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<東京怪談ノベル(シングル)>


究極の、カレー求めて○千里〜カレー閣下、インド紀行

 おう、俺だ!
 カレー閣下だ!
 …現在俺は“究極のカレー”様の手掛かりを求めてカレー王国・インドまで来ている!

「きゃああああああ、ついに、ついにここまで来たのねえええ!!」
「兄貴、ついに…」
「究極のカレーを作れる、と言う“漢”と同じ大地に立つ事が…!」

 感動する部下三名。
 無論、カレー閣下こと俺は言わずもがなだ。
 だが、気は抜けねえ。
 この目でしかと“究極のカレー”様を作れるっつぅ職人を確認しない限りは安心できねえぇっ!!!
 そしてぐぐっと握り拳。

 …てぇかな、実は来るなり空港でちょいとひと悶着起こして大使館に連行されちまったんだが…ったく誰がヤクの売人だ誰が…その大使館の連中がよ、あの女吸血鬼の紹介状見るなり掌返したみてぇに丁っ重に俺たちを扱いやがって、今度は何が何やら良くわからねえ内に――ほっぽリ出されやがったのよ。

 街中に。

 何の説明も無しで。
 あああ良く考えりゃその究極のカレー職人とやらの名前すら聞いてねえじゃねえかあああぁっ!!
 …くうっ…仕方ねえ…こうなったら気合だ…気合で捜し出してやろうじゃねえかぁっ!!!

 どごぉん、がらぴしゃーん

 …と、またカレー閣下の背景に雷撃が落ちる。
 いえ、インドなので――それらしくインドラのヴァジュラが振り下ろされたとでも言った方が…?

■■■

 さすがはカレー王国…カレーの聖地なだけあって日本よりもカレー屋の数が多い。
 と、感動しつつも…俺は取り敢えずそこらにあるカレー屋に片っ端から入って胃袋の許す限りカレーを食いまくっている。
 が。
 どれも女吸血鬼の紹介してくれた奴のカレーじゃあ無さそうだ…。
 カレー閣下は途方に暮れつつ、使っていない左手で件の紹介状をふと取り出す。
 …読めん。
 あの大使館の連中の態度からすると…本物は本物みてぇだが…。
 くしゃ、と乱暴に折り畳み、また懐に仕舞い込む。
「…行くぜ…野郎ども」
 声にも…どうにも力が入らねえ。
 究極のカレー職人とやらは…いったい何処に居やがるんだ…。
 カレー閣下は席を立つ。
 まるで舐めたように綺麗に食い尽くした皿を後に残し、哀愁を背負ったままカレー閣下は表に出た。

 と。
 突然目の前が暗くなりやがった。
「…んだゴラァ?」
 と、凄んでみたら(相手十中八、九日本語わかりません)――それは象、インド象だった。
 更にふと見上げれば、その上にはオッサンがひとり乗っていやがる。
 何者だ?
 額に三本の縦線を引いた、髪も髭も伸び放題の半裸のそのオッサンは…妙な顔で俺をまじまじと見下ろしていやがる。
「てめぇ…まさかアレか! てめぇが究極のカレー職人なのか!?」
 と、俺が言うなり(ですから相手は日本語は…)。
 オッサンはふい、と目を逸らした。
 そしてそのオッサンが乗るインド象は、オッサンのその意志が通じたかのように踵を返すと――どしんどしんと地響きを立てて一歩一歩、足を進めて行く。
 …案外早い。
 って、ああっ! 逃げるんじゃねえコンチキショウっ!
 真相を確かめなきゃならねえんだ野郎が究極のカレー職人か否かっ!!!
 …作らせてみなけりゃわからねえぇッ!!!
 そしてがらぴしゃーんといつもの如く落ちる雷撃を背景に、カレー閣下はオッサン+インド象を追って走り出す。
 待ってくれ兄貴いぃいいいきゃあああ待ってええ…等々と賑やかにそれを追い掛ける部下三名…周囲にしてみればあまりにも奇天烈な日本人旅行客。
 いつでも何処でもカレー閣下はカレー閣下であるらしい。
 変わらないのは良い事です。
 …たぶん。

■■■

 さてさて。
 先程から長い事、どどどどど、と何者か――オッサンとインド象――を追って走る奇天烈な日本人旅行客四人組がむやみやたらと人目を引いていた。
 …カレー閣下御一行様である。

 ――おおここもカレー屋じゃねえか!
 思っては急停止し店に駆け込むカレー閣下――以下三名。
 そして片っ端からメニューを指差し注文。
 訝しげな顔をする給仕を余所に、当然の如く堂々と座るカレー閣下以下三名。
 そして暫し後。
 訝しげな顔をしていた給仕の前で、作法に則り(わかっていたらしい)右手のみ使用の手掴みでナンやらライスにカレーを付けて次々と口に放り込む。
 ぱくりと一度食ったら神速で、次。
 …かなり、凄い勢いで。
「これ辛いわああああ!」
「うおっ、これは酸っぱいっすよ兄貴ィ、ヨーグルトベース?」
「豆ですぜこれは☆ 俺好きなんすよ〜」
「確り味わって食え。折角のカレーだ…だがな…」
 …やはりこいつも究極のカレーじゃあ、なさそうだ。
「…と、こんな事している場合じゃねえ、究極のカレー職人に逃げられちまう! 行くぜ野郎ども! グズグズすんなィ!」
 ドスの利いた気合いを一発、カレー閣下はがたんと席を立つ。
「へい了解しやした兄貴ィ!」
 がたんがたんがたんと部下三名も同様に。
 そして。
 そのまま、怪しい四人組はだーっと店の外へ掛けて行き…。

 ――彼らの背後からは日本語では無い怒号が響き渡った。
 何故なら今、1ルピーもお金払ってません。

 …が、カレー閣下以下三名は気にしない。
「ちょいと寄り道しちまったが…追っ掛けるぜ野郎どもォっ!!!」
 おー、と同意し、再びカレー閣下以下三名はどどどどど、と走り出す。
 が。
 その時、肝心のオッサン+インド象の姿はかなり小さくなっていた…。

■■■

「おぅ、ここもカレー屋か…ちょいと寄ってくか野郎ども」
 縦横無尽に走りながら(そろそろ件のオッサン+インド象を見失ったらしい)ふと立ち止まり、本日何度目になるかもうわからないカレー屋の入り口をくぐる――くぐろうとする。
 と。
 正にその時。
 ぽんぽん、とカレー閣下の肩を無遠慮に叩く人がいた。
「…んだゴラァ?」
 振り向くと。
『〜、〜〜〜、〜〜〜〜?』
『〜〜。〜〜〜!』
 警官らしいやたら大柄な男が複数そこに。
 やっぱり日本語ではない、カレー閣下たちには理解できない言葉で何やら言っている。
 そして埒が開かないと見るや…問答無用で、カレー閣下以下三名の腕を掴んでずるずるずると何処ぞへ連行。
「なっ、何しやがるんでぃっ、離しやがれコンチキショウっ! 離せゴラァっ!? ええ!?」
「あっ、兄貴ィイイイイッ!!!」
「うぉぉおおおお何処へ連れてかれるんすかぁああああっ!?」
「あぁあんっ、いやん、どうしましょ茂吉さぁんっ!」
「どさくさに紛れて名前呼ぶんじゃねえゴラァっ!!!」
 と、怒鳴る間にも警官に連れられずるずるずる。
 ………………そんなこんなで、フェードアウト。

 さあさあ、今後どうなるカレー閣下!?
 究極のカレー様に巡り会えるのは果たしていつの日か…?
 待て、次号!(あるのか?)

 …って言うか食い逃げはまずいでしょう閣下。
 カレーを愛するものならば…きちんとその手間と材料の対価を!

【了】