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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


植村警部補の事件簿 「一人、二人、犯人?」
 植村護国(うえむら・もりくに)警部補の電話は、いつも強引だ。
『武彦か。難事件だ。お前の手を借りたい。すぐこっちに来い』
 用件だけを、簡潔に、有無を言わせぬ口調で告げてくる。
「ちょっと待ってくれ。こっちにも都合というものが」
 武彦はそう反論しかけたが、それを最後まで黙って聞いてくれるほど、植村は我慢強くはない。
『自分で興信所の電話に出られるくらいなんだから、暇に決まってる。
 とにかくとっととこっちに来い。詳しいことはこっちで話す。待ってるからな』
 まくし立てるような植村の声に続いて、受話器を乱暴に置く音が耳に飛び込んでくる。
 言いたいことだけ言い終わると、さっさと電話を切ってしまう。いつものやり方だった。
 そして、このやり方でも武彦が応じないとなると、今度は自分から乗り込んでくる。
 そうなるとまた長い上に、プライベートなことについてまで詰問と説教の嵐をくらいかねない。
 それくらいなら、さっさと呼び出しに応じた方が、はるかにマシだった。

 植村は、武彦がまだ幼い頃に、近所に住んでいた男である。
 クソ真面目でつきあいにくいが根は優しい、理想に燃える若い警官。
 すでに若くはなくなったものの、他の部分については、彼は今でもほとんど変わっていなかった。
 時折こうして武彦に協力を求めてくるのも、なんだかんだ言いながら彼のことを気にかけてくれているせいだろう。
 それをわかっているからこそ、武彦は植村が苦手だった。





「で、一体どんな事件なんだ」
 植村の顔を見るなり、武彦はすぐにこう尋ねた。
 植村に先に話させては、何を言われるかわかったものではないからである。
 ちなみに、武彦が植村に会ったのは、警察署に入ってすぐのところだった。
 どうやら、しびれを切らして草間興信所に向かおうとしていたらしい。
 武彦が、電話を受けてすぐにこちらに向かったにも関わらず。
(相変わらず、せっかちな人だ)
 武彦のそんな考えは、しかし、植村の次の一言で消滅した。
「連続無差別殺人だ」
 なるほど、それだけの大事件となれば、せっかちになるのも無理はない。
「三日前の事件だ。新聞やニュースでも報道されたから、お前も知ってるだろう」
 確かに、武彦はそれらしい事件の記事を読んだ記憶がある。
 けれども、その記憶のどこをどう探っても、武彦の力が必要になるような事件とは思えなかった。
「知ってはいるが、あの事件のどこが難事件なんだ?」
 尋ねる武彦に、植村はいつになく真剣な表情を浮かべた。
「落ち着いて聞け。
 我々警察は、綿密な捜査を行い、容疑者を特定することに成功した。
 だが、その容疑者には、事件当日のアリバイがあった」
「アリバイ工作か?」
「もちろん、我々も最初はそうではないかと考えた。
 が……調べていくうちに、もっと恐ろしい事実に出会ってしまったのだ」
 そこまで言って、植村は考え込むように目を閉じる。
「もったいぶらないでくれ。一体、その事実というのは何なんだ?」
 武彦が促すと、植村は静かに目を開き、「今でも信じられない」という様子で言った。
「同じ人間が、二人以上存在する、ということだ」
「どういうことだ?」
 植村が言おうとしたことの意味を図りかねて、武彦がもう一度尋ねる。
 
「容疑者の足取りをもう一度調べてみたところ、容疑者が同じ時間帯に複数の場所で目撃されていることがわかったのだ。
 双子か何かではないかと思って容疑者の身元を調査してみたが、双子はおろか兄弟姉妹もいない。
 そして、そうこうしているうちに……こうなったわけだ」
 呆れたように、植村が自分の後ろを指さす。
 武彦がそちらに目をやると、そこには、顔も、服装もまったく同じ青年が三人、神妙な顔をして並んでいたのであった……。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「巨大なポケットにでも入って叩かれたのか、合わせ鏡で増えたのか……」
 シュライン・エマが、呆れたように呟く。
 今回の事件の容疑者として逮捕された三人の青年は、どこからどう見ても、どう調べても、九割九分九厘、同一人物に間違いなかった。
「家宅捜索の結果、自宅からは大量の暗記類が発見されたが、呪術関連の本などはなかった」
 そう言いながら、植村が報告書を差し出す。
 シュラインはそれに目を通すと、もう一度大きなため息をついた。
「多数のナイフに、手裏剣、鎖鎌、ヌンチャク、十手、チャクラムに三節棍……?」
「ああ。凶器として使われた棒手裏剣と同じものも、多数発見された」
 そう。
 今回の犯行に使われた凶器は、なんとやや大きめの棒手裏剣だったのである。





 事件があったのは、三日前の夜だった。
 某駅近くの交差点で信号待ちをしている人の頭上から、突然多数の棒手裏剣が降ってきたのである。
 その場に居合わせた不運な人々に、突然頭上から降ってきた凶器に対処する術などあるはずもなく、一人が死亡し、十数人が重軽傷を負った。
 さらに、その数十分後、別の駅前でも同様の犯行があり、やはり一人が死亡、数人が重軽傷を負っている。

 その後の調べによって、棒手裏剣は明らかに「下にいる人々を殺傷する意図を持って投げ下ろされた」ものであること、棒手裏剣の扱いに慣れた人物の犯行である可能性が高いこと、犯人が棒手裏剣を投げ下ろした際にいたと思われるビルに居合わせた複数の人々が不審な人物を目撃していることなどが判明した。
 警察はそれらの証言、特に「不審な人物」についての証言を総合した結果、事件発生の二日後……つまり昨日、犯人の似顔絵を公開したのである。
 そして、その似顔絵は、容疑者の青年に間違いないと言い切れるほど酷似していた。





「……で、彼が犯人として拘束された、と」
 メモを取りながら、朝比奈舞――その正体は、現在人気絶頂のアイドル、イヴ・ソマリアである――が確認するように言う。
 植村はその言葉に小さく頷くと、首をひねりながら続けた。
「それが、だな。
 この三人は、全員自分から交番に現れたんだ。
 それも、揃って携帯電話がどうのこうの、と言ってな」
「最初の二人は、携帯電話を落としたかもしれない、と言って。
 最後の一人は、自宅から携帯に電話があったのを不審がって、泥棒が入った可能性がある、と言ってきたんですよ」
 隣にいた若い警官が、植村の言葉を補足する。
「携帯電話、ねぇ」
 シュラインはそのことに何か意味があるのではないかと考えてみたが、結局どのような推理も可能であるが、どれもこれも仮説に過ぎず、証明するのは限りなく難しいことに気づいて肩を落とした。

 と、その時。
 黙って話を聞いていた海原みなも(うなばら・みなも)が口を開いた。
「なぜ彼が増えたのか、また、どの彼が犯行を行った人物なのか、ということ以前の問題として、彼が――つまり、ここにいる三人のうちの誰か、もしくはまだ逮捕されていない別の分身が――犯人である、という確証はあるのでしょうか?」
 その問いに、植村は真剣な表情でこう答える。
「複数の証人の証言をもとにした似顔絵とここまで似ていること、自宅から犯行に使用されたのと同じ棒手裏剣が発見されたことに加えて、彼が棒手裏剣、というよりこの手の武器全般の扱いに長けていたことも既に証明されている。犯行時刻のアリバイだけが問題だったが、こうして複数人存在することが証明された以上、その問題も解決済みと見ていいだろう」
「そのアリバイというのは?」
「高校時代の友人と酒を飲んでいたらしい。
 その友人たちの証言はもちろん、複数の飲食店の店員が彼を見たと言っている」
「そうですか……」
 そう言ったきり、みなもは再び口を閉ざした。
 確かに、普通に考えれば、彼が犯人であることに間違いはない。
 しかし、現に「同一人物が複数人存在する」などという「普通ではないこと」が発生している今となっては、彼が犯人だと言う確たる証拠がないことが、どうにも頼りなく思える。

 それはそうと、彼が棒手裏剣の扱いに長けているというのは、一体どういうことなのだろう?
 ちょうど、シュラインがそのことを尋ねてみようと口を開きかけた時。
 突然、部屋のドアが乱暴に開けられた。
「何だ!?」
 室内にいた全員が一斉にドアの方を向き……そのまま硬直する。
 室内に乱入しようとしていたのは、ブルマをかぶった無数の変態さんだったのである……。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「ふはははははっ!」
 続々と室内になだれ込んで来る変態さん、その数およそ百人。
 その異様な格好のせいで若干気づきにくくなってはいるが、よく見ればこの変態さんたちも全員が同一人物であることが分かる。
「く、来るなっ、来ると撃つぞっ!」
「バ、バカっ! こんな場所で撃ったら誰に当たるかわからないだろっ!!」
 精神的ダメージが大きかったのか、かなりパニックを起こしている若い警官二人。
 別に多少パニックを起こす分にはかまわないが、本気で発砲でもされたらことである。
「ええい! 次から次へと面妖な連中が!」
 相次ぐ理解不能の事態に憤りつつ、立ち向かう構えを見せている植村。
 とはいえ、やはり自分の理解を超えた相手にどう対処したらいいのか若干戸惑っているようでもある。
 いずれにせよ、この状況が長く続くのは、誰にとっても好ましいことではない。
 その状況を打破すべく、武彦の放った一声は……事態をますます混乱させる結果となった。
「また出たか、海塚要(うみづか・かなめ)っ!」
 そう。
 いくら武彦には妙な知り合いが多いといっても、ブルマをかぶって襲撃してきたり、あまつさえ何の伏線もなしにいきなり百人に増えたりするような知り合いは、要をおいて他にいなかった。
「ある程度でいいから知り合いは選べ、武彦っ!」
「俺だって知り合いになりたくて知り合いになったわけじゃないっ!!」
 目をむいて叫ぶ植村に反論しつつ、武彦は要の方へ向き直り、こう一喝する。
「一体、今度は何のつもりだ! いきなり何の前触れもなしに大増殖とは!」
 すると、要、いや、要たちは、高笑いをあげながら言い放った。
「ふはははは! アンダーソ○……ぢゃなくて草間よ!
 お主は萌えの神髄が未だ分かっておらぬわああ!
 凡百の愚民にはできずとも、萌えの頂点を極めんとする求道者にはこれくらいの事朝飯よ!」
 そして、一斉に室内をきょろきょろと見回し、容疑者の青年の姿を認めると、突然彼のところに殺到した。
「お主! 我輩と一緒に来い!!」
「いやです」
 即答。
 そのあまりに冷静な対応に、一瞬、全員の動きが止まり、屋内だと言うのに冷たい風が吹き抜ける。
「三人に分身できるなら百人も訓練次第で可能なはず!
 我輩ブルマでお主はスクール水着!
 一対一では返り討たれる毎日だけれど、皆の力を合わせれば勝てる!」
 熱っぽく語る要を、青年はなおも突き放す。
「あなたたち皆の力を合わせて勝てばいいでしょう」
 とりつくしまもない、とはまさにこのことである。
 こうなれば、要に残された手段は強攻策しかなかった。
「どうやら、お主も萌えに対する理解が足りないようだな。
 かくなる上は、強制体験入隊あるのみっ!」
 そう言って身構える要たちに対して、青年は不敵な笑みを返す。
「いいですけど……強いですよ? 一度死んだ人間は」
 その言葉に、比較的冷静さを保っていた舞がすかさずツッコミを入れる。
「ちょっと! 一度死んだ人間って、一体どういうこと?」
「どうもこうも、三年ほど前に一度事故で死にかかって……」
 そこまで答えて、突然青年は手を打った。
「もしかしたら、それが今回の事件の原因かもしれませんね」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 容疑者の青年――北部由夫(きたべ・よしお)という名である――は、こう語りはじめた。
「三年ほど前、当時免許を取ったばかりだった私は、休日になるとよくドライブに行っていました。
 ところがそんなある日、私の車に、横から信号無視のトラックが突っ込んできたんです」
 そこで、一人めの由夫は口を閉ざし、隣にいた二人めの由夫に続きを促す。
「トラックと普通の乗用車の事故ですから、当然トラックの運転手は軽傷で、私は重体でした。
 意識はまだかすかにあったんですが、あぁ、死ぬんだな、って思いましたよ。
 私は青信号だから進んだのに、どうして私が死ななきゃならないんだろう、ってね」
 ここまで言って、二人めの由夫は一度言葉を切ると、小さくため息をついた。
 その間に、三人目の由夫が、話の続きを話し出す。
「その時、『では、あいつが死ねばよかったのか?』って声がしたんですよ。
 それで、とっさに心の中でこう答えましたね。
 『何の落ち度もない私が死ぬのは不公平だ。原因はあちらにあるのだから、あちらが死ぬべきだ』と。
 そうしたら、『よし、お前の願いを叶えてやろう』という声が聞こえてきて……気がついたら、私は病室のベッドの上にいました」
 全員が真剣に話を聞いていることを確認してから、三人目の由夫は残りの二人に目配せする。
 そして、三人は声を揃えて話の最後の部分を語った。
『私は奇跡的に一命を取り留め、その後も驚異的なスピードで回復していきました。
 その一方で、例のトラックの運転手は、ほんの軽いけがだったにもかかわらず、事故の翌日、私が意識を取り戻したのとほぼ同じ頃に、謎の突然死を遂げたそうです』
「じゃあ、その声って……」
 尋ねるみなもに、由夫の一人が小さく頷く。
「ええ。どうやら、悪魔か何かだったようです。
 責任の所在を考えれば、私が死ななければならないというのは全く不条理な話ですし、私は今こうして生きていることを感謝してもいる。
 けれど、私の決断が一人の人間を殺したのかもしれない、というのは、やっぱり重いですよ」
 そう言うなり、三人の由夫は、揃って肩を落とした。
 あまりの空気の重さに、誰もが黙り込む。
 しかし、その沈黙は全く空気を読んでいない要の一言で破られた。
「それはともかく、そのことと、今回の騒ぎと、どう関係があるのだ?」
 その一言で、全員がハッと我に帰る。
 三人の由夫は、皆が見守る中、気まずそうに再び口を開いた。
「事件が起きた日の前日も、私は大学の仲間と酒を飲んでいたんですが、その時相当酔っぱらっていたようでして。
 つい、『仕事も勉強も忙しすぎて、やりたいことの半分もやれない。せめて私が三、四人いればなぁ』とか考えてしまったんですよ」
「それって、まさか……?」
 あぜんとした表情で尋ねる舞に、由夫は心底申し訳なさそうな顔で答えた。
「もう記憶も曖昧なんですが、またあの時の声が聞こえた、ような気もします」
「でも、今回の事件は謎の突然死じゃなく、連続無差別殺人なんですよ?」
 続けてみなもがそう問いつめると、由夫たちはそろって明後日の方に視線をそらしながら、こんなことを白状した。
「えーっと……実は、その二、三日ほど前にも、別の仲間と飲みに行っていて……その時のことは、途中から記憶が完全に抜け落ちているんです。
 だから、その時に、私が何か変なことを考えてしまって、その結果、悪魔が肉体を持つか何かしたんじゃないかなぁ、と……」
 それを聞いて、一同は一斉に由夫にツッコミを入れた。
『結局、全部お前のせいじゃないかっ!』

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 真相解明から数分後。
「仮に由夫さんの主張が本当だとすると、犯人はここにいない四人目の由夫さんで、その中身はおそらく悪魔だ、ということになるのね」
 シュラインがそうまとめたのを聞いて、舞が腕組みをしながら言う。
「それじゃ、早いところその四人目を捕まえた方がよさそうね。
 こっちにいる三人がおかしなことを考えなければいいのかもしれないけど、誰かさんみたいに『百人になりたい』とか言い出したら大惨事になるわ」
「別に、今は酔ってませんから、そんなこと言い出しませんよ」
 三人の由夫が、揃ってそう反論した瞬間。
「その心配はないよっ♪」
 その声とともに、突然銃声が鳴り響いた。





 部屋の壁に、あっという間に無数の穴が空く。
 当然その穴をあけた弾丸も室内に飛び込んできているが、全て大勢いる要たちに当たって止まっているため、若干活動可能な要の人数が減ったものの、それ以上の被害はなかった。
「こ、今度は何だ!?」
 驚きの声を上げる一同の前で、壁の一部が崩れ落ちる。
 そして、その向こうに立っていたのは……ガトリング砲を手にし、可愛らしいサングラスをかけた、水野想司(みずの・そうじ)の姿であった。
「草間くんが密かに開発したというその極秘エージェン●も、残るはそこにいる三人だけだねっ♪」
 そう言って笑う彼の足下には、四人目の由夫と思われる青年が気絶して倒れている。
「……これで、とりあえず犯人の方は確保できたみたいね」
「そうですね……そのかわりに、もっととんでもない問題が発生しているみたいですけど」
 唖然として呟くシュラインに、みなももなかば呆然としながら応じる。
 そんな二人をよそに、想司はびしっと武彦を指差した。
「要っちと一緒にいるということは、君も萌えの暗黒面マスターだということだねっ☆
 相手にとって不足はないよっ♪ いざ勝負っ☆」
「いきなり何を言い出す!? 俺には萌えなんて関係ない!!」
 必死に反論する武彦だが、もちろんそんなことに耳を貸す想司ではない。
「とぼけてもムダだよっ☆ 君がメイド萌えかつシスター萌えであることは既に周知の事実だからねっ♪」
「またその話を蒸し返すかあぁっ!?」
 シュラインたち女性陣の前で、そしてそれ以上に植村の前でとんでもないことを言われて、ますます動揺する武彦。
 そんな武彦の肩に軽く手を置いて、要は諭すように言った。
「あの水野想司が話してわからない相手だと言うことくらい、とうに気づいているだろう。
 かくなる上は、一時休戦して想司に当たろうではないか。
 そしてゆくゆくはお主も我が輩の同志に……」
「誰がなるかっ!」
 どさくさにまぎれてのとんでもない提案を、武彦はすかさずはねつける。
 とはいえ、想司が「普通に話してもわからない相手」であることだけは、すでに疑いの余地はない。
 一同はなんとか事態を丸くおさめようと頭をひねったが、よい方法が思いつくよりも早く、要が戦端を開いてしまった。
「ならば、我輩だけでもやってくれるわ!
 いくぞ、水野想司っ!!」
 奇声を上げつつ、残っていた要たちが想司に殺到する。
 想司もガトリング砲で応戦し、向かってくる要たちを片っ端からなぎ倒すが、要たちは人数に物を言わせてじょじょに距離をつめて行く。
 倒れた要を踏み越えて次の要が前進し……数人にまでその数を減らしながらも、要はついに白兵戦の行える間合いまで近づくことに成功した。
 ゼロ距離から、互いの必殺の一撃が放たれる……と、思った時。
「想司くんっ!」
 突然背後から聞こえてきた声に、想司の動きが止まる。
「し、しのぶ!?」 
「一体、何をどう勘違いして警察に乗り込むなんて暴挙に出たの!?
 おまけにた……じゃなかった、草間さんまで狙おうとするだなんて!」
 しのぶの声に叱責されて、想司は条件反射的に戦意を喪失してしまった。
 その様子を見て、残っていた要が一斉に想司に飛びかかる。
 しかし、いくら戦意を喪失しているとは言え、さすがに降り掛かる火の粉くらいは払う。
 それさえ計算していなかった要たちは、想司が無雑作に放ったソバットに三人まとめて薙ぎ払われ、先ほど空いた壁の穴から空に向かって飛んで行った。
 その後、想司もほどなく去り、今回の事件は完全に幕を下ろしたのであった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「それにしても、一体上になんて報告すりゃあいいんだ?
 犯人と同一人物でありながら、犯人じゃないヤツが三人。
 百人に分身する変態に、ガトリング砲をぶっ放す子供、か。
 こんなことをバカ正直に報告書に書いたら、何を言われるかわかったもんじゃないな」
 自嘲気味に笑う植村に、舞が真剣な顔で言う。
「世の中には、稀にだけど、こういう事件もあるのよ。
 でも、そうじゃない、普通の事件の方がずっとずっと多い。
 こういう事件は、私や草間さんのような専門の探偵に任せて、植村さんは、無数にある普通の事件の方を解決して。
 きっと、それが誰にとっても一番いいことだと思うから」
「はいそうしますと言えりゃ、きっとそれが一番なんだろうけどな。
 あいにく、どんなに厄介な事件でも、そこに事件がある限り、首を突っ込まずにゃあいられない性分でな」
 その植村の答えに、今度は舞が苦笑した。
「植村さん、実はそんな自分が結構好きだったりするでしょ」
「ああ。だから、変えるつもりはない」
 植村はそう言うと、何かを確かめるかのように一度小さく頷いた。





 一方、武彦はこの事件が……というより、主に想司と要が残した破壊の爪痕を眺めながら、安心したように息をついていた。
「全く、あの二人につきあっていたら、命がいくつあっても足りないな。
 今回も、いいタイミングでしのぶが来てくれて本当に助かった」
 それを聞いて、みなもが何かを言いかける。
「あ、違うんです、草間さん。あれは……」
 けれども、シュラインが手ぶりで制しているのに気づくと、言いかけた言葉を途中で飲み込んで、シュラインの方に向かった。
「さっきの声、やっぱりシュラインさんだったんですよね?
 草間さんに言わなくていいんですか?」
 みなものその問いに、シュラインは軽く笑ってこう答えた。
「いいのよ。
 わざわざ言わなくても、あの顔は多分わかってる顔だから」

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0086 / シュライン・エマ / 女性 /  26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト
1252 /  海原・みなも  / 女性 /  13 / 中学生
0759 /  海塚・要    / 男性 / 999 / 魔王
1548 /  イヴ・ソマリア / 女性 / 502 / アイドル兼異世界調査員
0424 /  水野・想司   / 男性 /  14 / 吸血鬼ハンター

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■         ライター通信          ■
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 暑くなったり寒くなったりと気温の変化が激しい今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか?
 私は、毎年恒例のように風邪をひき、その上治りかけに油断してこじらせてみたりしました。
 というわけで、撓場秀武です。
 この度は、大変遅くなってしまいまして申し訳ございませんでした。

 実は、最初に用意していた犯人の設定が、実際に書いてみるとかなり無理があることが途中で判明しまして。
 そこから派生させたはずのプロットも全てご破算にし、プレイングとにらめっこしながら完全に一から練り直したところ……今回のような話になってしまいました。
 なんだか、うやむやのままに話が終わってしまって、謎がずいぶん残ってしまったようですので、その辺りについてはここで明かさせていただきます。

 まず、容疑者の青年の増えた原因ですが、「悪魔が他の人間を殺し、その魂と引き換えに青年を増やしていた」というのが正解です。
 ただ、殺人と同時に増えることにするとタイムテーブル的な矛盾が生じてしまうため、「殺人から分身までは二日前後のタイムラグがある」ということにさせていただきました。
 ゆえに、事件のあった日に「悪魔が分身を作り、その分身(=四人目の由夫)を乗っ取った」ということは、それ以前に「悪魔が誰かを殺していた」と言うことなのですが、これはあくまで

 次に、彼が「棒手裏剣を扱い慣れている」理由ですが、これは彼が「仕事部」という「晴らせぬ恨みを晴らします」的な非公認部活動に所属しているためです。
 あくまで部活動なので、基本的に学内の闇に裁きを下すレベルで、それももちろん多少痛い目に遭わせるレベルなのですが、彼はもともとこういったことに興味があったらしく、必要以上の鍛錬を積んでいたようです。

 最後に、増えてしまった容疑者のその後と、犯人の処遇ですが。
 増えてしまった分に関しては、きっと誰ぞが戸籍を細工したりして、三つ子か何かとして生きて行けるようにしてくれたのでしょう。
 そして、犯人に関しては、これまた誰ぞが戸籍をいじくったりして、北部由夫ではない誰かとして縛につくことになった、ということで。

 ともあれ、大幅に遅くなった挙げ句にこの体たらく。
 これも、全て私の力不足でございます。
 重ね重ね、このたびはまことに申し訳ございませんでした。