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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


かえりみち

*****オープニング*****

彷徨える少女  投稿者:HAL

○○区の住宅地に出る、赤いランドセルを背負った女の子の幽霊、
御存知ですか?
毎日午後5時前頃に、出るんですよー!
本当。
HALも一度だけ見た事があるんですよ!
赤いランドセルに、黄色い帽子、運動靴。
細い人気の少ない道を、歩いてるんです。
でも、必ずある家の手前で消えてしまうそうですよ。
その家って言うのが、今はもう誰も住んでいない廃屋。
小汚い処なんですよね。
何でその家の前で消えてしまうのか分からないんですねー。
その廃屋に関係のある子供なのか、その廃屋近くで亡くなった子
なのか、興味津々!
でも、ずーっと彷徨ってるのは可哀想だから、どうにかしてあげ
たいんですよね。
と言う訳で、誰か、あの女の子を成仏させてあげてください!
出来たら、HALも一緒に行きたいです。
見物するだけなんですが……。
良かったら、メール下さいね。


**********

「うわー、凄いね」
鬱蒼と目の前に茂る草を見て、蒼月支倉は思わず口を開いた。
「この草を分け入るのかと思うとちょっとゾッとするわね」
応えるのは光月羽澄。
「分け入っても分け入っても青い山って句がありますよね……」
HALの言葉に苦笑しつつ、支倉が率先して肩の高さほどもある草を掻き分けた。
「一応、不法侵入になるんだよね、これって」
と、なるべく草を倒さないように入って行く。
「イヤねぇ。きっと何だか分からないような虫が沢山いるわよ、ここ」
溜息を付いて羽澄がその後に続く。
せわしなく蝉が鳴く午後、3人の男女が半ば犯罪を犯そうとしている。と言っても、彷徨える少女の霊を救う為であって、悪戯目的では決してない。幸いにもこの廃屋の両隣に家はなく、細い道に人影も見当たらないから3人が見付かってしまう心配もないだろう。
「そう言えば、他の人達はどうするんだっけ?」
草を分けるたびに慌てふためいたように飛び交う小さな名も知らぬ虫が口に入らないよう気を付けながら支倉が2人を振り返る。
HALの誘いに応じたのは5人。支倉と羽澄がその内の2人だ。
「4時にこの家の前で合流、だったかしらね?この辺りの聞き込みをしてるんでしょう?」
支倉と羽澄の質問に、HALはそうですと短く応えた。
残りの3人は今頃、近所の家々を回って少女の霊やこの辺りで起こった事件・事故について調べているはずだ。合流するまでの時間を、こちらは少女と深く関わっていると思われる廃屋の調査にあてる。
「あーあ、玄関壊れちゃってるよ」
恐らく誰かの悪戯だろう。無惨にも半壊した扉を見て、支倉は溜息を付く。
ランドセルの少女と妹が重なって見える支倉は可哀想になってどうにか出来るものなら、とHALの誘いに応じた。
「全くもう。碌な事しないわね」
と憤慨する羽澄の目には庭中に投げ出されたゴミの山。
「色々調べて来たのよ、私」
と、羽澄は言って玄関の蜘蛛の巣を払う。
「あ、僕もだよ。ネットで調べたんだけど、この辺りで昔、女の子が変質者に攫われたらしいね。すぐそこの小学校に通ってた子」
今からもう20年も前の事だ。
「小学4年生の女の子よ。学校帰りに家のすぐ近くで攫われたんですって」
「この家の子供だよね。でもどうして5時に家の前で消えちゃうんだろう?この5時って、重要なキィだと思うんだけど」
話ながら入り込んだ家の中は荒れ果てていた。
「女の子が死んでから、家族は崩壊。あっちこっち散り散りになったらしいけど、流石に行方までは分からなかったわ」
「どうして家の調査をするんですか?」
割れた床板に躓きつつ訪ねるHAL。
「そりゃ、女の子が彷徨ってる原因を探す為だよ。家に何か思い残すものがあって、取りに来ようとしてるのかなと思って」
「或いは、家に何か良くないモノが憑いていて、帰る事が出来ないのか、ね」
「取り敢えず手分けして一通り見て回ろうか」
支倉の言葉に羽澄とHALが頷いた。


*****

「うわっぷ」
何気なく開いた作りつけの戸棚から埃が舞い降りてきて、支倉は慌てて目と口を覆った。
頭にはパラパラと埃が降り積もったが、仕方がない。
「うーん……、それにしても凄いなぁ……」
1階の調査を終えて2階に上がって来た支倉は目の前に広がる惨状に呆れた。
2階も、窓と言う窓のガラスが全て割れ、各個室の扉が壊されている。あちこちの壁に肝試しの後と思われる落書きがあり、ゴミが散乱している。
もし次の居住者が現れたとしても、修理に随分な時間と金が掛かりそうだ。
「自分の住んでた家がこんなになっちゃってたら、哀しいだろうなぁ……」
呟きつつ、支倉は次々に戸棚を開く。もし少女がこの家に何か思い残す物があって、それを取りに来ようとしているのであれば、見つけて渡してやれないかと思うのだが……、開いていく戸棚から出てくるのは埃。そして害虫の死骸とゴミばかり。
「思い残した物があるワケじゃないのかな……何かに留められているのか……、」
呟きながら、支倉は壊れた扉をくぐる。
そこが少女の部屋だったらしい。壁に動物や雑誌の付録と思われるシールが残っている。
が、それ以外には何もない。
作りつけの戸棚がなければ、家具も照明器具も、剥き出しの床を覆う絨毯さえ。
「直接女の子と話して事情が聞けると良いんだけどな。……でも、何で5時頃なんだろ。小学校なら3時過ぎには終わるのに……」
言って、支倉は腕時計を見る。
3時50分。
そろそろ他の参加者達と合流する時間だ。


*****

「あ、こっちでーす」
鬱蒼と草野生い茂る荒れ果てた家の前でHALが手を振った。
HALの左右には蒼月支倉と光月羽澄。
HALに応えるのは海原みなも、エティエンヌ・ラモール、真名神慶悟だ。
「調査ご苦労様」
と、最初に声を掛けたのは支倉。
「そちらこそ、ご苦労様です。何か分かりましたか?」
みなもがにこりと笑顔で応える。
「残念だけど、めぼしい手がかりはなかったわ」
わざわざこんな汚い中に入っていったのにね、と苦笑する羽澄。
「こちらも、情報らしい情報はなかったな。ランドセルの少女が20年前に変質者に攫われて亡くなった子供だと言う事は分かったが、彷徨い続けている理由が分からない。何か約束事でもあったのか……」
言いながら慶悟がエティエンヌに目を向けると、どこか決まり悪そうにエティエンヌは舌を打つ。
「くたびれ損だ」
どうやらエティエンヌの方もめぼしい情報を得られなかったらしい。
「僕は、この家に何か思い残した物があって、それを取りに来ようとしてるんじゃないかと思ったんだけど」
支倉の言葉に、みなもが顔を上げる。
「この家の子供なんですか?あたしが聞いて回ったところではそんな話は出てこなかったんですけど……」
「ああ、そうらしい。引っ越し族が多くて噂ばかり尾鰭背鰭を付けて飛び回ってるが、間違いなくこの家の子供だ」
応えて、慶悟が廃屋を見上げる。
「私はこの家に何か障害があって帰って来られないんじゃないかと思ったんだけど……、別に帰宅を阻むような障害って、ないのよね。その女の子の霊は家の前で消えてしまうんだったわよね?」
羽澄の言葉に頷いて、HALは立っていた家の門の前から大股で10歩程度移動した。
「HALが見た時は、この辺で消えてちゃったんですよー。後ろ姿しか見てないんですけど」
HALが立っているのは廃屋の敷地を取り囲むブロック塀から僅かに離れた、木々の前だ。
廃屋の両隣と向かいに家はなく、手入れのされていない木や草が廃屋の庭から伸びてきた木々と絡まって一つの小さな森のようになっている。
「この家の裏って、どうなってるのかな?」
もつれ合った木の合間を覗き込む支倉。傾いた日の光が僅かに射し込むその向こうは何があるのだろうか。
「田圃みたいだな」
慶悟は上着のポケットから地図を取り出して答える。
「ここに来る途中に二股に別れた道があっただろう?反対側の道が続いているらしい」
地図に示された道を指さしながら、慶悟は木々の向こうを覗き込む。
「ここから向こうに行けるんでしょうか?女の子が消える理由と何か関係あるんでしょうか?」
みなもは、何かじっと木々の方を見つめているエティエンヌに話しかけてみた。
さっきから殆ど口を開いていないが、何か考えるところがあるのだろうか。
喪服を纏い、腕を組んで立つエティエンヌはみなもの言葉に生い茂った木の陰を指さす。
「……そこに、男がいる」
「え、どこですか?」
言われても、見えない。
「その男って、何か関係あるのかしら?そんなに障害があるように思えないけど?」
羽澄の目には、何か見えたようだ。
「両隣にも向かいにも家はない。それなのに、こんな所に男が立っているのはおかしいだろうが」
エティエンヌと羽澄によると、黒い男の影はじっと、木の隙間からこちらを覗き込むように立っているのだと言う。
霊の存在としては極弱いもので、無害そうには見えるのだが。
「通りがかってこんな木の影に入って行くとは考えられない。こちらの様子をじっと伺っているところからも、何か理由があってそこにいるんだろう」
「理由……、あ」
ポン、と支倉が手を打つ。
「僕、ネットで色々この辺りの事件のコトを調べて来たんですけど、20年前に女の子を攫った犯人、」
言いながら、支倉は脳裏に記憶を蘇らせる。
「……確か、女の子と一緒に死体で見付かったんですよね……」
「ええっ?」
みなもが声を上げる。
「遺書があったらしいわ。『一人で死ぬのは寂しい』みたいなコトを書いたね。それで女の子を攫って道連れにしたんだろうって言うのが当時、調査した人達が出した結論」
「……と言うことは、俺には見えないがそこに立っている男と言うのが少女を攫った犯人か……、死してなお少女を見ているとは迷惑な話だな」
慶悟は溜息を付く。
「あたし、その女の子がどんな風に消えてしまうのか見た事ないから分からないですけど、やっぱり何か関係があるんじゃないでしょうか?そこにいるって言う、犯人と。犯人は一人で死ぬのが寂しいからって女の子を道連れにしたんですよね?だったら、それで満足してる筈なのにここにまだ残っているって言うことは何か理由があるんじゃないでしょうか?」
確かに、少女が家に帰れずに彷徨っていると言うのならば分かるが犯人まで残っていると言うのが不思議だ。
「だからそんなの全部直接聞けば良いことだろうが」
ネクロマンシーであるエティエンヌは死者と会話する能力を持っている。
それが極弱い存在のものであっても、死者は操る対象だ。木陰の犯人から話を聞き出す事くらいは容易い。
「そうだな、取り敢えずあんたに聞いて貰おうか……、少女が彷徨う理由も何か分かるかも知れないからな」
しかしその時、支倉が声を上げた。
「あ、あれ。もしかして、あの子がそうかな?」
細い道を歩いてくる一人の少女がいる。
「多分そうです。HALが見た子と同じくらいの大きさだし……」
黄色い帽子に赤いランドセル、白い運動靴。
俯き加減で顔は見えないが、テンポよく歩いてくる。
「あの子とも話してみたいわ。話せないかしらね」
「ここで消えちゃうって言いましたよね。その後はどうなるんでしょう?」
羽澄の言葉に首を傾げるみなも。
「ところで、HALはあの子を成仏させて欲しいって言ったよね?僕はあの子の意志を尊重したいと思うんだけど……、みなさんはどうですか?」
支倉が訪ねると、全員が頷いた。
「ああ、既に亡き身だが、それでも世に留まりたいと望むならばそれを止める理由が今は無い。だが、悪戯に背感に目に晒されるのは忍びないな」
慶悟が答える間にも、少女はこちらに近付いてくる。
「ま、全ては彷徨う理由が分からないと話にならないものね。様子を見てみましょう」
6人は僅かに移動して少女の様子を見守った。
その時、学校のチャイムが聞こえてきた。
5時に全校生徒の下校と周辺にいる子供達への帰宅を促すチャイムだ。
はっと少女が顔を上げる。
家まではほんの僅かの距離。
少女が走り出そうとしたその瞬間、木陰から黒い影が飛び出して少女を捕まえる。
「あっ!」
6人は驚きの声を上げて近付こうとしたが、既に遅い。
少女は木陰に引き込まれて消えてしまった。
「む、無害って言いませんでしたっけ?」
「本当に弱い存在だったのよ!」
驚きを隠せない支倉と羽澄。
「さっき一瞬だけ強くなった。あの瞬間だけだ」
さっきまで犯人が佇んでいた木陰に走り寄るエティエンヌ。
しかし、そこには既に犯人はいない。
「いないのか?」
慶悟の問いに頷き、羽澄は首を傾げる。
「犯人の霊に連れ去られちゃったって事ですよね……、でも、ずっと繰り返しているって事は、また帰ってくる……」
「多分、ずっと同じ行動を繰り返してるのね。女の子は家に帰ろうとしてて、犯人はその女の子を攫って……」
みなもの言葉に頷く羽澄。
「って事は、その犯人の霊をどうにかしなくちゃ女の子はずっと家に帰れないって事だよね」
「見ているどころか、死んでからも少女を連れ去るとは……、」
溜息を付く支倉と慶悟。
「やっぱり犯人と女の子の両方に話しを聞きたいですね。明日、もう一度ここで待ってみませんか?犯人が女の子を攫う前に話しかけてみましょう。エティエンヌさん、犯人に話を聞いて貰えますか?」
「分かった。貴様等にはあの少女の方を任せてやろう」
「それじゃ、一旦今日はお開きにしますか?」
HALが言い、それぞれが頷く。
「私は帰ったらもう少し情報を探してみるわ。特に犯人の方の」
明日、同じ時間に集合する約束をした後に羽澄が言った。


*****

「犯人の事、何か分かりました?」
翌日、廃屋の前に全員が集合したところでみなもが羽澄に訪ねた。
「少しだけね。学校の近くに河原があったのを見た?」
「今日、来る途中に見たよ。大きな河原だよね」
答える支倉。
「あの河原の下流の方で、二人が死んでいるのが発見されたの。女の子の方は溺死、犯人の方は手首を切った後に農薬を飲んだらしいわ」
「少女を殺した後に自殺したと言う事か」
「そう言う事に、なってるわね。一応」
しかし分からないのは2人ともがまだこの世に残っている理由だ。
「犯人にも何か思い残した事があるのかな。女の子を道連れにしておいて、まだ思い残してるなんて言ったら贅沢だと思うけどな。突然殺されちゃった女の子は一体どうなるんだろう」
家まであと僅か、と言う所で連れ去られ、命を奪われた少女の事を考えると、犯人に怒りがこみ上げてくる。
「まったくだ」
エティエンヌは短く答え、犯人が隠れる木陰に向かった。
犯人はエティエンヌ達には全くの無害だ。
この辺りの住人にも、通りがかる者にも、全くの無害な存在。
ただ、5時頃に帰宅を急ぐあの少女にのみ執着を示す。
他の5人が見守る中、エティエンヌは木陰に入り立ち止まって何か始めた。
彼の持つネクロマンシーとしての能力がどのように施行されているのかサッパリ分からないのだが、何か話声が聞こえるところを見ると、もしかすると犯人の男と会話しているのかも知れない。
「一人で死ぬのが寂しいからって、誘拐したんですよね?」
「そう言う事にはなってるけど、事実は分からないのよ。遺書では『一人で死ぬのは寂しい。僕は誰かに、僕が死ぬ姿を見届けて貰いたい』ってね」
と、みなもに応えて羽澄が調べて来た遺書の内容を引用する。
「あれ?見届けて貰いたい、なの?」
「一緒に死ぬ、じゃないんだな?」
支倉と慶悟が首を傾げた。
「そう、おかしいと思うでしょう?実際は女の子を先に殺してしまってるのよ。勿論、これも当時の警察の調べなんだけど」
もしかしたら、事実は違っていたのかも知れない、と羽澄は付け加えた。
と、そこへエティエンヌが戻る。
「殺したんじゃなくて、勝手に死んだんだ」
「え?」
「子供を攫って、河原まで行った所で子供が逃げ出したらしい。追い掛けている内に子供は川に転落……、ちょうど雨続きで増水していて、慌てて飛び込んで助け上げた時には既に死んでいた」
「それじゃ、犯人が殺したワケじゃないんですね?」
みなもに、エティエンヌは頷いて見せた。
「心残りがあるのは、彷徨ってる子供じゃなくて犯人の方だったんだ。ずっと、自分の死を見届けて欲しいと思って子供を攫い続けている」
「犯人の方を始末なり何なりしなくちゃならないと言う事か?」
慶悟が訊ねると、エティエンヌはゆっくりと首を振る。
「いや……もうその必要はない」
そんな身勝手な犯人は、既にエティエンヌが処理した。
心残りも何も関係ない、強制的に、彼の持つ力で以て。
「……疲れた」
「あ、ご苦労様です」
道の端に座り込むエティエンヌに、思わず労いの言葉を掛ける支倉。
「あとは貴様等がやれ」
あととは勿論、今日も帰宅を急いで歩いて来るのであろう少女の霊だ。
「犯人の障害がなくなったら、無事家に帰り着けるんでしょうか?」
みなもが口を開く。
その時、またあの赤いランドセルに黄色い帽子を被った少女が細い道をやって来るのが見え始めた。
まるで、足音が聞こえるようなテンポ良い歩き。
学校からここまで、大人の足では10分程だ。子供の足ではそれよりやや長くかかるのだろうか。
疲れた様子はなく、通い慣れた道を家へ向かってひたすら歩く。
そして今日も、下校と帰宅を促す5時のチャイム。
昨日と同じ動作で、少女が顔を上げる。
『あーあ、5時になっちゃった。4時半までには帰って来なさいって、言われたのになぁ』
立ち止まり、少女は呟いた。
『お母さん、怒ってるかなぁ』
一つ、溜息。
「どうして遅くなっちゃったの?」
少女を驚かせないように、みなもがゆっくりと訊ねる。
少女は少し首を傾げてみなもを見て、言った。
『あのね、学校の飼育小屋を見てたの。今日、うさぎが来たんだよ。鳥は沢山いたんだけど、うさぎって、初めてなの。だからどうしても見たかったんだ。お姉さん、うさぎ好き?』
みなもが頷く。
「僕も好きだよ。妹も。可愛いよね。どんなが来たの?」
支倉が言うと、少女はにこりと笑う。
『真っ白と、真っ黒!フワフワしてて、すっごい可愛いんだ!それでね、みんなで順番に見てたの。そしたら遅くなっちゃった。お母さん、何時も言うんだ。学校が終わったら寄り道しないで真っ直ぐ帰りなさい!って。それに、今日は塾があるから4時半までに帰らなくちゃいけなかったんだ。でも、もう5時を過ぎちゃったでしょ?お母さん、怒ってると思う?』
「心配してると思うな。それに、うさぎの話が聞きたいって思ってるんじゃないかしら」
羽澄が答えると、少女は安堵したように短い息を付いた。
『良かった!うち、そこなんだよ。帰って、お母さんに話してあげようっと』
「ああ、早く帰った方が良い。帰ったら、遅くなった理由を言ってちゃんと謝るんだぞ」
慶悟の言葉に頷いて、少女は再び歩きだす。
心が軽くなった分、足取りも更に軽い。
跳ねるように門のところまで歩き、立ち止まると振り返って手を振った。
『あのね。いつもそこに恐い男の人がいるの。でも、今日はお姉さん達がいるからかな、いないみたい。通るのが恐かったんだけど、今日は恐くなかったよ。ありがとう』
笑顔を残して、門をくぐる。
その門は、綺麗な茶色のペンキが塗られ、左右に花が植えられていた。荒れ果てた家が真新しく見える。
「……手助けするまでもなく無事帰れたみたいだな」
道の端に座ったまま、エティエンヌが口を開く。
「ずいぶん長い下校道だったな……」
「20年も掛かったんですからね。ホントに長いですよ」
夕暮れ。
寒蝉の鳴く道。
少女を見送って、慶悟とみなもは笑う。
「もう、何度も同じ道を歩き続ける事もないですね」
「やっと家に帰れたんだものね……」
支倉と羽澄も顔を合わせて笑う。
少女が玄関口でただいまと声を掛けるのが聞こえた。
少女には間違いなく母親のおかえりと言う声が聞こえたに違いない。




end




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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0389 / 真名神・慶悟      / 男 / 20 / 陰陽師
1870 / エティエンヌ・ラモール / 男 / 17 / ネクロマンシー
1653 / 蒼月・支倉       / 男 / 15 / 高校生兼プロバスケットボール選手
1282 / 光月・羽澄       / 女 / 18 / 高校生・歌手・調達屋胡弓堂バイト店員
1252 / 海原・みなも      / 女 / 13 / 中学生

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■         ライター通信          ■
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最近毎日のように猫とプロレスごっこをしている佳楽です、こんにちは。
この度はご利用有り難う御座いました。
この頃よく考えるのですが、何故入れ物には要領があり、時間には限りが
あるのでしょうか。本棚に本が入りきらないし、読みたい本が山積みでも
読む時間がないし……。
如何に不要と思しき本を選び出すか、如何に3食より好きな睡眠時間を削
るかと言う切実な問題と向き合っています。
とか言う訳で。
また何時か何かでお目に掛かれたら幸いです。