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<東京怪談ノベル(シングル)>


誓い

蒼乃歩は、仲間と共に長距離時空跳躍を行い…過去に向かっていった。
灰色のトンネル…時間界…。しかし歩には真っ赤に見える。深紅の血のように…。

〜人間なんて信じない!〜

自然の力から得た、負の感情を「言葉」で浄化する能力は退魔といわれる。しかし力のバランスは狂い、彼女…蒼乃歩…が居る時代では自然から受け取ったこの能力さえも忌み嫌われるようになった。
人間の負の感情に支配され、魔になった者は強力な力を身につけ、人々を襲う。自然の摂理として退魔の力も大きくなった。それが異能者であり、退魔剣士。
それが悪循環となったのだ。人間の持つ負のエネルギーは自然摂理さえも凌駕したのだ。それは…まだ能力を持つことのない人間の裏切り…。元は人間なのに能力の違いで憎悪だけで戦う忌まわしい戦争。
「終われない戦争」…である。

歩は人間の幼なじみと一緒だった。魔と人間の両方の戦いに退魔は全滅の危機になる。歩は親兄弟を救えなかった悲しみが…能力を持たない人間を信じなくなった。
しかし、その幼なじみとは仲が良かった。彼もまた被害者で、何の罪もない。しかし退魔と人間という壁を払拭することは幼い彼女にはできなかった。
彼女も幼なじみも生き延びるために戦う術を身につけた。
幼なじみは…深層心理具現剣「光刃」…所謂…退魔剣士の証を会得した。
歩は彼が人間でなく、退魔と知ったことで無邪気に喜んだ。
「やった!」
「僕…がこれを?」
「俺…すごい嬉しいよ…ずっと…これで一緒に居られる…」
嬉しいあまり彼に抱きつき、涙する歩。
「でも…この力は…危険すぎる…」
幼なじみの言葉が引っかかった。

時は流れ…、2人は魔との戦いに身を置くことになる。
「元は同じ人間なのに…!」
戦うたびに幼なじみは涙していた。目の前には、元は人だったと思われる肉片…。
しかし生きて襲ってくる姿は…恐ろしい妖怪そのものであった。
「その考え方はやめよう…退魔として自覚と誇りをもっていれば……」
「そんなことできない!」
雨が降ってきた…それがお互いの悲しみに呼応した自然の涙。

ある日のこと。
「避難民を迎え入れるのですか?」
険しい顔つきで歩は村の長に尋ねた。
「ああ、今では魔の勢力が強く、この隠れ里に迎え入れることになった。お前の気持ちは分からないでもない…しかし…我らは憎しみだけで生きる生き物ではないこと…この能力は私益や憎しみで使うわけではない事を知って貰う好機でもある…」
「納得がいきません」
「…命令だ。すぐに護衛に迎え」
歩は考えた。和解というのは確かに良い案である。実際、隠れ里の守衛として戦っているが、前線は此処からかなり離れた人の世界。微妙な関係で成り立つ人と退魔。人は科学の粋を集めた兵器で武装して魔と戦うも、やはり手が負えない。同等の力で戦える退魔の手を借りるしかなかった。能力のない人間にしてみれば、魔も退魔も化け物である。
「人間は絶対…許せない」
歩は歯ぎしりしてこの任務に就くことになった。
どちらにしても…この戦争の原因は人間自身の心の脆さにある。それを理解していないのも、やはり人間だった。半世紀も続くこの戦争で、退魔も人間の心も荒んできた。そして魔になる者が増えていく…。
退魔宗家蒼乃家、最後の隠れ里。
そこに生き残った避難民を受け入れることになった。

「雲行きが怪しいな…」
幼なじみが呟く。
「うん…すでに梅雨か…夏になると厄介だな」
歩は相槌うって答える。
「夏になったらまた川遊びできると良いな」
「ああ…」
隠れ里では平穏無事な生活が保障される。出撃ばかりではない。だから、歩ら退魔の心が魔の闇に侵される事はほとんど無かった。
後、数キロ先に避難民を乗せたトラックが待っている。隠れ里までは彼らにも歩いて貰わなくてはならない。
すでに先遣隊と避難民の代表が話を付けていたので、トラブルもなく歩き続ける。
しかし、避難民の一部の者は武装を解かなかった。魔との戦いに参加できるための用心と言う。
「おかしい…」
歩はずっと怪しんでいた。
「信じないと…」
一緒にいる幼なじみが、優しく声をかけた。
「でも…う…」
彼の笑顔に歩は何も言えなかった。
しかし歩の予感は当たった…。
一見、絶壁とも見られる崖…これが隠れ里の入り口で最後の結界である。その結界に避難民を迎え入れたとき…武装していた避難民が、一気に銃撃を始めた。
近くにいた罪のない避難民…そして、不意をつかれた退魔たちは殺されていった。
「まて!どういう事だ!」
「お前達こそ魔の一味だ!同じ力で我々力無き者を全滅しようって魂胆だろ!」
「違う!断じて違う!」
幼なじみは説得しようと試みたが…
「今の奴らは耳を貸さない!中にいる皆を!」
彼には歩の声は聞こえなかった。
「危ない!」
歩をかばって…武装兵に撃ち殺された…。

「は…班長!」
「ん?なんだ?」
「もうすぐ2000年の東京に着きますよ」
「あ…そうか…」
時間界で眠っていたか…?…赤色の道…本当は灰色なんだろうけど…。すべてが赤く見える。人の寿命を知らせる銀の線も…この〈時間の道〉に生きる生き物も…。
歩はあの事件から生き延びて、退魔の中の武闘派に所属することになった。
『人類を根絶やし…選ばれたもの〜能力者、異能者〜のみの世界を作る』
という目的の元…。

「必ず…仇をとるから…」
歩は目の前で死んだ幼なじみに誓うように2000年の扉をくぐった…。

End