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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


二度ある事は三度ある〜深淵にて

 夏休みもそろそろ終盤です。
 色々と忙しいこの時期ですが――あたしはそんな中、再びみそのお姉様の衣裳部屋の整理のお手伝いをする事になりました。

 またです。

 …いえ、文句は何もありません。
 常日頃色々と頼み事をしていますし。
 何よりお姉様が大好きですから。

 …ただ、どうにもあたしがみそのお姉様の衣裳部屋に来ますと、色々と…色々と起きて――と言うかこの場に不慣れなあたしが何事か色々と起こして、みそのお姉様を困らせてしまうようでして。
 いえ、それもそれで嫌、ではないんですが――。
 …ううん、こんな言い方すると色々と誤解されてもしまいそうですが…。
 何にしろ取り敢えず、引っ掛かるのはそのくらいです。

 はい。

 …他は全然構わないんです。
 しつこいようですが、言い訳じゃありませんよ?

■■■

 深淵の衣裳部屋。
 毎度のように何かが起きる。
 …それでも一応、毎回色々と勉強はしているので。
 今回は、みそのお姉様の手によって、みなもが奥の方まで入れないようにシャットアウトをしてあるようです。
 で。
 何事も起こらないように――と願いつつ、取り敢えず手前の衣装から整理を始めました。
 …いつも借りたりしている“陸”用の物です。
 乱れていたものは、整えて。
 別の場所に紛れていたものは、元あった場所に置き直して。
 てきぱきと。
 …数度やっているので、この程度の事ならば――そろそろ手馴れています。
 が。
 あたしの住んでいる“陸”の常識が通じないのも深い海の底――この場所の特徴で。
 いつ何が起こるかわからないのは確かです。
 注意してし過ぎる事はありません。
 …なのにやっぱり。
 好奇心があり過ぎたのでしょうか。
 単に不用心だったのでしょうか。
 またやらかしてしまいました。

■■■

 みそのお姉様が部屋の奥に一部の衣装を置きに行った時。
 即ち、手前の辺りで、みなもがひとりにされたその時の事。
「あれ…?」
 持っていた黒い衣装――いや、わざわざ言わずとも置いてある物は基本的に黒ばかりなのだが――を、形を整えてハンガーに提げ直しているその時、ふと、不思議な形の装置が無造作に置かれている事に気が付きます。
 なんだろう。
 ここにあると言う事は――それ程危険な物でもないのでしょう。
 …奥――つまりある意味危険地帯――には、あたしは入れないようにしてくれてある訳ですから。
 だからこれは大して問題は無い物なのでしょう。
 そう判じ、みなもはその装置を観察します。
 が。
 見れば見る程わかりません。
 …何の為の、何をする装置だろう?
 気になる。
 みそのお姉様が戻って来たら訊いてみましょう。
 ひとり頷き、みなもは再び、じーっとその装置を見遣った。
 見れば見る程わからない。
 好奇心を刺激する。
 みなもは悩んだ。
 悩みつつ。
 おもむろに手を伸ばしてしまいます。
 指先が装置の一部に触れました。
 ――途端。


 びしびしっ


 薄紅の粉が。
 続き、石灰のかたまりのようなものが――指先に。
 びしっ、と張り付いてきた。
 …?
 みなもは首を傾げる。
 が。
 手を引っ込めては見なかった。
 またも、好奇心が勝ってしまいました。
 そしてそれが――運命の分かれ道。


 びしびしびしっ


 指先から、手、手首。
 すべらかな固い物。
 薄紅の固い物。
 まるで珊瑚のような。
 肌の上。
 覆われて行く。


 びしびしびしびしっ


 冷たい。
 …んじゃなくって。
 それどころじゃない!
 焦る。
 覆われた場所を反射的に動かそうとする。
 動かない。
 …動けない。
 え、と、あの、これは…。


 びしびしびしびしびしっ


 肌の表面を走る珊瑚の勢いは止まらない。
 その内、肩にまで届いた。
 次には首。
 胸。
 容赦無くびしびしと薄紅に覆われて行きます。
 そして覆われたその部分が――冷たく、固く、動かなく――なっていて。
 動揺した姿のまま、みなもの身体は徐々に固まって行きます。
 その事実に――後悔頻り。

 ど、どうしよう…。
 これは………………やっぱり、またやっちゃった、って事ですよね…?

 と、みなもが思った時には。
 紅珊瑚で彫られた彫刻の如き『マネキン』が――ただそこに立っていた。

■■■

 で。
 その『マネキン』――動けなくなったみなもを発見したみそのお姉様は、くすくすと笑いながら薄紅色のその姿を見ていました。
 暫くの間。
 …面白い…んでしょうか。
 だったらこれでも…いいのかな。
 思いつつ、みなもは困ります。
 …動けない。
 話せない。
 …えー、と。
「本当にいつもみなもは…可愛らしいですわね」
 やがてみそのお姉様の鈴を鳴らすような声が聞こえたと思ったら――そこであたしの意識は暗転した。

 暫し後。
 取り敢えず『マネキン』状態から戻してもらったみなもは心底安堵したように息を吐いていた。
 みそのお姉様、曰く。
 …知人から「『マネキン』を造る装置」なるものを貰って、そのままにしておいてしまった、との事。
 みなもはいつの間にやらそれを起動させて、しかも丁度良くその対象になると言う器用な事をしてしまっていたらしい。
 みそのお姉様は、仕舞っておけば良かったわね、と、ころころ笑いつつ、説明している。
 その様子を見ていると…困らせたと言うより喜ばせてしまった、ような気もするんですが気のせいでしょうか。

 二度ある事は三度ある。
 …さすがにこれ以上は失敗――いえ、ある意味では失敗じゃないのかもしれませんが――しないように…と思いますが…それはやっぱり希望的観測でしょうか。

【了】