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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


調査コードネーム:激突! 魔リーグ!! 〜野球編2〜
執筆ライター  :水上雪乃
調査組織名   :草間興信所
募集予定人数  :1人〜4人

------<オープニング>--------------------------------------

 減ってゆく。
 次々と。
 マジックが。
 悲願へとむかって。
 奇跡の時が、刻一刻と日本に近づいていた。
 優勝するのだ。あの大阪ティーゲルスが。
 苦節一八年。
 ついに、ついに、あの深紅のペナントを手にする時がくる。
 残すところマジックは二。
 今日にでも優勝が決まるだろう。
「長かった‥‥本当に長かったぜ‥‥」
 草間武彦が呟いた。
 一片の隙もなく着込んだハッピ。
 左手に握りしめた白黒のメガホン。
 黒い瞳から放たれる挑戦的な光は、ナゴヤドームの外壁を射ている。
 今日の対戦相手は名古屋シェンロンズ。
 闘将コシノ監督の古巣だ。
 それだけに戦いにくい相手でもある。
 だが、
「だが、俺はアンタを信じるぜ。コシノ」
 まるで旧友に語りかけるかのような、怪奇探偵という異名を持つティーキチ。
「ねー 草間さんー」
「なんだ。絵梨佳」
「どーしてもチケット欲しいなんて言うから、仕事絡みだと思ったんだけどなぁ」
 同行していた芳川絵梨佳が溜息をつく。
 コネクションまで使ってチケットを用意したのに、ただの観戦では嘆きの一つもこぼれてしまう。
「‥‥多少は関係あるんだよ。仕事と」
 言い訳がましく言う草間。
 見にこないと、気になって気になって仕事にならないのだ。
 ティーキチのティーキチたる所以である。
「でもすごいねぇ。ティーゲルスって優勝したことあったんだぁ」
「‥‥あるぞ。一八年前に」
「私が生まれる前じゃんー そんな石器時代のこと憶えてる人いるのー?」
「るせーるせー。だからこそ感動がでかいんだよっ」
 ムキになる草間。
 前々回の優勝が、さらにその二一年前だとは言えない。
 計算上、平均寿命のなかでわずか四回しか優勝を見れないかもしれないんだとは、絶対に言えない。
 中京の街に夜が近づいている。
 熱戦の予感に震えながら。








※魔シリーズが、ついに草間興信所に出張です。
 もちろんパラレルです。そしてたぶんコメディーです。
※ティーゲルスの選手、シェンロンズの選手、観客、どういうスタンスの参加でもOKです。
※水上雪乃の新作シナリオは、通常、毎週月曜日にアップされます。
 受付開始は午後8時からです。


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激突! 魔リーグ!! 〜野球編2〜

 ウグイス嬢の声が響く。
 スターティングメンバーが次々と電光掲示板に表示されてゆく。
 スタンドは、一種異様な興奮に包まれていた。
 一塁側にはホームである名古屋シェンロンズの応援団。
 そして三塁側は、ビジターたる大阪ティーゲルスの応援団だ。
 普通、ビジター側はおとなしいものだが、この場合、その一般法則はあてはまらない。
 なにしろティーゲルスだ。
 過激なことで知られるティーキチたちの集合体である。
 しかも、優勝目前なのだ。
 いやがうえにも盛り上がる。
「断固として、勝つっ!!」
 気を吐いているのは草間武彦。
 もちろん熱狂的なティーゲルスファン、すなわち、ティーキチだ。
「なんだかなぁ」
「まぁまぁ。飴あげるから」
「私はぐすってる子供かっ!」
「あはははー」
 怪奇探偵の横では、やたらのどかな会話が繰り広げられている。
 シュライン・エマと芳川絵梨佳だ。
 ちなみに、彼女らはべつにティーゲルスのファンではない。
 そもそも野球のルールなどよく知らない。
「野球拳のルールならわかってるんだけどねー☆」
「ぜんぜん違うから。絵梨佳ちゃん」
 ぼける絵梨佳とつっこむシュライン。
 心はすでに大阪人、ということで良いのだろうか。
「あれ? 草間さんじゃない?」
 漫才をしているふたりの後から声がかかる。
 振り向く事務員と中学生。
 立っていたのは、黒髪青眼の美女である。服装はいちいち描写するまでもなくティーゲルスはっぴだった。
 見覚えのない顔だ。
「よ。真。お前もきてたのか」
「こないわけないって。決まるかもなのよ」
「だよなー」
「もちろん」
 なんだか盛り上がっている。
「えっと、どなた?」
 シュラインが問いかけた。草間に向かって。
 まさか浮気相手という事もないだろうが、口調が微妙に尖っている。
 やれやれと絵梨佳が肩をすくめた。
「おう。俺がよく行く定食屋の女将でな」
「風祭真と申します」
 べこりと頭をさげる美女。
 けっこう若そうに見えるが、それで女将だというから辣腕なのだろう。
 絵梨佳とシュラインもそれぞれに名乗る。
 ちなみに、真が女将をつとめる花音という店は、美味いのと安いのと女将が美人なのと、みっつも長所がある。
「短所はその10倍ってところだけどな」
 草間が笑う。
「なんでやねんっ☆」
 真の裏拳ツッコミが炸裂した。
 なんだか変なテンションである。


 さて、シェンロンズのエースといえば、守崎の名が挙げられるだろう。
 そして、ティーゲルスの主砲は、やはり守崎である。
 奇妙な話にようにも感じるが、べつに複雑な事情があるわけではない。
 この守崎というのは、兄弟なのだ。しかも双子の。
 シェンロンズにいるのが、兄の啓斗。
 ティーゲルスにいるのが、弟の北斗。
 兄弟対決というわけだ。
 なかなかに因縁めいた話だ。
 もっとも、ペナントレースの間に同じチームとは二六回ほども戦うのだから、ドラマティックさは、とっくに摩滅している。
 しているのだが、
「兄貴。わりーけど今日は勝たせてもらうぜ」
 北斗の呟き。
「俺が最後の壁として立ちはだかってやるぞ。北斗」
 啓斗の覚悟。
 やっぱりこの時期になると盛り上がるものだ。
 もちろん本人たちだけでなく観客も。
 ところで、双子のスポーツプレイヤーというのはなかなか珍しいが皆無ではない。
 Jリーグはサンフレッチェ広島にも、森崎兄弟という双子のミッドフィールダーがいる。
 ふたりとも二二歳以下の日本代表に選ばれるほどの名選手だ。
 そして、啓斗と北斗も、もちろん名選手である。
 こちらはサッカーではなくて野球だが。


「兄弟だからといって手加減などしない」
 二回表。
 バッターボックスに立った弟を見据え、啓斗が低く呟く。
 一回を三者凡退に押さえ込み、立ち上がりとしてはまずまずの出来だ。
「甘いところに放ってくれる‥‥わけないよな。兄貴が」
 ぐっとグリップを握る北斗。
 返すパッティングが信条の四番が、ノーアウトランナーなしの場面ではたいして活躍できそうもないが、それでも自分が塁に出ないことにはなにも始まらない。
 本当は景気よく先制ホームランといきたいところだが‥‥。
「敵も然る者ってね」
 第一球を見送る。
 外角いっぱいから逃げてゆくカーブだ。
 しかも丁寧に低めを突いてくる。
 もし振っていたら、引っかけさせられていただろう。
 初球から、なかなか厳しい攻めである。
「やっぱり手加減なしってか」
 北斗がピッチャーマウンドを睨みつける。
 兄の不敵な笑みが不気味だった。
 大きく振りかぶって第二球。
 啓斗の腕から離れた一五〇キロ近い快速球が、弟の顔面へと迫った。
「くっ!?」
 大きくのけぞる。
 と、ボールは急角度にコースを変え、キャッチャーミットに収まった。
 ストライク。
 得意の高速カーブである。しかもフォーク並みの落差だ。
「ふふふ。なにびびってるんだ?」
 ほくそ笑む啓斗。
「くぉの〜〜」
 いきり立つ北斗。
 カウントは、ワンストライクワンボール。
 第三球!
 インコースだ。
「バカ兄貴めっ! さっきので俺がインコースをびびると思ったかっ!」
 むしろ自ら踏み込むようにバットを振る。
 勝ったっ!
 勝利の確信。
 だがそれは、極短命しか保ち得なかった。
 白球は微妙に落ち、バットの芯ではなく下部に軽く当たる。
 スピリットフィンガーファストボール。
 これも啓斗の得意技だ。
 乗せられたのだ。弟がいきり立つことくらい、兄にはお見通しだったというわけである。
 ぼてぼてのセカンドゴロ。
 懸命に走る北斗の努力も虚しく、ファーストベースのはるか手前で一塁手にボールが渡される。
 悔しがる北斗に、啓斗が舌を出して見せ自分頭をつつく。
 野球はここでするんだよ、とでもいう意味だろうか。
「むっきーっ!!」


 地団駄踏んで悔しがっているのは、北斗ばかりではない。
 三塁側のティーキチたちも、当然のように悔しがっている。
「ダメ虎〜! やめちまえ〜〜!!」
 はっぴとはちまき。メガホンを握りしめた青年が叫んだ。
「興奮している人がいるわね」
 そちらへ視線を送ったシュラインが、
「‥‥‥‥」
 硬直した。
「わぁ。那神さんだぁ」
 呆れたような声を出す絵梨佳。
 すらりと均整のとれた身体。揺れる美髭。輝く金色の瞳。
 紛れもなく、知己の絵本作家だった。
 紳士という評判をかなぐり捨てて叫んでいる。
 なんというか、意外きわまる光景だ。
 想像を絶するといってもいい。
「えーと。ベータなのかなぁ?」
「違うわ‥‥あれはきっと那神さんの本性よ‥‥」
 こめかみを押さえながらシュラインが応える。
 たしかに、絵本作家の内に宿るもうひとつの人格が、野球に興味を示すはずがない。
「やっぱりあの噂は本当だったわね‥‥」
「噂?」
「ええ‥‥出版社絡みで流れてきた噂よ。那神さんはティーキチだっていう」
「五へぇ」
「少ないわね」
 謎の感想に謎のツッコミ。
 もちろん、そんなシュラインと絵梨佳をよそに、草間と真は熱狂的に応援している。
 当然のようにスタンディングオベーションだ。
 ティーキチたるもの、座って観戦するなど言語道断である。
「ほらっ さぼってないで絵梨佳も応援するっ!」
 真の声。
 渡されるメガホン。
「あう〜〜」
 うやむやのうちに応援に参加させられる。
 最前列で。
 そしてその様子は、那神からもはっきり見えた。
「おお。絵梨佳ちゃんじゃないですか」
 などと言いながら、にこにこと歩み寄ってくる。
「ははは。こんにちは。那神さん」
 疲れた顔で挨拶するシュライン。
「シュラインさんに草間さんも一緒でしたか。これは都合がいい」
「なんの都合がいいんだか‥‥」
 美貌の事務員が溜息をついた。
 聴かなくても判る。
 絵本作家が、次になにを言うかなど。
「皆で一緒に応援しましょうっ!」
 爽快に笑う。
 きらりと光る白い歯。
 飛び散る汗が鬱陶しかった。
『おーっ!』
 と、やる気のある二人の声が唱和し。
「ぉー」
 と、やる気のない二人の声が重なる。


 試合は七回裏まで進んでいた。
 同点の局面で、シェンロンズにツーランホームランが飛び出す。
 これで、三対一。
 防御率二.八九を誇る啓斗にとっては、待ち望んでいた援護射撃だ。
 計算上、ティーゲルスはシェンロンズに追いつけないことになる。
 が、むろん野球は計算通りにはいかない。
 そして、ティーゲルスを喜ばせるニュースが他会場から飛び込んでくる。
 現在二位の東京スパローズが敗戦したのである。
 つまりマジックが一つ減ったわけだ。
 残りはマジック一。
 優勝まで秒読み段階となった。
 とはいえ、戦況はかんばしくない。
 リードされているうえに、残りの攻撃は八回と九回を残すのみ。
「さて。どないするかな」
 三塁ベンチ。名将コシノ監督が呟く。
 たった二回の攻撃で、最低二点は入れなくてはならない。
 しかもビジターのこちらは先攻だ。
 同点に追いつくだけでは、九回裏に再逆転される可能性もある。
「敵が有利なこの局面‥‥そこにかえって乗じる隙が生まれるんやないか?」
 シェンロンズのピッチャーは、あの守崎啓斗だ。
 それが一点で抑えているからには、ここは交代させづらかろう。
 おそらくは完投させる。
 ならば、いっそ八回はできるだけ粘って疲れさせてしまうという手もある。
「せやな。ここはギャンブルにでるときや」
 心を定めるコシノ。
 不気味なブロックサインが交わされる。


 そして、運命の九回表。
 好投を続ける啓斗にも、さすがに疲労の影が見え始めている。
 球数は、すでに一七〇球を超えていた。
 八回に粘られたのが、いまになって効いてきた。
「ふぅ‥‥」
 帽子を取って汗を拭う若きエース。
 ‥‥あと一人。
 フォアボールと味方のエラーで、ランナーを二人背負っているが、ツーアウトまで漕ぎつけた。
 あと一人だ。
「けど‥‥よりによってな‥‥」
 呟き。
 バッターボックスを見る。
 緑の瞳から放たれた視線が、青の瞳から発せられるそれとぶつかり、火花を散らした。
 端然と立つ北斗。
 二人の間に、緊張の糸が張りつめる。
 黙々と投げ込む兄。
 食らいつく弟。
 カウントツースリー。
 フルカウントだ。
「どうする‥‥?」
 啓斗の脳裏に湧き上がる怯懦。
 ここまでついてくるとは。あるいは歩かせて、満塁策を取った方が安全か。
 いや、と、頭を振る。
 正直、次のバッターと勝負するだけの体力は残っていない。
 この一球に勝負を賭けるしかなかろう。
 小細工はなし。
 内角低めにストレートを全力投球。長距離ヒッター弟が最も苦手な場所だ。
 大きく足を振り上げる啓斗。
 この期に及んで盗塁を心配しても詮無きこと。
 あらんかぎりの力を込め、キャッチャーミットめがけて投げ込む。
 唸る白球!
 スピードガンは、時速一五六キロを記録した。
 そして‥‥。
「俺の勝ちだ。兄貴」
 啓斗の声。
 響く快音。
 どこまでも大きく美しい弾道(アーチ)を描き、アルプススタンドへと消えていくボール。
 白球を制するもの、野球を制する。
 勝敗は、決した。


 割れんばかりの歓声が球場を包み込んでいる。
 ティーゲルスの抑えのエースが最後のバッターを打ち取ったのだ。
 この瞬間、一八年ぶりの優勝が決まった。
 コシノ監督が胴上げされる。
 啓斗が弟の健闘を讃え、軽く肩を叩く。
 ジェット風船と紙吹雪が舞う。
 戦いはまだ終わらない。
 日本一を決める球宴、日本シリーズがまだ残っているのだから。
 しかし、今日は、いまだけはこの熱狂に酔おう。
 虎の神々も照覧あれ。
 ついに悲願は達せられたのだ。
 熱狂と歓喜が、スタジアムを包み込んでいた。


  エピローグ

「うおおおー!!」
「うがぁぁぁ!!」
 二匹の野獣が吠えている。
 固有名詞を、草間武彦と那神化楽という。
「いつの間にかベータに変わってるし‥‥」
 シュラインが嘆いた。
 試合終了後、熱気さめやらぬまま、五人はある地点まで移動していた。
 車を使って。
 わざわざ大阪まで。
 道頓堀にかかる戎橋。
 通称、引っかけ橋。
 もちろん彼らは、ナンパのためにここに来たわけではない。
 あるイベントを見に来たのだ。
 すなわち、道頓堀ダイブ。
 警察が固く戒め、コシノ監督もやめろといったバカ騒ぎだ。
 まあ、止めて聞くような連中なら、こんな馬鹿な真似はしないのだが。
 草間という名の馬鹿と、那神という名の馬鹿も同様である。
「いくぜ! 那神!」
「おう! クサマ!」
 欄干の上に立つ三人。
 三人?
「きゃーっ!? ちょっと放してよっ! ふたりともっ!!」
 絵梨佳の悲鳴だ。
 両脇を、バカ二人に掴まれている。
「絵梨佳ちゃんっ!?」
「なにやってんの草間さんっ!!」
 シュラインと真が制止する暇をあればこそ。
 夜空に舞う三人の身体。
「なんで私まで〜〜〜!?」
 少女の声が、大阪の空に響きわたった。
「ばか武彦っ!!」
 血相を変えて、自らも川に飛び込むシュライン。
 小さな友人を救出するために。
 見事なフォームだった。
「おやまぁ」
 なんだか目を丸くした真が、惜しみない拍手を送る。
「私の店でも優勝記念企画やりますから、遊びに来てくださいね」
 川面に向かって叫ぶ。
 聞こえるかどうかは知らないが。
 上空に浮かんだ月が雲間に隠れた。
 まるで、人間どもの騒ぎに辟易したかのように。








                         終わり


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0086/ シュライン・エマ /女  / 26 / 翻訳家 興信所事務員
  (しゅらいん・えま)
0554/ 守崎・啓斗    /男  / 17 / 高校生
  (もりさき・けいと)
0568/ 守崎・北斗    /男  / 17 / 高校生
  (もりさき・ほくと)
0374/ 那神・化楽    /男  / 34 / 絵本作家
  (ながみ・けらく)
1891/ 風祭・真     /女  /987 / 『丼亭・花音』店長
  (かざまつり・まこと)

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■         ライター通信          ■
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お待たせいたしました。
「激突! 魔リーグ!! 〜野球編2〜」お届けいたします。
魔シリーズ初の草間興信所出張になりました。
オープニングがアップされる時期がずれてしまい、申し訳ありません。
あ、道頓堀ダイブはやめましょうね。
死んだ人までいるみたいですよ。
悪ふざけは、小説の中だけにしましょう☆
楽しんで頂けたら幸いです。

それでは、またお会いできることを祈って。