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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


幻想の国から〜『白雪姫』

●ことの始まり

 店主の入院により現在閉店中である芳野書房。一人暮しであった店主がいなくなり、今は誰も居ないはずなのだが・・・・。その店内には、一人の少年が棲みついていた。
 彼の名は結城。実は人間ではなく九十九神と呼ばれる存在だ。
 本好きの店主に大事にされ、いつしか力を持った彼だが・・・・・・現在、彼は、暇人だった。
 時々は外に出たりもするけれど、自らの本体である書物から長い間離れての活動ができないので、結局一日の大半を暇して過ごすことになるのだ。――本と一緒に出かければいいのかもしれないが、自分の命とも言える本を持ち歩くのはなんだか恐いので却下。

 さて、今日も今日とて結城は暇を持て余していた。
「鏡よ鏡よ鏡さん〜」
 アンティーク調の壁掛けの鏡を前に、結城は少し考えて。
「んー・・・じーさんは今どうしてるかなあ?」
 鏡に向かって問いかけた途端、鏡に映っていた結城の姿がぼやけ、替わりに店主の姿が映し出される。店主がいる部屋の様子からして、まだ入院中らしい。
「あーあ。まだしばらくこのまんまかー」
 と、その時だ。
 裏口の方から数人の人間の声が聞こえてきた。どれも聞き覚えのある声ばかり――店主の身内の人間だ。
「やべっ」
 姿を見られてはまずい。ここは今、無人のはずなのだ。
 結城は慌てて本の中へと戻る――・・・・・・急ぐあまり、鏡を置き去りにして。

 ――そしてしばらくののち・・・・・・
 人の気配が去ったのを確認して戻ってきた結城は、サッと顔を青くした。
「うそっ・・・・」
 鏡は、綺麗さっぱり姿を消していた。おそらく持って行かれてしまったのだろう。
 まずい。
 思いっきり、やばい。
 あれはただの鏡ではないのだ。
 結城は慌てて、店主の身内の中で結城を知る数少ない人間の一人である店主の孫に連絡を取った。



 ――鏡紛失事件の翌日。
 草間興信所に、とある依頼が持ちこまれた。
「間違ってフリーマーケットに出されちゃった鏡を探して欲しいんだ」
 少年の告げた依頼内容をじっくりと反芻して、武彦は頷いて先を促した。
「どんな鏡なんだ?」
「えーと、これくらいの大きさで、アンティークっぽい枠飾りがついてる壁掛け鏡」
 少しばかり間抜けだがまあ、大事なものを家人が間違えて売り飛ばしてしまうなんてのはよくある話だ。
 鏡を出したというフリーマーケットの詳細と依頼料の話を済ませ、少年が帰った後。
 武彦は、珍しいこともあるものだと息を吐いた。そして自分のそんな思考に思わず肩を落とす。
 こじんまりした内容ながら、中身はごくごく普通の物探し。
「さて、とりあえず・・・」
 フリーマーケットなんて誰がふらりと立ち寄って買って行っても不思議はない。調査の人手が必要だった。
 久しぶりの怪奇と関係なさそうな依頼に少しだけ浮かれつつ、武彦は行動を開始した。
 

 ――・・・・・・・・世情に疎い結城は、草間興信所の噂を知らなかった。
 結城としては適当に近場の興信所に依頼しただけ。故に、自分が人外の存在だとか鏡の正体だとかは言わず、鏡探しに必要な最低限のことしか告げなかったのだった。


●どこかで見たよな依頼人

 その日、榊船亜真知は、いつものように零と談笑をしていた。その隣には、書類整理をするシュライン・エマの姿。
 隣の部屋では、依頼人と話をしている武彦――話を聞くのは依頼を受けるかどうか決まってからでも良いかと思ってのことだった。
 だが、実はさっきから何かが引っかかっていた。
 チラリと後ろ姿を見ただけなのだが・・・・・・。
「シュライン様・・・・。あの依頼人の方、どこかでお会いしたような気がするのですけど・・・シュライン様は見覚えありませんか?」
 どうやら、亜真知も同じように思っていたらしい。
 亜真知とは以前別口の依頼で一緒になったことがある。もし一緒に行動した依頼での知り合いだったならば、亜真知も同じように覚えていてもおかしくはない。
「ええ、私もどこかで覚えがあるのよね・・・・・・・」
 きちんと顔を見れば思い出せそうだが、まさか話の途中で乱入するわけにもいかず。
 そうこうしているうちに、依頼の話は終わったらしい。帰って行く依頼人――扉が閉まった直後、また扉が開いた。
「こーんにーちわ〜♪」
 明るい声と笑顔と共にやってきたのは海原みあお。時折草間興信所にやってくる、顔なじみの一人だ。
「ねね、さっきの、結城?」
 みあおの一言に、亜真知とエマはあっ、と小さな声をあげた。
 以前アトラスで頼まれたポルターガイスト現象の調査の時に出会った、その現象の原因となっていた人物。
「てことは・・・・・・・・・」
 エマは、すでに人員収集をかけ始めている武彦に気付かれないよう、こっそりと呟いた。
 エマの言わんとしていることに気付いたらしく、亜真知もこくりと頷いて返す。
 普通の依頼だと思っている武彦には悪いが・・・・・確実に、ただの鏡ではない。
 なにせ結城は本の九十九神で、本の中にしか存在しない物質を現実に持ちこめる能力の持ち主。
「とりあえず、あとできちんと彼に聞いてみないとね」
 苦笑するしかないエマであった。


●芳野書房

 きちりとシャッターが閉まっている本屋に、五人の人間が集合していた。
 依頼の話の時に居合わせた海原みあお、シュライン・エマ、榊船亜真知。それと、武彦が収集した人員のイヴ・ソマリア、セレスティ・カーニンガム。
「あはははー。やあ、久しぶりー」
 本屋の二階――かつて店主が住んでいたスペースに五人を招くと、彼は途端に乾いた笑いを浮かべてきた。
「キミが、結城さんか。はじめまして、私はセレスティ・カーニンガム」
「よろしく。あ、お姉さんは名前わかるよ。イヴ・ソマリアだろ?」
 結城はひょいとその辺の本棚にあった紅茶の本に手をかけて――そこから人数分の紅茶を出してきた。
「これ・・・普通に飲めるの?」
 疑わしげに紅茶を見つめたエマは、ぽつりと呟いた。
「大丈夫、大丈夫。前にこーいうの食べたことあるもん」
 みあおはさっそく紅茶に手をつけていた。
「詳しい話を聞かせていただけませんか?」
 優雅に紅茶を飲みながら、亜真知が話を切り出した。
「あー・・・うん。暇つぶしにさあ・・・『聞いたことに答えてくれる鏡』で遊んでたんだよ。じーさんの様子も知りたかったし」
 そのあとの話は、武彦が依頼で聞いた話と変わらなかった。
 目を離した隙に不要品と間違えられて持ち出されてしまったこと。その後、店主の孫――芳野風海(よしのふうか)に連絡を取ったところ、すでに鏡はフリーマーケットで売られた後だったのだ。
「風海のお母さんに聞いてみたら?」
 至極素直なみあおの提案に、結城は大きな溜息で答え、首を横に振った。
「もう聞いた。誰に何を売ったかなんてぜんぜん覚えてないってさ」
「つまり結局」
 カタンと、飲みおわった紅茶をテーブルに置いて、イヴがさっと立ち上がった。
「直接探しに行くしかないのですね」
 続いて、セレスティが杖を手にとった。
「毎週やってるイベントっていうのがせめてもの救いよね」
 どこか疲れたようなため息をつきつつ、エマもゆっくりと立ち上がる。
「ええ。アンティークの鏡なんて目立ちますもの。連続で来てる人がいれば覚えているかもしれません」
 亜真知とみあおが、ほぼ同時に立ち上がる。
「さ、行こう、結城!」
 最後に、結城が立ち上がった。本人あまり気が進まないようだが、そもそもの原因は彼だし、なにより実物を知っているのも彼だけだ。
「見つかるといいなあ・・・」
 弱気な答えを返してきた結城に、呆れる者睨む者といたが、とりあえず。
 一行は、フリーマーケット会場へと移動した。


●探索をしよう!

 会場はそんなに広いわけでもなく、出店数は五十強。
 ざっと会場を見回した一行は、とりあえず安堵の息を洩らした。このくらいならば、手分けをすればすぐに聞き込みは終わりそうだ。

 各人別行動に入って、まず向かったのはフリマのスタッフがいる、運営本部。
 皆お店の方に向かったようだから、自分はスタッフの方に聞き込みをしようと考えたのだ。
「すいません、ちょっとお尋ねしたいことがあるんですけど、良いですか?」
 テントの中で忙しなく動いている数人に向かって声をかけると、そのうちの一人がこちらへ小走りに駆けてきた。
「はい」
「先週のフリーマーケットで間違って必要な品を商品に出してしまって・・・。なんとか買い戻そうとしているんだけど、誰か見覚えがないか聞いてもらえませんか?」
 続けて鏡の特徴を告げると、スタッフの一人が顔をあげてエマに視線を向けた。
「ああ、見た見た。アンティーク集めが趣味の常連さん。すごく良い品を手に入れたって自慢してたからよく覚えてるんだ」
 スタッフの答えにエマの表情が少しばかり曇る。
 穏便に買い戻せればよいのだが・・・・・・。
「その方の名前と連絡先ってわかります?」
「あー・・・あの人、出展側じゃないからねえ、連絡先まではわかんないや。名前は五十鈴功司(いすずこうじ)・・・だったと思う」
 微妙に頼りない返答だが、これ以上の答えは望めそうになかった。
 お礼を言って頭を下げてから、エマは一旦集合場所へ戻ることにした。

●鏡の行方

 一行の調査結果を合わせたところ、鏡を買っていったのは五十鈴功司という、アンティーク収集家の青年であるらしいことがわかった。
 その彼はアンティークショップを経営しており、一行は今、その店の前まで来ていた。
 ざっと店の様子を確認したところ、例の鏡は店には出されていない様子。自分のコレクションとしているのか、それとももう売れてしまったのか・・・・・・。どちらがマシかは微妙なところだ。
 前者ならばいくらお金を積まれても手放さないと言う人間などザラにいるし、後者ならばまた地道な聞き込み――そして交渉と仕事が増える。
「いらっしゃいませー」
 どやどやと一行が入って行くと、すぐさま男性の声で返事が返ってきた。
 二十代前半といった感じで、まあ良くも悪くもないごくごく普通の印象だ。一人で経営しているらしいから、五十鈴功司本人に間違いないだろう。
「すみません、ちょっとお尋ねしたいことがあるんですけど」
 エマが代表して尋ねると、功司は接客スマイルを見せる。
「はい、なんでしょう?」
「先週のフリーマーケットでこういう・・・・」
 言いかけたところで、亜真知が横から手を出して、用意していた鏡の絵を見せた。
「この鏡、間違ってフリーマーケットに出されて――」
「帰ってくれ! あの鏡は絶対に手放さないからな」
 亜真知の言葉を遮って怒鳴りつけた功司は、すぐには帰ろうとしなかった一行に再度怒鳴りつけて、奥に引っ込んで行ってしまった。
「仕方がありません、一度出直しましょう」
 今これ以上の交渉は無理と判断した一行は、仕方なく一度店を出ることにした。


●交渉がダメなら・・・・・

「鏡の場所がわかれば、私が複製を作ってそれと入れ替えるという手が使えます」
「それが一番良いかしらねえ」
「では、まず場所を調べる所から始めないと」
 交渉が無理とは言わないが、あの様子では説得にも時間がかかるだろう。そう判断した亜真知の提案に、エマ、セレスティが次々と賛同の意を示す。他のメンバーからも特に反対意見はなく、
「じゃ、みあおがちょこっと行って来るね」
 言うが早いか、みあおは小鳥に変化して飛んでいってしまった。そうして待つこと約数分。
 パタパタと翼をはばたかせて戻ってきたみあおは、人の姿に戻るなり。
「見つかったよー。居間に飾ってるみたいだった」
「複製作るなら本物見てからの方が良いよね。じゃあ亜真知さんは決定として、あとは・・・・」
 言いながら、イヴがぐるりと一行を見まわした。
 そして結局――諸悪の根元である――というより、その場で鏡を本に戻したほうが都合が良いということから結城、そして複製を作る亜真知が中にしのび込むことになった。
 その他のメンバーは店の方で功司の気を引いておく。
「それじゃ、行きましょうか」
 一行は二手に分かれて、再度店の方に戻っていった。


●ことの終わり

 鏡のすり替えは思った以上に簡単に終わった。
 そして――
「バレるのも時間の問題だろうけど・・・まあ、その時はその時ね」
 芳野書房に戻ってお茶をしつつ、エマがぽつりと呟いた。
「まあ、複製が真似ているのは形だけですから」
 同じく優雅にお茶を飲みつつ、亜真知が冷静な声で答えを返す。
「あの態度から察するに、おそらく鏡の力には気付いていたでしょうし」
「ううっ、あんまりそう不安を煽るようなことばっかり言わないでくれよ〜」
 完全にお茶運び係と化している結城が情けなくも半泣き声で抗議した。
「ホントのことだから仕方ないじゃない。ま、大丈夫よ、きっと」
 店主の蔵書に興味を持ったのか本棚を眺めていたイヴが、フォローになっていないフォローをしてくれた。
「そうそう、大丈夫だよ、きっと」
 出されたお菓子を楽しげにつまみながら、みあおは根拠なく言いきった。

 なにはともあれ、事件は無事解決・・・めでたしめでたしと言ったところだろうか。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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整理番号|PC名|性別|年齢|職業

0086|シュライン・エマ    |女| 26|翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト
1415|海原みあお       |女| 13|小学生
1548|イヴ・ソマリア     |女|502|アイドル兼異世界調査員
1593|榊船亜真知       |女|999|超高位次元生命体:アマチ・・・神さま!?
1883|セレスティ・カーニンガム|男|725|財閥総帥・占い師・水霊使い

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、日向 葵です。
 セレスティさん、イヴさんは初めましてですね。
 今回は依頼をお受け頂きありがとうございました。
 本題はフリーマーケット巡りだった故、鏡のすり替えはばさりと飛ばしてしまいました。
 フリーマーケット探索を中心にプレイングしてくださった方が多かったので(笑)

 では、またお会いする機会があることを祈りつつ・・・・。
 今回はどうもありがとうございました♪