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<東京怪談ノベル(シングル)>


Power of the Hell

ライは知り合いから有る依頼を任された。
「…しごとか?」
興信所からじゃなくても魔物退治の話は舞い込んでくる。
どうもある魔術師が物質界(Prime Material Plain)と外世界(Outer Plain)を繋げて厄介な悪魔に取り憑かれたそうだ。
ライ・ベーゼはソロモンの秘術を用いる召還師。
ソロモン王と言えば知っている者もいるだろう…。72柱の魔王を従え使役し国を治めた王。
彼がどうした治世をしたか真実は闇の中だが、術の伝承研究は発展していった。
ライ・ベーゼもその中の一つ召還術をマスターしたのだ。
仕事は、地獄の悪魔に取り憑かれた魔術師と戦い、それを除去すること。魔術師の生死は問わないらしい。なんでも、行方不明らしい。通り名は「闇の業火」。
因みに地獄を多元宇宙論で言えば、すでにアスタロトにしてもサタンも地獄の真の支配者ではなく、伝説としてか語り継がれていない。彼らは意志のみ存在し、今では術によってのみその姿を現す。
もっとも、秩序、規律という存在がある地獄は、
「地獄の法律を駆使した策略合戦で負けると降格する」
「真の名前を告げられると無力になり、絶対服従」
というルールがあるのだ。
知恵と策略で争われる世界…それが地獄であり、そこに生きる悪魔(Devil)だ。

「「闇の業火」って、ひねりがないな」
ライはゲッソリとして山道を進む。いつも本に囲まれ生活している分…一寸した運動でも息を切らすほどの体力のなさなのだ。前も、知り合いとキャッチボールを無理矢理させられたとき豪快に顔面に球が当たったそうだ。鼻血もなかなか止まらなかったらしい。
それもソロモン悪魔召還を極めたための代償といえばやむを得ないだろう。
茂みにはやはり、魔物のにおいが染みついており、吐き気をもよおす。
「だいぶ、暴れているな…」
この山道は秋口になるとハイキングルートとして人気が高くなる。紅葉が美しいのだ。
しかしそれも秋だけで、他の季節は滅多に人が来ない。
下調べで、ニュースなどを見ると、神隠しのような事件が多発している。
おそらく、悪魔がこの山踏み言った者を引きずり込んで殺戮の限りを尽くしているのだろう。この世界の進出計画を行う前の享楽を楽しんでいるようだ。本来なら…人に憑依した悪魔は人の中に紛れ込んで魂を喰らうだろう。
妖気が強くなってきた…。
「この妖気は…地獄8階層以下に棲む悪魔か?」
彼のつぶやきと同時に…茂みから…うめき声を上げる…敵が現れた。

「ハァハァ、下手に召還魔術を使うからだ…ハァハァ…それに鬼ごっこなんてしたくもないのに…」
ライはブツブツいいながら間合いをとるため走る。とは言っても…歩いているようにしか見えない。
すでに息を切らしている…。
相手は、残忍な笑いで歩き迫ってくる。
悪魔と化している相手は即効で恐怖空間を形成しており…その間合いに危うくはいるところだったのだ。
その場にいたら身動きができなくなり、召還憑依合体すらできなくなる。
敵は、少し立ち止まった。
(!?)
すると周りの茂みから蔓が伸びてきてライの脚をとらえる。豪快に転けて、鼻を打った。
「痛!」
悪魔は詠唱や術動作、触媒がなくても魔法は使えるのだ(一部はサイキックも使える)。
「ほほう、忌まわしきソロモンの術を使う者か…術を使わせずに…こいつに憑依することが良いな…」
悪魔の体は徐々に炎をまとい辺りの木々を燃やす。そして憑依していた魔術師の「皮」を剥ぎ…本当の姿を現した。炎のような肌、コウモリの羽根に忌まわしき魔物の姿…。
「よりによってピットフィーンドかよ…厄介な者を召還したものだな…その代償が己の命…愚かな」
ライは心の中で思った。
「苦しまずに死ぬがよい。その肉体は私が貰い受ける」
悪魔の魔法がライを縛ろうとする。
「来い!アスモデウス!」
ライは印を結んで叫んだ!
瞬間!
一気に悪魔の炎と束縛術が解けた。
「しまった!」
頭上に…ライはいた。
漆黒の翼をもち、いつもと違う金色の瞳…。
「1秒の差だったな…地獄の軍団団長…。」
「人間風情が…」
悪魔は歯ぎしりする。
「この姿になった以上…お前に一切の勝ち目はない…」
「黙れ…お前の肉体ではアスモデウスの力を制御できるものか!それに今なら貴様を殺して俺が地獄の玉座に着く!」
「これだから悪魔は…」
ライはため息をついて…悪魔に突進していった。
アスモデウスはすでに正当神格保持者である。サタン、アスタロトに次いで強力な悪魔だ。
ライが憑依しているのは彼の化身である。
片腕だけで、ピットフィーンドを攻撃するが、相手もひるまない。
力の差は歴然としているが…流石に戦い慣れしているのはピットフィーンドだったようだ。
すでにライの召還術の欠点(肉体的に持続時間が10分が限界)を見切っており、持久戦に持ち込む気であるのだ。
地の利を生かした、トラップでライは苦戦を強いられる。
倒れ込んだライに近寄って止めを刺した。
悪魔は高笑いをする
「所詮は人間…悪魔を使役するなど出来はしないのだ!」
「そうかそうか、楽しい一人芝居だったよ…」
「何!?」
背後に倒したはずのライがいる。
「馬鹿な!」
「私を誰だと思っている?お前はすでに私の術中にはまっていたのだ」
幻影の元は、先ほどの死んでいた魔術師の皮だった。
本来、悪魔には幻影が効くことはない。しかしアスモデウスが行使した幻覚は別物だ。
正当神格保持者に喧嘩を売る事ほど、愚かな事はない…。
やけになった悪魔はゲートを開き同門を召還し数の勝負にでる。
しかし、召還した魔物はライの腕一降りで…消滅した。
「アエゼペリ…お前は己の心臓を抉り自害しろ…」
アエゼペリ…それは目の前にいる悪魔の真の名前である。
真の名前を言われた以上…悪魔はそのものに無力となり、命令に従わなくてはならない。
「おのれぇ〜!」
呪いの断末魔と共に…アエゼペリは己の爪で心臓をえぐり出して死ぬことになった…。
「仕事は…おわった…」
丁度10分。
魔王は元居た世界に帰り…ライは…その場で崩れ去る。
「つ…つかれた〜」
これからどうやって帰ろうか?と考えるライ。
「これがなければ結局力押しだったからな…」
小さな羊皮紙のメモをみていった…ピットフィーンドの真の名前の書かれた羊皮紙。
丁度暇なときに悪魔軍団のリーダーを調べていたのが幸いした。
羊皮紙には…何十人ものピットフィーンドの真の名前が書かれていたのだ…。
「ひとまず休憩だ…」
ライは近くに死んだ魔術師が使っていたらしい小屋を見つけて、そこを仮の宿にした。


End