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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


死神さんのお手伝い

■オープニング■

『動くな』
 ――水原新一(みずはら・しんいち)、自室。
 ワークステーションの前に座った状態で、突然背後からそう、告げられた。
 新一は黙ったまま、キー上に走らせていた指を止める。
 そしてゆっくり、瞼を閉じた。
「どうしました?」
 ただ新一は、ぽつりと問う。
 背後で――尖った、鋭い刃の、切っ先のようなものを、突き付けている相手に。
「僕を殺すなら、疾うに出来た筈です。それとも…何か僕に要求でも?」
 淡々と。
 冷静に問う新一の声に、苛立ったように切っ先が、ぐい、と服にやや深く、埋まる。
 皮膚に固い感触が、もっと強く、感じられるよう。
『…黙れ』
「黙っているのが怖いです。そんな物を突き付けられていては」
「…」
 新一のその言葉で、刃らしき切っ先は、ゆっくり、引かれた。
 それを確認してから、新一は恐る恐る肩越しに振り返る。
 と。
 そこには何も存在しなかった。
 新一は思い切り嘆息する。
 そして無造作にポケットから、小さな手鏡を取り出した。
 斜め上に翳し、自分の背後を映し込み、ちらと見た。
 ――水原新一の目には『鏡面に映った幽霊のみ』視えると言う、今時の東京にしてははっきり言って大した事の無い能力がある。
 どうもこの気配は、そちら側。
 思い、視たら、案の定。

 大鎌を持った男が、何か言いたげに新一を見て突っ立っていた。
 服装は、黒コート。
 …暑そうである。

「で、本当の御用件は」
『どうしても『連れて行きたい』奴がいるんだ…』
 この世の不幸を一身に背負ったような苦悩の表情で、黒衣の男はそう吐き出した。

■■■

 瀬名雫は鼻歌混じりで毎度の如く掲示板の記事を確認している。
 一通り見て、何となく、リロード。
 と。
 新しいカキコを発見する。
 時間を見ると、つい今し方。
「お、『Aqua』のカキコだ…って、え!?」

    ----------------------------------------
    ちょっと人を募って良いですか。

    …人を殺せない死神さんがいるんです。
    宜しければお手伝いをしてあげて下さい。
    無論、お手伝いで人を殺せとは言いません。
    取り敢えずはまた人捜しですね。
    相手が見付からないそうなんですよ。
    「十五、六の少年」と、「もう二十歳近くな
    る筈の女性」のふたりらしいんですが。…ち
    なみにそのふたりには特に関連性は無いよう
    です。
    どうやら、どちらも生きている気配さえ見付
    からないらしいんですよ。
    何か深い事情があるようです。
    詳細はメールにてお話を。
    ----------------------------------------

 たったこれだけ。
「…?」
 しかも、死神のお手伝いを募集、って、なんだそりゃ。
「どしたんだろ? 何かあったのかな?」
 首を傾げた雫は、ぱたぱたと『Aqua』こと水原新一に、取り敢えず連絡を取ってみよう、と試みた。
 彼の事だからまた、ひょっとすると何か怪奇事件の切っ掛けかも、との期待に胸を膨らませつつ。


■接触〜メール■

「…よしっ、レス来た」
 思いっきり頷き、雫は水原からのメールを開く。
 レスが来るのも早かった。
 まさか書き込み早々に来るとは思わなかったらしく、驚いたらしい文面から始まっている。
「…えー、とさすがにそれは偶然なんだけど、ま、いっか。要点要点」
 呟きながら雫はメールに目を通す。
 曰く。
 ついさっき死神と名乗る黒衣の男が唐突に水原の部屋に現れた。
 …が、どうやら自分を殺す為に来たと言うのではないらしい。
 では何故ここに来たのかと水原が問うと、『連れて行きたい』相手が居ると言う。
 が。
 書き込みの文面通り『連れて行く』対象の相手が見付からないとの事。
 …かなり間抜けな話である。
 死神本人は…『会えばわかる』、とは言うのだが、具体的な特徴がいまいち不明。
 一応データらしきものを持っている――水原は少し不自由ながらも鏡越しに見せてもらったらしい――のだが、欄の殆どがアンノウン。――即ち、潔く言って…不明。
 データの中に、気配を見失った時期と地点の書き込みは取り敢えずあるが…名前は不明、年齢も予測程度、いまいち不確定だと言う辺り頼り無い。
 確実なのは対象の性別くらいだそうだ。
 とは言え男女ひとりずつどちらもが捜索対象として居るとなれば…結局、何も絞れない。
 ちなみに『十五、六の少年』の方を見失った時期は比較的最近で半年程前、『もう二十歳近くなる筈の女性』の方を見失ったのは…かなり昔の事になると言う。どうやら十年程、前らしい。…だから『なる筈』などと言う中途半端な言い方をしているとの事。そして――これは僕の私見ですが、ひょっとすると既に故人な可能性もあるかもしれないと思います、彼が言いたいのは『魂が行方不明』と言う意味な可能性も――とさえ付け加えてあった。
 ――えー、とにかく困っている様子だけは確かで。死神さん当人にあまり危険は感じませんね…って言うと恨みがましい目で見られるんですが(汗)
 と、取り敢えずこの部分でこのメールは締められている。
「何だか『死神』のイメージ総崩れね…」
 書き込みやメールの文面を見る限り。
 雫の後ろからぽつりと呟く中性的な容貌に銀縁眼鏡のお姉さんに、最近っていろんな事がありますもんね、と続ける、シンプルなエプロン掛けた店員のお姉さん。
 綾和泉汐耶(あやいずみ・せきや)と香坂瑪瑙(こうさか・めのう)である。
 曰く、汐耶は瑪瑙を夕飯にお誘いに来たらしい。外でとろうかと思ったのだがひとりでは味気無いので誰かを誘いたかったとの事。そして、白羽の矢が立ったのが取り敢えずここのネットカフェのバイト長、瑪瑙。
 …汐耶は先程彼女に、バイトは何時までかと訊いていた。
 と、「誘われたんだったらさっき入った珈琲と紅茶のオーダーが済んだ時点で上がっていいよー、香坂さんには殆ど年中無休のレベルでお世話になってるからねー」と気さくな店長の声が。
 そして、有難う御座います、と瑪瑙の声がそれに返る。
 くるりと振り返った瑪瑙と、お誘いをした汐耶のふたりは、よし、と満足げに頷き合った。
 で。
 何やら妙に汐耶の機嫌が良いようだったので、雫がその旨、口を挟んだら…曰く、休日の日課である書店巡り中、掘り出し物の本が見付かった、との事を快く明かされた。
 雫ちゃんも一緒に行く? 奢るわよ? などと言われ、わーい、と喜んだが…まだその時ここに来た肝心の用件ことゴーストネット掲示板の新規記事のチェックが終わっていない。
 ちょっと待ってー、と元気に訴え、雫はパソコンに向かう。
 …で、そのタイミングでAquaこと水原の書き込みを見つけたのだった。
 そして当然の如く気になり、雫は水原にメール。
 今に至ると言う訳だ。
「あの、わたくしも…お返事、書いて頂きたく思いますが…お願いできますか、雫様?」
 嬉しそうに微笑みつつ言ったのは、色っぽく際どい形の黒い服を纏った少女。年の割には成熟し過ぎのプロポーションにその装束はある意味目の毒とも言える。そして長い長い黒髪が靡くその背中には、何故か黒い羽を背負っていた。
 …どうやら本日のコンセプトは『堕天使』らしい。
 彼女のコスプレめいた異装はいつもの事なので、そろそろ慣れたか特に誰も何も言わない様子…。
「ん、みそのちゃんも気になった?」
 こちらもまた嬉しそうにみその――海原(うなばら)みそのに応える、雫。
 雫の声を聞くなり、みそのは、ええ、と笑みを深める。
「本物の『死神』様にお会いできるなんて幸運を逃がす事は出来ませんわ」
「…本物…かな?」
 やや疑わしげに瑪瑙が呟く。
「いや、最低限の情報の気がする『名前』すらわかってない辺りとか…疑わしいかな、って思ったり…ううん、あの水原さんが仲介している事だし、巫女さんのみそのちゃんがその話に自然に納得してるって事は…本物と思った方が間違いないか」
 ん、と瑪瑙は思い直し頷いた。
 その態度に汐耶が苦笑する。
「…まぁ、想像と現実は違うのが相場でしょ? それに、こちらの想像通り『まともに死神が仕事をしている』んだったら…物凄く単純に、本物の幽霊騒ぎなんかろくに起こらないんじゃないのかな?」
「う…そんなのつまんない…」
 汐耶のその科白にへこむ雫。彼女にとっては怪奇現象は生き甲斐。更に言えばその怪奇現象の内訳は――幽霊が関るものがかなりの部分を占めている。その幽霊が皆、居なかったとしたら…怪奇現象が激減するのは目に見えている。
 が、この近辺の現実をみて、それだけはどうやら無いと見ていい。
 ――…本当に死神が居て、死ぬべき人を殺すと言うのなら…魂の方もそれなりの場所へきっちり連れて行くものではないか?
 殺しておいて魂だけ放置なんて片手落ちはあるのか?
 幽霊とは…霊と言う形で存在している魂と言う事ではないのか?
「…そう考えるとこの書き込みにある『死神』の信憑性は増さない?」
 幽霊イコール魂で、死神が追っているのも魂、となれば…行方不明と言う事もありそうだ。
「…かも、しれませんね。…で、取り敢えず対象の相手が私とか汐耶さんだったらどうしましょう?」
 ちなみに汐耶二十三歳、そして瑪瑙は二十歳ちょうどだ。性別と年代だけは合う。
「妨害するわよ当然」
 にっこりと微笑みつつ、汐耶。
「ま、私たちは十年前に特別何かあった、って事も無いし、今すぐ死ぬような可能性は…事故にでも遭わない限りそうそう有り得ないでしょう? 十年前から捜してるなんて話だったら…違うとは思うけどね」
「…あ、レスが来たよ! みそのちゃん」
 言いながら雫はぱたぱたとキーとマウスを操作。
「どうも自分じゃ要領得ないから直に来て話聞いてやってくれると非常に有難いんですが如何でしょう、だって。こりゃAquaもお手上げって事か。あ、住所とここのネットカフェからの最短アクセスまで書いてある」
 あたし元々Aquaの住所知ってるんだけどそこに改めてここまで書いてあるって事は…来いって強調してるね、これは。
 雫は、はは、と笑いつつくるりと椅子を回すと、汐耶とみそのに瑪瑙と言った面子を見上げる。
「…どうする?」
「では、お招きの通りに…これから『死神』様の元に伺ってみませんか、皆様?」
 みそのはふわりと笑い、そう誘う。
「じゃ、ま、この件が済んでから…皆で夕飯食べに行きましょうか」
 小さく息を吐きつつ、汐耶がそう締めた。


■迷走〜水原宅より■

 築ン十年になるような古いアパート。
 田中裕介(たなか・ゆうすけ)はそこの二階にある水原の部屋のインターフォンを押していた。
 ちなみに押すまで少々逡巡している。
 …何故なら…。
「――『神』の気配とは違うな?」
 裕介の後ろから唐突に快い低音が響く。
「幾ら『死神』とは言え…こうも深い負の念を背負っている訳はあるまい。これはむしろ『怨霊』と言った方が正しそうだな? …にしては、この部屋以外にはほぼ影響が無さそうでもある。妙だな?」
「…貴方は?」
「お前と同じ用件でここに来た者だよ」
「…ゴーストネットの記事を」
「ああ。腐れ縁の男と示し合わせて、な」
「…俺は、同じ大鎌使いとして無視する訳には行かない、と思ってしまいましてね…」
 裕介の科白に、彼の後ろから現れた声の主――ダージエルは、ふむ、と少し考えてから、改めて裕介をちらりと見る。
「…私の息子を師と慕っている、か」
「え?」
「見てわかりそうなものだが?」
 訝しげな顔をする裕介に向け、何処か面白そうに続ける、ダージエル。
 と。
「確かに…師匠の…」
 似ている。
 外見や服装の印象のみならず、纏うその気配まで。
「皆まで言うな、田中裕介」
「…名前までお見通しですか」
 静かに息を吐くと、裕介は改めてダージエルに礼を取り、挨拶を。
 そしてふたりは水原の応答と、ドアを明けるのを待ち、中へ。

■■■

「どうも、お呼び立てしまして。ダージエル…さんに、田中くん、でしたね」
 柔らかい態度で招き入れる水原。
 が。
「…あ、ひょっとすると…入るのが『嫌』ですか?」
 あっけらかんと、言ってのける。
「…わかっているのか?」
 静かに問うダージエル。
「ええ。これは『同居人』のせいでして」
 水原は平気な顔で、助力をお願いしました『死神さん』のせいじゃないですよ? と釘を刺す。
「でもこれは…並みの人間では…」
 眉を顰めて呟く裕介。
 が、思った時には裕介の感じていた不調が止んだ。
「…霊感のある者は余計にきついだろうよ、これは」
 ぽつりとダージエル。
 …どうやら裕介に、霊障避けのシールドでも張ったらしい。
 そして部屋の奥をそれとなく覗く。
 視えたのは、『女性』の霊。
 そこから目を逸らし、視線を室内に巡らす。すると佇む黒衣の、大鎌を持った男を見つけた。…実体では無い。
「で、『死神』…と言うのはそちらの御仁だな」
 言われ、黒衣の男はダージエルを見遣る。
 水原が安心したよう、肩を竦めた。
「さすが神様。話が早いですね」
「無駄は省いた方がよかろう…ところでな」
 溜息でも吐きそうな態度で、ダージエルはゆっくりと腕を組む。
「『死神』と言うのなら…そちらの『彼女』を連れて行くのが先のように感じるが」
 …その辺りはどうなんだ?
 腕組みしたまま、死神に問うダージエル。
 神である彼の目には当然の如く、相当な怨念を持つ地縛霊と思しき女性の霊が見えている。部屋の前で感じた気配はこの『彼女』のものだ。むしろ『死神』の方が気配は薄い――と言うより、無い。そしてこの『彼女』に対し『死神』が特に動いていない以上、彼が捜している人物とは――取り敢えず別になるのだろう。
 ダージエルの科白に、死神は緩く首を振る。
 否定。
「…良く平気で居られるな、水原?」
 それを確認してから、思わず、と言った様子で、ちら、と水原に視線を移す。
 ダージエルの見る限り、このレベルの霊と同居していたなら…霊感皆無の人間であってさえ、ある程度の不調は起こしてしまいそうな…霊感のある者に至っては発狂し兼ねないのでは、と思うのだ。だが…この水原を見る限り、衰弱している様子も無理をしている様子も何も無い。普通だ。
 …媒体を必要とはするが、霊視可能だと言う…霊的不感症とも思えないこの男が、何故平気なのか。
 更に言えば周辺への影響も、何故か殆ど無いようだ。…部屋を一歩出たなら、ほぼ無害な浮遊霊程度の影響しか感じられない。
「ま、いろいろありますが…先住者ですからそれなりに敬意を払わねばとは思ってますよ」
 困ったように微笑みながら水原は言う。
 …お役目で無いのならこちらの死神さんに連れて行って頂く必要はありません。
 苦しんでいると言うのならそのまま苦しませてあげて下さい。
 彼女もれっきとした住人ですから。ここの。
「…それは随分とお人好し…と言いますか…」
 呆れたように裕介。
 だがこの水原は――苦しむなら苦しめ、などとさりげなく不穏な言い方もしていた事に後から気付き、俄かに黙り込む。
 それを察したか、水原も裕介を見、微笑んだ。
「もし、ダージエルさんがそうするべきだ、と思うのでしたら天(うえ)に上げてやって下さい。ですが彼女は随分と長い事――それは神様のスパンで考えたなら瞬きの間でしょうが――ここにおりますし、正直、『日常』になってるんですよ。この状態が」
 …それは…多少面倒だったり厄介だったりはしますけど。
 見上げてそう言われ、ダージエルも、ふ、と笑う。
「ならばこちらの『彼女』をどうにかしてしまうと…今存在しているお前の調和は崩れる、と言う訳か」
 さらりと言い、納得したのかそれっきり『彼女』の方は気にせずダージエルは『死神』の方を見る。
「…姿を見せてはくれまいか。捜索を手伝うにしろ、見えないままでは色々と不便がある」
『お前には視えているだろう…それにこの…少年にも…この部屋の主にもな…。申し訳無いが…実体化は勘弁して欲しい』
「今この場では不都合は無かろうが…霊感の無い人間も手伝いに来るぞ?」
 それでも無理か?
 ダージエルの問いにも、死神は無言のまま、困ったように頭を振るだけ。
「…わかった」
 と、ダージエルが言うなり。
 ――死神が唐突に実体化した。
『…な?』
「私の力だ。迷惑か?」
 あっさりと言うダージエルに、死神は茫然とその顔を見返すだけ。

■■■

 暫し後。
 真っ先に水原と繋ぎを付けた雫が、汐耶にみその、そして瑪瑙を引き連れて彼のアパートまでやってきた。
「こんにっちわー☆ …いやもうこんばんは、かな? 瀬名雫でぇっす!」
 インターホンに元気良く名乗る。
 と、ドアが開けられた。
「いらっしゃい、瀬名さん」
「メールで言った通り皆で来たよ☆」
「ありがと。いやあ、僕だけだと結局、何にも出来ないからね」
「…ところであの、何となく…部屋の中に漠然と『嫌』な気配があるんですが、大丈夫なんですか?」
 ――そう、例えるなら悪霊を封じた禁書、の封印が解かれた瞬間、のような…。
 雫の後ろから気懸かりそうに、汐耶が問う。
 封印能力を持つ汐耶にしてみれば、仕事上もあり封印対象になりやすい『負の気配』にはそれなりに敏感になっている。…これが『死神』の気配なのか。
 と。
「…綾和泉さん?」
 ひょっこりと水原の後ろから顔を出したのは、裕介。
 真っ直ぐな長い髪をゆったりとひとつに纏め、垂らしているのが特徴的なその姿。
「…田中くん? キミも掲示板を見て?」
「ええ。出来る限りのお手伝いはさせてもらおう、と思いましてね」
 こんなところでお会いするとは、奇遇ですね、と静かに微笑む。
 そんな中、考えるように小首を傾げつつ、何となく足を止めたままのみその。
 すると部屋の中から、貴族的な風貌を持つ金髪の美丈夫が顔を出した。
「久しいな、みそのよ」
「まあ、ダージエル様。お久しぶりで御座います」
 よくよく見知った『神』の姿に、みそのは反射的に深々と頭を下げる。
 そして。
「…ところで…あの…」
 随分と澱み、穢れてしまっている空気の『流れ』が感じられるのですが…これは『死神』様の?
 やや困惑したようにみそのはダージエルを見る。
 ダージエルはゆっくりと頭を振った。
「死神には気配は無い。『これ』に関しては気にするな。…ここはこれが『普通』ならしい」
 みそのが気にした『流れの澱み』は、先程ダージエルが見咎めたものと同様の、女の地縛霊。
「でもなんか…ちょっぴり気持ち悪いような…気がするようなしないような?」
 どうやらこの部屋には何かがあるぞ、と目敏くも見て取り、怖がってるのか喜んでいるのかいまいちわからない雫の反応。期待に満ちきらきら光っている瞳。…霊的不感症の雫でその反応ならば、やはりこの『彼女』は、かなりの負の力を持つ霊になる。
「…ならばシールドを張ってやろうか。雫」
 あっさりと言い、ダージエルは先立って裕介に張った霊障避けのシールドを更に、雫だけでは無く一同に――構わないと言う水原以外に張る。何の動作もしないまま。その言葉だけで。
「あ、気持ち悪くなくなった」
「…確かに」
 ほっ、と息を吐きつつ、汐耶が同意する。
 と。
 ぴんぽーん。
「あ、きっと淡兎(あわと)くんだね。彼も直に来るって話だったから」
「そうだな。ドアの外に居るのはエディーだ。…手間取ったようだな。全く」
 ふぅ、と息を吐きつつ、あっさりと肯定するダージエル。
 彼が示し合わせてきた腐れ縁の男とはエディーと言う愛称の男、淡兎エディヒソイの事だったらしい。
「と、なると…何だか見知った面子ばっかりね?」
 …初めから同じ場所に居た訳じゃないのに。
 苦笑しつつ、誰にとも無く呟く汐耶。
「…まぁ、同じ事象に気を留めた…似た者同士と言う事なのだろう」
 うむ。と頷き、同意するダージエル。
 そんな彼らを余所に、部屋の主の水原は玄関ドアに向かう。と、予想通り「メールで連絡しましたエディーです〜」、と声が直接聞こえてきた。
 ドアが開く。
 室内の面子の視線を一身に浴び、予め連絡を取っておいたダージエルをはじめそこに居るのが殆ど知り合いと判ずると、エディーは毎度〜、と声を掛けつつ入ってきた。
 と。
 室内の面子の中、一対だけが険を帯びた視線に変わる。
 陰気な顔の黒衣の男。
 大鎌を持った。
『…見つけた』
 囁くような小さな呟き。
 そして。
 ぶん、と勢いを付けるよう、大鎌が振られた。
 きょとんとした顔のエディー。
「下がれエディー!」
 咄嗟の、ダージエルの叫び。

 ――『死神』の視線は、エディーに真っ直ぐ向けられている。

■■■

 ――死神がエディーを狙っている。
 その事実にダージエルを除いた一同は瞬間的に面食らい、ふたりを追うのが遅れた。
 放っては置けず、皆、死神とエディーを追い、外に出る――出掛かる。
 が、その時。
 メールの新着を知らせる音が鳴った。
 ディスプレイ。
 メールボックス。
 新着メールの送信者名はシュライン・エマ。
 …エディーを追う直前、咄嗟にそれに気付いて水原はそのメールを開封する。更にドアの外に出掛かっていた汐耶も先にそちらに気を留め、立ち止まった。水原の見ているワークステーションの前まで足早に戻る。
 と。
 そこには。

 ――少なくとも『十五、六の少年』の方はこちらで見つけた事になるのかもしれない。

 そう書いてあった。
「…って…シュラインさんの方にそれらしい人が居たって事!?」
「さすがにあの淡兎くんが死ぬ運命とはちょっと思えないしね」
 汐耶の声に、うん、と頷く水原。
 そしてメールの続きを読む。
「…で、エマさんは…『その少年と深い関りがあった人』を連れてもうこちらに向かっているそうだ」
 メールの送り主の居場所と、水原のこの部屋は――実は、程近い。

■■■

 薄闇が支配する宵の口。
 シュラインは凋叶棕と御言を連れ、水原のアパートに向かっていた。
 が。
 水原のアパートが見えるところまで到着し、急ごうと足を速めた正にその時。
 二階へ上る階段があると思しきその場所から、がんがんがん、と派手な音が聞こえてきた。
 直後、
 リボルバーの拳銃――実際はモデルガンだが一見したところは本物と大して変わりない――片手に、階段からエディーが飛び出してきた。
 と思ったら斜め上後方にBB弾数発を撃つが――直後にエディーは目を見張り、再び逃げるように走り出す。
「え? エディー!?」
「シュライン姐さん!? …っと呑気に話しとる場合やないっ、失礼します!」
 ぶつかりそうになりながら、挨拶もそこそこに駆け去るエディー。
 次の瞬間、階段から黒衣の男がゆったりと下りてきた。
 …大鎌を持っている。
『死は…誰もが平等に逃れられぬ宿命――覚悟』
 と。
「…やはり違うな」
 エディーを追い、歩く死神のその正面。
 流れる金髪と深い青のマントが、靡いた。
 唐突にそこに居た。
 …一瞬前には、居ない。
「さすがに、エディーは死ぬべき運命には思えんよ」
 ダージエル。
「…わたくし…にも…少なくとも淡兎様には…“死”に連なる“流れ”は…視えません…わ」
 かなりの無理をしたのか激しく息を切らせつつ、今度は死神の後方から現れるみその。
 裕介は咄嗟に彼女を介抱しつつ、己が師の父親と死神の対峙を見ている。
『問答…無用だ――』
 唸るように言い、死神は獣の如き低い体勢で構えを取る。戦闘体勢に入る気か。
 ダージエルはそれを見て、中空から一振りの剣――ソード・オブ・ダークヘブンズ――を『取り出し』た。
「…な」
 裕介は思わず声を漏らす。
 こんな場所で――天空剣宗家の剣が振るわれると言うのか。
 驚きと警戒、恐怖…そして期待のどれを感じたら良いのか判別付かぬまま、裕介の視線がその手許へと釘付けになる。
「問答無用、か…ならば仕方あるまい――」
 溜息混じりに呟くと、ダージエルは、ざ、とマントを翻す。
 刹那。
 ダージエルと死神の姿が、消えた。
「え!?」
「…本気ですわ、ダージエル様」
 みそのが呟く。
 恐らく今、彼らは異次元に――転移した。
 神であるその力を、存分に揮う為。

■■■

「え、…うぁっ」
「わ、エディーさん?」
 全速力で逃げていたエディーに、どん、と真正面から勢い良くぶつかられ――たにしては平気な顔をして、立っていた男こと真咲御言(しんざき・みこと)は、よろめくエディーを咄嗟に支える。
「…大丈夫ですか?」
「大丈夫やあらへんわっ」
 はよ逃げんと!
「…慌てなくとも、今は貴方を追っている方は誰も居ませんよ」
「へ?」
 きょとん、とした顔で御言を見るエディー。
 そして、そろそろと背後を振り返った。
 と。
 ――霊的な力が込められている筈のBB弾が当たっても効いた様子が無く、重力操作で誤魔化すにも…太刀打ち出来なかった死神は、そこにはもう居ない。
 エディーが目に見えて安心し、へなへなと脱力するのがわかった。
 ちょっとちょっと、と御言は咄嗟にエディーの腕を自分の肩に回し、身体を支える。
「…ったく…この為に俺を連れてきた訳ですか、凋叶棕(てぃあおいえつぉん)は」
「あ、すんませ…ってそういや…なんでここに真咲の兄さんが?」
「エマさんと凋叶棕に連れて来られましてね。用件は恐らく、貴方と同じです」
「同じってぇか、あの死神ワイ見るなりいきなり襲ってきやがったんやけど…」
「…エディーさんは十七歳でしたよね、で、ロシアの血が入ってますから…あの、馴染みのある文化圏は…」
 日本とロシア、どちらになるでしょう――と、訊き掛けて、答えを聞く前に納得。
「日本ですね」
 …堂に入った大阪弁を聞けばそれはわかる。
「と、なると…条件としては誤差の範囲ですか。…ああ、射撃得意なんでしたっけ?」
 エディーの片手にぶら下がっているモデルガンを目にし、御言。
「…百発百中で当たりまっせ、一応な」
 早撃ちもそれなりに得意やし。
「と、なるとやはりこちらで出た話で、正しいかも知れませんね…」
「なんや話進んどるんですかそっちでも」
「まだ可能性の段階ですが…捜されていると思しき対象が見付かりまして。確認の為に来たんですよ」
「確認て…じゃあワイやないんやな!? 間違いなんやな!?」
 思わず御言に詰め寄るエディー。
「…そりゃ俺は死神本人じゃないんで言い切れませんが、元々聞いていた条件から考えてもエディーさんな可能性は凄く低いと思いますよ。それに、物凄く単純に、エディーさんが今すぐ死ぬようには見えません」
「そか…だったら良かったわ…っと、そういや猫神は!?」
「…猫神?」
「ワイの付けたダージエルの俗称や…っつっても兄さんはダージエル自体知らんかったか。ダージエルってのはな、異世界の神でワイの腐れ縁や」
 さっき逃げろて声掛けてくれたんやが…それっきり…。
 と、そこに。
「大丈夫だったエディーくん!?」
「まだちゃんと生きてますか!?」
 ぱたぱたと駆けて来たのは最後に部屋から出てきた汐耶と水原。
「そう簡単に死んで堪りますかいな」
 ふたりに向けエディーは力無く、呟いた。

■■■

 暫し後。
 空間がシフトした。
 神同士の戦いの場が――現世に戻る。
 ダージエルは己が剣と、死神の大鎌をかち合わせ、敢えて膠着状態にしたまま、静かに問うた。
 周囲を破壊せぬ為、今は神威を極力消しているが…何故か死神の方も同様にしている様子。
「…どうも様子がおかしく見えるのだよ。狙う相手は本当にエディーで間違いは無いのか、死神よ」
 エディーでは無く。
 先見能力で見えるものと今のこの状況は、何もしっくりこない。
「問答無用ッ」
 だが死神は聞く耳持たず、ぎり、と大鎌に力を込める――込めようとする。
 何処か困ったようにダージエルは死神を見た。
 と。
「…そこらにしておいてくれないか。こんな場所で『神』同士の戦いをするのは――危険過ぎる」
 幾ら力を抑えていても。
 次元の違う戦いに、ぼそりと口を挟んだのは――都会の裏街道が似合う、やや洒落者な三十路の男――に見える人物。
 やや茫然としているシュラインの後ろから現れた彼の声で、死神の動きが止まった。
 但し、代わりに忌々しそうな唸りが発される。
『…さすがにこれは…分が…悪過ぎるか』
 舌打ち。
 当然のように、死神の大鎌から力が抜けた時点でダージエルは剣を引く。
 …もう問答無用で襲っては来るまい。
 独白しつつ、今度は現れた男の方を見る。
 この男が来たせいか。
 分が悪いとは…神格持ち『ふたり』を相手にするのはまずいと見たのか。
 そんなダージエルの考えも知らぬまま、現れた男はおもむろに口を開く。
「…お前の捜していると言う魂は『高比良弓月(たかひら・ゆづき)』、違うか?」
 あっさりと、名前を。
 告げた。
『…なに?』
「シュライン女史にゴーストネットの書き込みの話を聞いてね。これはひょっとするかな、と思って付いて来た」
『名前は…』
 知らない。
 そう続けようとした死神の声は――遮られる。
 現れた男――凋叶棕に。
「わからないなら俺の気配を読め。死神と言うなら対象は感覚でわかるもんだろう。…この身体の裡に一度入れた事がある」
 高比良弓月の魂を。
「…まだ気配の残滓程度は残ってる筈だ。奴の霊格は生きてた時からやたら高かったからな。…やりように寄ったら充分御霊――簡単に中級以上の祟り神になるくらいの力はあったよ」
『…』
 死神は眉を顰める。
 何事か考えを巡らせているように。
 そして改めて、御言や汐耶、水原に支えられ戻ってきていたエディーを見直す。
 見られたエディーはびくりと身体を震わせた。…ダージエルと互角。それに本気で命を狙われていたとなれば…恐怖を感じない方がおかしい。ダージエルは普段はいまいち捉えどころの無い気さくな?神。だがその『力』は洒落では済まない事は重々心得ている。
 ダージエルはゆっくりと、愛剣を鞘に滑らせ、仕舞った。
「拳銃の扱いの上手さ――で間違えたか? ガンマンと言うのも…それなりに独特の空気を持つからな」
 そんな死神を見つつ、ぽつりと指摘するダージエル。
 凋叶棕の存在で、その高比良弓月と言う存在の記憶が見えたのだ。…どうやらこの少年も、銃の扱いが、上手かった様子。本職か。
『高比良弓月と言うのは…何処に居る…?』
 ぼそりと。
 死神は呟く。
『時間が、無いんだ…』
「…だったら、何故もっと早く来なかった?」
『…なに』
「高比良弓月は疾うに死んだ」
『…』
「魂も疾うに無い」
『…な、に』
「魂魄分かたれた時点で本来の迎えが来ていたならば――魂までは、喪われずに済んだ筈だ」
 淡々と。
 凋叶棕は死神に。
 と。
 死神は酷く、哀しそうな顔をした。
「…?」
『済まん』
 死神は短く呟く。
 そして漸くその大鎌が、力無く、脇に下ろされた。
 凋叶棕はそれを見て、ふ、と目を細める。
「高比良弓月で当たりなんだな」
 静かに首肯する。
『…喪われて、しまっていたのか』
「絶望させてしまってね」
『そうか…それは本当に…済まない事をしたな…』
 静かに言いつつ、死神は目を伏せる。
 荒々しさは、消えた。
 その和らいだ空気の流れを感じたか、みそのがふと口を開く。
「では…シュライン様や凋叶棕様の仰るその高比良様が――死神様の目的の少年であったと言うならば…『もう二十歳近くなる筈の女性』の方にも…何か心当たる部分でもあるのでしょうか…? 草間興信所やアトラス編集部と関る方で、どなたか?」
 悩むように小首を傾げつつ、みそのはシュラインに問う――途中で。
 あ、と小さく声を上げた。
 察して、シュラインが痛いような顔をする。
「…まさか、美都(みと)…様…?」
 みそのの声を聞き、死神は、じっ、とその顔を見た。


■死人〜刻限■

「…美都様は、向かうべき流れが見付からない御方ですわ」
『向かうべき流れ…』
「生きていた戸籍もない上に、鬼籍からも外れているらしいのよ」
 みそのに続き、汐耶が言う。
『して、その美都と言うのは…何処に居る』
 その声を聞き、汐耶にシュライン、瑪瑙に雫が自分の懐や鞄を探ろうとする。が、その最中に互いを見合って三人はその行動を止め、結局唯一行動を続けた――携帯電話を取り出したのは、シュラインだった。
 そして無言のまま、ぴ、ぴ、とアトラス編集部に電話を掛ける。
 渋々ながら、と言った様子で、美都を呼び出した。
 死神の話を伝える。
(私…なんでしょうか?)
 困惑気味に、美都。
 今更貴方をそうそう手離せないわよ? と電話の後ろの方から編集長・麗香の声まで聞こえる。
(本当にお迎えなんでしたら…それは抵抗する気はありませんが、麗香さんもこう仰っている事ですし…今すぐは逝けません)
 予想通りの答えが返る電話。
「よ、ね」
(はい。…直談判…可能でしょうか?)
「…替われって事ね」
(はい)
 その声を聞くと、シュラインは通話中になっているその携帯電話を――す、と死神に差し出した。
 一旦驚いたような顔をして死神はそれを受け取ると、恐る恐る耳に当てる。
 と。
(もしもし? 死神さんですか)
『…』
(聞こえてますか? 美都です。少しお話ししても宜しいでしょうか?)
 そこまで聞いて。
 死神はシュラインに携帯電話を返した。
 ひとことも発さぬままのその行為に、シュラインは目を瞬かせる。
「目的とは…違いましたか?」
『いや。この子のようだ』
「――」
「だったら何故、何も言わないんですか」
 汐耶。
「…何も言わぬまま――直に行き、刈るつもりですか」
 裕介。
 死神は少し考えるような素振りを見せてから――力無く笑う。
 と。
 みそのがその顔を覗き込んだ。
「あの、死神様、貴方様の…体波動が…先程から、弱々しくなってらっしゃいますよ…?」
 困惑気味に告げる。
 …あまりにはっきりと、弱って行くのがみそのにはわかるのだ。流れが緩やかに、力を失って行くその様が。
 と、死神はそんなみそのに対し、に、と笑った。
『だろうな』
 頷く。
「…え?」
『俺はじきに消滅する』
 当然のように。
 ダージエルがそうか、と静かに呟いた。
「故に己が力での実体化は無理だった…と言う事だな」
『まぁ、な。…最小限度に力を抑えなければ持たぬと…思っていた』
 その上に、異世界の強力な神との交戦までやらかした。
 …消耗しない訳が無い。
 タイムリミットはどんどん短くなる。
『初めに見た時…その銀髪の少年だと思ったん、だ。ここで逃がしたら、終わりだ、とね』
「けれど、それは間違いだったんですね」
 先程目の前で倒れ掛けたみそのを気遣いつつ、裕介は死神に。
『…ああ、そちらの仙人の裡に視えた魂の残滓こそが…当たりだった。済まぬ事をしたな、淡兎エディヒソイ』
「…ワイは勘違いで殺されるとこだったんかい」
『そう言うな。お前には神がついている』
 言われ、きょとんとした顔でエディーはダージエルを見た。
 と、無言のまま、ふ、と微笑まれた。
 そして今度はダージエルが口を開く。
「で、依頼通り…ふたりが見付かったようだが、これからどうするんだ?」
 少年の方は疾うに喪われていると言う。
 女性の方は――居場所もわかった。
『残念だが――どうもできんよ』
 緩く首を振り、死神は静かに話し出した。
 …もう、連れて行く余力まではない。
 自分たちのような『死神』は、元々衰えている上に…刈る対象が――やたらと難しい。
 殆ど不明と言って間違いない情報しか渡されず、『連れて来い』と言われるのみで。
 生死のケジメが付いていないイレギュラーの存在を刈る為に、消滅寸前の神が死神に任命される。
 それも、元々が大きな…強烈な神威を持っていた存在にばかり回される…最期の職務。
 連れて来れれば万々歳、駄目だとしてもそれはそれ。
 任じられた死神自身の命、『存在する力』が尽きれば――それまで。
 その時点で、その死神の職務は終わる。
『…と、言う事だ。最早『封じる』までもない』
 汐耶を見、静かに笑む。
 思っていた事が見抜かれていたらしい。
『死神が最期に刈り取るのは――自分自身の命』
 タイムリミットだ。
 …その美都と言う娘…生者に望まれる存在ならば、まぁ、居ても良いんだろうよ。

 さて。
 いずれ…俺のような者がまた来たらその時は――精々、頑張りな。
 足掻けよ。

 じゃあな。

 その四文字の形に口が動いて。
 黒衣の死神は――文字通り消滅した。

「…これは…どう見たら良いのかしら?」
 困ったように、シュライン。
「ワイ、襲われ損か…?」
「あの死神さん…はじめから連れて行く気が無かったのかしら?」
「…いや、周囲の者の心で判断したようだぞ」
「え?」
 ダージエルの声に、一同の視線が集中する。
「現状維持を望む心、喪われた事を悼む心、生き抜こうとするその意欲――その上に、死神当人も言っていただろう、連れて行けるかどうかは博打だと」
「…まぁ、こんな事もあるんでしょうね」
 溜息混じりの声が、最後にぽつりと響き渡った。

【了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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 ■整理番号■PC名(よみがな)■
 性別/年齢/職業

 ■1449■綾和泉・汐耶(あやいずみ・せきや)■
 女/23歳/都立図書館司書

 ■1388■海原・みその(うなばら・みその)■
 女/13歳/深淵の巫女

 ■1416■ダージエル・ー(だーじえる・ー)■
 男/999歳/正当神格保持者/天空剣宗家/大魔技

 ■1207■淡兎・エディヒソイ(あわと・えでぃひそい)■
 男/17歳/高校生

 ■1098■田中・裕介(たなか・ゆうすけ)■
 男/18歳/高校生兼何でも屋

 ■0086■シュライン・エマ(しゅらいん・えま)■
 女/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

 ※表記は発注の順番になってます

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 ※オフィシャルメイン以外のNPC紹介

 ■依頼人■死神(本名不明)■
 男/?歳/

 ■仲介人■水原・新一(みずはら・しんいち)■
 男/28歳/高校教師・ハッカー『Aqua』

 ■目的その一■高比良・弓月(たかひら・ゆづき)■
 男/(享年)15歳/-

 ■目的その二一■幻・美都(まほろば・みと)■
 女/(享年)11歳/幽霊・月刊アトラス編集部でお手伝い

 ■高比良弓月は『一番のお気に入り』だった仙人■鬼・凋叶棕(くい・てぃあおいえつぉん)■
 男/594歳/探偵(草間興信所下請け・表向き)・仙人(本性)

 ■相談を受けた人■真咲・御言(しんざき・みこと)■
 男/32歳/バーテンダー兼用心棒・元IO2捜査官

 ■ネットカフェに居た人■香坂・瑪瑙(こうさか・めのう)■
 女/20歳/大学生・雫常連ネットカフェのバイト長

 ■ネットカフェに居た人■店長(本名不明)■
 男/?歳/雫常連ネットカフェの店長

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■         ライター通信          ■
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 さてさて。
 深海残月です。
 ダージエル様、田中裕介様、初めまして。
 綾和泉汐耶様、海原みその様、淡兎エディヒソイ様、シュライン・エマ様にはいつもお世話になっております。
 皆様、御参加有難う御座いました。

 大変お待たせ致しました。
 初日に発注下さった方は納品期限ギリギリと言ういつもの如き遅さです(苦)
 …最近いつもちょっと危ない橋です(汗)
 そしていつもの如く文章もやたら長いです。
 …辟易してたらすみません…。

 今回は…基本的に皆共通で、中途半端なところに個別が混じっている形です。
 …あまりに中途半端だったので、それぞれにPC様の名前を書いて分けてはありません(汗)
 取り敢えず綾和泉汐耶様と海原みその様御二人だけは全面的に共通になっております。

 そしてやっぱり内容は薄暗いです…。
 すみません予想外に反動が来てしまい…(最近ライターの書いていたもののギャグ率が高かったので/笑)
 何だか妙に脱線しまくっていますしね…。
 ちなみに高比良弓月の件は…ゴーストネット調査依頼『迷い幽霊預ってます』が前提になってます。

 綾和泉汐耶様
 そ、速攻で妨害路線ですか(汗)
 取り敢えず封印するまでも無く、一難は去りましたが…。
 あ、『連れて行く』事に関してわざと言葉を濁してあった事が、読まれてましたね…。

 で、今回はこうなりました。
 楽しんで頂ければ、御満足頂ければ幸いなのですが…。
 気に入って頂けましたなら、今後とも宜しくお願い致します。
 では。

 深海残月 拝