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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


あの日にかえりたい
●オープニング【0】
件名:未承諾広告※ 戻りたい想い出はありませんか?
本文:
 人間誰しも、想い出をお持ちであるかと思います。
 その中で戻ってみたいと思う想い出はありませんか?
 私たちは夢の中でそれを可能にする薬をご用意いたしました。
 今回だけ特別に1回分・錠剤2粒を5000円でご提供いたします。
 就寝前、戻りたい想い出を強く心に念じて服用することで、貴方はそこに戻ることが可能となるのです。
 
 ある日、こんな内容のメールがパソコンや携帯のメールボックスに届いていた。
 送信者はBON企画となっており、その住所は新宿1丁目。最寄り駅は都営地下鉄だと新宿三丁目、営団地下鉄だと新宿御苑前となるだろうか。
 何とも胡散臭い、けれどもどこか気になるメールだったので、とりあえず瀬名雫に何か知らないか聞いてみることにした。
「あ、うん。それ、うちにも来たよ。あたしも気になったからネットで調べてみたけど、それについての話はなかったと思う。んー、そのまま放置しちゃえば?」
 雫はそう言ったものの、やはり気になって仕方がない。色々な意味で。
 そして――ある者は試すために実際に薬を購入し、またある者は送信者について調べ始めたのである。
 さて……その先に待っている物は何だろうか。

●実体を探って【1D】
「胡散臭いわねぇ……」
 シュライン・エマはパソコンのモニタに映し出された画面を見て、ぼそりとつぶやいた。
 モニタにはブラウザが表示されている。ちょうどどこかの転送メールサービスのページだ。
「あのメールアドレス、転送メール使ってたのね」
 マウスを動かし、別のブラウザを前に出すシュライン。もちろん確認していたのは、BON企画のメールアドレスについてだ。
 転送メールサービスを使っているということは、他にちゃんとしたメールアドレスが存在しているということだ。だがそれがどこかのプロバイダや会社の物だとは限らない。フリーメールアドレスかもしれないし、二重三重に転送メールサービスを経由させているのかもしれない。
 そこでシュラインは、送られてきたメールのヘッダ部分を見てみることにした。ここを見ればどのメールサーバを経由してきたのか、上手くゆけば実際はどのメールアドレスから送られてきたのか確認することが出来る。
 狙いは上手くいったようで、とあるメールアドレスが見付かり、シュラインは早速そのアドレスをブラウザで調べてみた。サイトがあるかもしれないと思って。
「何……これ」
 しかし、表示されたのはシュラインの期待を裏切る物だった。何と、一斉にメールを配信するためのシステムを提供しているサイトだったのだ。どうやらこれを使って送ってきたらしい。
 これ以上辿ってゆくのは、ちと難しそうである。
「せめて会社のサイトでもあればよかったんだけど」
 溜息を吐くシュライン。各種検索サイトで『BON企画』をキーワードに探してみたが、引っかかるのはアダルト系のページばかり。それらしいページは1つも入っていなかった。
 ならばとばかりに今度は『BON』だけで検索すると、ヒットしたのが約52万件もあったりして、どうにも洒落にならなかった。
 ただ会社のサイトこそ見付からなかったが、書かれていた電話番号はきちんと通じており、応対してくれた女性に当たり障りのない質問をいくつかして、BON企画が新宿にあることは確認がとれていた。
「……薬もちゃんと送ってきたし、実体はある訳よねえ」
 入金を済ませ普通郵便で昨日届いた薬は、紙包みに入った紅い錠剤2粒。シュラインはすぐに知人に成分調査を頼んでいた。結果はメールなりで知らせてくれる手筈になっているが、今の所はまだ届いていなかった。
「しかし……BON企画ってどこからつけた名前なのかしら? まさか『盆』?」
 首を傾げるシュライン。実体はもとより、名前の意図もよく分からない。
「『盆』だとすれば、盆に帰ってきた霊の力を借りて……なんてね」
 シュラインは苦笑すると、そのままパソコンの電源を落とした。確かに盆は死者が帰ってくる時期で、今回の話に通じるような部分も感じられるが、現時点では説得力が欠ける。
「さて、実際の住所の所に出かけてみますか」
 シュラインは身仕度をすると、件のメールにあった住所へ足を運ぶことにした。近所まで行ってみれば、何か噂の1つや2つ出てくるかもしれないと思ったから。
 そしてシュラインが件の住所の辺りにやってくると、9階建てのマンションが視界に入ってきた。と、見知った人物の後姿が。
(あら? 真名神くん?)
 マンションの手前にある電柱の陰に隠れるようにして、何故か真名神慶悟が居たのである。
 何をしているのか声をかけようかと思った瞬間、慶悟は電柱から離れて歩き出した。視線を移すと、慶悟の歩く先に銀髪の中年紳士風の男の後姿が見えた。どうも慶悟はこの男の後をつけているようだ。
 しかし――シュラインも、その男の後姿には見覚えがあった。
「……まさか……ねえ……」
 半信半疑という気持ちが先にあった。けれども胸騒ぎがする。シュラインは自然と慶悟の後を追っていた。

●ただいま尾行中【2B】
「真名神くん」
 尾行を続けていた慶悟は、背後から不意に女性に声をかけられた。反射的に懐にあるお札をつかみ、警戒しつつ振り返る慶悟。そこに居たのは……。
「……奇遇だな」
 シュライン・エマが目の前に居た。が、シュラインの表情はやや厳しい。慶悟が奇妙に思っていると、シュラインが話しかけてきた。
「今、尾行中よね」
「ああ、そうだ。10数メートル前を歩いている、銀髪の男だ」
 指で尾行相手を指し示す慶悟。シュラインは目を細め、その男をじっと見つめる。
「やだ……」
 不味いとでも思ったのか、シュラインは眉をひそめた。それを慶悟が見逃すはずがなかった。
「知り合いなのか?」
「知り合いって言うより……因果かも」
 シュラインは深い溜息を吐いた。
「たぶん見失うと、洒落にならないことになると思うわ」
「大丈夫だ。式神たちを張り付かせている。よほどのことがない限り、撒かれる心配はない」
 かくしてシュラインを加え、慶悟の尾行は続くのであった。

●倉庫にて【3G】
 尾行を続けていた真名神慶悟とシュライン・エマは、やがて人気のない倉庫の近くまでやってきていた。辺りにはその倉庫以外、他に建物も見当たらなかった。
「いかにも、という場所か」
 後ろを振り返る慶悟。誰かに尾行されている様子はない。
 シュラインは携帯電話に届いたばかりのメールを確認し終え、やれやれといった表情を浮かべた。
「分析出たわ。大部分はビタミン剤だけど、よく分からない成分が数種類出たって。植物性やら動物性やら……」
 知人に頼んでいた成分分析の結果が、ちょうど今届いたのであった。
「……普通の薬には思えないな」
 そう慶悟が言うと、シュラインも頷いた。そして銀髪の紳士が入った倉庫の前へとやってくる2人。その時だ。
「あら……お2人もここに気付かれたんでsか?」
 可愛らしい少女の声がした。何と、榊船亜真知が倉庫の物陰から顔を出し、手招きをしているではないか。慌てて近付く2人。
「何でここにっ!?」
 とシュラインが聞くと、亜真知はにっこり微笑んで答えた。
「もちろん調べた上でですわ」
「……ま、いいけどね」
 若干呆れた様子のシュライン。すると亜真知が2人に言った。
「先程、銀髪の……ロマンスグレーな方が、入ってゆかれましたけれど」
 どうやら銀髪の紳士は間違いなくここに居るようだ。そこへ雫からのメールが、シュラインの携帯電話に届いた。
「あら、何かしら……」
 メールを読むと、それは薬についての考察概要が記されていた。今、掲示板でセレスティ・カーニンガムやラクス・コスミオンが書いてくれているのだという。
 それによると、薬には睡眠作用があり必ず夢を見させる草と、対象者の心に干渉する黒魔術で補助的に用いる物が含まれているという。
 さらに薬を水に溶かしてみた所、魔法陣の上で何やら念じている黒いローブの者たちの姿が映し出されたとのこと。
「ああ、やっぱり」
 メールの内容を聞き、納得するように頷く亜真知。
「魔法陣……?」
 慶悟が倉庫を見上げた。まさかこの中で……?
「しっ!」
 シュラインが2人に静かにするように言った。パイプか何かの配管の関係なのか、中の声が外に漏れてきていたのだ。それは2人の男の会話であった。
「順調かね」
「はっ。術の方は滞りなく続けられております」
「そうか、それはいいことだ。この作戦の効果が認められし時には、さらに規模を拡大するつもりだ。その方向で本部とは話を続けている。全ては君たちにかかっていることを……忘れないように」
「はっ!」
 会話を聞いたシュラインは、頭を抱え込んでいた。
「予感的中……やっぱり『虚無の境界』だわ」
 『虚無の境界』とは――世界人類の滅亡をはかる狂信的なテロ組織である。心霊的な出来事に深く関わっている者であれば、この名を耳にしないことはまずないと言えよう。
 では、どうしてシュラインが『虚無の境界』と言い切ったのか。それは銀髪の紳士のことを、知っていたに他ならない。
「いい。絶対銀髪の男に触れちゃダメよ」
 極めて真剣な表情で2人に言うシュライン。
「触れずに、か。なら、これしかあるまい」
 慶悟はそう言うと、式神十二神将のうちの数体を召喚し、倉庫の中へと放っていった。上手いやり方である。
 倉庫の中に居た黒いローブの者たちは、あっという間に十二神将たちに捕縛されていった。だが何故か銀髪の紳士だけが見当たらない。
「危ない!」
 突然亜真知が叫び、慶悟とシュラインを激しく押し倒した。固まって後方へ吹っ飛ぶ3人。直後――倉庫の中から爆発が起こったのである。
「爆発に乗じて逃げる気か!」
 慶悟は残りの十二神将たちも召喚すると、燃え上がる倉庫の中へと向かわせた。並行して、捕縛した黒いローブの者たちと中にあった薬を外へと運び出してゆく。
 結局銀髪の紳士は何故か見付からず、残ったのは捕縛した黒いローブの者たちと薬、そして燃え落ちた倉庫だけであった……。

●蛇足【5】
 一連の騒動が解決した数日後、ゴーストネットの掲示板には雫によってまとめの書き込みがされていた。無論、皆から聞いた話をまとめたのだ。
 それによると、今回の騒動を仕組んだのは『虚無の境界』であるということ。例の薬を使って、何か実験をしようとしていたのではないかという話だった。
 BON企画に居た者たちや、真名神慶悟たちが捕まえた者たちは、警察へと突き出されていた。どうも薬事法違反など、いくつか罪状がつくようである。
 で、『BON』の意味だ。これは『虚無の境界』を英語表記し、頭文字を取った物だったのだ。分かってみれば、何とも単純な話であった。
 かくして解決した今回の騒動、しばらくはゴーストネットで話題になっていたが、そのうちに話題に上らないようになっていった。

●真の恐怖【6B】
 自宅へと向かっていたシュラインは、届いたメールを確認し終え、携帯電話をポケットに仕舞おうとした。と、その時何やら手に当たる物が。
 見ればそれは四つ折りにされたメモ。入れっぱなしになっていたのかと訝しがりながらも、シュラインはメモを開いてみた。
「!!!!!」
 それは到底言葉にならない驚きだった。メモには英語でこう書かれていたのである。
『シュライン嬢、いつの日かまた会おうじゃないか。いつの日か……。
 ニーベル・スタンダルム』

【あの日にかえりたい 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
     / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員 】
【 0158 / ファルナ・新宮(ふぁるな・しんぐう)
              / 女 / 16 / ゴーレムテイマー 】
【 0389 / 真名神・慶悟(まながみ・けいご)
                   / 男 / 20 / 陰陽師 】
【 0645 / 戸隠・ソネ子(とがくし・そねこ)
           / 女 / 15 / 見た目は都内の女子高生 】
【 1593 / 榊船・亜真知(さかきぶね・あまち)
  / 女 / 中学生? / 超高位次元知的生命体・・・神さま!? 】
【 1790 / 瀬川・蓮(せがわ・れん)
     / 男 / 13 / ストリートキッド(デビルサモナー) 】
【 1838 / 鬼頭・郡司(きとう・ぐんじ)
                   / 男 / 15 / 高校生 】
【 1883 / セレスティ・カーニンガム(せれすてぃ・かーにんがむ)
        / 男 / 青年? / 財閥総帥・占い師・水霊使い 】
【 1887 / ヘルツァス・アイゼンベルグ(へるつぁす・あいぜんべるぐ)
   / 男 / 20代? / 錬金術師・兼・医師…或いはその逆。 】
【 1963 / ラクス・コスミオン(らくす・こすみおん)
               / 女 / 妙齢? / スフィンクス 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全26場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・大変お待たせいたしました、このところの高原にしては珍しい単発依頼をようやく皆様にお届けいたします。体調不良などでご迷惑をおかけしておりますが、完全復調まではもう少しかかるかと思われます。その点、深くお詫びいたします。
・今回のお話なんですが、悪い言い方をしてしまえば『罠』の一言に尽きるかな、と。高原としてはある種賭けでもありましたが……プレイングを読んで、ほっとしました。なお、『虚無の境界』についての説明は『誰もいない街』の方で詳しいかと思われます。
・タイトルはもうお分かりですよね。あの女性有名シンガーソングライターの大御所の方の曲名です。聞きながら書かせていただきました。ただプレイングも重い想いが多かったからでしょうか、執筆中つい泣いてしまいました。
・ちなみに万一全員が無条件に薬を飲むという選択だった場合、高原は迷うことなくバッドエンドを記していたと思います、はい。
・シュライン・エマさん、58度目のご参加ありがとうございます。ご心配どうもありがとうございます。上にもありますように、もう少しかかるかと思われますのでどうかご了承ください。で……こう来るとは予想外でしたか?
・ここからはちょっと宣伝となりますが、コミネット・eパブリッシングにて『一夏の経験 ―ソーラーメイド さなえさん―』の購入受付が行われております。締切は10日いっぱい、1口300円となっておりますので、ご興味がお有りの方はどうかよろしくお願いいたします。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。