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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


 首狩り

 (オープニング)

 東京の西で、奇妙な殺人事件が数件、連続して起こっていた。
 路上で、問答無用で首を切り落とされるのだ。
 それだけなら普通の凶悪犯罪だが、奇妙なのはどの死体も首以外に全く外傷が無い事だった。
 住人が恐怖を感じるのに、十分な事件であるが、それでも、人は家に閉じこもっているわけには行かない。学校や仕事などに、行かなくてはならない。
 今夜も、一人の中学生の少女が街を歩いていた。
 彼女が塾から家に帰る途中の出来事である。
 カシャン。カシャン。
 金属が絡まるような音を、背中に聞いた。
 …何だろう?
 振り返る。
 人が、立っていた。
 鎧と兜を身に纏った人間が、刀を手に立っていた。
 16世紀の日本の戦場であれば、決して不自然では無い。だが、ここは21世紀初頭の日本である。
 「あ、あの、コスプレさん…ですか?」
 逃げるよりも、まず声をかける少女は、何かが少し狂っているのかも知れない。
 鎧武者は答えずに剣を振る。
 「う、うわ、何するんですか!」
 少女は反射的に両手をかざして身を護ろうとした。
 だが、鎧武者の刀は少女の両手に触れ、そして、突き抜けた。
 少女の手には傷一つ付かない。
 鎧武者の刀は少女の首に迫る。
 手ごたえも無く、少女の首が胴体から離れる。
 少女の首は宙を舞い、少女の胴体は糸が切れた操り人形のように地面に崩れた。
 胴体から離れた少女の顔の目線と、兜の下で赤く光る鎧武者の視線が一瞬重なり、少女の首が地面に落ちた。
 それは、一瞬の出来事だった。
 ある意味、少女は幸運だったのかもしれない。
 鎧武者は、少女の顔をしばらく見つめていたが、そのまま歩き去っていく。
 そして、沈黙。
 後には少女の胴体と首が残ったが…
 おもむろに少女の首が音も無く宙に舞い、何事も無いかのように胴体に戻った。
 「な、なんか、私、実は凄くラッキー?」
 思わず、少女はつぶやく。
 本当に、彼女…檜山友里は幸運だったのかもしれない。
 もしも友里が妖怪『飛頭蛮』の血を引いていなかったら。先祖帰りで首を胴体から離して飛ばす能力を使えるようになっていなかったら。おそらく新しい犠牲者になっていた事だろう。
 とりあえず、友里はあわてて草間武彦に相談に向かった。もちろん、体も一緒に…

 (依頼内容)
 
 ・首狩り殺人事件が連続して発生しています。誰か助けてあげて下さい。
 ・でも、首をはねられると死んでしまうかも知れないので、気をつけて下さい。
 ・友里は、首を胴体から離せる以外の能力は一切ありません。
 ・今回、猫は多分、出て来ません…

 (NPCの登場履歴)

 檜山友里:首から下は…

 (本編)

 0.シュライン・エマ

 かくして、草間興信所に駆け込んだ友里。
 「よく無事だったわね…」
 「全くだ…」
 彼女から簡単に話を聞いて、呆れているのはシュライン・エマと草間武彦である。シュラインに至っては顔色が青い。
 ともかく、友里が襲われた場所や時間等を本人に確認しておきたいとシュラインと草間は思ったが、危うく死にかけた友里は、落ち込んではいないものの、さすがに少し動転しているようである。なので、今日はひとまず友里を家に帰し、後日落ち着いた所で話を聞いてみる事にした。
 まさか再び襲われる事も無いだろうが、一応、二人は友里を家まで送っていく。
 「『首を斬られそうになったけど、首が体から離れても平気な体質だったので助かりました』
  …て、友里ちゃんて幸運なのかしらね?」
 「まあ、一応は無事だったわけだしな…」
 シュラインの問いに、草間は首を傾げた。

 1.友里の話

 基本的には能天気な少女である。事件の後、一晩ぐっすりと寝た檜山友里はすっかり落ち着いていた。
 再び草間興信所にやってきた彼女の周囲には、事件の具体的な話を聞こうと数人の者達が集まっている。
 「えーとー、何でも聞いて下さいね」
 友里の周りに集まっているのは、草間を含めて7人。何だか大げさな事になってるなーと彼女は思った。殺されかけたのだから、大げさな事には違いないのだが…
 「そうだな、まずはスリーサイズと通ってる中学の名前、好きな遊び辺りから教えてくれよ!」
 言葉を選ぶ他の者達に先駆けて友里に尋ねたのは、見た目は彼女と同年代の天狗少年、天波・慎霰だった。天狗だけに元気が良いようだ。
 「え、えーとー…」
 答えにくそうにする友里。
 「それって、事件に関係無いと思います…」
 慎霰や友里よりも少し年下の中学生が冷めた目で慎霰を見ている。海原・みなもだ。人魚の末裔でもある彼女は、友里とも面識がある。
 「…友里ちゃん、事件に関係ない事は聞かれても、無視して全然構わないからね」
 生真面目に困っている友里に苦笑したのはシュラインだ。
 「そうだな。慎霰はとりあえず置いて、とりあえず友里が襲われた場所を教えてくれよ」
 友里に尋ね直したのは慎霰の相棒の高校生、和田・京太郎である。まずは場所を聞きたいという彼の考えには、皆、大体賛成だった。
 「わかりました。まず、住所はですね…」
 友里は大体の番地や現場の地図等を書きながら、場所について説明を始める。
 「駅前の塾からの帰り道です。路地に入った所で人通りは少ない場所ですねー。
  田舎ですから、昔の石碑とかそういうのは結構あります」
 霊的に怪しそうな場所は幾つかある感じだった。 
 「よし、場所がわかれば十分だ。
  その辺を適当にうろついてたら、その危ない鎧にもそのうち会えるんじゃねーか、きっと」
 「そーだな。行くか!」
 と、元気の良い高校生達は話も半ばに、早速興信所を飛び出してしまった。
 「むう…若いですな」
 「ああ。若いうちはあれ位の方が良いさ」
 先程から黙っていた真言宗の僧侶と初老の男性が口を開く。
 護堂・霜月と関野・孫六である。
 人魚の肉を食べて不老の体になった霜月と、そもそも介錯用の刀の付喪神であり人間ではない孫六は一般人的感覚の若さというものを失って久しい。
 「そうだな、現場の調査とパトロールは若い奴等に任せるとして、年寄はもう少し友里の話を聞いとくか」
 「あたし、年寄りじゃないです…」
 ふふっと笑った草間に、みなもがむすっとした表情を浮かべている。
 「さて、確認しておきたかったのですが、友里殿が見た鎧武者、鎧を着ていたという事は兜も被っていた訳ですな?」
 「あ、えーとー、何か被ってましたです」
 霜月の問いに友里が答えた。
 「…なるほどな、あの頃の武者は兜に意匠を凝らしたもんだよな」
 孫六が頷く。刀の付喪神である彼は、武具には造詣が深い。霜月の意図を察したようだ。
 兜の飾りから武者の素性を特定出来ないかと、彼は言いたいわけである。
 「なるほど、そういう方向からのアプローチもあるのね」
 「へー、兜飾りですか」
 シュラインとみなもが感心している。
 「兜の飾りですか…
  うーん、あんまり覚えて無いですねー」
 友里への聞き込みは、そんな調子でしばらく続いた。

 2.鎧武者は何処だ?(孫六&シュライン編)

 友里への聞き込みで、彼女が襲われた場所や鎧武者の兜飾り等、容姿に関する特徴が大体わかってきた。
 鬼の角のような兜飾りが、鎧武者の特徴であった。草間達は次の手を考える。
 「そうね…調べたい事はいっぱいあるんだけども、友里ちゃん、私と一緒に図書館でも行かない?
  鎧の資料なんかを友里ちゃんに直接見てもらったほうが、鎧武者の素性を特定しやすいと思うんだけども…」
 シュラインが一同に言う。
 「そうですな、地元の図書館や資料館に何か手がかりもあるやも知れません」
 「こういう事は、足を使うことが基本だよな」
 霜月と孫六は、すぐにでも行こうと言った。
 「でも、あんまりみんなで同じ所に行っても無駄っぽいですよね。
  あたしはネットでしばらく調べる事にしますね」
 草間さん、そういうわけでパソコン貸して下さい。と、みなもは言った。
 「最近の若い奴は、すぐ、電気を使いたがるぜ…」
 孫六が何やら寂しそうにしている。
 「いんたーねっとですか。それも、一つの手段には違いありませんな。
  …よし、今日の所は私も興信所に居残りしてみるとしましょう」
 意外と新し物好きの僧侶、霜月である。
 「よし、みなもと霜月は残ってネット方面からの調査で、後の連中は現地に飛ぶって感じだな」
 草間の言葉で行動方針はまとまり、現場付近にはシュライン、孫六、友里の三人が向かう事になった。血気盛んな京太郎と慎霰に至っては、すでに現場を走り回っている。
 「さて、いんたーねっと用の、私のぱそこんも、ありますかな?」
 「電気代も無料じゃ無いんだがな…」
 草間がノートパソコンを霜月に手渡す。興信所に居残り組は、そうしてネットでの調査を始めた。
 「行って来るわね、武彦さん」
 と、シュラインは興信所を後にした。
 さてさて、まずは地元図書館で友里ちゃんに資料を見てもらいながらの調査かしらね。図書館なら古い新聞も置いてあるだろうから、友里ちゃんより前に襲われた被害者の特徴も調べたりも出来るだろうし。
 …うーん、何にせよ調べる事が多そうね、今回は。
 どこから手をつけるか考えるシュラインだったが、
 「お嬢さん…あんた、刀を振るのは得意かい?」
 孫六がふいに、声をかけた。
 「シュライン・エマ。シュラインよ」
 シュラインは即答した。年増とかおばさんとか言われるのは論外にしても、お嬢さんと呼ばれるのもどうかと思う彼女である。
 「そうかい。じゃあ、シュライン。あんた、刀を握った事はあるかい?」
 「握った事位はあるけども、得意って事は全然無いわ」
 孫六は何を言おうとしてるのだろうかと、シュラインは首を傾げる。
 「私、体育の授業で剣道ならやりましたよ!」
 友里が言う。
 「竹刀は、刀とは言えねえなぁ…」
 孫六は、ふっと微笑んだ。
 「いや、いざって時には俺を振ってもらうかも知れないからな。一応、聞いてみたんだ」
 この、殺陣師として映画に関わる仕事をしている初老の男性の本性は、銘刀孫六兼元に魂が宿った付喪神である。刀の姿に戻った時は、誰か持ち主が居た方が孫六は力を発揮出来るらしい。
 「うーん…そういうのだったら、霜月さんとか得意そうよ。
  …あ、でも刃物は無理っぽいわね」
 武芸に卓越した僧侶は、しかし僧侶ゆえに刃物は禁物かも知れなかった。
 確かに、調査中、鎧武者に首を狙われる事が無いという保障など無い。もしもの時は考えとくわ。と、シュラインは言った。
 「じゃあ、私は友里ちゃんと一緒に資料を見てるわね」
 「ああ、俺は新聞でも漁って、過去の事件について調べてみるよ」
 地元の図書館についたシュライン達は、手分けして調べ物をする事にした。シュラインは友里と共に資料を調べる。机に本を積み上げ、シュラインと友里は地元に伝わる鎧の資料や戦国時代の伝承等を手当たり次第に当たってみる。普段は中高生の夏休みの自由研究などにしか使われない、マイナーな郷土資料なども開いてみた。そのうちに、友里が見覚えのある鎧を資料の写真の中で見つけた。
 「あー、シュラインさん。これですよ、これ!
  昨日見たの、この鎧に似てます!」
 シュラインも、友里が見ている資料を覗いてみる。
 幾人もの鎧武者達が槍や刀を振りかざして野原を走っている。それは、16世紀の合戦の様子を記した絵画だった。
 『河越合戦ノ絵図』と、絵には描いてある。
 「こっちの方で戦ってる武士さん達の鎧の様子が、すごく似てるんです」
 友里は数人の武士達の絵を指差した。
 「なるほどね、鬼の角みたいに尖った金属が兜飾りになってるのは、友里ちゃんが言ってた通りね」
 シュラインは頷きながら、さらに資料を眺める。解説の欄を見てみると、この『河越合戦ノ絵図』は歴史資料としては信頼の高い絵のようで、武士達の装備品などがリアルに描かれている絵画として歴史家達の間では定評があるようだ。という事は、鎧兜の形等も信憑性は高そうなのだが…
 「でも、武士さんの素性とかって何にも書いてないですね…」
 友里の言うように、絵画は絵画でしかなかった。この絵だけでは、鎧武者が何処の何者かは全くわからない。
 「うーん…とりあえず、河越合戦っていうのに参加した人なのよね…」
 河越合戦について、もう少し調べてみようかしら。とシュラインは考える。
 「ほう、河越の戦に参加してた奴なのか。そーすると、結構大物だったのかもしれねーな」
 そこに、ふいっと孫六が帰ってきた。
 「あんた、河越合戦を知ってるの?」
 「ああ、直接は参加しちゃいねぇが、かなり有名な合戦さ。あの時代の刀なら誰でも知ってるぜ」
 その時代には現役で刀をやっていた孫六である。文字通り生き証人だ。
 「あの頃の東京周辺は『武蔵』って呼ばれてる田舎の地域でな、戦国大名達がいつも領土争いをしてたんだ…」
 と、孫六は河越合戦について話を始める。
 15世紀後半から16世紀前半まで、誰が領主かもはっきりしない混乱が続いた『武蔵』は戦国時代の象徴のような土地だったのだが、そんな状態に、ひとまずの終わりを告げる戦いが『河越合戦』だったと孫六は言った。
 『河越合戦』では、武蔵を含む関東地方で勢力を広めつつあった北条氏康という大名が、対抗勢力の連合軍と雌雄を決した大きな戦だった。それは戦国時代の当事でもかなり大きな戦争だったようで、周辺の武士達は北条側か対抗勢力のどちらかに属して激しく戦ったという。戦の結果は北条側の勝利で、以後、徳川家康の時代の前までは北条氏が武蔵を支配したようだ。
 「その絵を見る限り、鎧武者は北条側じゃなくて負け組の対抗勢力に味方して戦ったらしいな」
 最後に孫六は、そう、話を締めくくった。
 「へぇー…」
 難しい話だなー。と、友里は話を聞いていた。
 「大きな合戦で負け組になったわけね。
  いかにも怨念とか、そういうのがありそうなシチュエーションね」
 さすがに友里と違い、シュラインは要点を掴んでいる。
 やはり、もう少し調べてみたいところなのだが…
 ひとまず、シュラインは『河越合戦』に参戦した武士の鎧が、友里が見た鎧に似ている事を草間達に伝えた。
 「そうだ、それから、俺が調べてた過去の事件に関してだけどな、被害者は年齢も性別もバラバラで、そっちの関連性は無いみたいだったぜ。
  ただ、被害者が襲われた場所についてなんだがな、それが、こういうわけだ」
 と、次に孫六は地図を机の上に置き、十円玉を地図の上に置いていった。
 「あれ、なんか、うちの近くの石碑を囲むように事件が起きてますね」
 友里が地図に置かれた10円玉の配置を見るなり言った。
 「この石碑、さっき、何かの資料で見かけたわね。北条氏と戦った武士達の石碑とか何とか書いてあったわ」
 何となく、話が繋がったとシュラインは思った。河越合戦の際、北条氏に立ち向かって散っていった武士達を鎮魂するための石碑がそこにあったのだ。
 「明日は武彦さん達にも言って、石碑に行ってみましょうか?」
 「ああ、そうだな」
 そのまま夕暮れの図書館の閉館時間まで資料を調べたが、それ以上の事はわからず、シュライン達は今日の調査を切り上げる事にして、興信所の草間に連絡すると、他の者達の所でも動きがあったようだ。
 まず、最初に現場のパトロールに向かった京太郎と慎霰は鎧武者と遭遇し、一戦交え、お互い手傷を与え合ったそうだ。ネットでの調査を元に古美術商に乗り込んだみなもと霜月も、途中で鎧武者に遭遇して戦ったらしい。
 「な、なんか、私達の行く先々に現れてるわね…」
 シュラインの顔が引きつっている。
 まさかとは思うが、もしもという事はある。念の為、シュラインと孫六は友里を家まで送ってから興信所に帰る事にした。
 「わ、私、昨日襲われましたし、今日は平気ですよね…」
 「だと良いわね…」
 シュライン達は言葉も少なに友里の家まで向かう。
 「なるほどな、わかったよ」
 おもむろに言ったのは、孫六だった。
 「どうしたのよ、急に」
 シュラインが尋ねる。
 「奴は、霊気や妖気に魅かれる性質もあるのさ。
  そういえば、被害者の一人は霊感が強かったって書いてあったな。
  …刀の付喪神のそれがしには、特に魅かれたのかも知れんな」
 良いながら、孫六の姿が霧のように霞む。
 …何かが近くに居る。
 シュラインにも何となく気配が伝わってきた。
 …カシャン、カシャン。金属がこすれる様な音が聞こえた。
 「あんたと来たのは失敗だったってわけね…」
 友里が居るし、逃げるわけにもいかない。
 「なに、そんなに難しく考える事は無いぜ。
  あんたは戦う必要は無い。ただ、俺を手に取って『持ち主』を演じてくれりゃあ、それでいい。後は、俺がやるさ…」
 すでに孫六の姿は日本刀、銘刀孫六兼元の姿になっていた。
 「な、何だかわかんないけど、やってみるわね」
 と、シュラインは刀を手に取る。
 …カシャン、カシャン。
 ついに、目の前に、傷だらけの鎧の姿が浮かび上がった。
 おそらくは他の者達との戦いで受けた傷だろう。チャンスに違いないとシュラインは思ったが、しかし、自分もこういう戦闘は専門外だ。
 (あんたには…介錯が必要みたいだな)
 そんな彼女の頭の中で声が響いた。刀の…孫六の声だった。
 次の瞬間、彼女の体は自然に動く。
 上段に日本刀を構え、無駄の無い動きで宙を舞う彼女の動きは、本来の彼女の身体能力を越えていた。
 一瞬、孫六と鎧武者の体が交錯し、シュラインの首に一筋の浅い切り傷が出来た。
 そして、ゴトリ、と地面に落ちたのは、がらんどうな鎧武者の兜である。
 「うわ、シュラインさんて剣士な人だったんですね…」
 友里が感心している。
 「わ、私は何にもやってないわよ…」
 彼女の体を動かしていたのは刀、孫六だった。半分憑依するような形でシュラインの体を操っていたらしい。
 「…よし、上出来だったぜ」
 人間の姿に戻った孫六は、小さくつぶやく。
 何はともあれ、鎧武者を退治する事は出来たようだ。シュライン達は友里を送ってから興信所に帰った。
 「う、うわ、大丈夫ですか、シュラインさん!」
 シュラインの首の傷を見てみなもが驚いている。
 他の者達も、興信所に帰還していた。
 簡単に手当てを受けながら、シュライン達はお互いの調べて来た事を話し合う。
 結局、鎧武者は各地に現れ、最終的には、すでに傷だらけになった所を孫六とシュラインにとどめをさされたようだ。
 「何だよ、おいしい所は持ってかれちまったのか」
 「いーじゃねーか。解決したんだから」
 ぼやく慎霰を京太郎がなだめる。
 他の四人の調査で、今更ながら鎧武者の正体はわかってきた。
 「いんたーねっとで幾つか、それらしき兜飾りの武士の伝承は見つかったのですが、『河越合戦』で北条に対抗した勢力の武士という事は…やはり、これですな」
 霜月がインターネットのホームページを示す。
 『戦国の兜飾りと武士達』というホームページには、さまざまな兜飾りと武士の事が書いてあった。
 その中の一つ、火堂源信という武士の一派が、鬼の角の兜飾りを愛用して『河越合戦』で北条に対抗したとある。
 首を落とす。
 その事に特化した彼等の戦場での槍さばき、太刀さばきは北条勢力に恐れられたそうだ。
 「私と霜月さんが会った鎧さん、どこからか『声』が聞こえて目を覚ましたって言ってました…」
 みなもは言う。
 火堂源信の一派の鎧が最近収められたという博物館を、みなもと霜月は訪れていた。
 そこで、みなも達は鎧と交信したそうだ。その、博物館でみなも達が会った鎧は、そのまま静かに眠りについたと言う。
 何かの『声』が鎧を一種の悪霊化させていたようだ。
 「『声』…ね。
  丁度、鎧が現れた現場の中心にね、その火堂源信の慰霊碑みたいのがあるみたいなんだけど、行ってみない?」
 シュラインの言葉に反対の者は居なかった。
 翌日、一行は石碑へと向かった…
 
 3.鎮魂

 「なんか、少し嫌な感じだな」
 「…いっその事、壊しちまうか?」
 京太郎と慎霰が石碑を前にして言った。
 嫌な感じは、皆が感じていた。
 「…ふむ、石碑が大分汚れた上に、ずれてますな。
  それで、慰霊碑の効力が弱くなっていたのかも知れません」
 霜月が石碑の様子を眺めながら言った。
 「あの時代を生き抜いた男達の魂は、ちょっとやそっとで消えるもんじゃねぇからな…
  それが怨念だっていうなら、尚更だ。時間が解決してくれるまで、慰めてやるのが筋ってもんさ」
 感慨深げに孫六が言った。
 「確かに嫌な気配は感じるが、火堂源信の悪霊が大暴れ!
  …て感じでも無いみたいだな。
  石碑の掃除をして、お参りでもして帰るか」
 「そうね。それでもわかってくれないようだったら、何か考えましょう」
 草間とシュラインの言葉に、皆、頷いた。
 それから7人でしばらく慰霊碑の掃除をして、火堂源信の霊を慰めた。
 …何となく空気が軽くなり、嫌な感じが去った気がした。
 「後日、私が真言宗の正式な祈りを捧げておきます。
  それで、おとなしくなれば良いのですがな」
 と、最後に霜月が言った。
 これが、首狩り事件のひとまずの解決になった。
 現在の所、新たな首狩武者が現れたという報告は草間の所には届いていない。
 ただ、鎧武者と対峙した時に、一瞬とはいえ、肉体の限界を越える剣舞を舞わされたシュラインは、その後2週間近く、重い筋肉痛で苦しむ事になったそうだ。
 「たまには、良い運動になったろ?」
 「冗談じゃないわよ、本当に…」
 冷やかす草間に、シュラインは苦々しげな顔で答えたらしい。
 
 (完)

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0086 / シュライン・エマ / 女 / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト】
【1252 / 海原・みなも / 女 / 13歳 / 中学生】
【1069 / 護堂・霜月 / 男 / 999歳 / 真言宗僧侶】
【1928 / 天波・慎霰 / 男 / 15歳 / 天狗高校生】
【1837 / 和田・京太郎 / 男 / 15歳 / 高校生】
【1885 / 関乃・孫六 / 男 / 483歳 / 殺陣師】

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■         ライター通信          ■
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 毎度ありがとうございます、MTSです。
 今回はプレイングを見た感じで、3グループに別れるような話になりました。
 シュライン&孫六組は、調査&ちょっとだけ戦闘な展開になったようです。
 孫六の相棒さんが今回は姿が見えなかったので、戦闘の時、代わりにシュラインが相棒役を務める感じになったのですが、やはり無理がありました…
 ともかく、おつかれさまでした。また、気が向いたら遊びに来てくださいです。