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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


記憶にないメール
「今日も色々入ってるわね…ん?」
 掲示板をチェックしていた雫の目に突然、それまでの掲示板の流れを無視して書き込まれている一件の情報が飛び込んできた。


投稿者:KYO
 誰か、相談できる人いませんか?なんか、友達があたしのメルアドで変なメールもらったって言ってるんだけど…。

>ぼくはこの家の中に閉じこめられました。
>ぼくは何もわるいことしてないのに。
>おねがい、だれかたすけて。
>ぼくを家に帰して。

 こんなメール送ったこと無いのに。それも送信した時間って学校行ってたんだし。
 送信されたの、前にあたしがパソいじられたって言ってた日で…。
 お母さん家にいたんだけど、誰も来てないって言ってるし…。
 どうしたらいいのか、誰か教えてください。


 書き込んできたのは、この掲示板の常連のKYO。といっても、怪奇系の書き込みではなく噂に対して興味しんしんに聞いて来る方の常連だった。
「“言ってた”…書き込んでる?」
 日にいくつもの書き込みがはいる掲示板などすぐに記事が流されてしまう。ようやく何ページ前かに見つけたその記事には、彼女が出かけている間に父親にパソコンを勝手に使われた、という憤慨のメッセージが残っていた。更に濡れ衣だと主張した父親と大喧嘩したらしい。
 そう言った記事を事前に書いている以上、ガセとは考えにくそうだが…。
「面白そうね?」
 唇が大きく笑みの形へと変化していく。
 これが、今回のGOサインとなった。

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「初めまして。KYOのハンドルネームを使っている、江口匡子です。今日はわざわざありがとうございます」
 緊張のためか、目印にと指定してきた携帯電話をぎゅぅっと握り締めながら、ぺこんっと急いで頭を下げる少女。聞けば近所の高校に通う生徒だと言う。お辞儀をした手元で、10センチ程の長さの茶色いぬいぐるみがぶらぶら揺れた。
「はじめまして、今日は宜しくお願いします。…それにしても大きいですね、そのストラップ」
 ほぼ同時にみなもが軽く頭を下げ、少女の手元に揺れているぬいぐるみを見ながら小さく微笑んだ。
「あっ、これですか?友達の手作りで…猫が好きなんです」
 実際に気に入っているらしく、その話題でぱっと顔を輝かせる。お陰で緊張も多少ほぐれたらしく、まずは全員がその場で簡単に名を名乗りあった。
 電話で『携帯に付けた猫のストラップ、目立ちますから。これを持って、駅の改札前で待ってます』そう彼女に言われた時には首を傾げたものだったが、確かにこれは非常に目立つ。
「こういう使い方もあるものなんだな」
 感心したような調子で蘇芳が呟き、そのまま匡子へ顔を向ける。
「えっと、匡子ちゃん。今日はあなたのパソコン見せてもらいたいんだけどいいかな?」
「はい、構いません。両親にも友達が来るからって伝えてあります」
 元気良く頷いた匡子がそう言い、先に立って皆を案内する。みなもが差し入れに、と持ってきていたペットボトルとお茶菓子を半ば強引に受け取って持ち歩きながら。
「この辺、車通りが多いから気をつけてくださいね」
そう言われて良く見れば、あちこちに『事故多発地点』等の看板が立っていた。中には真 新しい看板の下に花束が添えられているものまである。
 それらを通り過ぎれば閑静な住宅街。急に穏やかな場所に入り、皆なんとなくほっとした表情で顔を見合わせた。
「その後のメールの様子はどう?」
「友達は着信拒否にしたって言っていたし、あたしの方は今どうなっているのかは分からないです」
「今?…メーラーは調べてみたかい?」
「いえ」
 とんでもない、と言う風に大きく首を振って怯えた表情になる。
「怖いですから」
 それもまた、素直な反応なのだろう。それ以上は現地に行ってからということで、会話は世間話へと移行していった。



「ここがあたしの部屋です。パソコンもこの部屋にあります」
 自分の部屋に戻ったことでほっとした表情になった匡子が、それが癖でもあるのか、ポケットから取り出した携帯を自分の机の上に置いた。すぐ近くにはパソコンモニターが斜めに置かれている。
「それじゃ、早速パソコン使わせてもらうよ。っと、その前に」
 蘇芳が椅子に腰を降ろしてパソコンを立ち上げようとして、くるりと椅子を回転させて匡子に向き直る。
「なんで匡子ちゃんの愛機がいじられてるって分かったの?」
「確信はないんだけど…パソコンって強制的に終了させたら、次に立ち上げた時『強制終了したのでエラーチェックします』ってメッセージ出ますよね?あの状態だったんです」
 年上の男性とはあまり話す機会もないのか、少し畏まった様子で匡子が更にちょっと考える仕草を見せ、
「その前の日はちょっとしたことがあって、夕方帰ってからメールチェックをしたっきりですぐ終了させちゃったし、次の日に見るまでは動かしてないから…それに、マウスの位置とかも変だったし、もうこれしかないと思って」
「…お父さんと喧嘩した、と言うわけね?」
 汐耶が静かな調子で口を挟むと、匡子はこくりと頷いた。
「そうだね。…多分ね、ココを押して終わらせたんだよ」
 ちょっと眉根を寄せながら、本体の電源スイッチに指を向ける。下手をすればデータが破損しかねない行動だが、割にやってしまう人が多いだけにやれやれといった表情を浮かべて。
「…誰か、閉じ込められてしまったんでしょうか?」
「その辺は調べてみないと何とも言えないけど…まいったな。俺、霊感ないからその辺詳しくないんだけどなぁ…」
 みなもの言葉に答えながらパソコンを立ち上げようとして、蘇芳が「ん?」と声を上げた。
「どうかしましたか?」
 緊張した声で匡子が声をかける。いや、と蘇芳が呟いて、後ろを振り向く。
「パスワード設定したんだ?」
「あ、はい。お父さんに覗かれないようにって。メーラーも、毎回パスワード聞いてくるするように設定し直しました」
「じゃ、パスワード教えてくれる?」
 教えられたパスワードを打ち込み、パソコンを立ち上げる。
やや待って、お馴染みの画面が現れた。
 蘇芳が慣れた手つきで、パソコンの状態をざっとチェックし…呻き声と共に、言葉を搾り出す。
「……匡子ちゃん。アップデートかけたこと…ある?」
「あっぷでーと、ですか?」
 パソコンに近づくのも怖いのか、部屋の入り口近くで3人を見ている匡子が、きょとんとした顔で聞き返した。その答えだけで、一度もそういったことをしていない事を知り、ため息を付く。
「ま、それはいいや。後回し後回し。で…例のメーラーは?」
「デスクトップにひとつだけ置いてあるのがそうです」
「これか、OK。それじゃ、開くよ…」
 匡子にパスワードを教えてもらい、メーラーを立ち上げる。流石にその場にいる全員が緊張した面持ちでパソコンを見つめた。……が。
「何も…起きませんね」
 暫く待っても何の反応もないことを確認し、後ろからそっと様子を窺っていたみなもが小さな声で呟いた。
「そうね。――送信記録は?」
 汐耶が軽く頷きつつ、その先の作業を促す。
「いきなり何か起きられても困るけどな。さてと、送信記録…これか」
 蘇芳が正直な感想を言いつつ、フォルダを開いていく。目当てのデータを見つけると一瞬手を止め、更に詳しい情報を調べ、
「ここから送信されてるね」
 匡子に聞いた日付と一致する送信メールを見つけ、それを開きながら後ろへ伝える。
「お父さんに聞いてみた?まさかとは思うけど、メールを誰かに間違って送ってないかって」
「この間は喧嘩になって、それ以上は聞いてないです」
 マウスとキーボードを手馴れた調子で使っている蘇芳はそれに頷き、それから視線を上げて傍にいる2人を見、最後に匡子に顔を向ける。ちょっと言いにくそうな顔で。
「それに。いいかな…一通だけじゃないんだ」
 匡子がさぁっと顔色を変え、口を押さえ、
「…どういうことですか?」
 みなもが代わりに口を開いた。
「ここから、毎日同じ人に全く同じ内容のメールが送られているんだ。3通目からは着信拒否入ってるから全部戻ってきてるけどさ」
 ふるふる、と泣きそうな顔で首を振ると、パソコンから離れるように部屋の外へ出、
「あ、あたし…お父さんに話聞いてきますね」
「あたしも行きます」
 みなもがモニターから離れ、匡子の傍へ行く。汐耶が同じくモニターから離れてノートパソコンを開きながら入り口にいる2人に声をかける。
「私たちはコンタクトが取れないかどうか調べてみるわ。…そちらは任せたわよ」
 はい、と頷いたみなもはそのまま柔らかな笑みを浮かべて匡子を見、そっと言葉をかける。
「…大丈夫ですよ、あたしたち、そのために来たんですから」
 その言葉にこくこく頷いた匡子が、ようやくほっとした表情を見せて、何か話しながら下へと降りていった。



「ごめんね、世話をかけてしまって…」
 部屋を出て、自分の臆病さを恥じるような調子で匡子がみなもを見る。
「不思議なことがあれば、うろたえてしまうのが普通ですから。それに、あたし、パソコンに詳しくないから、こうやってサポートに回るほうがいいんです」
 そんなことを話しながら居間の扉の前に行き、軽く呼吸を整えてノックする。
「お父さん、いる?」
「ん?なんだ?」
 返事を聞いてがちゃりと扉を開けると、そこに匡子の両親がいて不思議そうな顔で2人を見つめてきた。
「お友達の方はいいの?」
「ん、お父さんにちょっと聞きたい事があってね。すぐ戻るから」
「な、なんだ?」
「この間のパソコンのこともう一度聞きたいんだけど」
「あの話か。あれはもう済んだことじゃなかったのか?」
「…すみません。確認しておきたいことなんです」
 突然口を挟んだみなもにぎょっとした顔をして、それから不機嫌そうに口をへの字に結ぶ。
「あたしたち、匡子さんのパソコンの調子が悪いということで呼ばれたんですけれど…最近、何か変わったことはしていませんか?」
「い、いや…知らないぞ、私は」
「――例えば、パソコンを終わらせる時に電源ボタン…直接押したりしていませんか?」
「えっ、あれって悪いことだったのか?……あ、いや…」
「…お父さん?」
 娘と妻の2方向から強い視線を浴びた男が耐え切れずに「すまん」と頭を下げた。
「何か見たりしたの?」
「メールは会社でも使ってたからな、読むくらいは…だがなんだあれは?自分の写真を見ず知らずの相手に送りつけるなど、何かあってからでは遅いんだぞ?」
「…学校の子に送ったの。女の子よ」
 うっ、と詰まった男が何か反論を考える前に、匡子が言葉を続ける。
「それじゃ、その子たちの誰かにメールしたりした?」
「何でそんなものを送らなければならないんだ?お前の友達にお父さんがメール送っても仕方ないじゃないか」
「それはそうだけど…」
 不思議そうな顔をして聞き返す様子を見れば、これに関しては嘘は付いていないだろうとみなもが判断して、匡子に軽く頷いてみせた。
「聞きたかったことはそれだけ。…今度同じことしたら、もう一緒にご飯食べたげないからね」
 何やら匡子〜と叫ぶ声や、たしなめる響きを背に階段を上がる。
『…あとは返事が来るのを待つだけだな』
『そうね』
 中から聞こえた言葉に顔を見合わせながら、扉を開いた。
「行って来ました。…そちらはいかがでしたか?」



「おかえり。どうだった?」
 蘇芳が2人に顔を向けて聞くと、
「峰崎さんの言ったとおり、ボタンを押して消しちゃったんですって。…でも、メールは出してないって言っていました」
「今日は、きちんと答えて下さったみたいです」
 みなもが言葉を付け加える。
「やっぱりな。――こっちも収穫ありだった」
「あっさりと答えを返してくれたの。今、もう一度返事を待っている所。…ねえ、キミ。『松本勇一』って子に聞き覚えない?」
「え――勇くん!?」
「知ってるのか?」
 蘇芳が言葉をかけ、こくこくと頷きながら、
「その――最近、亡くなった子です…近所の」
 その場にいる全員の視線が、一斉に蘇芳の足元にあるパソコンに向けられた。
「――亡くなった?」
「…変なメールが始まる前の日に。駅前で、車にはねられたって。学校から帰ってメールチェックしてたら、お母さんが飛び込んできて教えてくれたの」
「最初に言っていた『前日のちょっとしたこと』ってそのことだったのね」
 汐耶の質問に、こくり、と首を縦に振って肯定する。
「その前の日には勇くんがうちに遊びに来てて、あのストラップ凄く気に入ってて…でも、あれ、友達からのプレゼントだったからあげられなかったの」
 蘇芳が机の上に置いてあるストラップを見る。コミカルな表情と動きの、良く作りこまれたぬいぐるみ。確かに、欲しがる人は多いだろう。
「まさか、その勇くんが、うちの…パソコンに?」
「正確に言えばメーラーの中に。どうやら、匡子ちゃんのお父さんが怖い顔でパソコンに向かっていたお陰でそこに逃げ込んだらしいんだ」
「……お父さんったら……」
 衝撃は去ったらしい。その後に虚脱感が来たのか、ふるふると震えながら思いっきりため息を吐く。
「それで今、彼にメールを出してその返事を待っていたところさ」
「来たわ」
 汐耶の声に、全員が一斉に口をつぐんでノートパソコンの周りに集まった。
“おねえちゃんは、きょうこおねえちゃん。知ってます。いつも、ぼくがあそびに行くと、よく来たねーって。おかしとか、ジュースとか、いっぱいくれて。
猫は、おねえちゃんに見せてもらった、・・・えっと・・・すとらっぷ?です。

ぼく、おかあさんと駅に買いものに行って、でも、おかあさんいなくなっちゃって、だから、しんごうのとこでおねえちゃんの猫見つけたときはうれしかったな。大きいから目立つねっておねえちゃん笑ってたけど、だからぼく、見つけられたんだよ。
それでおねえちゃんの家に来たんだけど、ここに隠れてからはずっと閉じこめられてた。
でも変、今は開いてるのに出られないの。やっぱり、勝手におねえちゃんのお家に遊びに来ちゃったから怒ってるのかなぁ”
「怒ってなんか…勇くんだってことさえ知らなかったのに…」
 読み終えた匡子がぽつん、と呟く。そして、
「でも…出られないって、どうして?」
 すぐ近くの汐耶に顔を上げて聞く。
「出る方法が分からなくなっているか…さもなければ、何かの調子でどこかに引っかかっているんでしょうね」
「出してあげられそうですか?」
 心配そうに訊ねてくるみなもに軽く頷いて、
「やってみるわ…皆、少しの間静かにしていて頂戴」
 ノートを終了させて立ち上がり、蘇芳の傍に行く。
「どいていようか?」
「そうね。それじゃ、向こうで待っていて」
 皆が座っている場所を手で指し示し、移動したのを見計らってパソコンに向かい、目をす、っと細めながら静かに手を差し伸べる。
 パソコンに直に触れることなく、指先が神経質に何かを探すように動き回り、やがてぴたりと動きを止めると、今度はゆっくりと手を引き上げ始めた。順調に行っている証か、唇に薄らと笑みを浮かべながら。
「…っ?」
 ふと、汐耶が僅かに眉を寄せ、それに合わせ指先の動きがせわしなくなった。
「大丈夫…ですか?」
 様子が変わったことに気付いたのだろう、みなもが声をかけると手のひらをそちらに向け、
「大丈夫。――ちょっと荒療治になるだけよ」
 これ以上喋らないように、と口早に呟くと軽く息を吐き、爪を立てて何かを引き裂くような動きをした次の瞬間、『ガリガリガリッ』とパソコンが嫌な音を立て、蘇芳が声にならない悲鳴を上げた。
 そして、汐耶はゆっくりと…何かを抱きかかえ、続けて手放すような仕草をし、ふ、と顔を上げてにこりと微笑むと、
「終わったわ」
 皆にそう告げた。その言葉を聞いたみなもと匡子がほっとした顔で顔を見合わせ…蘇芳は慌てた顔のまま、机に突進した。
「一体何をしたんだ?凄い音がしたぞ」
「データの一部に挟まっていたみたいだったから穴を広げて引っ張り出したの」
 責めるような蘇芳にけろりとした顔で答える汐耶。うぉぉ、と蘇芳が悲鳴を上げてパソコンに向かい始めた。
「何が原因だったんですか?」
 猛烈な勢いでキーボードを叩いている蘇芳をきょとんとした顔で見ながら、みなもが訊ねる。匡子もうんうん、と頷きながら汐耶を見上げた。
「パソコンの不正終了ね、おそらく。…あれでデータが壊れてたんだわ。そこに引っかかって…その後自動でエラーチェックししたでしょ?」
「そうです」
「引っかかっていた部分が修復によって閉じてしまった。それで出られなくなってしまったんでしょうね」
「…なんだか、お父さんが全部悪い気がしてきました」
 かくん、と肩を落とす匡子。
「まあまあ。勇一君も無事に出られたわけですし」
 お茶でもいかがですか、と忙しさに取り紛れてすっかり忘れ去れていたお茶のボトルを差し出す。
「あ、じゃあグラス用意してきます」
「お願いするわ。…少し時間かかるでしょうしね」
 パソコンと格闘している蘇芳を指し、みなもがくすりと笑ってそうですね、と呟いて立ち上がり、
「あたしも手伝います」
 すっかり気が楽になったらしい匡子と共に下へ降りていった。



「ありがとうございました、あたしも…勇くんも助けてもらっちゃって」
「いいえ。どちらにも何もなくて良かったですね」
 夕方に近い時間にようやく修復が終わり、改めて匡子がぺこりと頭を下げる。それに対してみなもが首を振りながら微笑みかける。
「そうね。相手が素直な子で良かったわ。――?」
 汐耶が自分のノートパソコンを鞄にしまい、テーブルの上も綺麗にしていく途中でさっきから黙ったままの蘇芳に視線を投げかける。――と。
「あの…峰崎さん?何をしているんですか?」
 帰り支度をしていたみなもも、匡子の言葉に顔を上げた。
 作業を終えたはずの蘇芳がいつの間にか匡子の机に陣取って、再びパソコンを立ち上げて何やらやっている。匡子の言葉にも反応することはなく。
「――峰崎さんっ」
 続けてかけたみなもの声にぴくっと肩が動き、ようやく顔をちらりと後ろに向けた。
「ん?何か言った?」
「…何か、じゃないですよ。皆さん帰る支度をしているのに、何をしているんですか?」
「ははは、気になって気になって仕方なくて。せめて今出来るだけのパワーアップとセキュリティ能力の強化をしておこうかと」
 言う間にも、スムーズにキーボードの上を指が走っていく。
「――時間は?どのくらいかかるの?」
 汐耶が呆れた表情を隠しもせずに訊ねる。半分背を向けた状態の蘇芳はそれに気付かないまま、
「この機体だと短くて4〜5時間くらいかな?大丈夫、夜中までには終わるよ」
「………」
 嬉々として――今日のメインの作業より明らかに嬉々としてパソコンを触っている蘇芳の様子を見ながら、次第に目が座って来る汐耶。
「――みんな」
「はい」
「引きずり下ろすわよ。手伝って」
「はいっ」

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 ――後日。
 掲示板に、ひとつの投書が載った。
 『K君』が、無事に家に戻ったらしい、と。
 彼の母親の夢に出、散々甘えてから消えていったのだと。
 『本当に、ありがとうございました』
 そのひとからの伝言だと、掲示板の結びにはそう書かれていた。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1252 / 海原・みなも / 女 / 13 / 中学生】
【1449 / 綾和泉・汐耶 / 女 / 23 / 司書】
【1631 / 峰崎・蘇芳  / 男 / 26 / プログラマー兼エンジニア】


登場NPC一覧
江口 匡子
   匡子父
   匡子母

松本 勇一

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■         ライター通信          ■
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はじめまして、新米ライターの間垣久実と申します。
「記憶にないメール」に参加いただきましてありがとうございました。
楽しんでいただけましたでしょうか?

この話では大きな移動が少ないため、共通文章が非常に多くなっています。特に、綾和泉さんと峰崎さんのお2人は行動が似通っていたためにいつも同じ場にいさせて頂きました。

それでは、短いですが挨拶に代えまして終えさせていただきます。
また、別の物語でも皆様にお会いできることを願いまして…。