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<東京怪談ノベル(シングル)>


Wheel of Fortune

歌姫とその恋人が、あやかし荘でゆっくりしているときのこと。
アロハシャツの加持葉霧がどこからともなく現れてきて…。
「今度から君を『お姉さんスキー+おませさん』と呼んでやる〜」
と、いきなり馬鹿なことを言って、カップルをからかっていた。
からかわれている方は、図星でかつ上司故に文句が言えない。
そう、加持と彼は主従関係なのだ。
しかし歌姫は…怒って歌を歌う。
周りの植物が加持を襲うが…。有名なサイバーパンクアクション映画のような得体の知れない回避や跳躍で逃れていく。
「はっはっは〜また遭おう!」
歯をキラリと光らせ、阿呆な諜報員加持は逃げていった。
(せっかく良い気分だったのに!)
と歌姫はプンプン怒っている。
恋人は彼女を宥めるのに必死だった。

少し離れたところで、加持は昔のことを思い出す。
終われない戦争の要因になったのは他にもあった。
時間的存在の魔女、人間の裏切り。
そして、全てを滅ぼす破壊神の存在である。
加持の今の態度はまさしく道化。それほど哀しみを背負っている。
しかし、周りの人物からは…全く持って信じていない。
分かるとしたら…神と昔の今は亡き友人だろう…。

若い頃、ある退魔一族の村に入った。そこは、神話時代の秘技を守り世から姿を消した一族だった。
その『秘技』が加持の産まれた時代に起こった『人の理性を強制無効化してしまう異常結界』を突き崩す鍵と彼は考えたのだ。
伝説の滅神討伐の際、滅神を滅ぼすことを出来たが…この戦いに参加した退魔はと世界は「滅びの呪い」を受けた。その呪いを封印する形で様々な退魔は試みたが…失敗に終わった。
しかし、ある一族は剣術として封印することで難を逃れた。他にも護符等の媒体「聖宝」を作り上げ、封印した一族もいる。
結果、彼らは加持の推測通り、大きな犠牲を払い、更に歴史の中に埋もれていった。

本来なら余所者は追い出されるか殺される事は間違いない。
加持も少しのミスから、村人から攻撃を受けかける。
作戦は失敗かと半ばあきらめかけたとき。
「こっち!」
と声がした。
なんとか行かれる群衆から逃れ、2人が造ったらしい山小屋まで逃げることが出来た。
「たすかった…」
息を切らして膝をつく…助けてくれた恩人を見上げた。
齢は15〜17ぐらいの少年と少女。
「ありがとう」
「あまり無茶しないでくださいね」
少女が、彼の傷を薬草で治療する。
「あなたが、外の世界から来た人なんだ…」
少年は加持の姿に興味津々だった。
「僕を恐れないのか?」
加持は訊いた。
2人は首を傾げる。
「何怖がる必要があるのさ?外の世界でもこの里でも人は人。同じ人なのだし」
「そうです、此処で暫く隠れていれば、問題ないですよ」
と2人は答える。
自ら閉ざしている村の住民は、余所者に対して警戒心が強い。余所者は世間を知らない村人に外の世界を教え…結果的に村を滅ぼすからだ。この2人はその危険を理解してなお、加持に優しく接した。
傷が癒されるまで、加持はこの山小屋で生活をする。
彼らはとても誠実で優しく、加持は戦いの中で荒んだ心を癒される。
「外に興味が無いというのは嘘になる。でも僕らはこの里の秘技を守ってく大事な義務があるんだ。そのためには外には出ない。そして…コレ内緒だよ?幼なじみのアイツが好きだし…」
少年ははにかみながら加持に色々村のことを教えてくれた。加持に外の世界については何も訊こうとはしなかった。
少年達に色々調べて貰って分かった事。
秘技封印などの術に生け贄が用意される事。そして、解封時も生け贄が必要とされるのだ。
村の者も下界では恐ろしい戦争が始まっていると分かっているのだろう。余所者に敏感過ぎた感が否めない。

数日後…。
雪が降っていた。

山小屋の扉を強く叩いた者が居る。
「この雪の中誰だい?」
加持は、用心深く人物を確かめた。
少年だ。
「君か?」
少年は息を切らしながら、こういった。
「アイツが、アイツが村の秘技を解放するために今年…生け贄にされるんだ!あなたの力が…あなたの力が」
「落ち着くんだ!今焦っては何もならないぞ。何時、何処で、どうのように君の想い人が儀式の生け贄にされるか詳しく聞かせてくれ!」
加持は少年を落ち着かせ、少年から話を聞く。
「そんな、後3日?否、3日もあれば大丈夫だ。2人で彼女を救い出そう」
生け贄の儀式は、森の中に隠された道場のような建物で行われる。そこが秘技を封印している場所。
神棚にその奥義書が奉られており、目の前に生け贄の祭壇を置いている形らしい。
今までは狩った動物だったのだが、解呪するときは人間でないと無理だそうだ。
「人柱の応用か…」
その儀式の建物まで潜り込めば良い。加持はそう言ったことに関しては自身がある。ましてや親しくなった少年の頼みとあれば、失敗は許されない。

加持と少年はたやすく建物の近くまで近づいたが…、いきなり建物が吹き飛んだ。周りにいる守衛は爆発の閃光に飲まれ…塵と化す。
「秘技が解放されたのか?」
徐々に光は、あらゆる生物を塵に変えていく。
「アイツが…アイツが…」
少年は加持に止められながら泣いていた。
「いったん引くんだ。巻き込まれる」
「イヤだ!アイツの居ない世界なんて!」

その時、光の中から声がした。

「ココニ…イルヨ…、…チャン」
「お前?なのか?」
少女の声だった。
少年はフラリとよる。
「ワタシ…ニンゲンデナクナッチャッタ…。神…滅ビノチカラ…」
「俺が、俺がお前を守れなかったばかりに…」
―告白も出来ないまま…。
少年が少女を抱きしめると…光は一層強くなる。
「破壊心…滅神の復活…」
加持は光の波動に耐えながら、光を睨み付ける。
まだ、完全ではないようだ。
今なら…この暴走を抑えることができる。
しかし…

優しくしてくれたあの2人を殺せるのか?

しかし、私情は挟まず…彼は自分の能力を前回にし…神の力さえも無効化…滅神になる前の2人を殺した。
同時にその村は、光に包まれ…消滅した。

「運命が、また僕に同じ使命を与えているのか?」
と、あやかし荘を見て呟く。
「二度と同じ過ちは繰り返さないよ…。またあの雪の日に戻れると信じて」
セピア色に変色した写真…少年と少女と加持3人が写っている…を見て哀しく笑う。

しかし写真を懐に収めると、また部下と歌姫をからかうためにその場を去っていった。

End