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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


神と魔術師と秋の空

すでに秋…色々とやりたいことが出来る秋。
怪奇現象を探すのも実は秋がうってつけなのだろうか…はさておいて…。

瀬名雫とダージエルは、簡単な怪奇現象の確証の為にネットカフェでサイトを調べていた。
嘘くさい情報を、神であるダージエルにその場で調べて貰うためだ。
「このサイト2つは全くの嘘だ」
「じゃあ、このサイトは?」
「かなり研究していることが分かる。これは調査対象にするのは良いかもな」
「あの願いを叶えるサイト…消えているね」
「管理者の都合で消したかもしれないな」
ダージエルは雫が検索していくサイトを物の数秒で分析評価していく。
さらに雫の管理するゴーストネットOFFの書き込みの真偽も手伝ってあげた。
雫もかなりの見識もあるため、嘘を見抜くことは出来るが、微妙な物は神に任せることにした。
調査対象となるものをメディアに落とす。
「一仕事完了〜♪おつかれ様ダージエルさん」
「ふむ、少し休むか」
2人は背伸びして、休憩に入る。
「私の息子が鍛えている弟子に惚れたと言うがほんとか?」
ダージエルはコーラを飲みながらいきなり雫に聞いた。
頬を赤らめる雫。
「だって、かっこよかったもん」
「はっはっは」
「ダージエルさんだって、病床の女の子を口説いたんじゃないの?」
「そうだな。たまに会いに行っているな。元気にしているよ」
あっさり認めて、ダージエルは微笑む。
少し悔しい雫。しかしのんびりと「超越者」と会話できるというのは良い気分だった。
色々、分からなかった事(勉強も)教えてくれるのだから。
秋の空にアキアカネが飛んでいる。


さてさて、時を同じくして魔術師シェラン・ギリアムは、オカルトサイトを見るためネットカフェに向かう。魔術師足るもの魔術研究は欠かせないのだ。しかし、カフェで魔術系アングラサイトを見るというのは…大丈夫なのだろうか?
―雫が使っているのだからたぶんOKなのだろう…。
「ホントにヤキイモが恋しくなる季節ですねぇ〜」
とシェランは、秋の空を眺めてゆっくりと歩く。帽子にアキアカネが留まるが気がついていない。
カフェに向かう途中、謎の生き物が懐いてきて一緒に遊んであげたり、自分の好みの少女(と少年)を口説いたりと、何しているのだと突っ込みたくなるほどゆっくり向かっていた。
彼にとって…この平和な日常も好きだが…、怪奇現象事件の渦に入ることを好んでいる。
かの有名な秘密結社に希代の魔術師と言われた実力を持つ者の性というのだろう。
魔術師の最終目標は、己の心の底を解放し、人を超越することなのだ。
しかし、彼には立ち向かわなければならないライバルが出来てしまった…この東京で…。

神、ダージエルである。

自分の恋人が、ダージエルにとても懐いており、まるで親子の関係である。それをシェランは快く思っていない…否、感謝こそすれ、それを正直表に出せないのだ。
おもちゃにされたりペット扱いされたりとさんざんいじめられているため感謝と憎悪が入り交じって複雑な気分である。よって…ダージエルとの関係は悪い。
見ようによっては猫のじゃれ合いにしかみえないのだが…。
ネットカフェにたどり着いたとき…ダージエルを見つけてしまった。
そして…シェランは居候先で恋人がとても楽しそうに彼と遊園地で遊んだといういきさつを延々聞かされたことを思い出し嫉妬に燃えた。
燃えた、燃えた…嫉妬が怒りに憎悪になる。しかし…彼の冷静な頭脳がある計算をした。

―恋人は彼を父親の様に思っている
―彼も自分の愛しい人を娘と思っている
―そうなると私にとって彼は義父さんだ!

なんと単純明快な三段論法!
シェランは、はしってカフェの中に入り…ダージエルに向かって…

「義父さん!!娘さんを私に下さい―っ!!」

と叫んだ。
ダージエルの近くにいた雫、そして他の客も一気に彼に集中する。
雫も含むカフェにいる人々はざわめき始めた。
笑うもの煽るもの、拍手をするものと…。
公衆の面前で、普通は言えないこの台詞「娘をください」
迷惑顧みずの行為だが、賛美できることだ。

しかし、ダージエルはざわめきと同時に
「だめだ。娘はやるものか。去れ、ロリコン魔術師」
一気に暖かい空気が氷点下…。
「な、何ですと―っ!神ぃ!あなたという人はぁ!」
怒りが再燃
「わ、私だってあの方と遊園地に行っていないのにぃ!」
と叫ぶ。
「其処だ。私たち親子の楽しいひとときに嫉妬しているだけの男にはまだやれない」
ダージエルは凍り付く様な声で言い返す
「ねぇ…ダージエルさん…非道いんじゃない?2人は愛し合っているみたいだしぃ…」
雫は2人の仲を取り持つ様な事を言う。一種の修羅場と化しているのが辛いのだ。
(こいつをからかうのは楽しいのだよ♪)
不意に神が小声で返してきた。
(どうするつもり?)
(彼が本気になるまでは、楽しませて貰う。本当は結ばれる運命だが…試練というヤツさ♪)
(そうなんだ…)
と小声で会話。
「そこ――――っ!!何内緒話しているんですかっ!?」
シェランは無視をされていたので又叫んだ。
「未だいたのか、ロリコン・シスコン・ショタコンの三重欲魔術師。ここ公共の場だ、去れ」
「な、何ですとー!!!しかも…(図星なので反論する言葉が見あたらず3秒沈黙)…そこまで私をコケにしなくても!」
「ならばペットだ。先にお帰りポチ」
「むきぃ!!!」
本当に反応が面白い。雫はダージエルが彼をからかう気持ちを徐々に分かり始めた。
「こうなれば力尽くで、私は愛を取り戻します!」
カフェのBGMがあの有名な拳法アニメのオープニング曲を流して、ハードロック世界。
野次馬がわいわい騒ぎ出す。
雫がこれはヤバいと思い始めたので、ダージエルの服を引っ張った。
その意図に気づくダージエルは頷く。
「シェラン…ここでは場所が悪い…お前の勝負受けて立とう」
と凍り付くまなざしで言った。
「良いでしょう」
魔術師も冷静さを取り戻し、3人はカフェの料金を払って…近くの公園に向かった。


公園…今は人気がない。
いるのは、神ダージエルと魔術師シェラン、そしてこの戦いを楽しそうに見ている雫だけだった。
「真剣な勝負ですよ…神」
「ふむ、そうだな…かかってこい」
まるで、西部劇の荒野を思い出させる雰囲気。
シェランはアサメイ(魔術用短刀)と、媒体を入れた壺を取り出し。
「私の最高奥義であなたを倒す!」
そう、彼の秘技は呪詛による攻撃なのだ。悪霊で相手の意識を永遠に闇の中に引きずり込む黒魔術。
壺から血の様な液体が出て、其れをアサメイに付け、魔法陣を描きこう唱えた。
「SAMAN!冥府の番人たるSAMAN!〜ダージエルを供物として捧げる!」
しかし、ダージエルは立ったまま、悪魔払いを発動し、悪霊達を打ち消した。
「流石神…」
「それだけ?分からないかな?私に勝とうなど、君が私を越えるなど永遠にないのだ…。因みに私はもう一つ魔法をかけている」
「なっ!?」
いきなり、シェランの身体が動かなくなり、意識がもうろうとする。
「そ…そんな2回も発動できるなんて…」
魔術師は膝を地に付ける。
「シェラン、君が愛する少女を其処までに欲しいということはよく分かった。しかしだな…魔術師」
しばし沈黙のあと…
「私があの娘に与えているのは無償の愛。親の愛と同じ。其れに嫉妬していてどうする?感謝する、しないは君の勝手だがね。しかし、あの少女の想いを忘れてはならない」
「想い…」
「其れを理解し…ふざ…」
シェランは神の言葉を最後まで聞けずに意識を失い倒れた。
「やっぱりダージエルさんって強いね。魔術や魔法をこんな形で見るのははじめてかも」
雫はダージエルに駆け寄り、そう言った。
実際、魔法を使ったと言ってもダージエルは何もしていない。立っていただけ…。
魔法と言うもの、魔術というものは案外見えないこそが良いのかもしれない。
それでもシェランの意識をなくしたのだ。解呪と気絶させただけだが。
力の差は歴然としていたのだ。
「ま、簡単な呪文は2発同時に発動できるからね。私の『世界』の神々は皆そうだ」
ダージエルはさも当たり前の様に答える。
しかし手には、油性マジックペンを持っていた。
「何するの?」
「一寸した罰ゲームさ」
ダージエルは子供の悪戯っぽい笑みを浮かべた。


起きあがるシェラン、周りで子供達が笑っている。
「…負けてしまった…はぁ」
周りにはダージエルも雫もいない。放っておかれて帰ったのだろう。
仕方ないので帰路につくが…周りの人に笑われている。
「何故なんでしょうね?」
首を傾げるシェラン
途中、ショーケースのガラスで自分の姿を確認して驚愕した…。
「か、神ぃ―!!」
彼の額に「肉」と書かれており、他にもカラフルな色合いで落書きされていたのだ。
「やはりあなたは、あなたは許せませ――ん!」
と、秋の夕焼けに彼の悲しい叫びが木霊した。
反応したのは、
「あほー」
と鳴いて飛ぶ、カラスたちだけだった。
すでに夕暮れ…シェランは顔を何とか隠しながらとぼとぼと家路に向かっていった。

End