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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


編集部の惨劇殺人事件(なお、タイトルと内容は以下略)

 閉められたブラインドをすり抜けた朝の光が、キラキラと輝いていた。そんな光の帯の中で。
「一枚‥‥二枚‥‥三枚‥‥ああ、七枚足りない」

「何かあったの?」
 出社編集長・碇麗香は手近にいた中堅編集部員を捕まえた。麗香が指さす先には、何度も何度も(中略)何度も白紙のプリント用紙を数えている新入りのアルバイトがいる。
「壊れただけですよ」
「壊れた? 泊めるって言ってたけど無茶なことをさせたんじゃ」
「全然‥‥ただ、明け方の三時頃だったか、トイレに行ったあいつが廊下で悲鳴を上げただけ」
 編集部員は肩をすくめた。
「そう言えば、しばらく『筋肉が‥‥』ってうめいてたかな。でも‥‥」
 そこで口元に手を当て声を潜める。
「僕が見たときには靄に霞む裸の女性が‥‥で、ここだけの話。今、写真の現像待ちで」
「ほうほう。なら、俺にもくれ」
 と、にやける編集部員の後ろから男。その男―五色―を見た麗香は思わず辺りを見回した。
「奴は『九万秒ほど寝る』って言うてたぞ」
「‥‥じゃあ、何しに来たのよ」
「朝散歩。ふと咽喉渇く。『おお、こんな所に!』以下略」
「帰れ」
 朝一だと言うのに、と麗香は大きくため息を吐いた。

「だが、麗香は考えていた。『これはネタになるだろうか』と」
「そしてそれが編集部の惨劇の始まりだった」
「そこ、勝手に話を作らない!」

●黄昏に踊るもの。
「‥‥失敗した」
 麗香はため息をついた。

「これ、俺の〜っ」 一升瓶を抱える加賀沙紅良。
「あ〜っ! ずるいよ!」 抗議の声を上げる榊船亜真知。
「ねねね、今度いつ暇?」 簀巻きながらも編集部員に粉をかける相生葵。
「そこは原稿で‥‥」 プリント用紙を退避させる雨柳凪砂。
 あと、仕事以上に嬉々としている自分の部下たち。

 なぜか押さえさせられた会議室。なぜか長机の上に並ぶビン、ボトル、缶、袋‥‥。
「お? 編集長様も飲んでくかね?」
「あんたが元凶かあああああっ!」 

●陽光をまとうもの。
「さて、みなさん」
 並ぶ一同に背を向け、若い編集部員が語り始めた。
「今回の事件は非常に単純構造でした。いや、単純であるがゆえに‥‥」

「‥‥阿呆はさておき」
 数少ない喫煙場所を有効利用しつつ五色。
「つうことで押し付けられましたな」
「ったく、面倒臭ぇ」
 頭の後ろで指を組む沙紅良がぼやいた。
「でもさあ、ちょっと面白そうって言ってたよね?」
「そりゃあ‥‥まあな。面白ぇもんが見れるかも、とは言ったけどよ」
 片目を瞑る亜真知に口篭もる。
「まあ、仕方が無いって。それに麗香さんの頼みだしねえ」
「麗香のお願い聞いてくれるの?」
「‥‥殴っていいかな?」
 中途半端な声真似ですかさず胸の前で両手を組む五色を指差し、にこやかな葵が他の面々に尋ねる。
 一同に共通するのは、『たまたま遊びに来ていた』という一項目。もっとも、それだけで巻き込まれる理由には充分なのかもしれないが。
「写真、出来たそうですよ」
 小走りにやって来た凪砂が、手にしていた封筒を休憩スペースのテーブルに置いた。
「よこせっちゅうとろうが!」 「うるせえ! 先に見せやがれ!」 「そうだよ。こういうのはレディファースト!」
 と、すかさず封筒の争奪戦が始まる。状況についていけず、呆然とする凪砂の袖が引かれる。引いているのは葵。
「あっちはあっちで忙しそうだし。こっちはこっちで‥‥」
 が、言い終わらないうち、沙紅良に亜真知に蹴り倒された。
「簀巻き簀巻き〜っ♪」 「額になんか書いてやる!」
 たちまちのうちにみの虫が一つ。
「う〜む、類友サドタッグ恐るべし」
 煙草をもみ消すと、席を移動し封筒から写真を出す。
「‥‥光ってますね」
 横から凪砂も写真を見た。薄ぼんやりと明るい靄に包まれた女性の後姿。
「睡魔からの幻覚かとも思いましたが」
「さよか。しっかしフラッシュがいらんとは夜間撮影向きな‥‥にしても」
「うん。背中だけなのが惜しいね」
 凪砂の上から覗き込んでいるみの虫な葵が言葉をつないだ。
「い、いつの間に?」
 さっきまで葵が転がっていた場所を見る。何を書くかで討論する亜真知と沙紅良。そして、推理プロセスを語りつづけるもう一匹のみの虫。
「しかし、これだけ美しい後姿ということは」
「ちょいと期待しても? チャレンジャーやなあ‥‥本気で?」
「もちろん」
「あ、そ。じゃ、頑張れ」
 さわやかに笑う葵に五色が親指を立てた。
「‥‥男の人って‥‥」
 背中にある大きな刀傷。それがまったく触れられないことに、凪砂は額を押さえた。

●情報収集募集中(編集部)
 ざわざわとざわめく編集部。その光景は普段とほとんど変わることはない。
「どうするんだい?」
 葵は亜真知に聞いた。
「とりあえず状況を知るのが先決だからね」
 にこりと笑う。
「件のバイトさんの記憶を覗こうかなって」
「なるほどねえ‥‥え?」
「『壊れてる』らしいけど、ヒントぐらいには‥‥どうしたの?」
「い、いや。なんでもないよ、うん」
 ははは、と引きつったように笑う葵。
「ならいいけど」

 目的の相手はすぐに見つかった。が、その女の子は普通に仕事している。
「ちっ、治ってるし」 「何を期待してたんだ、キミは」
 舌打ちをする亜真知を横目に、葵はコピーをとっている女の子に声をかけた。
「今朝キミが見たものを教えてくれないか?」
「今朝、ですか? 今朝‥‥け‥‥けけけけけ!」
 焦点のあってない目でけたたましく笑い出す女の子。髪が乱れるのも気にせず、ぶんかぶんかと頭を振り始める。
「こ〜わしたこ〜わした♪ せ〜んせ〜にいうたろ♪」
「僕のせいなのか? って、そう言う問題じゃない」
 葵は慌てて女の子を止めようとした。しかし、あっけなく弾き飛ばされる。
「色男、金と力は?」 「ないさ。ないけど」
 短距離のスタートのように姿勢を低くする。足に力を貯める。
「女の子を放っておくわけにはいかない」
 飛び出す。同時に金属音。
「やかましい! 仮眠ぐらいとらせやがれ!」
 あっけにとられる葵と亜真知の前で。クッキーの蓋にはたかれた女の子が崩れた。

 なお、彼女の記憶から得られたのは
『てらてら光る』と『ぷちぷちという音』というものだった。
「う〜ん。これはやっぱりお泊りかな?」
「ううう、赤くてピンクでぷちぷちがうにょうにょ〜っ」
「あ、壊れた」

●月光にうたうもの。
 謎や不思議。その解明は人の営みが続く限り絶える事のない戦いだ。そして、その日本での戦線の一翼を担っているような気がしないでもないアトラス編集部。その精鋭たちは‥‥すっかり潰れていた。
「だから、大変だって言ってるれしょうが〜。聞いてるか〜っ!」
「‥‥色々たまとんやなあ」
 葵を絞めるように抱え込み何十度目かの「聞いてるか」を始めた麗香を眺めつつ、紙コップに手近な缶を空けた。

 時刻はまだ一時を回った辺り。だが、その漁獲量は尋常ではなかった。すでに仮眠室は閉鎖され、会場のあちこちに転がされている始末。
「おら〜、ざまあねえな〜」
 そんな中でも元気なのは、飲み比べ状態な沙紅良。周りに転がるビンだけで、消費量の三分の一に匹敵するだろうか。
「ダメだよ〜、堅気さんに迷惑かけちゃあ〜。はい、お代わりね〜」
 そう言うとニコニコ笑う亜真知だが、沙紅良に負けないペースで空きビンを生産している。もっともこちらは飲むよりも飲ませる方か。
「にしても、あいつら本来の目的を忘れとりゃせんか?」
「‥‥お酒を持ち込んだ人が何を今さら」
 首を傾げる五色に、真っ赤な顔の凪砂のツッコミ。
「そりゃあ‥‥ま、楽しいかなあと」
「楽しい? そりゃ楽しいでしょうとも! お仕事、関係無しに飲んだくれて、結局なんにもなんあくて、関係無しで」
「うむ、分かる分かるぞ! ってことで、飲め」
「飲め飲め〜っ♪」
 だぱ〜っと沙紅良が凪砂のコップに注ぎ、亜真知が煽る。どうやら周辺の獲物は狩り終わったため、移動してきたらしい。
 ためらいなく凪砂がそれを飲み干す。ぱたりとつっぷした。
「む‥‥俺まだ飲んでねえぞ」
「なら、次いってみよ〜♪」
 すぐに次の獲物を見つけたようだ。麗香の方へふらふらと。
「俺は無視かい‥‥ま、ええけど」
 苦笑しつつ、紙コップをあおる。
「‥‥試作品は成功やったみたいやな」
 新たな戦いはしばらく続くようだ。放り出された葵を眺めつつ、苦笑。

●うしとらに潜むもの。
 ひたひたと足音が響く。黒く黒い空。非常灯の灯りが点在する闇。
「うむうむ。雰囲気は充分」
 最後尾で五色がへらりと笑う。
「ってことで、テンション上げて欲しいんやけどなあ」
「‥‥あがる訳ないでしょ」
 振り返り、ぼそぼそと麗香。
「いきなり二日酔い状態なんて‥‥何を持ち込んだのよ」
 こめかみを押さていえるのは頭痛のせいらしい。
「歳やな」 「‥‥うるさい」

 午前三時。白王社の廊下。昨日とほぼ同じ場所ほぼ同じ時間。
「今日も出るでしょうか?」
「出なかったら出ないで、明日もやればいいだけだし」
 少し青い顔の凪砂に亜真知があっさりと。
「じゃあ、明日は僕が仕入れてくるよ」
 亜真知に葵が同意し、凪砂の手を取る。
「‥‥勘弁してください」
「そうかい? だったら、今度はお店でゆっくりと‥‥」
「ゆっくり? 飲むならトコトンだろ?」
「いや、キミは‥‥キミたちはそのまた今度という事で」
 ははは、と葵の乾いた笑い。と。
「ならば、わらわが参加してやろう」
 ぴちゃり。水がはぜる音。
「当たり、ですか?」 「みたいだね‥‥残念」
 鉄のような臭いに表情を引き締める凪砂の問いに、心底残念そうな亜真知が頷いた。
「そう悲観するものではない」
 ぼんやりと何かが光った。ぼんやりと何かが浮かび上がった。
 輪郭は人。しかし。
「‥‥じ、人体解剖」 「失敬な」
 光をまとうそれが、麗香のコメントに対し白い棒のような腕の部分を振るう。その棒に赤がうねりピンクでびっしりと覆われていく。
「赤くてピンクでぷちぷちがうにょうにょ〜っ」 「やかましい!」
 うつろな目になる葵に、沙紅良の下段蹴り。
「へっ、ようやく俺好みの展開になってきたぜ!」
「‥‥暴れっぱなしだったと思うけどなあ」
 げしっ。呟いた亜真知に裏拳。
「ほほほ、そう焦るでないわ」
 悠然と微笑むその顔に肌色が伸び、唇に紅がさす。
「そなたのような童でもちゃんと相手をしてやるでな」
「童だと?」 「子供ってことです」
 ちょいちょいと服の裾を引っ張ってぼそぼそと凪砂。
「‥‥分かってらあ。おい、化け物! これを見てもまだガキと言うか!」
 廊下に風が吹き荒れる。その風に目を閉じた人々が改めて見たものは。
「東風王、配下が風鬼! 華眞様の晴れ姿、冥土の土産にとくと見よ!」
「‥‥お、鬼?」 「はいはい、麗香ちゃんは寝とこうね」
 五色がすかさず首筋に手刀。
「ほうほう、風の鬼とはますます面白いことよの。だが、わらわとて蜘蛛の血族。そうやすやすと引き下がるとは‥‥」
「まあまあ、そう言わず。第一、見目麗しいお二方が野蛮に争うこともないでしょう」
 と、にらみ合う二人の間にいつの間にか亜真知が立っていた。
「いかがですか? ここは一つ、その美しさを問うてみては? まさか‥‥自信がないとはおっしゃりますまい」
 くすり。
「よかろう。とは言え、わらわもこやつも女」
「だな。と、なると問う相手は」
 ほぼ同時に葵と五色とに目が動く。
「え? えーっと‥‥僕のために争わないで欲しいからドロー」
「このメンバーやと性格面も考えて凪砂ちゃんってことで」
 ‥‥以下、惨劇。

●あかつきに眠るもの。
 閉められたブラインドをすり抜けた朝の光が、キラキラと輝いていた。そんな光の帯の中で。
「あ‥‥頭、痛」
 麗香は頭を振って上体を起こした。辺りにはぶっ倒れて眠る幾多のしかばね。
「‥‥あら?」
 昨夜の宴会。そこまでは覚えている。だが、途中からの記憶が一切飛んでいた。
「ま‥‥問題はないようだし別にいいかしら、ね」
 動くもののない夢の跡で。

 なお。この数日間、アトラス編集部での仕事効率は著しく低下したが、業務にはそれほど影響が出なかったらしい。回数の増えた徹夜組曰く、『蜘蛛が手伝ってくれた』そうだが‥‥。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/ PC名 / 年齢 / 性別 / 職業】
1072 相生・葵 そうじょう・あおい  22  男 ホスト
1593 榊船・亜真知 さかきぶね・あまち 999 女 超高位次元生命体:アマチ・・・神さま!?
1847 雨柳・凪砂 うりゅう・なぎさ  24  女 好事家
1982 加賀・沙紅良 かが・さくら   10  女 小学生

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■         ライター通信          ■
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どうも、平林です。このたびは参加いただきありがとうございました。
関西だからか『タイガース対ホークス』なネタが連日新聞のどこかにある今日この頃。個人的にはどっちが勝っても某球場前の某スーパーが凄そうだな、と。不謹慎な話ですが。
さて。
やっぱり勢いで組んだOPでした。勢いで組んだだけに「なんであんなこと書いたかなあ」とライターよりを見つつぼやいてみたり‥‥毎度のことなんですけどね。

では、ここいらで。いずれいずこかの空の下、再びお会いできれば幸いです。