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海の見える庭
□オープニング
その日訪れた依頼人は大学生だった。
西宮玲奈(にしみや・れいな)と名乗ったその女性は幾つかのメモと写真を取り出した。写真には一人の男性が写っている。
「これは?」
「鈴木孝史(すずき・たかし)さんです。この方を捜して欲しいんです」
メモにはかつての住所と所属大学だけが記されている。思い出したように西宮は二年前の写真だそうですと付け加えた。
「その住所には少なくともいらっしゃらなかったので……、人探しの方法もわかりませんし」
メモのほうもなんだか少しいびつな文字が並んでいる。まるで日本語を知らない人間が記号として書き写したようだ。
眉を寄せた草間に気付かない様子で西宮が付け加えた。
「あの、一週間以内に出来ますか? 出来ないのなら他を当たりますのでそこだけ教えていただけると嬉しいんですけど」
「……何故一週間以内なんです?」
「エーリンナが来るんです」
「エーリンナ?」
草間は首を傾げた。
西宮の話を総合するとこうだ。
西宮はギリシアに旅行中交通事故に遭った。崖から危うく転落する所だったが、教会の形の小さなポストのような物に当たり、落ちずにすんだ。
そこで壊した事を連絡しなくてはとその小さなポスト(イコナ・スタテューというらしい)を調べるとイコンと二枚の写真と住所が出てきた。鈴木とギリシア人女性の写真が一枚ずつだった。
訪ねていくと写真の女性エーリンナ・サマリアがいた。イコナ・スタテューは交通事故にあった際に建てる物でエーリンナもその場所で事故を起こし、鈴木に助けられたのだという。
無事だった事を感謝してその人の写真を一緒に入れてイコナ・スタテューを建てた。それにぶつかって同じ日本人女性が助かったのならとても嬉しいと喜んでもてなしてくれたのだが、実はエーリンナは鈴木の事が忘れられずにいたようで訪ねていこうと思っているというので西宮がその際の案内をかってでた。
しかし鈴木は行方不明。是非ともエーリンナを彼に会わせてやりたいのでエーリンナが訪日する一週間後までに見つけたい。
わかっているのはかつての住所と所属大学。後エーリンナの言葉によれば旅行のサークルに入っていて日本全国を歩いて旅をするのが夢だといっていたという。
「そういう訳でお願いできますか? 一週間が無理なら他の場所をあたります」
「全力を尽くしますよ。我々にお任せ下さい」
何せ久しぶりの普通の依頼なのだから。
しかし調べた草間は頭を抱える事になる。鈴木の現在住所は見つかり、大学の方も在学中らしいのだが――。
「最後の連絡が三日前の電話だって言われてもなあ……。しかも携帯電話は所持していないときた」
そう、彼は現在徒歩旅行中だったのだ。
『海が池という壮大な日本庭園を見た』
最後の電話で彼はそう言っていたという。今もきっとその辺を歩いている事だろうと気楽に友人は言っていたのだが。
(どこだそれは……?)
友人の電話番号と鈴木の伝言を書いた紙。それを眺めながら草間は盛大なため息を付いた。
「こりゃ誰かに付き合ってもらわなきゃ無理だな」
□全員揃って何思う?
その日の夜、草間の元に集まったのは五人だった。彼が用意した資料を読み終わり最初に極生真面目に頷いたのはミラー・Fだった。
「スズキ氏を捜すのですね? 了解いたしました」
「迷子探しダナ☆ よォっし! 頑張るぞー」
おーっと気合の声をあげてソファの上で飛び跳ねたのはミリア・Sだ。落ちた沈黙に憤慨してびしっと指を指す。
「声が小さいゾ! やる気がナイ証拠ダ☆」
「なるほど。そういうものですか、ミリア」
「ソォだぞ、ミラー。じゃ、もっかい。オー!!」
ミラーが律儀に一緒に気合を入れる。その光景を眺めながら、シュライン・エマはコーヒーに口をつけた。そろそろ温かいコーヒーも良い時期よねと思いながら、もう一つ別の事を思う。
(似てるんだけど、似てないわよねえ)
誰とは言わないけれど、良く似た容姿のカップルを知っているエマである。ちらりと見ると同じ事を思っていたのか横の草間も正面に座っている九尾桐伯(きゅうび・とうはく)も僅かな苦笑を浮かべていた。まあ、振り回すのが女性の側だというのはもう一つの共通点であろう。
「おーってのは別にどうでもいいんだけどさ。おっさん、一つ突っ込んでイイですか?」
「おっさんじゃないって前から言ってるだろう……。手掛かりならな、そうじゃないなら」
草間が言い終わる前に村上涼(むらかみ・りょう)は口を開いた。
「おっさんはおっさん。私から『草間さーん』とか呼ばれてみるのって絶対おっさん嫌だと思うわよ」
村上のわざとらしい黄色い声に草間ががっくりと肩を落とした。
「よし、これでおっさん問題解決。正義は絶対勝つのよね。で、この名前! なんかすごい偽名くさいんですけどなんか」
「まあ、確かに鈴木孝史ってすごくオーソドックスな名前ねぇ」
「山田太郎とかジョン・スミスとかと同じくらいオーソドックスの極みよね」
エマの言葉に村上が我が意得たりとばかりに頷く。
「まあ、ジョン・ドゥとかジェーン・ドゥとかじゃなくて良かったじゃないですか」
「それは身元不明の死体だろうが。まあ、一応住民票や学籍はあるから実在はしてるだろう」
真面目な顔で混ぜっ返した九尾に草間が口を挟んで話を強引に元に戻す。それを合図と見たか全員の顔が引き締まる。
「海を借景にした庭園を見たって事よね、まずはそこからじゃないかしら?」
「ソコの近くを捜せバまだイルかも知れナい訳ダナ」
エマの言葉にミリアが大きく頷いた。村上が首を傾げながら確認するようにいう。
「えーっと日本庭園って池と山って大抵あるわよね。あれの池が海になってるって事?」
「もしくは海水を引き入れて池の水にしている庭園ですかね」
「インターネットで検索したら結構ありそうね。私がぱっと思い出せるのは鹿児島の磯庭園かな」
「私でしたら、そうですね、広島の三景園、島根の由志園……しかし、ぱっと思い出せるだけでもそれなりにありますね」
エマの例示に九尾が更に指折り数えていく。錦江湾を池に、桜島を山にする薩摩大名島津の残した磯庭園。瀬戸内海を表現し、宮島を模した三景園、中海に浮ぶ高麗人参の里大根島にある由志園は中海を池と考えれば、島自体が庭園の池に浮ぶ小島ともとれる。
「候補が多すぎた場合、スズキ氏の居場所確認が困難になりそうですね」
「ソォ言う事ならミリアにお任せナノダ! 鈴木のタカちゃんノお友達の通信記録辿れバ、どコらへンからカけて来たカ判るゾ」
「そこの付近に日本庭園があれば進行方向判るわね。一応目ぼしい所は先にリストアップしておいた方がいいかしらね」
「結構骨が折れそうですね。私も手伝いましょう」
「んじゃあ、私は鈴木さんの友達を当たってみるわ。立ち寄りそうな場所とか歩くペースとか後最近の写真とか、その辺かなー」
「お願いね。あと電話があればエーリンナさんの伝言と場所確認して貰えるように伝言廻してもらう様に頼んできてくれる?」
「オッケー! 後はここと私達の携帯電話番号ぐらい? あーっ、ったく携帯電話ぐらい持ってろつーのよ、手間かかるわねえ!? んじゃあ、ちょっくら行って来るわ!」
了承と文句と挨拶を一息に言った村上はすちゃっと手を上げて挨拶をすると村上は足音も高く興信所を後にした。
「ソレじゃア、ミリアもお迎えに出動するゾ☆ 待ッてロよ! 鈴木のタカちゃん!」
ぐっと握りこぶしを固めるとミリアはぽぽんっと軽快な音とともに消え去った。草間がテーブルに置いていた携帯の画面が一瞬何かに反応したように画面を変える。消えたミリアにミラーが極生真面目に声を掛けた。
「ミリア、スズキ氏はミリアが迎えに来る事を知りませんから、待っていないと思います」
「……多分聞こえてないんじゃないかしらね」
正論だった、ミラーの言葉もエマの言葉も。九尾が友人の言葉に頷く。
「まあ、とりあえず彼女達の連絡を待ちながら調査をはじめますか」
「そうね」
「了解しました」
■探し物の条件は
ミラーがミリアの調査報告を受けたのは5分と少しが経った頃だった。
「札幌と鹿児島に通話記録があったそうです。札幌はスナックの公衆電話で鹿児島の方は港の近くの公衆電話だったそうです」
「札幌のスナック……すすきのですかね?」
「そうかもしれないわね。札幌と鹿児島。んー……札幌には中央公園には庭園があるわね。でも、普通札幌なら時計台の方を言わないかしらね」
パソコンで検索しながらのエマの言葉に九尾が同意する。
「私でしたらそちらを言いますが。このサイトだと海と池の関係はわかりませんね。旅行雑誌でも買ってきますか?」
エマと九尾の言葉をミラーは生真面目に聞いていた。
「鹿児島ならば磯庭園がありますね、こちらの方が条件に当て嵌まるような気がします。……周辺のホテルの宿泊記録を当たってみてはどうでしょう?」
そういったデータ収集ならば自分の領分だとミラーは思った。
「そうね、まずは旅館とホテルのリストアップからかしら」
「市内に泊まったのなら良いんですが……どうでしょうね」
九尾の言葉にミラーが頷く。
「市内を歩き去ってから宿泊した可能性もあるわけですね。……ミリアが言うには通話した時間は夕方過ぎだったようです」
誰かに問い掛けるような間を置いて言われた言葉に九尾とエマは顔を見合わせる。
「それなら市内に泊まったでしょうね。真っ暗になってからホテルを探すよりはいいもの」
「ですね、安い所を探すのなら早いうちが良いでしょう」
「では鹿児島の方で宿泊施設を探しますか?」
ミラーの問いかけに二人が頷き、パソコンへ向かう。二人が表示したページはイエローページ――電話帳のサイトだった。
「じゃあ、私は旅館の方を当たるわね。市内だけあって多いわね」
「では私はホテルの方を。ミラーさん、件数が多い方の手伝いをお願いできますか?」
「電話、ですか?」
「ええ。予約なし、尚且つそれなりに料金が易い所でしょうね。結構な件数になりそうだわ」
エマの言葉にミラーは納得して頷いた。彼はネット上からデータを探せば良いと思っていたのだ。しかしその条件ではデータがないどころかコンピュータも導入していないようなホテルもあるかもしれない。ミラーはしばし考えて提案した。
「では、もう少し詳しい条件を教えていただけますか? 俺が宿泊協会からその条件に当て嵌まる場所を探します。そうすれば電話は少なくて済むかと思います」
「確かにミラーさんの言う方法が早そうですね。では鹿児島と札幌の旅館を探してもらえますか」
「そうね、お願いします」
九尾とエマの言葉にミラーは頷きを返した。
□一路鹿児島へ
その日鹿児島は快晴だった。鹿児島空港は国際線も乗り入れている比較的大きな空港だ。勿論成田空港と比べるべくもないが、それでも12個の搭乗口がある。送迎ロビーに向かって歩きながら村上は大きく伸びをした。手には旅行雑誌が丸められている。
「あー、なんか暑そうな天気よねー。現地気温何度って言ってたっけ?」
「32度でしたか」
「東京と五度近く違うのね。さすが南国九州って所かしら」
ミラーは三人の会話を少し後ろをついて歩きながら聞いていた。彼にはあまり気温は関係ないらしい。
手荷物を預けなかった彼らは余分な手間を一つ省いて到着ロビーへと足を向ける。そこには所在なげに今か今かと待っている先行組の少女がいた。
「皆、おッソいゾ! 鈴木のタカちゃん、進ンじゃウよー!」
「ミリア、定刻通りの到着ですよ」
「そーよ。ほら、手荷物だってまだ廻ってない中、出てきたんじゃない早い方だと思うけど」
窘めるミラーに何故か威張る村上。それを年長組の九尾とエマは笑いながら見ていた。
「まあ、私達は長期滞在ではありませんしね」
「ええ。早く見つかるといいけど」
「何言ってるのよ。見つけなきゃ成功報酬もらえないじゃない。さくさくやるわよ。せっかくここまで来たのに観光の一つも出来ないのは悔しいからさっさと終らせなきゃ」
そう言いながら村上は九尾と連れ立ってレンタカーの受付に歩いていった。今回の運転手はこの二人なのである。ミラーも立候補したのだが免許証なしという事で却下された。免許を持っていない人間はそれだけで公道で捕まるのだから致し方ないともいえる。
「鈴木のタカちゃんは指宿に向かっタらしイケド、もう着いチャってるヨネ? 次ドコに行クノか仲居サン知らナイって言っテたヨ」
「多分場所的には知覧か吹上浜かしらね?」
「指宿に一昨日まで止まって開聞岳を登りにいくと言い残して、でしたね。山登りをした後でしたら少しはテンポを緩めるかもしれません」
「開聞岳って900メートルちょっとなのよね、たしか4時間ぐらいで行けたんじゃないかしら」
「四時間、ですか。ならそんなに厳しいともいえないのでしょうか?」
「タカちゃん毎日歩いテルしナ! 次へ行っちゃッタカモしれないゾ?」
「知覧と吹上浜二手に別れるべきかもしれませんね」
帰ってきた九尾が口を挟む。村上が旅行雑誌を開きながら眉を寄せた。
「吹上浜ってやたらと広いわよ?」
■小京都にて
青々と緑が生い茂る中九尾の運転する車にエマは乗っていた。村上が運転する車が曲がっていった先を多少不安げに眺めながら呟く。
「大丈夫かしらね、あの子達」
「車酔いするようなタイプには見えませんでしたから大丈夫でしょう」
「車酔いくらいなら良いんだけどねぇ」
例えば事故とか――。合えて口に出さない台詞は運転席の親友にはしっかりと伝わっていたようだった。
「空港を出た時よりは安定してますよ。すぐに勘を取り戻すでしょう」
「……ならいいけど」
「心配している割には向こうの車には乗りませんでしたね?」
「心配だから乗らなかったのよ。ミラーさんは運転できるみたいだったしね」
代替の運転手がいた方が安心だからという訳だ。安全運転をしていれば捕まる事もまずないのだから免許証不携帯くらいは大丈夫だろう、そうエマは思っていた。もっともミラーが不携帯も何もそもそも免許証を持っていない事は想像もしていなかった。
知覧は薩摩の小京都と呼ばれる場所でもある。武家屋敷が軒を連ねる佇まいは確かに古き良き時代を感じさせるものだが、それよりも知覧を有名にしているものがある。お茶とそしてかつて特攻基地があったという事実だ。
「ここが特攻平和館ですか」
「知覧に来たらまずここに寄るわよね、きっと」
二人の視線が奥の展示室に注がれる。特攻隊員の遺品などを展示したコーナーが開かれたドアから見る事が出来るが、今回はこの中に用事があるのではない。受付の女性に声を掛けると二人は鈴木の写真を取り出した。
「こういう人見なかったかしら?」
「この人なんかしたんですか?」
「いえ、そういう訳ではありませんよ。遠方から友人が来るので知らせたいのです。昨日か今日ここに来たのではないかと思うんですが」
「あー、成程ねぇ。うん、悪い事するようなタイプには見えなかったからびっくりしちゃったわ」
人の良さそうな中年婦人は頷く。エマが言い回しを聞きとがめて問い返した。
「覚えてらっしゃるんですか?」
「今日の午前中に来てじっくり見てたよ。ほら、平日だから人が少ないからね、覚えてるよ。そこのお茶飲んでったしね」
「彼と話などされましたか? どこへ行くとかそういう事を聞かれていたら教えて頂きたいんですが」
「吹上浜の方に行くって言ってたよ。泊まる所探したいって言うからビジターセンターを紹介したんだけど、もう出ちゃったんじゃないかねぇ、結構前だし」
九尾の問いかけに愛想良く女性は答えた。重ねてその時間を聞くと四時間ほど前らしい。
二人は顔を見合わせて頷き合うとビジターセンターに向かう事にした。鈴木の宿泊先が判明したのはそれからすぐの事だった。
□徒歩旅行者・鈴木
九尾とエマがペンションすずらんについてまず見つけたのは村上の姿だった。暇そうに座っている年若い友人の姿を見てまだ鈴木が着いていない事をエマは悟った。気をつけて道を見ていたのだが、見落としたのか別のルートだったのか、鈴木を追い越してしまったらしい。
「シュライン、お疲れ様ー。ちなみにまだ来てないわよ」
「でもソロソロ到着予定時刻ナノだ☆」
「そうなの?」
「ええ、指定時間はあと二十分ほどです」
「すぐ近くまで来て追い越してしまったようですね」
挨拶もそこそこに現状を聞いて五人はとりあえず自分達も宿をここにとる事にし、玄関で鈴木を待つ事にした。
鈴木が現れたのはそれから二十分と少しがたった頃だった。入口にたむろしている五人を見て不思議そうに首を傾げて中に入ろうとした。
「ごめんなさい、鈴木孝史さんかしら?」
エマがまず声を掛けた。鈴木は不思議そうに――当然と言えば当然だ。初対面だし探されているのを彼は知らない――頷いた。
「え、ええ、そうですけど、どちら様ですか?」
「草間興信所の者ですが、実は貴方を探しているという方がいるのですよ」
「……俺を?」
九尾の言葉に心底意外そうにしている鈴木。そこへまず最初に割り込んだのはミリアだった。
「天の御使いエンジェルミリアもお迎えに来たゾ! 帰るぞタカちゃん!」
「ちょっとぉ、誰が天の御使いでエンジェルなのよ!?」
「名乗っタ人に決まっテルじゃナイか!」
すかさず村上が突っ込みミリアは意味もなく胸を張る。鈴木がやや困ったように声を掛けた。
「……キミ達が俺を探してたの?」
「いえ、依頼人は西宮玲奈さん、エーリンナ・サマリアさんが来日するに辺りあなたにお会いしたいそうです」
「エーリンナ……え!? ギリシアから?」
「そう覚えてたんだ。よかったわー、はるばる会いに来るのに忘れられてたらあんまりだものね。でも、一つ言っていい?」
ミラーの説明に驚きの声をあげた鈴木に握りこぶしを固めた村上が迫った。
「な、なんでしょう?」
「携帯ぐらい持っておきなさいよ連絡に困るじゃないのよ!? 大体住所変更をキミが連絡してて携帯持ってるなり毎日どこかに連絡するなりしておいてくれればこんなに苦労する事なかったよ!」
「……は、はあ、スイマセン」
どこで息継ぎをしているんだろうという勢いで言った村上に何故か謝ってしまう鈴木。ミラーが淡々と口を挟んだ。
「でもその過程の場合、そもそも依頼は発生しなかったのではないでしょうか?」
「ミラー、アタシも同じ意見ダ!」
「……まあ、確かにそれなら西宮さんが自力で探し出せそうですね」
「三人ともどっちの味方よ!?」
「どっちでもいいじゃないの、無事見つかったんだし」
とりなすようにエマが村上の肩を叩いた。まーそーだけどねと村上は頷き小さく肩を竦めた。
□再会
依頼日からちょうど一週間後の成田空港。ドイツの航空会社の到着ロビーは第二ターミナルになる。そこで西宮と鈴木、そして草間と五人はエーリンナの到着を今か今かと待ち構えていた。
「到着したって言うのに遅いわねー」
「入国審査とか色々あるのよ。個人渡航だと結構手間取る時もあるし」
「荷物もあるでしょうからね」
ため息をついた村上にエマと九尾が軽く肩を竦める多少の実感が篭っているのは経験者だからという事なのだろうか。
「早ク来ないカナ、楽しミだナ、タカちゃん!」
ミリアが楽しげに鈴木の肩を何度も叩いた。天の御使いは今日も絶好調のようだった。ミラーが荷物が廻るコンベアを囲む一団の中のエーリンナを見つけた。
「あれがそうではありませんか?」
「え!? どこですか!?」
西宮がミラーの指し示す方向を見て必死に目を凝らす。鈴木も同じだ。大きな青いスーツケースを引っ張るとこちらに向かってくる。
なにやら声をあげて手を振っているようだった。
「二人の名前を呼んでるみたいね」
耳の良いエマが声を聞き取って伝える。最後の荷物検査をもどかしそうに終えると金色の髪の女性が駆け寄ってきた。再会した三人を少し遠巻きにして見守りながら草間興信所の一向はそっと笑みを交わした。
「英語で喋ってるのねー……なんとなくしかわかんないケド」
「最初はギリシア語だったわね、まあ、向こうの人って三ヶ国語くらいは話せるし」
「三ヶ国語……、英語なら何とかなるんだけどなー。ね、ギリシア語って最初のやーすーって奴?」
「挨拶の言葉です、『やあ』とかそういうニュアンスですね」
ミラーがそっと解説する。ふぅんと村上は頷いた。西宮はどうやらこちらの事を説明しているようだった。エーリンナが笑顔になる。
「今聞きました。お世話になったそうで、皆さんありがとうございます」
「お役に立ててよかったですよ。日本語が上手ですね」
九尾が穏やかに笑った。。しかし、実際エーリンナは流暢な日本語を喋っていた。
「たくさん練習しました、日本語って難しいですね。でも、大切な人の話す言葉ですから」
大切な人、それは友人と言う意味かもしれなかったがミリアはそうは取らなかったようではしゃいだ声をあげた。
「練習シタのカ! 果報者だナ、タカちゃん☆ 憎いゼっ色男!」
ばんばん叩かれ鈴木が言葉に詰まって真っ赤になる。エーリンナは西宮に説明してもらうだけの間を置いてやはり赤面した。しばしの沈黙に西宮が話題を変えるように草間と五人に頭を深く下げた。
「本当にありがとうございます。私だけじゃ会わせてあげられなかった」
「いや、お役に立ててよかった。こういう依頼なら大歓迎ですよ」
「……何せ怪奇依頼じゃないものね」
草間の言葉にエマが言う。咄嗟に否定も肯定も出来ずに草間が言葉に詰まった。
草間の表情に全員が笑い出す。とうの草間もややあって苦笑を浮かべたのだった。
fin.
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0086/シュライン・エマ/女性/26/翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト
0332/九尾・桐伯(きゅうび・とうはく)/男性/27/バーテンダー
0381/村上・涼(むらかみ・りょう)/女性/22/学生
1177/ミリア・S(みりあ・えす)/女性/1/電子生命体
1632/ミラー・F(みらー・えふ)/男性/1/AI
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■ ライター通信 ■
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依頼に応えていただいて、ありがとうございました。
小夜曲と申します。
今回のお話はいかがでしたでしょうか?
もしご不満な点などございましたら、どんどんご指導くださいませ。
今回は不思議要素が全然ない依頼でした、いかがでしたでしょうか?
磯庭園、島津の縁のお庭なのですが初めて見た時には壮大さに驚きました。
しかし、相手に連絡手段がないだけで人探しはものすごく大変になりますよね。
気軽に連絡ができるとても今は便利な世の中なんだなと思います。
お楽しみいただけましたら、幸いでございます。
エマさま、七度目のご参加ありがとうございます。
お庭ビンゴでした! 宿泊施設も目の付けどころが大正解です。はい、行き当たりばったりの鈴木さん、全然予約とかしてませんでした(笑)無茶苦茶私信なのですが無理なんて事はないので安心してくださいませ。
今回のお話では各キャラで個別のパートもございます(■が個別パートです)。
興味がございましたら目を通していただけると光栄です。
では、今後のエマさまの活躍を期待しております。
いずれまたどこかの依頼で再会できると幸いでございます。
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