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<東京怪談ノベル(シングル)>


五代真おんすてーじ?
 真が請け負う仕事には、ハードなものも少なくない。
 もともと力仕事を得意とする真であるため、肉体的にハードな仕事ならさしたる問題はないのだが、クライアントが極端にうるさかったり、神経質だったりと、どちらかというと精神的にハードな仕事もある。
 運悪くそのような仕事に当たってしまった時、真は決まって帰りがけに行きつけのカラオケボックスに寄る。
 カラオケで思いっきり熱唱することが、真の一番のストレス解消法なのだ。

 その日も、真は「精神的にハードな仕事」を終えて、いつものカラオケボックスに向かっていた。
 目指す場所までもう少しというところで、信号待ちのために一度立ち止まった時。
 すぐ前に見知った人物がいるのに気づいて、真は彼の名を呼んでみた。
「三下さん?」
 すると、不意に後ろから声をかけられたことに驚いたのか、三下は一瞬びくっと肩をすくめた後で、おそるおそる振り返った。
「なんだ、五代くんじゃないですか。驚かさないで下さいよぉ」
 心底驚いたという様子で、胸を撫で下ろす三下。
 その様子を見て、真はあることを思いついた。
 編集部では編集長にどやされ、あやかし荘ではトラブルに巻き込まれ、その上いつもいつもこうびくびくしていたのでは、三下もさぞストレスがたまっているに違いない。
 それに、どうせ歌うにしても、誰か聴いている相手がいた方が張り合いがあるというものである。
「三下さん、暇なら俺に付き合って」
 そう言うなり、真はがっしりと三下の腕をつかんだ。
「え!? ど、どこ行くんですかあぁっ!?」
 当然三下は嫌がったが、真はいっさい意に介さず、そのまま三下の腕を引っ張って目的地へと向かった。
「いいからいいから、来りゃわかるって」





 カラオケボックスにたどり着くと、真は受付にいる顔見知りの店員に「いつもの部屋、二時間で」とだけ告げて、意気揚々と部屋に入った。
 席に着くなり、マイクとリモコンを手に取り、未だ狐につままれたような顔をしている三下に選曲本を渡す。
「んじゃ、俺先に歌わせてもらうぜ。三下さんはその間に曲選んでて」
「は、はぁ……」
 その曖昧な返事を了解と受け取って、真は早速馴れた手つきで曲番号の入力を始めた。
 いつも最初に歌っている曲だけに、既に番号は暗記している。
「やっぱ、日本人なら演歌だよな♪」
 真はそう言って笑うと、こぶしをきかせて歌いはじめた。
 演歌界の大御所が男の生き様を熱く歌ったこの曲には、日本人なら誰でも魂を揺さぶられるものがあるはず……と、真は考えていたのだが、そう考えていた真が特別なのか、はたまた三下が例外的な存在なのか、いずれにせよ、三下は相変わらずおどおどしているばかりで、さしたる感銘を与えることはできなかったようである。
 ともあれ、一曲歌い終わった真は、三下の方に向き直ってこう尋ねた。
「で、三下さん、何歌うか決まったかい?」
「あ、ぼ、僕は、ちょっと……」
 その三下の返事を、真は「ちょっとまだ決まっていない」と勝手に補完して解釈し、苦笑しながら再びリモコンに手をのばした。
「ああ、まだ決まってないのか。じゃ、俺もう一曲歌わせてもらうから」





 その後も、真の熱唱は続いた。
 最新の曲から、アニソン、懐メロに至るまで、一曲ごとにジャンルを変えながら、しかもそのどれもを「それっぽく」歌いこなしているというのは、もはや特技の一つと言っていいレベルであろう。
 一方、三下はというと、真が何度も「やっぱり、三下さんも何か歌わなきゃ」と勧めているにもかかわらず、歌に自信がないのか、そういう気分になれないのか、はたまたそれ以前の問題なのか、とにかく「僕は聞くだけで十分ですぅ〜」と固辞し続けていた。

 そして、真が十何曲目かの曲を歌い終えた時。
 ちょうど真が歌い終わるのに合わせたかのように、インターホンが鳴った。
「お時間の方、あと十分少々となっておりますが」
 いつも通りの店員の言葉に、いつも通りの返事を返すと、真はとっておきの曲番号を入力した。
「じゃ、最後はやっぱりアレでしめるか」
 その言葉に合わせて、モニタに「爆裂! オコメンジャー!」という文字が映し出される。

 真が締め括りの曲として選んだのは、テレビ夕陽系で日曜の夕方5時に放映されている特撮番組「御飯戦隊オコメンジャー」の主題歌であった。
 当然、特撮モノ、それも戦隊モノの主題歌だけに、バリバリの絶叫系である。
「地球の食を守る為〜」
 他のどの曲よりも力の入った様子で、真は本日最後の一曲を歌い出した。
 




 五分ほどの時間を残して、二人はカラオケボックスを出た。
「いやぁ、すっきりした! やっぱストレス解消はこれに限るな!」
 真の顔に浮かんださわやかな笑みが、その言葉にいっぺんの嘘もないことを証明している。
 それとは対照的に、三下はカラオケに来る前よりげっそりした顔をしていた。
 そんな三下の様子に気づいて、真が軽く三下の背中を叩く。
「だから、三下さんも何か歌えばよかったのに。
 次は、絶対三下さんの歌も聴かせてもらうからな」
 その言葉に、三下はぎょっとした様子で声を上げた。
「ええっ!? つ、次ですかあぁっ!?」
「ああ。やっぱり一人より二人の方が楽しいからな」
 真はそう答えると、三下がますますげんなりした様子を見せるのにも気づかず、いかにも楽しげに笑った。