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<東京怪談ノベル(シングル)>


Dream And Sleep

未来。
血に染まった街。
自分の手が少しだけ長ければ
皆を守れたのに。
忘れたはずの人間の夢。

〜心の力を武器として、限界を超越する剣士−絶対的な差ですら時として一瞬に埋める異能者−退魔〜
ごく一般的な退魔一族でも特殊に分類される種族。
心の力は計り知れないほど強い。
しかし、それだけ人間から見れば、異常・恐怖の存在。
異能を忌み嫌うことの要因にもなったのだろう。

歌姫が病により声を出せなくなったとき…風野時音が彼女を癒した。
そして、彼女から告白を受けた。
その数日後の話である。

彼は『退魔』として暗示をかけ人間の要素を捨て、あやかし荘を守る。
それは、『眠る』と言うことを捨てる事だった。他にも喜怒哀楽という感情、人間にあって戦闘マシーンとして不必要な人間的要素は退魔の暗示で『忘れる事』が可能である。
よって…有無を言わさず人をも殺すことができるのだ。
過去の忌まわしい出来事を繰り返さないためにも…。

月夜…、時音は周りを見回っていた。
退魔の時音にとって時間は関係ない。
しかし、一応の常識は『忘れて』は居ない。
歌姫が外で木々を見ていたのを見つける。
「どうしました?こんな夜遅く」
と、時音が声をかける。
歌姫は頬を赤らめる。
退魔の時音にはそのことが分からなかった。
人としての時音なら…お互い照れて会話にもならないだろう。
「眠れないのですね?」
と訊くと、歌姫はコクンと頷く。
目で訴えるように、歌姫は
〜貴方も眠れない?〜
と訊いているようだった。
時音は一緒に月夜を見てこういった。
「眠らないのでなく、眠らないんです。僕は、常に戦いの中に身を置いているから何時敵が来ても、対応できるよう…人々を助ける為に寝ないのです。正確には、眠ることを忘れました」
くるりと歌姫を見る。様子がおかしい。
いきなり歌姫は、彼の手を掴んで中に連れて行く。守衛室まで。
「ちょ…一寸!?まって?」
いきなりのことなので、時音は戸惑った。
歌姫は中に入って、布団をひいて時音を無理矢理寝かしつけようとする。
「だめですって…仕事が…」
流石に力の差があるため…彼女は強硬手段にでた。
子守歌を歌ったのだ。
彼女の能力は歌にある。意思表示以外に歌うだけでなく、植物を巨大化させたり、動物を呼び寄せたりできるのだ。
流石の退魔状態である時音は逆らえなくなる。
歌姫の歌声は心の中にまで響くからだ。
力が抜けて…布団に寝かされてしまう。
そのまま子守歌に負けて眠ってしまいそうな時音だが…。
「歌姫…何故、そう悲しい顔をするの?」
と訊いた。
しかし歌姫は答えない。顔は怒っている。
「…僕は…人じゃないんだ…」
徐々に暗示を解いて、『人間』の時音に戻り…
何故、眠らないのか…
何故、人を忘れる暗示をかけているのか…
昔見た悪夢のことを…目的を…語った。
子守歌が止まる…彼女は笑っていた。
その笑顔が…彼に安堵感をもたらし…数年ぶりに深く眠りについた…。

夢…
あの夢…
力があればと…悔やむ夢…
しかし、それは見なかった。
歌姫が側にいるから…。

目覚めがよい朝を迎える。
久々に気分が良かった。
昨日のことをしっかり覚えている時音。
「心配かけちゃったな…」
ポリポリと頭をかいた。
この日中は、木に登って降りられない仔猫を助けて終わる。
そしてまた深夜の巡回。
「また逢えると良いのだけど…」
少しだけ『人』を残して時音は仕事をしていた。
いつもの場所に彼女がいた。
〜大丈夫?〜
というような顔つき。
「ええ、仮眠をとるようにしました」
その言葉で歌姫はホッと息をついた。
如何にも、「無理をしないで」というように見つめている。
時音は会話がなくても…彼女の気持ちが分かるのは気分が良かった。
『人』として歌姫と逢いたいと思ったのも…、
こうして一緒にいたいのも、
自分も歌姫が好きなのだと自分で認識したのだ。
こうして、2人は良く月が見える場所で落ち合う事が多くなる。
それが当たり前のように。
絆が強くなっていくことがお互いに嬉しかった。
そして今でも、恋人同士である。

ま、あやかし荘でこういう出来事が起こると飛びつく者が出てくる。
窓から歌姫と時音のデート現場を見た者が居るらしく、有無を言わず一気に外部にも伝わった。
噂千里を走る、時間跳躍もビックリ。
余談だが、その中でも厄介な方々(通称:萌え者)にそのことを知られ、「和服のお姉さん萌え」とネタにされる事になるのだが…それは後々のお話である。


終わり