ありがとうございます。

また機会が有れば宜しくお願いします。

滝照直樹拝