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無邪気な強い味方
照りつける暑い太陽。
蝉の声の代わりに耳へと届けられるのは、かもめの鳴き声と潮騒・・・。
ただいま、クルーザーで地中海バカンス中。
海原みあおと海原みたま親子は、地中海へ来ていた。
表の理由はみあおを連れてのバカンス。
裏の理由は・・・みたまの仕事である。
みあおは甲板へ出ていた。照りつける太陽が容赦なくみあおを照らす。
美しい銀色の髪も一層輝きを増している。
「うわーん・・・暑いよぅ・・・」
母であるみたまとやってきたことは嬉しいがこの暑さには思わず嘆息してしまう。
今乗っているクルーザーもどこかへ向かっている途中。
暑さに辟易するみあおの隣には、
進行方向をまっすぐ見つめるみたまの姿。
長い金髪の髪が潮風に揺れている。
「みあお、もうすぐ着くからね」
「うん。わかった〜」
弱々しく頷くみあおを見やったみたまは、軽くみあおの頭を撫でてやる。
今回みあおを連れてきたのは、バカンスも目的だったが、
みあおの能力を頼ったのも事実だった。
みあおは青い鳥の女の子。幸運をもたらす。
今回の「オーパーツ」は秘宝中の秘宝。
なんとかみあおの力でみたまは幸運になり、手に入れたかった。
そして小さな娘とバカンスになど来たことがなかったので、
楽しい思い出作りも。
主婦見習だってたまには母親らしく、子供を楽しませたいのだ。
クルーザーは一つの島に着いた。
人は住んでいないらしいが、遠くの文明を思わせる遺跡が
あちらこちらに残っているのが遠目でもよく分かった。
「みあお、着いたよ」
「はーい!」
みあおは元気よく島に降り立った。
たくさん生い茂る緑が海上の暑さを忘れさせてくれる。
「はぁ〜涼しい。ねぇお母さん、どこ行くの?」
「みあお、宝探しに行こう!」
「宝探し?!面白そう!行く行く!」
小さく跳ねるように喜ぶみあおの様子にみたまも嬉しそうだった。
「ねぇ、お母さん、何の宝を探すの?」
「オーパーツっていう宝物よ」
「おーぱーつ?」
「そう。みあおが一緒にいると心強いから一緒にいてね」
「うん!」
みあおは大きくうなずいた。
お母さんと一緒に宝探しをして遊ぶのも嬉しいが、
「一緒にいてね」という言葉の方が嬉しそうだった。
二人は意気揚々と、一番大きな遺跡へと入って行った。
「お母さん!すごいね!全部石で出来てるよ〜」
みあおははしゃいで、壁などを触る。
みたまは微笑みながら眺めていたが、
内心は・・・(みあお〜壁にはトラップがあるかもしれないのよ〜。
あまり触らないほうが・・・。何かあっても私が護るからまぁ、いいけど)
とぼんやり思っていた。
そんなこととはつゆ知らず。
みあおは物珍しげに辺りを散策する。
ドッカーン!と何か音がする。
二人の体は大きく揺れた。
「わぁ!」みあおは危うく転びそうになった。
慌ててみたまが支える。
支えられたままの状態でのんきにみあおは言った。
「今のなんだろうね?」
「は・・・花火じゃないかしら?まだ日も暮れていないのに
気が早い人もいるのねぇ・・・」
みたまの笑顔は少々引き攣っている。
「花火かぁ・・・夜じゃないと綺麗じゃないのにね。
ホント、気が早い人がいるね」
その爆発音の真実は、過激な同業者からの正当防衛で張った
トラップが爆発した音だったのだ。
みあおは花火と信じて疑わない。
もう気にすることなく、嬉しそうに奥へ進んでいる。
みあおは壁の模様が途切れているところを見つけた。
「なんだろ?」
何も思わず、触ってみたら壁はボコッと凹んだ。
すると奥から、「ぎゃぁぁぁぁぁ!」と叫び声が聞こえた。
「あー・・・」みたまは一言呟いた。
それもそのはず、みあおが押したのはトラップ。
そして「ぎゃぁぁぁぁぁ」はそれに掛かった同業者。
「お母さん、花火楽しそうだね?騒いでる人いるよ」
「そ・・・そうね」
みあおには断末魔の叫びは先ほどの花火で
テンションが高まった人たちの楽しげな声に聞こえたらしい。
その人たちに負けず劣らずみあおは楽しんでいた。
お母さんと宝捜し遊びに。
その後も、無邪気に壁や、床のちょっと変わったところを見つけては
みあおは触ったり踏んだりした。
そのたびに、「ぎゃぁぁぁぁ」という声が・・・。
みあおは、本当に花火が楽しいんだなぁ・・・と思った。
相変わらず、盛大な花火の音がする。
しばらく進むと知らない人に会った。
きっと花火を楽しんでいた人たちだろう。
ものすごい勢いで、二人の方へ向かってくる。
え?え?何?と思っている間にその人たちは寝てしまった。
「この人たちいきなり寝ちゃったね」
「はしゃぎすぎて眠かったんでしょ?そっとしといてあげましょ」
「うん」
本当は、向かってきた敵をみたまが目にも止まらぬ速さで
倒したのだった。
少しずつ歩きにくくなってきた。
小さなみあおはよろよろと危なげだ。
「みあお、手繋ごうか?」
「うん!」
お母さんと手を繋ぐのは初めて。
お母さんはお仕事が忙しそうで、中々家にいないから、
あまり一緒に出かけることもない。
みあおは、嬉しくて仕方が無い。
花火ではしゃいだ人たちにときどき会うけれど、お母さんが、
「はしゃいで疲れたでしょう?お・や・す・み」と肩をポンッと叩くと、
眠ってしまう。
みあおはお母さんってすごいなぁ・・・と横のみたまを見上げた。
肩を叩いただけで、安心して眠らせてあげられるなんて・・・と。
実際は肩を叩くふりをして首の急所に一撃お見舞いしていたのだけれど。
二人は仲良く手を繋ぎながら、ドンドン先へ進んで行った。
花火の音もドンドン大きくなる。
すると、大きな岩の扉があった。中にはなんだか宝物が眠っていそうな。
みあおはみたまといっしょに扉を押すがびくともしない。
えいっと体当たりしたが、岩の扉に弾かれて、尻もちをついてしまった。
するとカチッと音がした。
みあおは、ん?と自分が尻もちをついた辺りを見たけれど、何もなかった。
しかし、岩の扉はゴゴゴ・・・・と重厚な音を立てて開いた。
中からの光で、二人は思わず目を閉じた。
そして目が慣れて、二人が目にしたのは・・・金銀財宝の数々。
「お母さん!宝物だよ!!いっぱーい!!」
みあおははしゃいで中に入った。
これを持って帰ってお姉さんたちへのお土産にするんだ〜っと。
みたまの方も嬉しそうだ。
みあおはまだ気付いていないけれど、
中央に護られるように輝いているのは、まさしく「オーパーツ」だった。
「お母さん!これ綺麗!お姉さんたちへのお土産にしようよ!」
みあおが嬉しそうに掲げて見せたのは、宝石の数々。
「そうね、あの子たちも喜びそうね。お土産にしようか」
「うんうん!あっ!見つかった?おかあさん」
「ん?」
「おーぱーつだっけ?」
「あぁ、これよ」
みたまはみあおに手の中のオーパーツを見せた。
「うわぁ〜綺麗だね!」
「でしょう?みあおの持ってるあの子たちへのお土産も綺麗よ」
「えへへへ・・・。喜んでくれるかな?」
「そりゃ、こんなに綺麗だもの。喜んでくれるわよ」
みあおはニコニコしながらポケットに宝石を詰め込む。
たくさん持って帰ったらもっとお姉さんたちが喜んでくれるかな・・・と。
もう入らない・・・というくらい宝石をみあおはポケットに詰めた。
「みあお、そろそろ帰ろうか?お腹すいたでしょ?」
「うん!ご飯食べたい!」
かわいいピンクのワンピースのポケットを宝石が落ちないように
手でガードしながらみあおは答えた。
二人は遺跡の出口までやってきた。
「みあお、ありがとうね。運が良かったわ〜」
「そうなの?みあお、役にたったのかな?」
「もう、充分ってくらいにね。みあおのおかげよ」
「えへへ〜」
みあおは嬉しそうに照れ笑いした。
「ご飯、何が食べたい?せっかくだからクルーザーの上で食べましょう」
「うんっとねぇ、お魚!」
「海の上だし、ちょうどいいわね。ちょっと待ってて」
みたまは携帯を取り出し、誰かに電話している。
電話が終了するとみあおに笑いかける。
「今、コックに作っておいてくれるように頼んでおいたから」
「わぁ〜い!帰ったらすぐ食べられるんだね!」
「そうよ。お母さん、頭いいでしょ?」
「うん!さすがだね!!あ!そうだ!写真撮ろうよ」
「いいわね。せっかく、宝物見つけたし、一緒に遊んだし、
記念に撮ろうか。でも、みあおカメラ持ってるの?」
「うん!ちゃんと持ってきたよ!」
みあおはカメラを取り出し、得意げに見せる。
ちょうどいい岩の上に置いてセルフタイマーをかける。
ジーッ・・・と音が鳴る。
「おかあさん!早く!」
「あ、ちょっと待ってよ!」
みたまも急いでみあおの横に立った。
パシャリと撮られた写真には、
お母さんと一緒に遊べてご満悦のみあおの笑顔と、
みあおと遊べた上にちゃんと仕事も完了した嬉しそうなみたまの笑顔。
そして・・・。
後ろには、大きな黒煙を上げながら、壊滅寸前の、遺跡・・・。
きっと家に帰って見たら、皆が驚く写真ができあがっていた。
END
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