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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


神と聖職者の奇妙な対談?

1.張りつめた雰囲気と悩む碇
雨柳凪砂は心の中で泣いていた。
「間が悪いよう〜」
応接室で怖いほどの沈黙。
僧衣を纏ったユリウス・アレッサンドロ、そして異世界の神エルハンド・ダークライツ…。彼らが発する沈黙からだった。
碇のデスクでは、碇と三下がなにやら話をしている。
「あの〜すみません」
と凪砂が碇に声をかける。
「…あら何?」
碇は困った顔をしているが、凪砂と分かったことで「何かネタを掴んだの?」と目で訊いてきた。凪砂はコクリと頷く。
「そのネタはデスクに置いておいて、後で見るから。その前に、頼みたいことがあるのだけど」
「な…なんでしょうか?」
「さっき、通ってきたよね?あの沈黙の場…」
「はい…」
凪砂はまさかと…思う
「あの…まさか…まさか…」
「あの2人の対談が成功するように仲介できないかしら?」
「…はい…」
イヤとは言えない性格が哀しい。
とはいっても、エルハンドとは顔見知り。ユリウスは碇の話だとカトリックの枢機卿。この2人が対談するというなら、ネタになる。
なので、知的好奇心の強い性格が哀しいと思う凪砂だった。

その数分後のことである。
緊張する白里焔寿。いつも2匹の猫と一緒で初のアトラス編集部にお邪魔する。
いったいどんなところなのか見てみたいと前から思っていたようだ。
ゆっくりとドアをあけ…
「ごめんください」
と挨拶する。
「あ、白里さん、こんにちは」
と、三下が声をかけてやってきた。あやかし荘に遊びに来るのだから顔見知りになっても不思議ではない。
「こんにちは、三下さん。あの…ここが、三下さんがお勤めの編集部なんですね」
とにっこり笑う焔寿。
「えっと…今、応接間は開いてないので…すみませんが編集長の所まで」
と、碇のデスクまで案内された。
「あら、可愛い女の子。何かようかしら?」
と碇が訊いてきた。
焔寿は緊張して何を答えるべきか戸惑う。
前に事件に関わって知り合いになっている凪砂が、代わりに碇に話した
「知り合いなの。それとエルハンドと友達…なら適任だわ」
「適任?」
首を傾げる焔寿
「気がつかなかったの?」
碇がすこし目を丸くしたように見える。
彼女が応接間を指さすと…
聖職者とエルハンドがいる。しかもかなり沈黙が続いているようだ。
「あら、存じませんでした」
と焔寿は照れ笑いする。
焔寿はエルハンドに挨拶しようと彼に向かっていった。
そして、
「こんにちはエルハンドさん。……お見合い中だったのですね。ご結婚なさるのですか?」
といきなり訊いたりする。
「違う…私は男だし、相手も男だ。何処で間違える…」
と、力抜けした声で答えるエルハンド。
「あら、すみません、そんな雰囲気だったので」
と焔寿が笑った。
其れにつられ皆が笑う。
ユリウスの姿は僧衣なので…見間違えることはないはず…。しかし…女性と間違われてもおかしくはないのかもしれない美形なのは確かだ。
焔寿は碇達の方を振り向き、
「私に何が出来るか分かりませんが…出来ることをやります。宜しくお願いします」
「にゃ〜」
「うにゃ!」
と猫2匹と共に言った。

また来客のようでドアが開いた。
それにエルハンドはぴくりと反応する。
前に空間ごと消滅させた…加持葉霧がその場にいる。正確には人間の姿でもなければ幽霊でもない。
(天地崩壊をアイツにかけても効果がなかったか…「存在」が矛盾しているな)
そう加持は特殊エネルギー体(アストラルでもイセリアルでもない)で物質干渉しているのだ。
(質量0でエネルギーが+であるのはおかしい…『多次元化』したのか?)
と神は心の中で思った。
ユリウスも、その姿を見て感心しているらしい。エルハンドの反応にも気がついたようだ。
「あのエルハンドさん、あの方は不思議ですねぇ」
「…」
「…あの〜」
声をかけたのだが、神は何も答えなかった。機嫌を損ねたのかな?と思っているユリウス。
加持は、2人に会釈してからデスクの方に向かった。
エルハンドが加持を睨む。
徐々に彼は質量を持って人間の姿に変わった。
加持は何も動じなかった。
「何をしたんですか?」
と、ユリウスが訊ねた。
「アイツの存在が0だった故、かりそめだが「1以上」という質量を与えただけだ」
と素っ気なく答える。
混乱になることを避けるためだ。
(あのことに懲りた顔つきだから今は見逃そう)
エルハンドは深くため息をついた。
「こんにちは、皆さん」
と礼儀正しく加持は挨拶する。
三下だけ顔見知りなので、三下は彼が退魔団の隊長であることを説明し、碇は納得した。
表だって、碇を女王様呼ばわりするのは彼女を怒らせるだけでよろしくない。
エネルギー体だった姿を見た者は応接間にいた2人だけのようだった。他は気がついていない。
「話は、知り合いから聞きました。僕もあの2人が対談出来るように手伝いましょう」
と加持が言う。
「じゃ、決まりね」
と碇は満足な笑みを浮かべた。


2.メモを取る者、質問するもの
三下が2人に声をかける。
「此処だと狭くなるので会議室に…いきませんか?」
神と聖職者は無言で頷いた。
これで少しは和やかになっただろうか。
ユリウスはいつもの笑顔にもどり、エルハンドは苦笑していた。
会議室でエルハンドとユリウスが正面に向き合う形で座り、他は自由に席に着いた。
三下と凪砂がまず、メモとテープレコーダーを取り出す。
「え〜っとアトラスで神様と高名な枢機卿との対談を始めたいと…」
「高名なってそんなことはないですよぅ」
ユリウスは枢機卿や猊下など敬称を使われると背筋に寒気がするらしい。
「ユリウスさん…話の骨折っちゃだめですよ」
と焔寿がにっこり微笑む。
「出来れば伯爵様で…」
「あ、それと三下さん、其れにこの件は匿名の神父でお願いしたいですねぇ〜」
と結構注文が多い。
「ヴァチカンに危ない発言を聞かれるのが怖いんだね」
さすが、諜報員加持。彼の裏を知っている。
「ま、そのそうですね…内密に…」
「隠し事はよろしくないな」
とエルハンドは友人と会話するような笑みを浮かべユリウスに言った。
「あの〜そろそろ本題に入りたいのですが」
と三下が勇気を出していった。
「あ、ハイそうでしたねぇ♪悪魔関係のお話ですよね」
「そうだな」
2人は先ほどとはうってかわって三下の言葉に反応していた。
ユリウスはエクソシストなので、カトリック的主観で悪魔はなんたるかを話す。彼自身はカトリックの過去の歴史で昔から有る土着宗教が悪魔扱いされているということを説明する。個人的にそう言う事は嫌いであり、一部の友好的悪魔(元は土着の神や精霊)や吸血鬼とも友好を深めていることも話した。それでも熱心な信者であることは変わりないと強調する。
エルハンドは、ユリウスの意見を文句なしに聞いて、自分の世界の論理・多元宇宙論(多次元ではない)という物をもって悪魔とは何かと言うのを話す。悪魔とは存在するが、様々な種類があると言うことだ。外宇宙世界(天国、地獄など)にすむ「存在」のなかで自ら「悪」を行う存在を「悪魔」「邪神」と認識し性格別に形成された独自の「共有世界」を持っているという。有名どころは地獄のデヴィル 奈落のデーモンがおり、現代儀式黒魔術で良く契約を行うのは地獄のデヴィルだろうと言う。
ユリウスはそこでエルハンドに訊いた。
「他の悪魔族との契約は出来ないのでしょうか?」
「デーモンは混沌であり悪…一番厄介な性格だ。契約は破る事が当たり前、完全な力関係こそがデーモンのルールだ。秩序を持つデヴィルよりかなりの実力と駆け引きを必要とする」
「そうなんですか」
このテーマは意見交換で和やかに終わる。
「さて、休憩しましょうか」
何とか一幕を成功させた三下はホッと胸をなで下ろしていった。エルハンドもユリウスも彼に対しては他の人物より比較的優しいのだ。
「あ、私が用意してきます」
必死にメモを取っていた凪砂が、鞄の中から箱を取りだした。
「美味しいお菓子屋さんが有りましたので皆で分けてください」
と出した箱は芋羊羹。
ユリウスは硬直する。そして顔面蒼白になっていった。
「どうしたユリウス?」
「いえ…あの…そのぅ…よ…羊羹は」
と枢機卿は何か言いたげだった。
「良う噛んで食べましょうですか?」
と、焔寿がにっこり笑った。
―そこでぼけてどうしますか…。
少し思い沈黙と…くだらない駄洒落の精が踊り過ぎ去っていく。
「いえ…和菓子は苦手でして…」
と、躊躇いがちに凪砂に言った。
「あ、すみません…スイートポテトなら有りますので」
「助かります」
蒼白な顔から元気に戻るユリウス。
焔寿とエルハンドは少し吹き出した。
「洋菓子は苦手なのですね。今日初めて此処に来たときに、沢山紅茶シフォンケーキとグリーンアップルティーを持ってきたのですよ。対談が終わったら皆で食べましょう」
と焔寿がにこやかに言った。
「にゃ〜」
猫2匹が早く食べたいと云う様になく。
「さて、他の対談を組もうと思うのだけど…いいかな?」
と加持が提案した。
じつは、時間は今回たっぷりあるのだ。


3.結局三下は研究材料
「まず三下君についての謎に迫りたい!その事でお二人方に討論をして欲しいのだ!」
と加持は三下を力強く指さした。
「ぼ!僕ですかぁ!」
驚く三下。
「確かに三下さんは、私も驚くほどの不幸な方ですよね」
「ああ、物凄く哀れな星の元に生まれた人間だな…」
対談の中心の2人は頷いた。
「うえ〜ん」
情けない声を出す三下。
「そうですねぇ」
焔寿も凪砂も彼の生き様を見ているので納得。
「少し加持さんと視点は異なりますが…三下さんは何故コンタクトレンズをしないのですか?」
と焔寿が質問した。
「コンタクトレンズって高いじゃないですか…」
と三下が答える。
「其れは嘘で…自分の目が見られるのを恥ずかしいのだろう」
とエルハンドが横やりをいれた。
「たしか、めがねを外すとかなり美形と聞きましたがねぇ?」
楽しそうな会話になってきたのでユリウスも口を開く。
「人間の女性には持てることはないのが物の怪に好かれる魅力…これは凄いことかもしれない」
「「「ですよね〜」」」
加持を除いて、焔寿、凪砂、ユリウスが同意した。
めがねを外した三下が見たいという皆の視線が痛い…。
素顔を拝めるチャンスか?
と、思いきや…加持が咳き込んで視線を自分に向けた。
「めがねのことはさておき。一番注目すべきは彼の不幸。【真面目に三下くんの不幸を好転させるには如何にしたら良いのか?】と言う事を討論してみるのはどうかな?」
と、かなり昔の男優が良く付けている格好で言った。
「其れは面白うそうですね!」
ユリウスたちが目を輝かせて賛同した。
エルハンドは、三下に哀れみの目を投げかけ…同意の頷きをする。
「まず…運の数値が虚数という事が原因だとおもうが?」
いきなり問題発言のエルハンド。虚数。0でなくマイナスという世の中に力として存在できない数値。
「やはり聖なる父の元に清められると良いと思いますねぇ」
ユリウスも問題発言。
「いや、其れも良い案だが、彼がキミの元で動くと更に不幸になるきがするが?」
「どうしてです?」
「キミは弟子をも利用すると父から聞いていた。仮に三下を傘下に加えると、彼を利用するだけ利用する事になって結局彼は不幸になる」
「はぁ…さすが神様ですねぇ…」
苦笑するユリウス。
「本気で利用するつもりだったのですか、猊下?」
凪砂が冷や汗をかいて言った。
「問題なのは彼の不幸は人から魔術媒体で幸運を吸い取るしか出来ない。自力ではこの虚数運値を上げることは出来ない…運命だな」
「そ、そんなぁ〜どうにかなりませんか?」
三下は情けなく叫ぶ。
「神格覚醒が起こると、よけい彼は不幸になる。結果は見えているはずなので口には出さない。私の結論はいかなる方法を持ってしても、彼はそのままの不幸の様だ」
「其れは言えますねぇ〜」
「6万5千円という詐欺な魔術護符を買う羽目になったり」
「様々な妖怪に好かれたり」
「暴走する中学生にライバル視されているし…」
「どこから解決すべきか分かりませんですよね〜」
「虚数に虚数をかけてみるという方法があるが、世界の均衡が崩れかねん。…彼が他の人の不幸を背負って生きていると言うしかないだろう。其れが多元宇宙の意志なのかもしれない」
「やっぱり、そのままですかねぇ?」
2人の会話は「やっぱり無理」という結論だった。
「そんなぁ〜何とかしてくださいよう〜」
三下は泣く。大泣きである。
「せめて希望と言えば…望まなければ気がつかないとき幸運に巡り会うってところだな…」
三下の不幸は神と高位聖職者の叡智を結集しても解決は無理だった様だ。


4.対談が終わり…
まず対談は成功に終わった。
2人の握手する写真をとり、そのまま碇を交えて焔寿の作ったケーキを味わう。
ユリウスは本当に嬉しそうにケーキを食べている。
三下と凪砂はネタの取り合いになるわけだが…たぶん採用されるのは凪砂の原稿では無かろうか。
エルハンドと加持は。無言で…
(真面目にいれば前回見たくならなかったのだ。気を付けろ)
(今回は言い教訓になったよ…)
と会話していた。
それより、焔寿のケーキセットはとても美味しく、心が和む。
2人とも、今は三下の企画したこの対談が成功することを祈る事にした。

凪砂は草稿を仕上げるために先に編集部をでる。ビルから出て数メートルで、精神力を使い果たしたのか近くの木にもたれかかり、
「疲れました〜」
とぼやいた。
焔寿とチャーム、アルシュはエルハンドと一緒にあやかし荘に遊びに行って、エルハンドと色々お話するそうだ。元気が良い事はよい。
加持は肉体の完全回復のために暫くどこかに隠れるという。さすが中身が0の呪いを受けていても肉体(質量)の回復はそう簡単に治癒できないのだ。これは自分の治癒力にしか頼るしかない。

この対談が、成功と分かったのはアトラスの冬特大号の時だった。
「三下忠雄+雨柳凪砂」の共作という形だったが。これはこれでよかっただろう。

―ともあれ…お疲れ様。
と、誰かが三下の耳に囁いた。


End


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1305 / 白里・焔寿 / 女 / 17 / 天翼の神女】
【1376 / 加持・葉霧 / 男 / 36 /謎の指揮官A氏(自称)】
【1847 / 雨柳・凪砂 / 女 / 24 / 好事家】

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■         ライター通信          ■
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滝照直樹です。

『神と聖職者の奇妙な対談?』に参加していただきありがとうございます。
異世界の神と、聖職者がのんびり(?)会話するというのは難しいもの。ユリウスがマイペースな性格故、可能でした。もしこれがガチガチの狂信者レベルの人だった場合…喧嘩状態でしょうね。

白里様、アトラスの依頼は初めてのようで。此処も有る意味和むことが出来た(過去)です。大きなボケが場を和ましたですね。エルハンド「…いや…両方とも男と言うことを…忘れてないかな?って、そうかユリウスとは初対面か?」

加持様、私は数学や物理は苦手ですが、前回のエルハンドが出した奥義は確かに0の効果です。が…0だと存在しないそうです(出来ないらしいです)。質量が0でエネルギーが1以上というのは現代科学では「矛盾」と扱われるらしいので、今回は質量0エネルギー1以上の特殊エネルギー体での登場といたしました。

雨柳様、いつも参加ありがとうございます。確かに間の悪い時にアトラスに来ましたね。その苦労をがんばって描写してみましたがどうでしたでしょうか?もし、洋菓子(スイートポテト)がなければ…。エルハンドは大丈夫ですが猊下だけは羊羹など苦手なのです。

また機会が有れば宜しくお願いします。

滝照直樹拝