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成果
ふうよるどう、鳴り響く風。ふうよるどう、重い風。
今は今の物語、何時かは昔になる物語。過去から見ては、未来の話。
ふうよるどう。
◇◆◇
それは、日常の、事でした。
友達から話しかけられる、日常。お願いがあるとの事。彼女の暗い面持ちを、ほぐすように、みなもは、笑顔を浮かべました。
それは、在りそうな話。
伝説には、遠い話。
(私の果樹園に、夜、人影が、……泥棒かもしれないの)テレビのニュースにも、映るかどうか。(それで、ね、一緒に、夜の見張り番)
お願い出来る、かな、って。
報酬の、甘い果物と、何よりも、仲が良いから、だから、
「という訳で今日は留守にしますから、ごはんは冷蔵庫のを暖めてくださいね」
そう、みなもは姉に告げてきました。それは、日常だと思いました。そう信じ込んでいたから、だって、
ふうよるどう。
……風も時に、等しく流れていたから、何も変わらないと思っていたから、
予想しなかった。
奇妙。
私服に着替えて玄関で待っている友達に駆けてパァンっと手を合わせてそして歩き出して、向かう、果樹園、その道中。
予想しなかった。
◇◆◇
屋外。冬ならば、毛布にもくるまって、マシュマロを落としたココアを飲みながら、星の綺麗を心に映すのだけど、夏は温く、虫も飛び、不快に包まれてしまって。
それでもこの年頃の所為か、友達二人で過ごす夜は、不思議に飽きる事は無く。とりとめない、人生に必要ない話をする、続ければ、満たされるから。ほら、笑う。
絶え間なく続くかよう、たおやかな時。
だけど。それは終わる。―――車の音が聞こえた。停車する、音。そちらに向いても、一面は闇。
だがよく目を凝らせば、ライトを点けていない車の輪郭が、
そこから溢れるニ、三の人陰が。
泥棒。
消える笑顔、緊張する胸、どうするかという、友達との言葉少ない会話、
選択は、現行犯逮捕。
女子高生二人、勇気を搾り出し、みなもは自分の能力を信じ、そろそろと、追っていく。
◇◆◇
ふうよるどう。
◇◆◇
彼等を追って、果樹園の奥。ざわざわと葉が鳴る。梨が、揺れる。葡萄が揺れる。財産である、友達の。それを盗むのは罪になる。正義感で突き進むみなも、に、
待って、と、声かける友人。
どうしたの?と振り返る彼女。友人は、
戸惑っている―――
「見慣れない、木が生えてるの」
言葉で指した物を、
、
みなもが確認しようとした、瞬間。
悲鳴が高く響いた。友人の阿鼻叫喚、何事と、もう一度振り向いてみれば、
見慣れない樹があった。
友人、だ。
悲鳴、悲鳴、悲鳴。その理由は、細く白い足が、みるみるうちに木肌に覆われ、曲がる肢体が、固まっていき、胸が、喉が、
顔が。
叫びの侭。
樹になる。
見慣れない、樹。
ふうよるどう。風が吹く。みなもは、圧倒的な恐怖を覚えながらも、震えながら、友達へ、駆け出していた。友達、友達、
樹になっていった友達。
怖い。
ふうよるどう。
怖い。
ふうよるどう。
怖い。
ふうよるどう。「大丈夫」じゃない、「何か言って」無理、「ねぇ」
必死で、友達の樹に声かけた瞬間だった。
足元を根に奪われたのは。
足元が根と化していくのは。
振り払おうとする、抜け出そうとする、泣きそうに、もがくみなも。だがそれに容赦ない。足の甲が、足首が、脛が、腿が、徐々に徐々に。
木肌、水がどくどくと流れる感覚が沸き起こった。肩がすくむ。身体が、びくりと。
意味不明に叫ぶ。だけど止らない。樹木の侵食。もう、胸まで届いていた。がさりとした感触、音をたて、実るように、咲くように、ああ、指先が開いて、まるで小枝で、
葉が、成った。
呆然と、見る、みなも。
樹に成って行く―――
心すら。
嗚呼。
ふうよるどう、風が吹く。ふうよるどう、
一つの、樹に。
それは叫びを通り越して、世界の果てで諦めたような、表情の、樹。
みなも。
果実が、揺れた。
◇◆◇
救われた後の話である。
彼女の仲間、そして、最も身近な物に、救われた後の話である。
何時かという時の、何処かという場所、異世界から飛来した、『種木』それが盗人の正体である事を。
この地に根付き、多くの植物と同じように、仲間を増やしていったと。
だから燃やしたと、焼けた果樹園で救い主は微笑んだ。
みなもは、眩暈を覚えていた。ふらつく頭で、整理を始める。
ああ友達には夢だと話そう、だけどこの果樹園の有様はどうしよう、……よく見れば果物の木は傷ついてない。この、助けてくれた人の心遣いに感謝しよう。
みなも、疲れて目を伏せた時、
ふうよるどうと、風が吹いた。
なんとなく、手を、みつめて確かめれば、ちゃんと血が通ってるのだけれども。木ではないのだけども。
ふうよるどう―――
忘れられない、物語である。
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