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薔薇の誓い
+++++オープニング+++++
「私、薔薇が恐いんです」
女は突然、そう切り出した。
「花の、バラですか?」
草間の確認に頷く。
「子供の頃から、よく夢を見るんです。多分、以前住んでいた場所の近くなのだと思いますが、バラ園があるんです」
色とりどりのバラが咲き誇る広い庭園。
白いアーチに絡みつく枝。
まるで物語のお城のような薔薇の門の下に座っている、幼い日の自分。
―――ばらの下で交わす約束は、絶対だからね―――
誰かの声が言った。
―――指切りして、誓って―――
それに応える自分。
小さな小指を出し、目の前に差し出された小指に絡める。
―――指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲ます―――
―――指切った―――
小指を話した途端、少女が消える。
不思議に思う自分の頬に、何かが触れた。
薔薇の葉。
風が吹いたのか。さわさわと揺れて手や肩に触れる。
「突然、枝と言う枝が私に絡みついて、動けなくなるんです」
驚きと棘の痛みに悲鳴を上げる。
「すると、どこからか声がするんです。身体に絡みついた枝や葉や、花と言う花から……」
―――ばらの下で交わす約束は、絶対だからね―――
「間違いなく、そう言うんですか?」
煙草に手を伸ばしながら、草間。
「はい。ハッキリと聞き取れます。そして、言うんです」
―――みぃちゃん、約束守ってよ―――
「もうずっと、このところ毎日、夢に見るんです。気持が悪くて、気が狂いそう。助けて下さい、あの薔薇園に何かあるのなら、原因を突き止めてください」
まるで今もその声が聞こえるかのように、女は耳を塞いだ。
++++++++++
「そんなのただの夢だろう。気のせいだ。……と言っても納得は出来ないだろうな」
依頼人が苦しそうに耳を塞ぐ様子に、香坂蓮が溜息混じりに声を上げる。
「薔薇の下での約束かぁ…ロマンチックだけど、記憶がないなら怖いだけだよね。花霞に出来ること、ある?」
と言うのは蓮の隣にちょこんと腰掛けた賈花霞。
花霞は小さな薔薇のアクセントの付いた髪飾りをしていたのだが、依頼人を気遣ってかそっとそれを外す。
「夢にうなされるってものすごく精神的にも負担なんだよね、僕はそうでもないけど」
向かいに掛けた蒼月支倉が言うと、花霞はにこりと笑って言った。
「哥々は鈍感なんだよ。寝ちゃったら、夢なんか見ない勢いだもん」
可愛い妹の憎まれ口に、支倉は何か言い返そうと口を開き掛けたが、それよりも先に横から声が上がる。
「薔薇園での記憶、ですか……。丁度、約束を守る時が来たと言う事なんでしょうね……」
「どんな約束だったのかしら?」
海原みなもに続いて口を開くシュライン・エマ。
紅茶のカップを全員に配りながら、依頼人の顔を覗き込む。
まだ声が聞こえるかのように青ざめた様子に安堵感を与えるようににこりと微笑んで見せて、自分の席に腰を下ろす。
「でも、僕は薔薇園での不思議なんて聞くと死体を想像しちゃうけどな」
自分の紅茶を引き寄せながら言う支倉に、みなもが頷く。
「ええ、あたしもです。あ、怖がらせるつもりはないんですけど、よくありそうなパターンだと思って」
更に青ざめる依頼人に慌ててフォローするみなも。
「しかし、夢の中とは言え痛みを与えてまで訴えてくるとは……よほど重要な約束だったのか」
蓮の言葉に依頼人は困ったように首を傾げる。
「ご迷惑でなければ、お話をもっと詳しく伺いたいのですが……?」
上品な微笑を浮かべて紅茶に口を付けるのはセレスティ・カーニンガム。彼の目には僅かな光しか見えていないのだが、そんな事は全く気付かせない優雅な仕草。
「あの、それが、あまりよく覚えていないんです」
「思い出せる限りで構わないのよ。どんな細かい事でも」
「例えば、夢の中で少女と指切りをして何かの約束を取り交わしているようだが、実際にそんなことがあったのかどうか……」
シュラインと蓮に言われて、依頼人は自信なさそうに頷く。
「ええ、夢の中で約束をしていたのは覚えています。子供の頃の遊びで……」
誰かが言い始めた告白のゲームなのだと言う。
薔薇の下で交わす約束は絶対。
その言葉の下、他愛ない秘密を打ち明け合って遊んでいた。
親に見せなかったテストの点数や悪戯、誰かにした意地悪……そんな子供らしい内緒話。
「多分、その遊びの事だと思います」
「その、夢に出てくる少女とはどんな約束を?もし何者かがその約束の履行を求めてそんな夢を見せているのだとしたら、知っておく必要がある」
蓮の言葉に依頼人は首を振る。
「それが、覚えていないんです。その少女の事を。……夢の中では顔がハッキリ見えなくて……」
夢の中では、少女の顔が分からない。確かに目の前に座っていて、少女だと分かるのだが、それがどんな容貌をしているのか見えない。
ただ声だけがハッキリと耳に残る。
「なら、シルエットだけでも構わないから、その少女の事を思い出して貰えないかしら?そうね、門と比べてみた大きさとか……?」
依頼人は暫く目を閉じて記憶を手繰る。
「門は……、そうですね、そこの扉と同じくらいの高さです」
と、応接室の扉を指さす。
大体2mほど。その下に座った自分達は幼く、僅かに首を上げて見えるのが半ばほどの位置。
少女が薔薇の絡んだ門に背を預けてこちらを向いている。
「ああ、髪が……」
「髪が?長いとか短いとかかな?」
花霞が訊ねる。
「ええ、長いの。あなたほどではないけれど……、秘密を打ち明ける時には必ず、みんな髪に薔薇を飾ったの。夢の中の少女も赤い薔薇を髪に挿していたわ」
その言葉に、みなもがポンと手を打った。
「その薔薇園に行っていた頃のお友達に髪の長い女の子って何人くらいいました?」
しかしまた、依頼人は首を振る。
「ごめんなさいね、私、あまりよく覚えていないんです」
依頼人が薔薇園の近くに住んでいたのは9歳の頃。
夏休みを挟んで、たった半年。夏休みの最中に引っ越しが決まっていた。
ところが依頼人はその引っ越し1週間前になって突然熱に倒れてしまった。
引っ越しを先に延ばす事は出来ず、急遽入院した依頼人が回復した頃には引っ越しは完了し、夏休みは終わっていた。
新しい土地での生活で記憶が薄れ、気が付けば、薔薇が苦手になっていた。
そして、15年が過ぎた。
「なるほど……だったら益々気になっちゃうよね、声の主と約束の内容」
支倉の横でセレスティも頷く。
「引っ越し1週間前に熱で寝込んでしまうと言うのも気になりますね……。失礼ですが、元々お体の方が?」
「いえ、年に数回風邪を引く程度で……、入院したなんて後にも先にもその時だけです」
ごく健康な子供であったと言う。
「薔薇が咲き誇る季節に何か見聞きしたとか、誰かに何かされたと言う事はないでしょうか?そしてその恐怖の記憶だけが残った、とか?」
みなもの言葉に曖昧に首を傾げる依頼人。
その横から花霞が声を上げた。
「うーん、花霞が前に読んだ本にもそんな話があったなぁ……。恐怖心と思い出が変に絡み合って全く違う記憶になっちゃうんだけどー」
「ご両親とか、幼い頃をよく御存知の方とお話出来ないかしら?何か手がかりが掴めるかも」
と言うシュラインに、依頼人は申し訳なさそうに首を竦める。
「すみません、両親は今、旅行に出てまして、来月まで戻らないんです」
「あ、それならアルバムとかお借り出来ませんか?」
みなもが言うと、蓮がポンと手を打った。
「ああ、アルバムか。それは良いな、子供の頃……特にその薔薇園付近に住んでいた頃の写真があれば」
言いながら、依頼人を伺う。と、漸く依頼人は僅かに笑顔を見せた。
「それならあります。父が趣味で写真をしていますので、移り住んだ先々で沢山、」
「花霞はその薔薇園を調べてみたいなぁ」
「うん、そうだね。僕も薔薇園内外の事件とか事故とか、調べてみたいな」
途端に依頼人の表情が曇る。
「何かそう言う事に関係あるのでしょうか?」
「記憶が定かでない以上、絶対にあり得ないとは言い切れない」
ぼそりと答える蓮。
「恐怖はははっきりさせて、乗り越えた方が後々楽かと思います。徹底的に調べてみましょう」
みなもの言葉に、不安気な依頼人共々全員が頷いた。
++++++++++
翌日、10冊近い9歳時のアルバムを持って、依頼人は再び興信所を訪れた。
昨日と同じメンバーがそれぞれの表情で待ち構えている。
「それじゃ、早速始めましょ」
挨拶もそこそこにシュラインが立ち上がる。
「私達はネットで薔薇園について調べてみるわ。そちらはそちらで宜しく」
そちらとはアルバムを元に依頼人の記憶にない過去を手繰り寄せようと言う蓮、みなも、セレスティ。
私達とは、シュライン、花霞、支倉だ。
アルバム10冊分と言えばなかなか膨大な写真だ。
応接間のテーブルにならべて、みまもと蓮はそれを1ページずつ注意深くめくってゆく。
セレスティは依頼人と並んで座り、ゆっくりと会話をすすめた。
「薔薇園の近くに住んでいらっしゃったのは9歳の頃だと仰いましたね。15年も前ですから、記憶が曖昧になっていても仕方在りません」
「調査をお願いしておきながら申し訳ありません……、」
ひたすら恐縮する依頼人に、セレスティは人を魅了してやまない笑みで答える。
「薔薇園、薔薇の葉、みぃちゃん、約束と言ったキーワードがありますから、めぼしい情報が得られなかったら占いでもしてみましょうか」
「占いで分かるものなんですか?」
「輪郭を掴む程度の事は」
と、そこで蓮が依頼人を呼んだ。
「この子供は?」
真っ白な薔薇の門の下に佇む少年と少女の写真があった。
少女の方は、恐らく幼い頃の依頼人だろう。どこか面影がある。その横に立つ、小さな少年の姿。
「あ、その男の子、こっちにも写ってます」
と、みなももアルバムを指して見せる。
そちらには、頭に白い薔薇を飾った少女2人と少年が1人。
「多分、当時一緒に遊んでいた子達だと思います」
「写真を見ても思い出さない、か……」
そっと溜息を付いて蓮はふとその写真を台紙かた剥がす。
写真の裏には良く撮影日や場所、被写体の名が記されているものだ。殊に、写真が趣味だと言う者であれば尚更、整理の為に記しておく。
「……7月20日薔薇園にて。みきちゃん、こうじ君と一緒に……」
丁寧に書かれた文字を蓮が読み上げる。
「7月27日こうじ君と結婚の約束。みきちゃんが保証人に、かっこ笑い」
続けて、みなもも台紙からはがした写真の裏を読み上げる。
「おや、結婚の約束ですか。名前を聞いて何か思い出しましたか?」
依頼人は当惑した顔で2枚の写真を見る。
「分かりません……、思い出せません……」
蓮とみなも、セレスティは困ったように顔を見合わせた。
+++++++++++
シュラインと支倉、花霞が得た情報、そしてみなもと蓮、セレスティが見つけた2枚の写真を前にして、依頼人は泣きそうな顔で全員を見回す。
「確かに、薔薇園の近くに住んでいて、何度も薔薇園に行った事は覚えているんです。でも、どうしてもその2人の事が分からない……」
その2人とは、みなも達が見つけだした2枚の写真に写ったみきと言う名の少女とこうじと言う少年。
「このこうじ君って、花霞達が見つけたこうじ君と一緒だよね?」
と、花霞は新聞年鑑を取り出し、印を付けたページを開く。
「そうねぇ、同姓同名って事もあるでしょうけど、同じ地域で2人もはねぇ……」
言いながら、シュラインは写真と新聞記事を見比べる。
「顔を見ても名前を聞いても思い出せない、か……」
幼いながらも結婚の約束をした癖に薄情だな、と言う思いを込めて、つい言ってしまう蓮。
シュライン達の調べたところでは、そのこうじと言う少年は15年前の8月に行方不明になったまま、発見されていない。
こうじの両親が薔薇園の持ち主である。
そして、恐らく写真に写ったもう一人の少女はこうじの姉であろう。
「やっぱり、薔薇園に行ってみた方が良いんじゃないかな。百聞は一見にしかずって言うし」
支倉が言うと、セレスティが首を傾げる。
「薔薇園は閉鎖されているのではなかったですが、現在の持ち主が。……勿論、夜間にでも忍び込む事は可能でしょうが……」
「中には入れなくても、近くに行って様子を見たら何か思い出すかも知れませんよ」
「そうだな、行ってみる価値はあるかも知れない」
みなもの横で頷く蓮。
「でも、大丈夫かな?イヤじゃない?」
青ざめる依頼人を気遣う花霞。
しかし依頼人はゆっくりと頷き、行った。
「行きます……、行かなくちゃ……」
++++++++++
全員の休みが重なった9月6日。
バスと電車を乗り継いで7人は薔薇園へやって来た。
泣き出しそうな空模様だが、それはセレスティにとって幸いだ。
炎天下の調査をしなくて済むと言う点に置いても、好都合だ。
「あれがそうかしら?」
地図を片手に、シュラインがバス停よりやや前方にある緑の柵に囲まれた敷地を指す。
「写真とずいぶん違うねぇ」
花霞が残念そうに唇を尖らせる。
写真の中では緑の柵にもつるが絡み、色とりどりの薔薇が通りを鮮やかに染めていたのだが、今は何もない。
柵の中に広がるのは青々とした芝生と、僅かな木々そして、たった1本の薔薇。
「十年一昔と言いますから、この当たりはあなたが住んでいた頃と随分違ってしまったのでしょうね?」
長距離の移動に備えた車椅子に腰掛けたセレスティが依頼人に声を掛けた。
「あ、はい……、そうですね……」
しかし依頼人は心ここに在らずと言った様子で柵の向こうを見つめている。
「ぱっと見ただけで思い出すなんて事はないだろうからな。一通り歩いてみるか」
蓮が言うと、すぐに支倉がセレスティの背後に回って車椅子を押し始める。
「花霞、薔薇の門を見てみたかったんだけどなぁ、中に入れないかなぁ」
歩きながら花霞が薔薇園の中を覗き込む。
「あら?あの人……」
ふと、みなもが前方を指さす。
一人の若い女性が慣れた手つきで門を開け、敷地の中へ入って行こうとしているところだった。
「中に入るって事は関係者なんでしょうけど……、」
女性はどこか不似合いな喪服を纏っていた。
「関係者なら、少し頼んで中に入れて貰えないかな。僕、言ってみよう」
支倉は言うが早いか否か、女性に走り寄った。
門を潜ったところで女性が振り返り、支倉を見る。
と、支倉が何か説明しているらしい。
暫く話した後、支倉は笑みを浮かべて6人を手招いた。
慌てて駆け寄ると、支倉は女性と依頼人を交互に指す。
「今、この庭園を管理されている方だそうです。で、こっちが今話した、この薔薇園によく遊びに来ていた女性です」
紹介されて、依頼人は頭を下げた。と、喪服の女性が笑みを浮かべる。
「みぃちゃんでしょう?覚えてるわ」
写真の少女の、15年後の姿が目の前にある。しかし依頼人は困ったように首を傾げた。
「あら、覚えていないの。そうね、15年も前だものね」
女が残念そうに言うと、横からシュラインが口を開く。
「実は、病気で記憶が曖昧になっているんです。今日は子供の頃に住んでいた場所を見に来たんです」
さっと目配せして全員に話しを合わせるように合図をする。
女には事情を伏せたまま話しを聞くつもりらしい。
「まあ、病気で?それは大変ね。この辺も随分変わってしまったから……」
「ここは以前、薔薇園として解放されていたのですよね?」
セレスティが訊ねると、女はええ、と短く答える。
「でも、管理も大変ですし、見に来る方のマナーも悪くなって、閉鎖してしまいました。今はもう、面影もありません。でも、良かったら入ってご覧になります?」
勿論、その申し出を断る筈がない。
「是非、お願いします」
依頼人が答えるよりも早く、みなもが言った。
++++++++++
「子供の頃、ここで良く遊んだけれど……思い出さないかしら。薔薇の下で交わす約束は絶対、なんて秘密を打ち明けあったりしたけど」
真っ赤な薔薇が咲き誇るアーチ状の鉄の門の前で、女は立ち止まった。
広い庭園に唯一、そこだけに薔薇が咲いている。
「秘密を告白って、どんな秘密ですか?」
さも何も知らない様な顔で花霞が問うと、女は笑って答える。
「そうねぇ、好きな人の名前とか、親に黙ってたテストの点数とか……、」
「薔薇の下で交わす約束は絶対、か。そのうち明けあった秘密を守るのが約束と?」
蓮が問うと、女は頷く。
「そう。ここで話した事、見聞きした事、全て秘密にすると言う約束。そう言えば、みぃちゃんと私の弟はこの薔薇の下で結婚の約束をしたのよ。弟が20歳になったら結婚しようって。永遠に守れない約束だけれどね」
「どうかなさったのですか?」
5歳の時に行方不明になったまま帰らぬ少年。それを知っていながら、セレスティは気の毒そうな顔をして見せる。
「ええ、15年前……、丁度みぃちゃんが引っ越す少し前に行方不明になってしまって。まだ5歳だったのに……生きていたら、今年で丁度20歳……」
「本来ならば、結婚の約束を果たす年齢ですね」
みなもはそっと女と依頼人を伺う。
女は涙ぐみ、そっとハンカチで目元を押さえているが、依頼人は青ざめ、少し震えている。
「―――みぃちゃん、約束守ってよ―――」
その耳元に、極小さな声でシュラインは囁いた。
幼い少年のような声で。
「いやっ!!私じゃない!!」
依頼人は慌てて耳を被った。
突然の悲鳴に女が鋭い視線を投げかける。
「どうしたんですか、大丈夫ですか?」
崩れるように膝を付いた依頼人に、支倉がまだ少年らしい手を差し伸べる。
「触らないで!」
怯えたように手を振り払い、女に視線を移す。
「私じゃないわ……、みきちゃんが……」
「どしたの?ねぇ、大丈夫?」
気遣う花霞の声にも依頼人は耳を塞ぐ。
僅かに女が微笑むのを、蓮は見逃さなかった。
「いやね、みぃちゃん。薔薇の下で交わす約束は絶対って、言ったのに」
「一体何を知っている?」
蓮の鋭い眼差しにも女は微笑で答える。
「子供の頃の遊びのお話。」
「遊びって何なんですか?」
依頼人を庇うように立つみなもと花霞。
「あなたが弟さんを殺したの……?」
「そして口止めをしたのですね?」
シュラインとセレスティの言葉に、女は心外そうに肩を竦める。
「殺すつもりなんてなかったわ。ちょっと突き飛ばしたら動かなくなっただけ。それに、口止めなんてしてないわ。私は、言っただけ。『薔薇の下で交わす約束は絶対』ってね」
女はゆっくりと赤い薔薇を掴み取る。
「毎年、思うの。薔薇の下で交わす約束は絶対。だから、見付かることは永遠にあり得ないってね」
「ねぇ、もしかして、その門の下に……」
言いかけて、躊躇う。
女のあまりに平然とした態度に少し怯えたのかも知れない。
花霞はそっと横に立つ支倉の手を握った。
「その門の下に、埋めたんですか……?弟さんを……?」
その花霞の手を強く握り返して、支倉が言葉を継ぐ。
女はにこりと笑った。
「さぁ、知らないわ。ここで見聞きした事は秘密なの……、薔薇の下で交わす約束は絶対よ」
「恐ろしい女だな」
蓮がボソリと呟く。
「子供の可愛い遊びのひとつよ」
「信じられない……」
青ざめるみなもの横で、シュラインは女の足元に視線を落とす。
「約束を思い出させる事で、助けを求めていたのかも知れないわね」
「約束を果たすべき年齢に達した訳ですからね……」
車椅子に腰掛けたまま、セレスティが溜息を付いた。
「……その門に咲いていたのは、白い薔薇じゃなかったか……?」
ふと、蓮が疑問を口にする。
15年前の写真では、確かに白い薔薇が咲いていた。
しかし今、目の前に咲く薔薇は赤。
「それなら、弟の血を吸って赤く染まったのかもね……」
笑う女の目の前で、はらりと花びらが散った。
end
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
1532/ 香坂・蓮 / 男 / 24 / ヴァイオリニスト(兼、便利屋)
1252/ 海原・みなも / 女 / 13 / 中学生
1651/ 賈・花霞 / 女 / 600 / 小学生
0086/ シュライン・エマ / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト
1883/ セレスティ・カーニンガム/ 男 / 725 / 財閥総帥・占い師・水霊使い
1653/ 蒼月・支倉 / 男 / 15 / 高校生兼プロバスケットボール選手
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■ ライター通信 ■
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土曜にバルサンを焚いた佳楽です、こんにちは。
この度はご利用有り難う御座いました。
バルサンの効きを良くする為に本棚から本を抜いておいたら、元に戻らなくなって悪戦苦闘しています。
小さな本棚のどこに、あの山のような本が詰まっていたんだか、謎です……。
と言う訳で。
また何時か何かでお目に掛かれたら幸いです。
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