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誰が貴女にそれを教えた〜深淵にて、コスプレ再び…
…そろそろ恒例になっている気もします。
あたしは、またみそのお姉様の衣裳部屋にお手伝いに参りました。
今度は服の整理ではありません。
みそのお姉様曰く、モデルです。
…どうやら下着、らしいのですが…。
何やらみそのお姉様の手には…『萌』な人たちが読むような本?が。
「えーと、これは…“猫”ですわね」
ページを繰り、見て確認しながらみそのお姉様がぴろっと取り出したのは猫耳に細い尻尾に肉球付きの猫の手と言った小道具――かと思ったらそれらは『透明な何か』で繋がっている。
みなもは小首を傾げた。
…何だろう?
「これは…『ネコミミメイド』等の扮装をする時に使うものですわ。…メイド服等と組み合わせて着るんです」
そしてまたページをぱらり。
「こちらの“狐”は『狐巫女』…それからこちらの“悪魔”は『悪魔ウェイトレス』等に使うものですわね」
言いながらみそのお姉様は大きな三角赤毛の狐耳にふさふさの尻尾やら、矢印のような鉤型の黒い尻尾に触覚、蝙蝠のような皮膜の羽やら兎の長く白い耳やら天使の如く真白の翼やらがちらりとどころで無く覗いて見える衣装箱を探る。
どうやら皆、似た用途の“下着”らしい。
…それは確かに下に着る以上、下着、でしょうが…。
やっぱりここには可愛らしくて…面白い服があるんですねー。
みなもは思わず感嘆。
が。
――ちょっぴり気になる事がひとつある。
そしてこの『気になる事』とは結構『切実』な…と言うかある意味『確信に迫る』部分のようでもあるのですが…。
「ところでお姉様、その『本』はいったい何処で…」
…入手なさった物なんでしょう?
恐る恐る、冷汗混じりに問うみなも。
…この様子では…その『本』が…みそのお姉様のファッションカタログになっているような気が薄らと。
みなもの問いに、みそのお姉様は、そ、と唇の前に人差し指を立てる。
「秘密ですわ」
そしてこっそりと、内緒話でもするように囁いた。
…いえ、これらの服も可愛いから…良いんですけれど…“陸”で非常識に思われてしまうのはいつものこの服装傾向のせいもあるでしょうから指摘した方が良い気もしますが…それで直されてしまっても勿体無いような気もしますし…。ううん、悩んでしまいます…。
と、そんな風にみなもが悩む間にも、みそのお姉様はがさごそと近場を物色。
そこから引っ張り出したのは――カメラ。
「では、始めましょうか?」
レンズをみなもに向けて撮る真似をしながら、御機嫌そうにみそのお姉様。
その言葉に促されるようにして、元々着ていた服を脱いだみなもは、取り敢えずは…くしゃくしゃと纏めたその“猫”らしいものにゆっくりと爪先を通し、するすると伸ばす。
凄く、薄い。
伸びるとほぼ透明になる。
これは…全身タイツみたいなものになるのでしょうか、透明部分は?
が、耳やら尻尾に獣みたいなデフォルメされた手(と言うか足?)などまで付いている以上、着用してしまうと何かが違います。
そう。
このままですと…『萌』な猫娘?みたいな気がします。
と。
「まぁ可愛らしいですわ、みなも!」
やはりわたくしの目に間違いはありませんでしたわ! と殆ど見えない視力の筈なのに言い、みそのはうきうきとシャッターをかしゃり。
「…にゃ」
みなもは何となく、猫が顔を洗う真似をする。
「まあ☆」
かしゃり、かしゃり。
…ちょっと悪ノリしてみたみなものポーズと声に、みそのは嬉々としてシャッターを連続で切る。
「…と、も、もう良いです、か?」
やがて、恐る恐る恥らう様子でみなもはみそのの顔を見る。
満面の笑みを返された。
「もう少し…構いませんか?」
「あ、はい」
かしゃかしゃかしゃり。
「本当に可愛いですわ…みなも…」
ほぅ、と悩ましげな溜息を付きつつ、みそのお姉様は漸くシャッターを切るのを止めました。
…そんなに可愛いと言われると…気恥ずかしいです。そんな事ないんですから。
「あの、お姉様、これ、もう、脱いでも良いですか?」
「そうね、次は前の時の『存在』と同系統の“天使”にしましょうか…ってみなも、ひょっとして…」
…脱いでも良いかと問うと言う事は、『モデルが嫌だった』のかしら?
はた、と思い付き気遣うみそのお姉様の言葉に、みなもはふるふると慌てて頭を振ります。
「そ、そうじゃなくって…何だか恥ずかしくって」
「ここにはわたくししかおりませんわよ? それに、わたくしの“神”様はここまでいらっしゃる事はできませんし」
「で、でも…」
「…そう?」
心配そうにみそのお姉様。
「だ、大丈夫ですっ、えと、次は“天使”でしたよね? 早速着替えますっ」
みそのの表情を見、今度はみなもが気遣い、慌てる。
…その背後でみそのお姉様の方は――幸せそうに微笑んでいましたが、みなもには内緒です。
と。
みそのお姉様の手から“天使”を受け取り、みなもは今着ている“猫”の方を脱ごうとしますが…。
手を引き抜こうとして、少し考えます。
「…脱ぎ難いです」
透明なので何処まで脱いだかいまいちわかり難く。
更に極薄なので単純に、脱ぎ難くもある。
ぴっしりと肌にフィットしているので。
「着心地は…良いんですが…」
けれど着用時の見た目は『萌』?な猫娘。
…でも実際、楽しくもあって。
そんな風に思う自分が気恥ずかしかった、と言う部分もあるのでしょう。
けれど、素直に着心地は良くて。
その事実に、何故か気恥ずかしさが増したりしてました。
が。
どうにかこうにか脱いだその“猫”が、何となく、手放せません。
「…御土産に数枚持って行きますか?」
にっこりと微笑んで、みそのお姉様。
「構わないんですか!?」
「ええ、可愛いみなもが欲しいと言うのなら。これらは…危険のある服ではないですし」
この“天使”に“悪魔”も、前回の『存在』とは違って、危険は無いように手が加えてある改良版ですし。
にこにこ。
御機嫌な様子でみそのお姉様は微笑んでみなもを見守っています。
みなもはみそのお姉様の言葉に甘えて、先程の衣装箱の中を、何となく物色。
迷う。
「…迷うようでしたら…その衣装箱の中の物、全部持って行きますか?」
迷うみなもに、みそのお姉様はふと、ぽつり。
「え…でも」
「心配無用ですわ」
にっこりと笑みを深めたみそのは突然。
――何処からとも無く、似たような獣の耳や尻尾に羽やら付いた同じ形、似た形の『服』を、待ってました、とばかりにみなもの前にばさりと広げる。
…それだけで山ができた。
反射的にみなもは停止する。
みそのお姉様は艶やかに微笑みました。
「まだまだたくさんありますもの。重複している物もたくさんありますし。みなもが今見ていた衣装箱の中身くらいでしたら全部持って帰っても大丈夫ですわ。それに、もっとたくさん、色々な物を着てみて欲しいですし」
心底、嬉しそうに。
遠慮しないで下さいね、みなも? と重ねる。
みなもは暫く考えてから、照れのせいか頬を赤らめこっくりと頷いた。
「…だったら…遠慮無く頂きます…」
「是非是非、そうなさって下さいな」
みそのお姉様は嬉々として勧めます。
これなんか持ち帰ってはどうかしら? ああ、これはみなもには似合いそうですわね? などと次々に肩に合わせて見ては、可愛い妹に次々手渡します。
そんなこんなで衣裳部屋での時間は刻々と過ぎてゆきました。
…あ、今回は、特に何も起きませんでしたね?
【了】
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