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<東京怪談・PCゲームノベル>


秋の町内大運動会

秋空高く晴れ渡り、万国旗が緩やかにはためく日曜日。
今まさに秋の大運動会が開催されようとしている……が、その前に町内会長作の阿弥陀籤で紅白の振り分けが行われる。
町内の住人とその友人知人、はたまた通りすがりの人までも、広場の前を通ったが運の尽きとばかりに捉えられ、引き込まれ、無理矢理割り振りされてしまう。
「運動会?何だそりゃ。よく分かんねぇけど、そこに行きゃ何か貰えるってマジ?行く、行く〜♪」
と、数日前ポスターの前で騒いだ郡司、単に楽しそうだからと参加した海原みあお、常連客にポスターを渡され、断るに断れず「まあ、最近体力落ちてるし……気晴らしくらいにはなるかな」と仕方なく参加した佐和トオル、興味を引かれて参加した柚品弧月が紅組。
途中の酒屋で買ったビールを片手に見物にやって来た真名神慶悟、偶々通りかかったところを町内会長に引きずり込まれた時宮蒼、参加賞をリサイクルショップに売り払うつもりの香坂蓮、「運動会ですか。良いですよ参加しますっ、同じチームになれたら良いですね」恵美に誘われてにこやかにてるてる坊主を一緒に飾った奉丈遮那、「運動会?何だそりゃ?確か学校でも聞いた話だな。何々……パン食い放題に賞品山盛り?俺も出る♪」……と、参加してくれるのは有り難いのだが何か少し勘違いしている様子の加賀沙紅良が白組だ。
両組に上手い具合に動き盛りの若人が振り分けられて、喜びつつ火花を散らす紅組大将町内会長夫人と白組大将町内会長。
裏方の仕事を任されているあやかし荘の面々が配ったハチマキを、それぞれが締めたところで競技が始まった。


*****

「ところで参加賞って、何がもらえるんだ?一種目一品ではなく、運動会に参加したら何かもらえる、ということなんだろうか……」
プログラム片手に真剣な面持ちの蓮。その商品の程度によって、参加する競技の数が決まるのだが……。
「あ。僕見ましたよ、あやかし荘で……、恵美さんが準備していましたから」
答えるのは遮那。望み通り恵美と同じ白組になれて大層御機嫌、そして張り切っている。
「町内会の運動会の賞品と言ったら……、洗剤やタオルあたりですか?」
もしや参加した経験があるのだろうか、蒼が口を開き、隣の沙紅良に話を振った。
が、振られた沙紅良は全くこちらを見ていない。
「なーんか見た奴がいるなぁ。蓬莱(鬼頭郡司の本名)久々じゃん。お前縮んだんじゃねぇの?」
と、紅組の郡司に向かって手を振る。どうやら知り合いらしい……が、郡司よりも小さい姿の沙紅良が言うと何だか妙な科白だ。
「相変わらず馬鹿やってんだろ。ってかなに褌一丁になってんだよ」
見ると確かに、郡司はさっきまで着ていた筈の黒いジャージを脱ぎ捨てて虎皮の褌一丁になっている。
「……やる気満々、と言う事か……?」
早速ビールを開けてあおっている慶悟。
流石若い者はやる事が違うな……、と感心し対抗心を燃やした訳ではないがスーツのジャケットを脱ぐ。
「そうか、お前敵なのか……、よぉし、お前にだけは負けねぇぜ!」
こちらはTシャツ・短パン姿の沙紅良。
ビシッと指差して、宣戦布告。


*****

さて、参加賞目当てだったりお祭り騒ぎに便乗したいだけだったり成り行きだったり……と様々な参加者を迎えての運動会は例年にない盛況振りだ。商店街の酒屋はビールとジュースを惜しみなく振る舞い、肉屋はその場で焼いた焼き鳥を提供し、八百屋は豚汁を炊きだし、婦人会がおにぎりを配布する。
運動会なんだかただ集まって騒いでいるだけなのだか、段々と趣旨が妖しくなりつつあるのだが、それでもプログラムは順調に進み、昼を前にして紅組30点、白組28点と言う接戦。
「みあおはどくそうとっぱがたなの」
と言うみあおはその言葉の通り、これまでに子供向けの短距離走で得点を稼いでいる。そして勿論、家計に貢献すべく賞品も受け取っている。因みに、食器用洗剤1本だ。
「それじゃあ、ちょっとこの競技は向かないんじゃないかな?」
と、やや離れたところで言うのは、蒼。
彼もまた、あれやこれやと引きずり込まれた競技で白組に貢献している。
「うん、でも他に出る人がいないんだって。でも、尻圧測定って何するの?」
「簡単だよ。向こうにある椅子の上の風船を、上に座って割れば良いんだ。早く終わったチームが勝ち」
「そっか、風船を割れば良いんだね」
取り敢えずやる事は分かった。
分かったが……、いざ競技を始めるとみあおは確かに、自分には向かない競技だったと知る。
チームでの競技が悉く向いていない訳ではない。
問題は、みあおの体型にある。
と言うのも、みあおでは小く軽すぎてお尻で風船を割ることが出来ないのだ。
白組は次々と風船を割り、順番の回ってきた蒼も難なく割って見せたのだが……。
ふわんふわんと風船に持ち上げられてしまうみあお。
その奮闘振りがあまりに可愛らしく、紅白の見物人から応援が飛び交う。
右に左にころんころんと転げつつ、みあおが漸く風船を割った時には、既に白組は競技を終えていた。
「体が小さいから大変だったね。でもよく頑張ったよ」
と、それぞれの座席に戻りながら、蒼。
その手には賞品の洗濯洗剤。
「うん……」
頷くみあおの手には、参加賞のあやかし温泉無料ご招待券(あやかし荘内)が1枚、握られていた。


*****

蒼が自分の席に腰を下ろした時、同じく白組である三下忠雄が走ってきた。
「次のスプーンレース、慶悟さん、お願いします〜っ」
見物だけのつもりでやって来た慶悟。
しかしこの町内に於いてそんな甘い考えが通用する筈がなく、慶悟は最初の方で突然飲酒レースなるものに引きずり出されていた。
そんなものに参加したら折角開けたビールが温まってしまうではないか。
と思うのだが、何故そこまで?と思うほど拝み倒されて、仕方なく参加する。
「……酒が入っているから倒れるかもしれんぞ」
などと言いつつ日本酒とビールの入った胃を抱え、ガソリン満タンの車状態で軽やかな足取りの慶悟。
入場してみると、白組には郡司の姿が。
褌一丁で張り切っている郡司だが、これが初競技である。
「オッケー!俺に任せとけって!」
ガッツポーズを取りつつ軽く褌の具合を直し……、先の選手への応援も忘れない。
しかしスプーンレースと言うものは、脚力や素早さだけでは勝てない競技である。
それを知ってか知らずか、早くも自分に回ってきたスプーンとピンポン玉を受け取る郡司。
威勢良く走り出した……、次の瞬間にスプーンから転げ落ちるピンポン玉。
「あ、クソッ」
悪態を吐いて、慌てて拾い上げる。しかし動作が素早すぎてピンポン玉が安定するまでのバランスを保つことが出来ない。
右へ左へ転げるピンポン玉を追い掛ける郡司。
慶悟は漸く回ってきたスプーンとピンポン玉を受け取ると、
「其はこれに留まりて、動く事適わず。我押並べてこれを命ず……」
と禁呪を施す。が、これをするとスプーンを逆さにしてもピンポン玉は落ちない。
流石にそれではばれそうだ。
「反則だな、これは」
半ば遊びであっても勝負は神聖なもの。思い直し、禁呪を解く。
腕まくりした手にスプーンを持って、慎重に足を運ぶ慶悟。
郡司はと言うと、ゴール手前で再びピンポン玉を落として右往左往している。
「ウガーッ!!」
苛々とした呻き声を発する郡司を横目に見つつ、慶悟は難なくゴール。
少し遅れて、郡司もゴール。
妙に気疲れした様子で、郡司は三下から参加賞を受け取る。
「あ、参加賞!?肉?肉??牛とか馬とか虎!!」
「え、違います、あやかし温泉無料招待券ですよ?」
「違うのかよ〜っ!!肉ぅぅぅぅ〜っ!!」
「はぁ……」
騒ぎ立てる郡司と困り果てた三下を残し、慶悟は景品のビールを持って座席に戻った。


*****

紅白の4人がスタートラインに立っている。
目指すはコース半ばに設置されたパン。
竿で吊られた4つのパンに、それぞれ視線を注いでいる。
パン食い競争のパンと言えばアンパンが王道だろうか……、クリームパンを使う場合もあるのだろうか、或いはコッペパンやカレーパンのところもあるのだろうか……と考えているのは第一コースの弧月。
早く合図が鳴らないかと、足踏みする勢いでパンに熱い視線を注いでいるのは、第四コースの沙紅良。
沙紅良は念願の『パン食い放題競争』に参加出来て食べる気満々、勝つ気満々だ。
しかし未だ誰も彼女の間違いを訂正していない。
「位置についてぇ〜!」
天王寺綾が片手で耳を塞いでピストルを空に向ける。
パァン!
その音と共に、4人の内の誰よりも早く駆け出したのは沙紅良。
10歳の子供とは思えぬ脚力で、3人の選手と観客の度肝を抜く。
当然、パンに一番に辿り着いたのも沙紅良だ。
老若男女入り乱れてのレースの為、背の低い者向けに踏み台も様してあったのだが……、沙紅良はそんなもの邪魔だと言わんばかりに蹴り出して、素早くパンに飛びついた。
そのジャンプ力にどよめきが起こる。
沙紅良の勝利間違いなし。白組に加点間違いなし……と、白組のメンバーが沙紅良を褒め称えようとしたその時。
沙紅良はぴょんぴょん飛び跳ねて残り3つのパンにも食い付いてしまった。
「……沙紅良さん、何をしているんですか……」
漸く追いついて、虚しくパンのない竿を見上げる弧月。
「何って、『パン食い放題競争』だろ?」
右手に二つ、左手に一つ、口に一つくわえて、にっこりと笑う沙紅良。
「『パン食い放題』ではなく、『パン食い』ですよ」
「え?」
「一つしか食べてはいけません」
「ええっ!?『パン食い放題』じゃないの!?一個しかダメなのっ!?えーっ!?」
不平タラタラの沙紅良に呆れたものか笑ったものか、途方に暮れる弧月。
そこで漸く審判がやって来て、仕切り直しとなったのだが……、勝敗はもう言うまでもない。
あやかし温泉無料ご招待券などと言う有り難くない参加賞を受け取って、弧月は溜息混じりに座席に戻る。
「元気出せってー。アイツに勝とうなんざ100万年早いんだからさー」
郡司の励ましが、少し寂しい。


*****

「恵美さん、頑張りましょうね!」
と、足を結んだ遮那がにこりと恵美を見る。
「ええ」
と頷く恵美。この2人、並ぶとどちらも少女の様に見える。
遮那としては、この機会に恵美に存分に良いところを見て貰いたいのだが、恵美の方はと言うと、純粋に競技の事しか頭にない。
二人三脚は二組でコースを半周するのだが……、対戦する紅組は天王寺綾と町内会長夫人のコンビ。
綾こそ、そこそこの運動能力を持ち合わせているが、町内会長夫人は……お世辞にも俊敏とは言えない。
「絶対勝ちましょう!結んでいない方の足から……、良いですか?恵美さん。いちに、いちに……」
さり気なくリードしつつ恵美の肩に手を回す遮那。
スタートのピストルが鳴ると同時に、2人は駆け出す事が出来た。
「いちに、いちに、いちに……」
途中、足が絡まりそうになると互いに顔を見合わせてテンポを確認する。
「左、右、左、右……」
恵美に負担を掛けないよう自分の足に意識を集中させながら、遮那はにこりと笑った。
「恵美さん、もう少しですよ」
「はい。左、右、左、右……」
互いの肩に回した腕と、結んだ足の熱。
そして、観客の応援を感じる。
綾と町内会長夫人がどのあたりまで迫って来ているか、振り返って見たい気持を押さえつつ、遮那と恵美は順調にコースを進んだ。
そして、順調な滑り出しは順調なゴールへ続く。
「やったぁ!」
思わず歓声を上げながら、ゴール。
「綾さん達は……?」
足を結んだまま振り返ってみると、まだコース半ばで転んでいる2人の姿。
「圧勝ですね!」
僅かに息を切らせて言う遮那。
「本当!遮那さんのお陰!」
喜びで一杯の恵美はギュッと遮那を抱きしめる。
「うわぁ……」
驚きつつ、ほんの少しばかり胸が躍った事は言うまでもない。
ぽわんと熱を持ったような手で賞品の乾物セットを受け取り、遮那は座席に戻って行った。


*****

熱気と笑いに満ちた運動会も午前の部全てが終わった。
それぞれ、思い思いの場所で持参したお弁当や貰ったおにぎりや焼き鳥、豚汁に舌鼓を打っている。
中には強かに酒を飲んで、裸踊りを披露する輩がいたりもするのだが……、それでも、青空の下での楽しいランチタイム。
「はい、蒼さんもどうぞ、沢山召し上がってくださいね」
通りすがりを突然強制連行された蒼が弁当を持っている筈がない。
「あ、どうも。いただきます」
恵美に勧められた卵焼きをつまみ上げ、口に運ぶ。
続けて勧められた遮那と蓮も箸を伸ばした。
「運動した後のごはんって、美味しいですね」
ほっこりと焼き上がった卵焼きを頬張って、幸せそうな遮那。
「ああ、たまには良いな。こういうのも」
賞品こそリサイクルショップに売り払えそうにないが、取り敢えずタダ飯が食える。
「うん、良い!良いなぁ!運動会ってサイコー!」
蓮の隣で両手に持ったおにぎりを頬張る沙紅良。
さっき食べ損ねたパンの分も腹に収めようと言う魂胆なのか、勧められる物は全て断る事なく口に運んでいる。
「うん……」
短い声と共に、ポスッとレジャーシートの上に空き缶を置く慶悟。
「あれ?どうかしたんですか?」
その、やや視点の定まっていない様子に蒼が首を傾げる。
「……寝る……」
言って、慶悟はそのままバタリと後ろに倒れてしまった。
「え」
弾みで転がるビールの空き缶が数本……。
「け、慶悟さん……?」
遮那が覗き込み、耳元で手を打ってみる。
が。反応はない。
「うーん……結構飲んでたみたいだからな……」
実は結構どころか相当飲んでいる。
半ば感心する蓮の目の前で、慶悟は心地よさそうな寝息を立て始めた。
「な、そいつもう喰わねぇの?そんじゃ俺が喰ってやるよ」
素早く慶悟の残り物に手を伸ばす沙紅良。
クスクスと笑いながら、恵美は脱ぎ捨てられていたジャケットを布団代わりにと慶悟に掛けた。


*****

さて、午後の部最初の競技は仮装競走だ。
「何で俺が……」
と、ブツブツ言いながらコースに並ぶ蓮の姿。
実のところ、蓮としては楽にそうな玉入れあたりに参加したかったのだが、腹ごなしに入場門あたりを歩いていたところで町内会長に見付かり、無理矢理参加さされてしまった。どうもここの町内会長夫婦は強引過ぎるようだ。
ルールは極簡単で、まずコース4分の1のところにある札を拾う。そこに書かれたのと同じ数字のグラウンドに設置された簡易更衣室で、中に用意されている衣装に着替える。そして、後はゴールへ走るだけ。
簡単と言えば簡単なのだが……。
「仮装」と言う当たりに何やらイヤな予感がする。
しかし、既に競技は始まり蓮はスタートラインに立っている。
「仕方ないな……」
諦めたところで、合図。
他の3人に負けない早さで走り出し、いち早く札に辿り着いた。
拾い上げた札に書かれた番号は3。
蓮は3と番号を掲げた簡易更衣室に走り込む。
そして。
「……な、なんで俺が……」
俯き、唇を噛み締めて出てきた蓮の姿は。
「何で俺がセーラー服なんか……」
そう。セーラー服。
スカートは膝上10cm、胸元のリボンはピンク。
しかし、蓮はこのセーラー服に満足しておいた方が良いのだろう。
何故なら。
「あ、あんなのじゃなくて良かった……」
1番バニーガール、2番トラ縞ハイレグビキニ、4番フリルのドレスだったのだ。
次々と更衣室から出て来て観衆の爆笑を受ける男達。
マッチョのバニーガール、老人のビキニ、ハゲのドレス……。
「これでもまだマシって事か……」
そう、セーラー服でもややマシなのだ。
そして、早くゴールすればするほど、この辱めから解放される。
蓮が全速力でゴールに向かい、賞品も受け取らずセーラー服を脱ぎ捨てた事は言うまでもない。


*****

「トオルさん頑張ってー!」
「キャーッ!トオルーっ!」
黄色い声援を受けつつスタートラインに立ち、律儀に手を振って答えるトオル。
午後の部が始まって以来、紅組は負けが続いている。
ここらで上位入賞し得点を稼がなければ優勝を逃す事になる。
是非とも頑張って来て欲しい、と女性陣からの熱い要望で、トオルは借り物競走に参加する事になった。
スタートの合図が鳴ったと同時に、紅組女性陣の声援と男性陣の妬ましげな視線が矢の様に飛んでくる。
「はは……」
思わず苦笑。しかし、競技に集中しなければ。
50m先に並べられた札を拾い上げ、開く。
―――猫(子連れ)
「……こっ子連れ猫ぉぉ〜?」
この町内は、トオルのホームグランドではない。故に、猫の居そうな場所など分かる筈もない。
ましてや、子連れの猫を捕獲してくるなど不可能だ。
「うーん……どうしたもんかなぁ……」
札を持ったまま呆然と立ちすくんでしまうトオル。
そこへ、
「トオルさぁん!何だったの〜っ!?」
と、若い女性の声。
「子連れの猫ですよ……ハハ、困ったなぁ」
この勝負、負けたな。
トオルが諦めたその時。
「ニャーオ」
「ミャー」
背後に迫る猫の鳴き声。
「え!?」
振り返ってトオル、絶句。
5歳程度の子供を抱いた女性が、頭にタオルを折って作った三角の突起を付けて、立っている。
「トオルさんに拾って欲しいにゃv」
ハートマーク付きの語尾で言われて……。
「……猫だ。これは猫だ。愚か者には人間の母子に見えるが正直者には子連れ猫に見える!これは猫だ……」
ブツブツ自分に言い聞かせながら、トオルは女性の手を取りゴールに向かう。
「猫ですよ!猫!猫の親子!ホラ、子連れ猫!」
そう言い張るトオルと、あくまで「にゃー」と鳴いてみせる母子。
何故ゴールが認められたのか甚だ謎である。


*****

「よぉぉぉしっ!とうとうやって来たぜ、俺様の時間んっ!」
風に靡く赤いハチマキ、引き締まる虎皮の褌。
みあお、トオル、弧月の声援を受け、3人の馬の上で力瘤を作る郡司。
対面する白組側からも、声援が飛んでくる。
秋季大運動会、最後の競技。
騎馬戦である。
現在紅組67点:白組70点。
この騎馬戦で、勝敗が決まる。
紅組逆転優勝なるか、或いは白組の圧勝か。
「頑張れーっ!紅組なんかに負けんじゃねぇぞーっ!!」
この声は、沙紅良か。
騎馬戦参加者がグランドの両端に立って互いに敵を睨む。
観衆はそれを取り囲んでそれぞれの組を応援する。
勝負は5分。
頭に巻いたハチマキを取られたら退場だ。
堅くハチマキを結び直して、敵を睨め付けたところで、始まりの合図。
ワッと言う怒声と歓声。
「正面行けっ正面だっ!うぉらぁぁぁぁぁっ!!」
中央突破でハチマキゲットを狙う郡司。
馬に命令を下し、向かう敵、すれ違う敵の頭からハチマキと髪を容赦なくむしり取る。
落胆と悲鳴を残し去っていく敗者。
「散れ散れぇ!敗者は去れっ!」
奪い取ったハチマキを腕に巻き付けて次なる犠牲者を追う郡司。
と、不意にその郡司の頭のハチマキを引く手が。
慌てて振り返る郡司。
「あってめぇ引っ張んなよっ!」
……無理な相談だ。
無理な相談なのだが……。
慌てた郡司がハチマキを手で押さえるよりも早く雷を落としてしまったが運の尽き。
哀れよりにもよって郡司に手を掛けた白組騎馬、脳天に衝撃を喰らって崩れ落ちる……。
「……あ、わ、悪ぃ……」
崩れ落ちてもこの勝負、途中で辞める訳にはいかない。そして、互いの頭上にしか目がいかないが故に、足元に倒れ込むともれなく踏まれる。
急いで騎馬を降りて助けようとするよりも早く、他の騎馬に踏みつけられて殆どぺしゃんこ。
「……よ、良し、なかった事にしよう!そうしよう!おらっ次行くぞ次ぃっ!!」
駆け抜ける風、舞い上がる砂埃。
勝者、赤。


*****

めくるめく郡司の活躍で見事勝利を収めた紅組。
得点板は赤組77点:白組76点。
圧勝とは言い難いが間違いなく勝利。
「くっそー、負けたぁっ!!」
口惜しげに、足を踏みならす沙紅良。
「残念ですね、頑張ったのに……」
「ま、勝負だからな。仕方がない」
残念そうな遮那と、うんざり疲れた様子の蓮。
「でも、楽しかったから良しとしましょうか」
蒼の言葉に頷く。
はて、慶悟はと言うと……、少し冷えてきた空の下で、気持ちよく熟睡中。
「くはーっ勝利勝利ぃ♪これで賞品が牛とか馬とか虎なら文句ないのになぁ〜」
紅組全員に配られた商店街お買い物券を侘びしく握る郡司。
「良いじゃないですか、お買い物券。肉屋で牛肉が買えますよ」
郡司が望むだけ買えるかどうかは謎だが、とは言わずに、同じくお買い物券を握る弧月。
「お買い物券かぁ……、これって、家計に一番役立ちそうだよね」
参加賞の石鹸だのタオルだのを山ほど抱えて、満足気なみあお。
「……仕事してるのと変わらなかったなぁ……」
最後の最後まで大人気で、使い切った名刺の代わりに奥様方から貢がれたお買い物券を胸に仕舞うトオル。
年内の一大イベントである運動会を無事終え、後片付けに、打ち上げ準備にと右往左往する人々。
未だ残された万国旗が、笑うかのように清々しく風にはためいた。



end



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

1838 / 鬼頭・郡司    / 男 / 15 / 高校生
0389 / 真名神・慶悟   / 男 / 20 / 陰陽師
1972 / 時宮・蒼     / 男 / 18 / 高校生
1415 / 海原・みあお   / 女 / 13 / 小学生
1532 / 香坂・蓮     / 男 / 24 / ヴァイオリニスト(兼、便利屋)
1781 / 佐和・トオル   / 男 / 28 / ホスト
1582 / 柚品・弧月    / 男 / 22 / 大学生
0506 / 奉丈・遮那    / 男 / 17 / 占い師
1982 / 加賀・沙紅良   / 女 / 10 / 小学生

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■         ライター通信          ■
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毎日猫の運動会の犠牲になってる佳楽です、こんにちは。
この度はご利用有り難う御座いました。
運動会と言ったら賑やか、賑やかと言ったら大人数、大人数と言ったら……(遠い目)
と言った感じの、文字数ばかり多い結果になってしまい、申し訳ありません。
出来ればご希望通りの競技に参加して頂きたかったのですが、プレイング通りになって
いないところが多々あり、本当に申し訳ない限りです。
2人参加競技と1人参加競技では僅か〜に文字数が違っております。
出来る限り平等にしたつもりなので……、ご理解頂ければと思います。
ノロノロ書いている間に、生息市内の運動会は全て終了した模様です。
今年は雨で散々だったようですが……、皆様の生息地は如何でしたでしょうか。
ではでは。
また何時か何かでお目に掛かれたら幸いです。