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影の中に消えた
●ＳＨＡＤＯＷ
数日前から、連続して女性の行方不明事件が起こっていた。
もちろん警察も捜索をしているが、だが今の所、有力な手掛かりが得られたなどの報道はされていない。
そんな事件が世間のニュースを騒がせていたある日。ゴーストネットの掲示板にこんな書きこみがされていた。
＊＊＊
投稿者：ＡＩＫＯ
題名：影の中に消えた
誰も信じてくれなかったけど、私、見たの！
三日前に行方不明になった子が、消えた瞬間を。
夕方、普通に道を歩いていただけなのよ。
なのに、突然消えたの。
まるで落とし穴にでも落ちたみたいに。
警察の人にも話したわ。だけど、誰も信じてくれなかった。
あの行方不明事件は絶対、普通じゃないわ！！
＊＊＊
書きこみに目を通した雫は途端目を輝かせた。
マスコミでも騒いでいるような事件に対して不謹慎ではあるが、怪奇事件ならば是非真実を調べてみたいではないか。
「よーし」
とりあえずは事件に関する情報を。
そう思ってネットで検索してみたところ、あの書きこみと似たような証言がいくつかあることが発覚した。
曰く、行き止まりの廊下で消えてしまった少女。――少女を待っていた友人が、少女は戻ってこなかったと証言しているらしい。だが廊下には窓もなく、友人の目に止まらずに出ていけるはずがない･･ということだ。
他にも似たような話はいくつか見つけられた。
一通りの情報収集を終えた後、雫は再度ＢＢＳを確認しにいった。
何か新しい情報がないかと思ったのだが････――その書き込み内容に、雫は眉を顰めた。
＊＊＊
投稿者：ＳＨＡＤＯＷ
題名：目撃者？
あれー？ 見られてたんだ。
でも、ボクは気にしないけどね。
だって、いくら騒がれたってボクは絶対見つからないもん
････ねえ、君たちにボクを見つけられる？
＊＊＊
●ある日の雑談
「連続失踪事件？」
佐和トオルは、思わずオウム返しに問い返した。
女性のみがターゲットとなっていて、世間のマスコミでもちきりになっている話だ。もちろん、トオルだってその話題の情報もある程度は把握していた。
だがその客が話して聞かせてくれたのは、怪談風味漂う噂話にも近いものだったのだ。
曰く、あれは普通の行方不明事件ではない。女性たちは、影の中へと姿を消してしまったのだという。
証拠も何もないただの噂話だが、世の中科学で解明できない怪奇事件というものが確かに存在することを、トオルはよく知っていた。だから、ただの噂話だと切り捨てることができなかったのだ。
まあ、どちらにしても今は仕事中。女性たちに柔和な笑みで言葉を返し、こっそりと言葉を誘導しつつ。トオルは、さっそく情報収集を始めたのであった。
――さて、その日の仕事が終わったあと、トオルはすぐさまパソコンを立ち上げた。噂も含めた多数の情報を探すにはこれが一番手っ取り早いからだ。
見つけたのは、ゴーストネットの掲示板。どうやら直にその現象を見てたらしい少女――文体からして間違いないだろう――の書きこみと、そして、ＳＨＡＤＯＷなる者のレス。
トオルは出来うる限りの情報を集め、事件の真相を確かめるべく現場に向かった。
●目的を同じくする者たち
さて、一番最近に起こった事件の現場である通り。そこには五人の人間が集結していた。
皆目的を同じくして事件現場を巡っており、その道程で終結した者たちである。
事前に連絡を取って一緒に行動していた、雨柳凪砂、大曽根つばさ、柚品弧月。そして、それぞれ単独で動いていた真名神慶悟、佐和トオル。
「何かわかるといいんですけど････」
ぐるりと周囲を見まわして、弧月は近場の物品に手を触れた。
何かをしようとしているらしい弧月の様子に気付いた四人は、その間に出来る事をと、それぞれ周囲に目を向けた。
だがそこにあるのはただの住宅街。これといった手掛かりは見つけられなかった。
「･･･子供？」
ふいに、弧月がぽつりと呟いた。四人の視線が一斉に弧月に集中する。
「子供やて？」
いの一番に問うてきたつばさに、弧月は少し迷いながらも頷いた。
「今回の犯人が子供かもしれない･･･ってわけか？」
トオルが意外そうな声を洩らす。
「まあ、実年齢と外見が一致するとは限らないがな。妖の存在なら特に、だ」
言いつつ、慶悟は改めてぐるりと周囲を見まわした。
極々普通の住宅街の一角。当然、影なんぞいくらでもできる。
「そうですねえ･･･。少し気になるところがあるんですけど、行ってみませんか？」
同じように周囲の様子を見ていた凪砂が、ふいにそんなことを言い出した。
「気になるところ？」
「ええ。色々調べてみたらちょっとした法則性を見つけたんです」
「次に事件が起こる可能性の高いとこに行ってみよっちゅーわけやな」
つばさの指摘に、凪砂はにっこりと笑って言葉を続けた。
「ちょうど女性メンバーもいることだし、囮捜査って有効だと思いません？」
●囮捜査
事件はある一定の時間と距離をおいて起こっている。
凪砂が調べた法則性に従って、一行は次に事件が起こると予測される場所へ移動してきた。
夜に近い夕暮れゆえか、人通りの少ない閑静な住宅地を歩いているのはつばさと凪砂。
女性しかターゲットにならないらしいから、男性陣は離れていたほうがよいだろうとの判断からである。
建物の多い場所であるから、当然、影はいたるところにある。
三人はそれぞれ適当な位置にばらけて、女性陣の様子を窺うことになった。
そうして住宅街の中で待つこと十数分。
パッと、凪砂が後ろへと振り返った。
唐突な行動に驚いたのか、きょとんとした表情でつばさが凪砂の視線を追う。
凪砂はある一点を――二人の後ろ、少し離れた位置にある影を睨みつけていた。
つばさはすぐさま表情を引き締めて凪砂の近くへと移動する。
もちろん、トオルも改めて気を引き締め、二人の動向を見守っていた。
ふと、凪砂の表情も変わった。
意外そうな表情を浮かべて――だが、周囲への警戒は怠っていない。
直後。
「きゃあっ！？」
「きゃっ！」
一瞬にして二人の姿が下へと落ちて行く。
「っ！」
トオルが思わず前へと飛び出しかけたその時、
「阿毘羅吽欠裟婆呵っ！」（あびらうんけんそわか）
慶悟の声が響き渡った。
直後、周囲にまばゆい光が迸り、影を打ち消す。
だが･･･････――
凪砂とつばさの姿は、戻っては来なかった。
●閉ざされた入口
凪砂とつばさが落ちていった影は、消えてしまった。
だが。
「そこにいるな。隠れても無駄だ」
慶悟が真剣な表情で、ある一点の影を睨みつけた
「あーあ。入口、閉じちゃったなあ〜」
慶悟の言葉に返ってきたのは、幼い少年の声。その声は、クスクスと楽しげに笑っていた。
「攫った女性たちを返してください」
凛とした声で告げたのは弧月。
「子供の悪戯にしちゃ、ちょっと行き過ぎなんじゃないか？」
トオルは芝居がかったような口調で言いいながら、鋭い視線で睨みつけた。
そして･･････三人の言葉に答えるかのように、影の中から、何かが、姿を見せた。
黒いローブを身に纏った――体格から予想するに、まだ十歳にもなっていないだろう子供。顔は、フードに隠れて見えなかった。
だがトオルには視えていた。黒いローブに阻まれることもなく、楽しげな声に騙されることもなく。
少年が身に纏っているのは青――哀しいまでに透き通った青。
トオルは、その色の示す感情を、よく知っていた。
「悪戯じゃないよ。ボクは人を探してたんだ」
不機嫌そうに言う声も雰囲気も子供そのもの。
三人は、一瞬反応に戸惑った――
「邪魔する人は嫌いだよ」
その一瞬の隙に、子供の雰囲気があっという間に冷めた。寒ささえ感じさせるような冷徹な空気に、三人は警戒を強める。
だが子供に警戒を向けながらも、トオルが考えていたのは子供を倒すことではなかった。
もちろん、加減を知らない悪戯にはお仕置が必要だが、だが今回に限っては悪戯ではない。
親を知らぬ子供の――親を求める幼き子供の、切なる願い。
影が、伸びた。
周囲の影が一斉に動き、三人に向かって迫って来る。
慶悟はまたさっきの光を生み出すつもりらしく、印を組もうとしていた。
だが。
「そんな方法じゃ何も解決しない！」
横から割り込んできたトオルの叫びに、一瞬、影の動きが緩んだ。
「何も知らないクセに！！」
ザザッっと、全ての影がトオルに向かう。
「佐和さん！？」
弧月が焦りの声をあげる。
だが、トオルは、微動だにしなかった。
「わかるさ」
静かに。
ただただ静かに呟かれた言葉。だがそこには重さがあり、説得力があった。
･･････少年は、動きを止めた。
ちょうどその時だった――ついさっき凪砂とつばさが落ちた場所。そこに、闇が射したのは。
●女の勘
地面が裂けるように、闇が射す。
そして、その奥から姿を現わしたのは――凪砂とつばさ。そして、攫われた女性たち。
「ほら、運ぶの手伝って」
･････微妙に場所が悪かった。ちょうど二人は子供――いや、ＳＨＡＤＯＷに背を向ける形で表われたのだ。
「二人とも、後ろ！」
咄嗟の弧月の警告に、二人はサッと後ろを振り返る。
ＳＨＡＤＯＷは、怒る様子もなく、激情するような様子もなく。開いた空間の向こうにいる女性たちを見つめていた。
「････････････」
ぽつぽつと、ＳＨＡＤＯＷが、何かを呟いた。
だが小さすぎるその呟きは、トオルのところまでは届かなかった。
ＳＨＡＤＯＷの間近にいた凪砂とつばさには聞こえたらしい。一瞬顔を見合わせた二人は、そっと彼のフードに手を伸ばした。
フードが外された下にあったのは、体格から予想したとおりの――おそらく六、七歳前後の少年。
鮮やかな金色の髪と、深い蒼を映す瞳。
少しだけ嬉しそうな顔を見せた彼は、だが、一言二言の会話を交わした後、唐突にその表情を変えた。
けれど、纏う色はもう、透き通るような青ではなかった。今の彼が纏うは暖かいオレンジ。
「イーっだ、お前らなんか嫌いだよ〜っ！」
「嫌い、ね」
その言葉の内容とは裏腹に、ＳＨＡＤＯＷは楽しげな表情で告げて、止める間もなく姿を消してしまった。
ＳＨＡＤＯＷを見送ってから、女性陣二人が振り返った。
困ったように、どこか哀しげに苦笑して、はっきりと告げる。
「一応、事件は解決･･･ですね」
「そやな。あの子、多分もうこういうことはせえへんやろ」
なんの根拠を以ってそう言うんだか。
子供の感情の変化を視ていたトオルには、今回の事件が解決という部分は納得できた。
だが、もうこんな事件を起こさないかどうかというのは、また別だ。子供ゆえに、突発的な感情で動く可能性がないとは言いきれない。
「何故わかる？」
慶悟が口を開くより先に、弧月が問いかけた。
女性陣二人は互いに顔を見合わせて、しばらく思案した後、口を揃えて答えた。
曰く。
女の勘、らしい。
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■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
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整理番号｜ＰＣ名｜性別｜年齢｜職業
0389｜真名神慶悟 ｜男｜20｜陰陽師
1411｜大曽根つばさ｜女｜13｜中学生、退魔師
1582｜柚品弧月 ｜男｜22｜大学生
1781｜佐和トオル ｜男｜28｜ホスト
1847｜雨柳凪砂 ｜女｜24｜好事家
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■ ライター通信 ■
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こんにちわ、日向 葵です。
トオルさん、つばささんは初めましてですね。
今回はご参加いただきありがとうございました。
私にしては珍しく、ほのぼのから外れてます（笑）
いえ、今回は最初からシリアスっぽく頑張る予定でしたが･･･。
＞真名神慶悟さん
毎度素敵なプレイングをありがとうございます。
術や式という単語が大好きなので、真言の台詞は書いてて楽しかったです。
･･･1行なんですけどね（笑）
＞大曽根つばささん
はじめまして。参加ありがとうございました。
鈍く光るということで･･･何か本来の使い方と違いますが有効活用させていただきました。
････イメージとずれてたらすみません（＾＾；
＞柚品弧月さん
今回もサイコメトリー、大活躍です。
サイコメトリーの断片的なイメージ文章は、今回も楽しんで書かせていただきました♪
＞佐和トオルさん
はじめまして。参加ありがとうございました。
今回、ただの戦闘で終わらなかったのはトオルさんのおかげです（笑）
本当に･･･当初は彼の目的は何もあかされないまま撃退＆女性救出で終わるつもりだったのですが･･･。
エンパシー能力のおかげで、ただの撃退では終わらない、楽しい展開になりました。
＞雨柳凪砂さん
獣化、使わせていただきました。
楽しいながらも、はじめて使う能力の描写に少し緊張しました･･･イメージとずれていないことを祈るばかりです（汗）
では、またお会いする機会があることを祈りつつ････。
今回はどうもありがとうございました♪
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