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<東京怪談・PCゲームノベル>


■おもちゃ館■

 草間武彦は、久々の温泉に浸かってため息をついていた。
 やれやれ、せっかくの温泉だというのにこれも依頼なのだ。
『おもちゃ館』と名付けられたその旅館は、鎌倉の田舎、森の近くにあった。露天風呂や様々な温泉が楽しめるしおみやげ物も凝っていて可愛いことから、若者に最近人気なのだが、一つ問題がある。
 最近になってこの旅館に泊まった二十歳未満の少年少女達が行方不明になっているという。家族や恋人達からの依頼で潜入捜査に来たのはいい、が。
 どこをどう見ても、普通の小奇麗な旅館としか思えない。従業員も至ってまともであるる。
 その夜、何の手がかりも得られずに、携帯から零に連絡を入れようとした時だった。
 突然、パッと旅館全体の電気が消えた。
「!」
 部屋を出た草間は咄嗟に身構える。旅館の様相がどんどん変わっていくのだ―――小奇麗な旅館から、不気味な枯れ果てたような館へと。そして。
「趣味わりぃぜ……」
 冷や汗を、彼は拭う。足元にぽっかりと空いた、恐らく二メートルほどの深さの穴。その中に魔法陣のような模様が光っていて、その周囲にはたくさんのぬいぐるみ。皆、人型だ。
「まさか、こいつらが……?」
 ―――行方不明になった、少年少女達?
 そして正面を向き、またびくりと背筋に寒気が走る。
 草間本人が、『こちらを向いて』突っ立っている。が、すぐに「鏡か」、と冷静になった。
 知らず後退りをした時、だった。

 こつん、

 なにかが背中に当たり、動き出すのが分かる。振り向くと、そこにも『草間武彦がいた』。煙草をつけ、ゆっくりと両手を伸ばしてくる。
「鏡は囮かっ!」
 鏡で油断させ、草間の『人形』で本物の草間を殺そうとして来る。
「誰だ、誰がやってる!? 出て来いっ!」
 すっかり中身も変わってしまった『おもちゃ館』の擦り切れた絨毯を蹴り走る。と、廊下の角を曲がったところで、今度はライオンを象った巨大なぬいぐるみに遭遇した。
 気配で分かる。ただのぬいぐるみではない。ずしり、と重い鉛で床を踏み潰す勢いで確実に草間の頭を狙ってくるそれを前に、草間は一瞬身体が動かなくなった。
(これもぬいぐるみがやってるってのかっ!?)
 声すら出ない。
 と、その時。
「針簪!」
 背後から声がしたかと思うと、数千数万―――いや、もっとだろうか―――の針の大群がライオンを襲った。
 特殊な針なのだろう、ライオンはみるみるうちに砕けていく。
 振り返ると、20代後半頃の冷たい雰囲気の美女が立っていた。
「あ……あんたは?」
 ようやく声が出る。美女はちらりと背後を見やり、
「お礼が先じゃないの、といつもなら言うところだけれど今はそんな場合じゃないわね、お互いに。私は尭樟生梨覇(たかくす おりは)。オリハでいいわ。私はこの旅館の人間を救いに来たのよ」
「俺は草間武彦、興信所の者だ。依頼で来たんだが―――ご同業か?」
「いえ、少し違うわね」
 とにかく、とオリハは言う。
「『気配』を感じる直前に携帯で外と連絡を取ったわ。うまくすれば誰かあなた関係の協力者が来てくれるはず」
 草間は用心深く、オリハを見る。
「……俺の興信所に連絡を入れたのか? なるほど、『客』の素性は大抵調べ上げてるってわけだ」
「悪いわね。家柄なのよ。いえ……職業柄、どっちかしら」
 クールな言い方だが、悪い人間ではなさそうだ。得体が知れないことは確かだが―――今は協力者が来るまでこの女性とこの場を乗り切るしかあるまい。
 草間は、四方から感じる『無の殺気』をひしひしと感じていた。


■Relief party■

「待機していた甲斐、というには不謹慎すぎですけれど」
 薄暗い館に入るのは簡単だった。まったく『普通に』扉が開いていたからだ。呟きながら、そろそろと霊視しことの元凶を探りながら、和服の美女、天薙・撫子は廊下を歩いていた。
「これで以前から気になっていたこの旅館―――いえ、館の謎も解けますわね」
「そう簡単にいけばいいのですけどね」
 不意に背後から低い声がして、撫子は振り返った。ほかにも協力者がいることは予想の範囲だったので、驚きはしない。
「単純でいて複雑―――そんな気配がしますが」
 異様なまでに美しい青年が立っている。頭の天辺から足の先まで品の良さが滲み出ているその青年、セレスティ・カーニンガムはふらりと辺りを見渡し、扉の入り口まで目を戻してあちこち探りながらついてきている同行者を確認した。
「みなもさん―――と仰いましたね。観察も必要ですがことは急ぎのようです。草間さん達の居場所を探しませんか」
 撫子が首を傾げてセレスティの背後を見ると、可愛らしい少女が立っている。少女はその視線に気付き、丁寧にお辞儀をした。
「海原・みなもです。草間さんの救助に来ました。なにしろ足がないものだから、ちょうど同じ方向に向かっていたこの方に道案内をしてもらったんです」
「……そういえば、まだ自己紹介をしていませんでしたね。では簡単に。私はセレスティ・カーニンガム。お二人の名前をお教え願えますか?」
 自己紹介の間も、セレスティは周囲に警戒を払っている。無論、それは他の二人の女性も同じだった。
「わたくしは天薙・撫子と申します。お見知り置きを」
「あたしの名前は、さっき言ったとおりです」
「あ、ごめん。俺も参加。名前は御影・涼。で、急がないとマズくないですか」
 慌てて扉から入ってきた最後の協力者、穏やかそうな青年がそう言った。
 と同時に、扉は音を立て『戦闘開始』の合図である銅鑼を鳴らしたように閉まった。
「……お決まりですね」
 別段驚いたふうでもなく、振り向きながら涼。
「我々も閉じ込めるつもりなのでしょうね」
 セレスティは少し笑みを浮かべながら歩き出す。
「行きましょう、こちらから何か感じます。けれど―――あやかしのものとは少し何かが違う気がします。心して」
 無意識に、少し扉の閉まる音に肩を竦めていたみなもの頭を撫でながら、撫子。我に帰り、みなもは頷いた。


■元凶は何処に?■

 程なくして一行は、不気味な程何事もなく草間武彦と尭樟生梨覇の元へと辿り着いた。一通り互いに話し合ったり情報交換をすると、まず涼が本題に入った。
「やっぱりあの魔方陣、壊しておいたほうがよくなかったですか」
 その意見に、セレスティは顎に手を当てる。
「この『おもちゃ館』が魔法陣を利用して人間をぬいぐるみに変えているのか、それとも不気味な館に変貌させているのか謎ですが、それが分からない限りむやみに破壊するのは躊躇われます。出来れば解決策が見つかるまで保留にしておきたいですね」
 涼が思案中の間、撫子が口を挟む。
「わたくしはなんとなく、人形の反乱という気がしてなりません。元凶を探したいのですが」
「あたしも同感です」
 と、みなも。
「元凶の探索、ここまで来ても何か感じないのなら先に進むしかないのではないでしょうか? あたしはどっち道みなさんの支援になりますけど、能力的に」
 草間はようやく煙草を一本出す気力を取り戻したが、生梨覇のきつい視線を見てため息をつき元に戻した。
「まー…ともかく生梨覇のお陰で俺も生梨覇も協力者が来て助かったわけだが、やっぱりまず元凶だな。誰か何か感じないか? この場所から」
「みなもの言う通り、進むしか分からないのじゃないかしら」
 初対面の人間を何の裏もなく呼び捨てにするのは生梨覇の性質らしい。階段を見上げてから振り向き、草間と協力者達を見渡す。
 草間は肩を竦め、涼と撫子、セレスティとみなもは其々顔を見合わせてから逡巡の末頷いた。
 それを認め、
「それじゃ、行きましょうか。地獄へかもしれないけれど」
 にっこりと、まさしく「営業用」の微笑を以って生梨覇は真っ先に階段を昇り始めた。


■其々の「人形」達■

 この館は果たして意思を持った生き物のようだった。
 階段を昇り切った瞬間暗く広い部屋に入ったと思ったら全員の背後に壁が現れ一行は閉じ込められてしまった。
『それ』を最初に見つけたのは、やはりというか草間だった。
「やっぱりさっきの『俺』かよ……」
 余裕のようでいて、流石に冷や汗をかいていた。その言葉に、暗闇に目が慣れてきた他の5人も其々に其々の『もの』を見つけていた。
 椅子に座り、無表情でこちらを向いている其々と姿形が酷似していた。否、酷似という言い方は正しくはないかもしれない。「本物」と見分けが全くつかない程だった。
「俺の人形……」
 心があるのだろうかとふと涼が思ったのを狙ったように、突然人形達は立ち上がり、其々に襲い掛かってきた。
「な……!」
「みなもさんさがっていてください!」
「…………!」
 涼は厳しい目つきになり、撫子は目を見張りつつも身構え、セレスティは咄嗟にみなもを背後にさげさせ、みなもはその通りにしつつも何かを考え始めた。
「は」
 針簪、と攻撃を真っ先に仕掛けようとした生梨覇はだが、先に「生梨覇人形」にそれをされ危ういところで避けた。広い部屋、それも皆が下がった後で良かったと全員が思う。生梨覇の針簪は何メートルかの範囲に無差別攻撃と同じだからだ。
 だからこそ、人形を一蹴出来ると生梨覇は思ったのだが、これで新たに全員に分かったことがあった。
「ふうん……同じ能力を持ってるんだね。この人形達、『俺達それぞれ』と」
 涼は涼しげに前髪をかきあげ、じっと真正面の自分の人形、その瞳を見据える。不気味に光るその瞳に意思は見られない。
「心はないようですね」
 それは逆に使えるかもしれないと考えたセレスティが涼の意思を代弁する。
「でも殺意は充分にある、と」
 壁際までさがっていた草間がみなも同様考えつつ人形を見た。
「殺意というか」
 撫子は相変わらず霊視をしながら襷がけに鉢巻をして言った。ワンテンポ遅れて同じ動きをする自分の人形に少々顔を顰めながら。
「それしか『埋め込まれていない』感じが致します」
「布製のものならば、水を使って重くしようかとも思ったんですけど、見たところそうじゃないみたいですね」
 それならば、とみなもはそっとスカートのポケットに手を忍ばせる。
 最終手段だったが仕方がない。
「お待ちなさい。布製かどうか、まだもうひとつみなもには手段があるのではないの?」
 その言葉に、ハッとしてみなもは手を止める。生梨覇は相変わらず油断なく人形を睨みつけている。
「……悪い人間じゃそんなことはいえねえよな……」
 苦笑しつつ、草間。
「俺そういえばまだ生梨覇の職業とか聞いてないな。一体なに?」
「随分と戦闘慣れしているようですが」
 涼とセレスティが問うと、「この危機を脱したら、ね」とクールに生梨覇は言う。
「……試して、みます」
 そう言って生梨覇に言われる前と違うものを取り出そうとしていたみなもは、霊水をポケットから出してバッと勢い良く全員の人形に降りかかるよう試みた。
 怯む様子は見せなかったが、人形達は心なしかじりじりと間合いをつめていた動きが重くなったようだ。
「布製、だったみたいだね」
「有難いです」
「戦い易くなりました。ありがとうございますみなもさん」
 涼にセレスティ、撫子はそう言ってから、まるで息を合わせたように同時に自分達の人形に飛び込んでいった。否、涼だけは間合いをわざとらしく詰めたままで何もしようとはしない。みなももまた、草間と生梨覇同様にじっと用心深く自分の人形を見ている。
 其々の能力が自分達と同等なら、様子を見るしかない方法もある。当然のことといえば当然だ。
 セレスティはみなもが降り掛けた霊水を操り、迷わず自分の人形の口から喉に突っ込ませ、「体内」に仕込ませる。
 あとで思えばこの戦闘に於いて一番派手に見えたのは撫子と涼だったかもしれない。
「セレスティ、悪いけれど私の人形にも『それ』をしてくれないかしら。一番危険だから、針簪は」
 生梨覇の頼みでそれをしたセレスティの行動直後。
 出現させた「正神丙霊刀・黄天」で切り掛かってこようとした自分の人形を見た涼は見計らっていたようにひょいと避け、後ろ手に自分もその霊刀を出現させた。
「バイバイ、偽者」
 冷ややかに言い、思い切り良くばっさりと人形を二等分にする涼。浄化の力が強かったのか、人形は消えていく。やはり多少は「浄化に弱い部分」から造られたものなのだろうか、この人形達は。
「見えましたわ、『わたくしの癖』」
 自分の糸繰りの時の癖を人形の中に見切った撫子もまた瞳を光らせ、忍ばせておいた御神刀『神斬』を取り出し、これまた勢い良く自らの人形を斬り捨てる。神魔の浄化の力を持つその刀に、撫子の人形も消えていく。
 期を見計らって、セレスティも「永久の別れ」の言葉を口にし、瞬間セレスティと生梨覇の人形も体内に「入れた」みなもの霊水によって砕け散った。
「あとはみなもさんと草間さんの人形だけですね」
 セレスティが振り向いた時、その二体はがくりと床に倒れ、合図にしたようにどこからか兎が太鼓を持ったおもちゃがそれを鳴らしながらカチャカチャと動いてきた。かくんと笑った形のその口が開く。
「コウサン、コウサンー。ボクノシュジンノトコロニアンナイスルヨー」
 妖しすぎる、と全員が思った時、部屋の床が消滅した。


■Endress? ―――否■

 落ちた所は薄暗い場所、地下室。痛くなかった理由は全員すぐに分かった。
「ぬいぐるみ……」
 涼がそろそろと様子を見ながら立ち上がる。
 涼の言う通り、大量の様々なぬいぐるみ達が床が見えない程に積み上げられ部屋の果てまで続いていた。
 隙あらばと構えたのは生梨覇とみなも、そして撫子。セレスティと草間は辺りを見渡す。どこかに入り口はと用心深く歩を進めていったのは涼。
「やっと来てくれたんだー、おそかったねーねえ星螺(セイラ)」
「うん、おにーちゃん」
 不気味に響く可愛らしい声が二つ、入り口の代わりとばかりに返ってきた。
 セレスティが誰何する前にぼうっと幽霊のようにこちらに歩いてくる男女の双子。
「……随分と丁寧な『案内』ですね」
 目を細め、セレスティ。
「子供ならしかたないんじゃないでしょうか?」
 少々きつい瞳で双子を見ながら、みなも。
「それで、あなた達が元凶なのかしら?」
 生梨覇が問うと、撫子がやっと『それ』に気付いた。
「……あやかしでもない。かといって人間でもない。その訳が分かったような気が致します」
「何か分かったの?」
 涼が振り向くと、撫子は全員の視線を受けて頷く。
「あなた達は『誰かに造られた』のですね?」
「それは人形の反乱とかじゃなくてか?」
 草間が今度こそ煙草に火をつける。ちらりとみなもが「床」に視線を走らせ、すぐに戻す。
「このぬいぐるみ達が今までいなくなった人達ってわけですか?」
「違うよー? それはほんとのぬいぐるみ。良く見てよ、それはねーぼく達が使いふるしちゃったぬいぐるみ」
 星羅という男の子が応える。年のころは10〜11歳程だろうか。
 歳に似合わぬほど狡猾な笑みを見せる。少女のほうもくすくす笑いながらその肩に頭を預けている。
「今までの方達はどこですか?」
 セレスティが問うと、「さぁ?」と更に笑みが零れた。
「いいのかしら?」
 生梨覇が見計らったようにちらりと笑みを見せる。一見にこやかだが背筋を凍らせる何かを感じさせた。
「撫子があなた達の源を見つけたようよ?」
「へー、なんだよそれー?」
 嘲笑った少年は、撫子の次の言葉で固まった。
「あなた達を『動かしている』のはあの魔法陣。あれを壊せばあなた達は消滅する。違いますか?」
「やっぱ壊しときゃよかったすね」
 涼が壁をこんこんと叩きながら言う。そこだけ音が違った。少女の顔が青冷める。
「まって! あれはおとうさんなの!」
「壊さないで!」
 一転した双子達の顔。一同の表情が訝しげなものに変わった。
「おとうさん?」
「どういう意味かしら?」
 草間と生梨覇の問いに、脅すような涼の壁を押す仕草と併せて双子達は追い詰められたように泣き出した。
「ぼく達、もともとは人形だったんだ。でも『神』っていうおとうさんが来て、ぼく達に魂をくれた。ちゃんと人間だよ」
「でも、おとうさんわたし達にあきた。いつか出ていっちゃった。でもわたし達にずっと歳とらないようにっておまじないかけてくれた。それがあの魔法陣」
 それが形見。双子達にとっての形見。
「けったくそわりー『おとうさん』だな」
 草間が煙草の煙と共にため息をつく。
「そんなものただの遊びではないですか」
「……なにが、神……」
 セレスティとみなもが声を低くして言う。
「今までの人達もちゃんといる、ただ壁にとじこめてあるだけ」
「かえすから、死なせないで」
 悲壮な双子の声は本物だった。
 草間と生梨覇、涼と撫子、セレスティとみなもは其々ちらりと視線を交わし、しばし逡巡した。
「―――それで」
 口火を切ったのはセレスティだった。
「あなた達は生き続けて同じ事を繰り返すんですか?」
 双子達は黙り込む。
「淋しいからとか孤独だからつって人の命弄ぶのはよくねえなあ」
 草間がからかうように言うと、少女のほうの涙がぽろりと落ちた。
「同じ事を繰り返したくないのならどうしたらいいのか考えるべきですわ」
 撫子がそっと言う。
「くりかえしたくない」
 少女がか細く言った。堰を切ったように涙が溢れては落ちる。ぬいぐるみ達にかかると、嘘のように綺麗に大理石の床が見えた。
 この館自体が幻覚を見せていたのか。それともやはり「生き物」なのか。
 元いた魔法陣の場所に景色は変わった。
「くりかえしたくない、でもさみしいとそうなる!」
「水南(みずな)。ぼくがなんとかしてあげる。なんとかしてあげるから」
 必死に妹をかばう少年。
 経験的に何か悲劇的な雰囲気を感じ取った草間が生梨覇にちらりと視線をやる。一応の気は許したらしい。
 生梨覇は霊刀を出す能力を持つ涼に視線をやった。
「涼。試しに魔法陣を傷だけつけてみてくれないかしら?」
「うずうずしてたよ」
 冷ややかに言ったのはわざとなのか心の底からなのか。涼は霊刀『正神丙霊刀・黄天』を出し、魔法陣を傷つけた。
 ちかりと一瞬光が放たれ、双子達に向かう。
 ただの光ではない、赤黒い明らかに負を含んだ光だった。
「撫子、頼むぜ!」
 草間が言わずともそうしていただろう。場の雰囲気を読んでいた一同の中で真っ先に動いたのは撫子だった。
 糸繰りで器用に、悲鳴を上げている双子達から護るように光を消し去る。
「……ね? 元の旅館に戻して、ちゃんとした商売、初めてみないですか?」
 みなもが尋ねると、双子達はまだ震えながらみなもを見上げる。
「あなた達は生きたい。形見の『おとうさん』も護りたい。それは感じます」
 と、セレスティ。
「俺達にとっちゃどこが形見なのか分からないけどね」
 という涼に苦笑した大人の視線を見せ、撫子が続ける。
「淋しいのならお友達を増やしましょう?」
「なんなら時々、あたし遊びにきますよ」
 優しい微笑を見せるみなも。
 双子達は「思いつかなかった」という表情をして見合わせ、少し力をこめて同時に頷いた。
「その意思の力。大切ね」
 生梨覇が内心「やはり子供ね」と思ったのも当然だろう。館はまた元の旅館に「戻り」、魔法陣も綺麗に「隠された」。
 次々に現れる「いなくなっていた」人間達。急に現実に放り出され、驚愕している。
「なんっかいきなり騒がしたくなったし決着もついたし帰るか」
 草間がやれやれと肩を竦め、煙草を携帯用灰皿にしまう。
「人は人を映す鏡。心を開けば自然と友達は出来ますわ」
 撫子がしめくくると、「あたしはもうお友達になる気充分ありますけどね」と、みなも。
「ありがとう!」
 子供の笑みに戻った双子が、すっかりはしゃぎまわって旅館の中を走り回る。すると、ぱらぱらと壁に美しい金箔の模様がついた。
「……へえ。夜でも光りそうだね」
「星座、ですか」
「宇宙ですわね」
「こんな力もあるんですねあの子達」
 涼とセレスティ、撫子とみなもが壁に出来た星達を見て言う。
 そして草間と生梨覇に促され、その旅館を後にした。



 後日、その旅館は益々繁栄し、今度こそ「楽しい」暮らしを双子達は送っていると一同にそれぞれ手紙が届いた。
 更に年月が経ち、双子達は何故か本当に成長し大人になり年老いて土に還っても、その旅館の中の「宇宙」は消えなかったと一同の誰かか子孫は知る事になる。






《完》



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
☆1831/御影・涼/男/19/大学生兼探偵助手☆
☆0328/天薙・撫子/女/18/大学生(巫女)☆
☆1252/海原・みなも/女/13/中学生☆
☆1883/セレスティ・カーニンガム/男/725/財閥総帥・占い師・水霊使い☆





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■         ライター通信          ■
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こんにちは、東瑠真黒逢(とうりゅう まくあ)です。
今回、ライターとしてこの物語を書かせていただきました。

今回は皆さん同じ内容のノベルになりましたが、物語としてはこのほうがいいような気がしたもので、ご了承下さると嬉しいです☆
如何でしたでしょうか?結局魔法陣の謎は解けませんでしたがそれはそのうちにまた……。
皆さん一人一人に少しでもご満足頂ければ極上に幸せです。

NPCとして尭樟・生梨覇を出してみましたが、こちらもまた詳しい設定はHPを作っていずれ公開する予定ですのでもう少しお待ち下さい。
今回も、わたしの永遠のテーマ、「愛」「命」「夢」を極力取り入れました。少しだけ「愛」が薄れてしまった気がしますが、自分で精一杯書いたので後悔はありません。

それでは、これからも変わらず魂だけは込めて頑張っていきたいと思いますので、よろしくお願い致します<(_ _)>