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<東京怪談・PCゲームノベル>


竜神様のお祭り

■準備
 空に鰯雲(いわしぐも)が並ぶ心地の良い秋の日曜日。いつもは静かな竜閑神社も今日はとても賑やかだった。
 それもそのはず、今日は竜閑神社初のお祭り「竜神祭」の日だ。朝早くから屋台や露店が今夜の祭りに向けて準備を進めていた。
「ほらほら! そこ木にひっかけていいのは照明コードだけだよ!」
 コードをくわえて飛び回る鳥達に柚葉が指示を与えている。指示を与えられながら、鳥達は上手に灯籠(とうろう)を吊るしていき、侘びしい竜閑神社を賑やかなお祭り会場へと変えていっていた。
 祭りの前の、ちょっとした下見に来ていた蒼月・支倉(あおつき・はせくら)はその光景に感嘆の息をもらした。
「すごいじゃないか、すっかりお祭りといった感じだなぁ」
「支倉くん、良い所にきた!」
 ぴょいと台から飛び下りて、柚葉はずいっとトンカチと板を差し出してきた。
「背の高い人がいなくて困ってたんだ。ちょっと手伝っていってよ♪」
「うーん……義妹と待ち合わせしてるから、その後でいいかな?」
「妹さんってあの子?」
 柚葉が指差す先に、蒼色のリボンをつけた猫達に戯れる少女の姿があった。どうやらその猫の飼い主である白里・焔寿(しらさと・えんじゅ)と楽しげに会話を弾ませている。
「なんだ、もう来てたのか。なら話は早い、いいよ。僕に出来ることなら何でも手伝うよ」
「そうこなくちゃっ♪ じゃ、さっそく本殿の修理よろしくね」

■竜神祭開催
 準備は順調に終わり、やがて太陽が山の向こうへと隠れるころ。神社の灯籠がひとつ、またひとつと明かりが灯り始めた。それに伴い、参拝者が次々と神社へ訪問に来ていた。
 丁度、お昼寝から目覚めた竜神は修復作業を終えて一息ついている支倉の隣にちょこんと座り込んだ。傍らに置いてあったまんじゅうを何気なく頬張り、少し寝ぼけ眼で問いかけてる。
「祭り……見て回らないの?」
「行きますよ、もちろん。でも本番はもうちょっと過ぎてからだし、先に夕御飯を済ませておこうと思ってね」
「竜ちゃんも食べる?」
 支倉の隣にいた彼の義妹でもある、賈・花霞(じあ・ほあしあ)が竜神にお好み焼きのかけらを差し出してきた。
「あれ? ……このお好み焼き蕎麦がはいってる……」
「ああ、広島風のは焼そばが入っているんだよ。ボリュームもあって美味しいだろ?」
「……なんだかパサパサするなぁ……」
「……文句あるなら食べるなよ……」
 文句をいいつつも、もくもくと平らげていく竜神に、支倉はぽつりと呟いた。

◆迷子の子
「チャーム、アルシュー! 出ていらっしゃいなー!」
 薄紫色の浴衣姿に着替えた焔寿の声が、混み始めた境内に響き渡る。
 大きな猪のぬいぐるみを抱えた花霞が不思議そうに焔寿の顔を覗き込む。
「さがしもの?」
「ええ……私の大切な猫達がどこかへいってしまって……この人混みに迷子になってしまったのかもしれませんわ」
「猫の事情は猫が知るいうし、聞いてみるといいんじゃないかな?」
 丁度、傍の生け垣を通り過ぎた黒猫に2人は事情を説明する。黒猫はきょとんと首をかしげていたが、ひときわ高い声でにゃーんと鳴いた。
 すると、どこからか猫が次々と集まってきた。黒猫の会話(?)を聞き、数匹が生け垣から飛び下りて人混みの中へ消えていく。
「探し出して下さるのでしょうか?」
「そうじゃないかな? あ、ねえ……良かったら待ってる間にあそこのクレープ、半分こして食べない? 美味しそうだけど、ちょっと大きすぎるんだもん」
「ええ、よろしいですわよ」
「ありがとっ♪ それじゃ買ってくるねー!」
 足取り軽く、花霞は向かいにあるクレープ屋へと向かっていく。しばらくして茶色のぶち猫につれられた2匹の猫が焔寿の足下にすりよってきた。2匹の首につけられた蒼色のリボンを確認し、焔寿はそっと2匹を抱き上げる。
「お帰りなさい、無事に帰ってきてくれて嬉しいわ」
 ドォン、と本堂のほうから太鼓の音が鳴り響いてきた。竜神祭の山場、柚葉と有志による奉納の舞が始められたようだ。太鼓の音に導かれるかのように人々は本堂にあるやぐらへと集まっていく。
「舞が始まったということはそろそろ花火も上がりますわね」
 音にびっくりして猫達が逃げ出さないよう、焔寿はぎゅっと彼らを抱きしめる。
「お待たせっ。あれ? 猫ちゃん帰ってきたんだね」
「ええ、おかげさまで。私達も舞いを見にまいりましょうか?」
 焔寿はそっと右手を花霞に差し出した。その手をきゅっと握りしめ、2人は本堂の方へ足を向けていった。
 
◇子猫の健康管理は大切に
「このクレープ、すごく美味しいですわね」
 花霞から半分分けてもらったクレープの味は、ほんのりと甘く果実の風味がたっぷりと詰まった絶品の品だった。
「けっこう並んでいたみたいだけど、それだけの価値はあるよね」
 花霞も気になっていたクレープを食べて満足しているようだ。
「猫ちゃんたちも食べる?」
 焔寿の抱えた猫達にクレープを差し出す花霞に、焔寿は手で制した。
「ごめんなさい、虫歯になるもとなんでこういうのあまり上げてはいけませんの。それに……人に合わせた料理は味が濃すぎて身体にもよろしくないのでご遠慮させていただいてよいかしら」
「あ……ごめんなさい」
 しょんぼりとうなだれる花霞に焔寿はくすりと微笑みかける。
「いいえ、そのお気持ちだけでも有難いですわ。さ、それよりも少し急ぎましょう。折角の舞が終わってしまいます」
「そうだね、柚葉ちゃんの踊りを見逃しちゃうもんね」
 2人とも浴衣姿であるのと、人の流れができていたため、あまり急ぐことは出来なかったが、2人は出来る限り歩調を速めて本堂へと急ぐことにした。
 舞を見に集まっているのは何も参拝にきていた人間だけではない。あらゆる動物達が本堂へと向っていていた。その中の殆どがこの神社に住んでいるもの達なのだろうが、中には小屋から脱出してきたらしく縄をつけたままの犬の姿なども見える。
「よほど人気者なんですね」
 動物達の目的は恐らく柚葉の舞いだろう。変幻自在の特技を駆使して踊る姿を一目見ようと集まってきているのかもしれない。
 階段を上りきると本堂のある広い広間に出る。その中央に舞台は設置されていた。祭り特有のお囃子が響き、集まってきている人々から賞賛の声と拍手が上がる。
「うーん、ここから見るのはちょっと無謀、かな?」
「本堂の縁側から見てみましょうか?一段高くなっていますし、少しは見やすいかと思いますよ」
「うん、そうだね」
 立ち止まりつつ舞台を眺める人波を掻き分けるようにして2人は本堂へと向っていった。
 まるで何かに誘われていくかのように。

◆神様からのプレゼント
「どう? ここからの眺めが一番でしょ」
 特別席、と竜神が案内した場所は本堂の屋根の上だった。確かに眺めが良く、すぐ下にあるやぐらがしっかり見えるのだが……
「やっぱり下で見て良いかな? 危ないしね」
 まだ今はお囃子がなるだけでそんなに問題はないのだが、そろそろ花火もあがるため火の粉がとびちってくるのを心配しなければならない。それに祭りに誘われてやってきた動物達の邪魔になっているような気がしてならなかったのだ。
 ちょこんと頭に乗ってきたオウムをおい払い、支倉はやっぱり下で見るよ、と屋根から飛び下りた。
「ああっ、ちょっと待って」
 と、竜神も支倉の後を追う。ばたばたと駆け寄り、ぎゅっと支倉の裾を握りしめた。
「は、離れちゃったら迷子になってしまうよっ」
「はいはい」
 その様子に支倉はくすりと笑みをもらした。少しでもよく見える場所を、と階段を上ると、丁度舞台を見に来ていた焔寿と花霞にばったりと出会った。焔寿は竜神を一目見て、すっとその場にひざを下ろして深く頭をさげる。
「天恵飛魚命(アマノメグトビトルノミコト)様この度は生誕おめでとうございます」
 竜神は小さくうなずき、焔寿に微笑みかける。
「遠路はるばる疲れたでしょう。今宵の祭り、存分に楽しんでいってね」
「有り難いお言葉感謝いたします。この度の祝いにお持ち致しました我が一族の品を、どうぞお受け取りください」
 焔寿は懐から箱を包んだ小さな風呂敷を取り出した。箱の中には勾玉の首飾りが入っていた。力のあるものならば、それがかなりの力をもつ物だろうというのが分かる。
「ありがとう。よし、お礼に1つ披露しようかな」
 奉納の舞はいよいよクライマックスに近付いていた。
 竜神はぎゅっと勾玉を握りしめながら、右手を空に手かざす。途端、厚い雲が辺りを包み始め、霧のような雨が降り始めた。
「えっ!? あ、雨……!?」
 あわてて軒下に逃げ込もうとして、ふと浴衣が濡れていないことに気付いた。雨のようなものは着物の上で弾け、七色に輝きながら辺りに降りおり、そのまま地面へと吸い込まれていく。
「……光の雨?」
 人々はしばしその場に立ち止まり、空から降り注がれる祝福を眺めていた。
 やがて雨はかすむようにきえていく。ゆっくりと空が晴れていき、星空にくっきりと虹が現れだした。ここぞとばかりに花火職人が花火を打ち上げた。
 うっすらと青い虹がかかる星の瞬く澄んだ空に、ポン、ポンと色とりどりの花が輝く。
「どう? きれい……で、しょ……」
 力を使い果たしたのかがくりと崩れ落ちる竜神。支倉がとっさに抱きかかえなければそのまま階段を転がり落ちてしまったかもしれない。
「よっぽど嬉しかったんだな……」
 力の低い神族にとって、もっている力を出し切ることは死にも匹敵する。そうしてまでも彼はこの祭りを開いてくれたあやかし荘の人達と訪れた人々に礼を尽くしたかったのかもしれない。
「でも、ここまで無理をされなくてもよろしいですのに」
「自分なりのお礼がしたかったんだろうな。これの手助けもあるだろうと期待して、頑張ったんだとおもうよ」
 支倉はそっと竜神の首に下げられた勾玉に触れた。わずかにだが細かなひびがはいっている。やはりかなりの過負荷が与えられてしまっていたようだ。
「さ、辛気臭いことはそのぐらいにして、しめのお神輿担ぎいきましょ」
「神輿? そんなのいつの間に……」
「土台は先程、皆がつくっておられましたわ。あとは……天恵飛魚命様、おきてくださいませ」
 焔寿は己の持っている力をそっと注ぎながら、竜神の頬をなでる。竜神が身を起こすと、その手をつないで階段を下っていった。

 階段の先にはすでに用意されていた木製の神輿が用意されていた。神輿といっても、単に木材を重ね合わせた台座部分だけの代物だった。台座に敷かれた座布団にはっきりと「あやかし荘」の名が刻まれているあたりに妙な手作り感をかもし出している。
「あ、この台……さっき作っていた奴じゃないか」
 自分がちょっと失敗してしまった曲がった釘を見つけて支倉は苦笑の笑みをもらす。
「さ、龍神様お座りください」
 導かれるまま竜神はちょこんと台座に座る。
 汗だくのハッピ姿の柚葉がすでに待機しており、竜神をつれてきた焔寿にちょうちんを手渡した。
「はい、焔寿さん。道案内よろしくね。」
「分かりました。チャーム、アルシュ、いらっしゃい」
 柚葉から受け取ったちょうちんを揺らし、焔寿は神輿を先導していく。その後ろを動物達が続き、最後に男達に担ぎ上げられた神輿がついてきていた。

「そーっれ、わっしょいわっしょい!」

 賑やかな掛け声と共に境内をゆっくり神輿が通っていく。時折打ち上げられる花火に照らされながら通り過ぎる神輿に、みんな集まり担ぎあげていった。
「ん。とりあえず大成功、だね♪」
 その様子をながめ、柚葉は満足げに笑みを浮かべるのであった。

■祭りの夕げ
 祭りそのものはその日のうちに終わったが、奉納の舞は見逃した人も多かったためか数日間披露されることとなった。丁度見逃していた焔寿と花霞にとって有難いことだったが、貴重な男手という名目で全日程手伝わされた支倉には少々辛い数日間だったかもしれない。
「来年もまたやることにしたからの、楽しみにしておるからな」
 無邪気に笑う竜神。全身に疲れを覚えつつも、その笑顔に反論するものはいなかった。
「ああ、また来年、今度はちゃんとしたお神輿を担いでねり歩こうか」
「無論じゃとも。それまでにちゃんと力を戻しておくから楽しみにしておれよ!」

 終わり

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/ PC名 /性別/ 年齢/ 職業】
 1305/白里・焔寿/女性/ 17/天翼の神子
 1651/ 賈・花霞/女性/600/小学生
 1653/蒼月・支倉/男性/ 15/高校生兼
                  プロバスケットボール選手
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■         ライター通信          ■
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 大変お待たせいたしました。「竜神様のお祭り」をお届けします。
 お祭りといえば、丁度これを執筆している最中に近所の神社が秋祭りが開催されて、そうか……世間じゃ秋なのか……と妙にしみじみ思ってしまった逸話があったりします。

■白里様
 ご参加ありがとうございました。子猫ちゃん達も色々誘惑(屋台のご飯とか?)にかられて大変だったかもしれませんね。「ご近所のお祭り」という感覚で楽しんでいただけたのでしたら幸いです。
 
 お祭りは十分楽しんでもらえましたでしょうか? 竜神様は大変満足だったようすで来年もやる気まんまんのようです(笑)今度はちゃんとした神輿や舞殿での奉納の舞いができるのを祈りたいものですね。
 それではまた次の物語でお会いしましょう。
 
(文章執筆:谷口舞)