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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


真夜中の滑り台
「よっしゃー!ゴール!!」
サッカーのゴールに見立てた公園のポールとポールの間にボールを蹴り入れた青年は肩で息をしながらガッツポーズをした。
夜中の二時過ぎ。
針のように細い下弦の月の浮かぶ晴れた夜空の下、二人の影が公園の外灯だけを頼りにサッカーボールを蹴り合っている。
広めのグラウンドを持つ公園に近い大学に通う二人は少なからず酒が入っていたのもあるが、足元はしっかりとし、妙なテンションで二人だけでサッカーをしていた。
「おりゃー」
足を振り抜くように大きく蹴り上げたボールは幾つもの外灯の光の下を孤を描き、暗い闇の中に静かに佇む滑り台の方へと転がって行った。
「おい。どこ蹴ってんだよ〜」
「悪い、悪い」
舌打ちしながらボールを持ち上げた男はある一点で目が止まる。
まさか、と二度瞬きをした。
「おーい。どうした〜?」
もうひとりの男も彼の異変に気がついた。
彼らの視線の先――滑り台の上に子供がいる。
ひとり、ぽつんと滑り台の上からこちらに顔を向けて座っている。
「おい。アレ、何かやばくねぇ?」
ボールを持って戻ってきた男の言葉に、もうひとりも頷き腕時計を見た。
「あぁ。……もうこんな時間だしな。帰るか?」
「そう、するか」
全身に感じる違和感に平静を装いながら、二人は滑り台に背を向け歩き出した。
だが、やはり怖いもの見たさが先行してしまうもの。
二人は数歩進んだところで振り返った。
そこで二人は歩みを止める。……いや、止まってしまった。
子供は立っていた。闇の中滑り台の上に立ち、こちらをじっと見ている。
「おいおいおい……」
無理に笑おうとするが頬が引き攣り、肌が粟立つ。
再び歩き出すものの、何かに引き付けられるように首は自然と後ろを向いていた。
ほんの数秒しか経っていない。
だが、子供の姿は滑り台の上にいなかった。
子供は、滑り台の前に立ち、恐怖に完全に顔を引き攣らせた二人を見ている。
「ヤバい、ヤバい。ヤバイってマジで!」
二人がこの後二度と後ろを振り返る事無く、疲れて息が切れるまで走って帰った。

「……と、言う訳よ。まぁ、ネタ的にはありがちかしら?」
碇はそう言うと指で眼鏡の端を持ち上げ、鋭い眼差しで上目使いにデスクの前に立つ男を見た。
僅かに震えているように見える三下はぼそぼそと情けない声で言う。
「で、でも……でも、夜中ですよ?暗いですよ〜編集長」
「何を馬鹿な事を言ってるのよ。私達は昼日中にでるものを相手にしてる訳じゃないのよ!」
「ひっ……そ、そうですよね。で、あの……どうするんですか?」
どこまで鈍いのか、と苛立たしげに怒鳴りたくなるところ堪え、冷たく低い声で碇は言った。
「取材するに決まっているじゃない。この話が本当かどうか……あなたがね」
暗いところも幽霊も怖いけど、目の前に恐ろしいくらい静かな碇に比べればマシかも。
と、本人が聞いたらどうなる事か分らない言葉を心の中で呟き、三下は肩を落とした。

「条件は……揃っている……しかし……完全では………ない」
まるで霧のように揺れる体は昼の光の中でぼやけている。
大通りを行く人や車は気づかないのか、キリート・サーティーンの身体をすり抜けて行く。
出来損ないの吸血鬼は道路の中央からその赤い血のような色をした目を公園の滑り台に向けていた。
「……異常が発生している………だが……それが何なのか……」
キリートはゆっくりとした動作で視線を滑り台から秋晴れの空へと上げた。
「向こうから……やって来るか………私が……行くか……」
途切れ途切れに呟いた体は光に溶けるように、消えた。

「真夜中の公園の滑り台に子供、か。確かに普通じゃないわな」
「でしょう!もう、僕、怖くて……」
苦笑を浮かべ三下を見ながら言った藤井 葛は、自分の想像に身体を震わせた三下に更に失笑する。
月刊アトラス編集部、応接室。
三下は真夜中に一緒に取材に行ってくれる助っ人を三人、呼んでいた。
「三下さーん。あたし、一緒について行ってあげようか?」
にっこりと微笑んだゴスロリファッションに身を包んだヴィヴィアン・マッカランの手を三下は縋るように握ると、外見的には三下より若い、しかも娘に情けなく懇願した。
「お願いしますぅ〜ヴィヴィアンさん〜!」
「うん。任せて。あたし、三下さんのお守り…じゃない、付き添い大好きだもん」
笑顔を三下に向けていたヴィヴィアンだが、ふっとその表情が曇る。
「それにね、その子供のことが気になるの。だって、真夜中に一人で滑り台にいるなんて可哀相すぎると思わない?」
「……そうね、このままだと忍びないものね」
イスに腰掛けていたシュライン・エマは静かな口調だが、少し悲しげな目をして続けた。
「どういう理由があるのかは分らないけど、ちゃんと救ってあげましょ」
「あぁ、俺でも話を聞いてあげるくらいは出来るしな」
女三人視線を合わせ力強く頷く中、三下はだらしなく口を開けて目を瞬かせた。
「皆さん、強いですね……」
「つーか、三下さんが怖がりすぎ。後ろからおどかしたら遠くまで逃げて行きそうだな」
ははは、と笑いながら葛は三下の肩をぽんと叩いた。
「ところで、その子は男の子なのかしら?女の子?」
顎に握った拳の先を当て、シュラインはその明晰な頭脳で調べるべき事をリストアップしながら三下に尋ねた。
「それは……わかんないですぅ」
情けなく答えた声に小さくシュラインは小さく笑う。
「なら、話の青年達に聞きましょ。彼らなら詳しい話がきけるでしょうしね」
「じゃあさ、じゃあさ!夜の11時に公園で待ち合わせっていうのはどうかな?」
ぴん、と指を立てたヴィヴィアンは皆の顔を立ち見る。
「いろいろ準備したいし。ね!」
何を準備するのか分らないが、笑顔で言ったヴィヴィアンに葛もシュラインも頷いた。
「そうね。じゃ、私は聞き込みをしてくるわね」
「あ、俺も手伝うよ」
腰を上げたシュラインを見上げながら自身も立ち上がった葛。
三下は少し困惑したように辺りを見ると頬を掻きながら卑屈そうに身を屈めて、
「では、僕はヴィヴィアンさんのお手伝いをしますぅ」
「あははは。いいよ〜一緒にいこっ!」
そう言った三下に腕を絡ませながらヴィヴィアンは笑った。
シュラインも葛も苦笑し、そしてまた後で、と告げると応接室を出た。

「で、何を調べるんだ?」
アトラス編集部の応接室を後にし、外へと出た葛は隣に立つ長身の美人を見た。
そうね、とシュラインは唇に人差し指を当て、暫し考えていたがすぐに口を開いた。
「話の青年達にまず子供の事を詳しく聞きましょ。性別、年齢、身長……まぁ、年齢と身長は滑り台の大きさから大体見当が付くわね。後は服装と顔の特徴も」
シュラインは問題の公園へと向かう為に動いた。
葛もすぐ側に従う。
「それから、公園近くで幽霊と事故や病気で亡くなった子供についての聞き込み。見られ始めた時期と亡くなった時期が同時期の子を重点的に探しましょ」
そこまで言ってシュラインが隣を歩く葛を見ると、彼女は感心したように目を大きくして笑っていた。
「すごいな、あんた。まるで探偵みたいだ」
素直な感想に複雑そうな笑みを浮かべたシュラインを見上げるように、葛は提案をした。
「じゃあ、手分けしてやろう。俺は公園周囲での聞き込みをやるよ」
「そうね。じゃ、私は大学の方に行ってみるわね。そうね、何かわかったら……」
片手で携帯電話を掲げにっこりと目を細めたシュラインに、葛もにっと笑うと親指を立てて見せた。
「オッケー」
大通りに出た二人は丁度やって来たタクシーを停め、目的地へと向かった。

夜の公園はひっそりと静まり返り、昼間の活気と笑い声に溢れたイメージが強い分、とても物悲しく不安な印象を与えている。
「不気味、ですねぇ……」
外灯の下、さっきから落ち着き無くきょろきょろとしていた三下は呟いた。
「夜だもん、仕方ないよ。で、何かわかった?」
公園の外周に設置された低い柵に腰かけ、ヴィヴィアンは同じく柵に腰掛けている葛と立っているシュラインを交互に見た。
「青年達が見たのは男の子。年齢は6歳くらいで薄水色っぽいパジャマのような格好をしていたそうよ。顔までは暗くて良く判らなかったそうだけど」
「ふぅん……男の子かぁ」
そう呟いてヴィヴィアンは足元に置いた大きなビニールバッグに視線を向けた。
「だけどな、ここに良く来る人の話だと幽霊が出るって話は聞いた事無いって言うんだよ」
「ど、どう言う事ですか?」
驚きを隠さない三下に葛は続ける。
「よく判らないけど……幽霊騒動は今まで無いし、この辺りで子供が犠牲になったような事故も病気もないそうだ」
「でも、それじゃ、大学生が見た男の子ってのはどーなるの?幻?」
「いいえ……幻でも夢でもない……」
静かに、だが幻聴ではないはっきりとした声に一斉に視線が集中する。
土が剥き出しのグラウンドの上には、まるで中世ヨーロッパの貴族のような身形をした金の髪を持つ青年が立ち、ゆっくりと大袈裟な身振りでお辞儀をした。
「あなたは……?」
突然のキリートの出現に困惑しながらもシュラインは尋ねた。
キリートは静かに
「キリート・サーティーン……それが私の名」
そう言い、ゆっくりと滑り台の方へと顔を向けた。
「ねぇ、あなた……キリートは何か知ってるの?滑り台の男の子のこと」
いつもと変わらない風なヴィヴィアンの問いに、キリートは顔を滑り台に向けたまま言う。
「……私が知っている事は……願いを叶える為にここにいると言う事……だが、まだ条件が揃わない……」
最後の呟きはどこか悲しげでもある。
葛は眉を寄せ、頭を掻いた。
「要領を得ないな。あなたは一体何者だ?何のためにここにいる?」
葛の問いに何か言おうと口を開いたキリートは、だがすぐに口を閉じた。
「あっ!」
三下は口に手を当て小さく叫ぶと、滑り台を指差した。
そこには子供が――パジャマ姿の男の子が一人、座っている。
「あ、はっけ〜ん!」
「出たな……さて、話は直接あの子に聞こうじゃないか」
「そうね。それが一番ね」
少年の下へと勇ましく歩き出した女性三人とその後を慌てて追いかける三下。
彼らを暫く見、キリートも静かに歩き出した。
男の子は滑り台の上に座り、虚ろな視線をただ前に向けていた。
白い肌に髪は短く切り揃えられ、この年代の子にしては少し細い印象を受けた。
一番に語りかけたのはヴィヴィアンだった。
「こんばんわっ!何してるの〜?キミ」
少年は聞えていないのかただぼうっと座っていたが、二度瞬きをするとその瞳には光が宿った。
「こんばんわ♪」
ゆっくりヴィヴィアンの方を見た少年に彼女は笑顔で手を振りながらもう一度あいさつをした。
不思議そうな、困惑した表情を浮かべ見下ろす少年に、葛は柔らかな笑みと口調で言う。
「こんな夜遅くに何をしているんだい?」
『別に……何も』
男の子はそう返事をした。
「あなた、お名前は?」
『しょうた』
「しょうた君はなんでここにいるのかな?」
シュラインの穏やかな口調にしょうたは視線を彷徨わせていたが、困ったように眉を下げた。
『……わかんない。なんでだろ?部屋で寝てたのに』
「部屋で、寝てたの?え、じゃあ幽霊じゃ……」
三下の言葉は鋭い葛の視線で遮られた。
『ゆうれい?……ボクが?』
「ねぇ、ねぇ。一人じゃ淋しいでしょ?あたし、いろいろオモチャ持ってきたんだ〜一緒に遊ぼっ!」
誤魔化す様に明るく大きな声で言ったヴィヴィアンはビニールバッグからいろいろな玩具を取り出す。
取り出した拍子に転がり出たサッカーボールにしょうたは、あっと言って滑り台を滑り降り、ボールの前に立った。
「サッカー好き?」
ヴィヴィアンの問いにしょうたは頷く。
「じゃ、皆でサッカーしよ〜!」
『ほんと?!』
「ふふふ〜このヴィヴィアンさんのミラクルシュートを見せてあげよう」
腰に手を当て、自身有り気ににんまりと笑みを浮かべたヴィヴィアンを見て、しょうたも楽しそうな笑みを浮かべたがすぐに陰りを見せた。
『でも……ボク、見るだけで全然やったことないんだ』
「どうして?」
『だって、病院から出られないんだもん……』
シュラインと葛は一瞬顔を見合わせたが、すぐに葛が尋ねた。
「病院ってどこの病院なんだ?」
『あそこ』
と、しょうたの指差したのは家々の屋根の上に一段高く見下ろすように建つ、茶色い建物。
「あれ、病院なのか?」
「……県の、子供医療センター……」
三下達より数メートル後方に佇み、大きくはないがはっきりと聞き取れる声で言ったキリートの後に続き、しょうたは口を開く。
『ボク、いつもあそこからこの公園を見てたんだ。みんな、遊んでていいなって……楽しそうだなって』
「……念、ね」
「念?」
シュラインは納得したように頷いた。
「そう。しょうた君はいつもこの公園を見ていた。一緒に遊びたくて仕方が無かった。その思いが強くて、眠っている時に身体から魂が離れてここに来たんじゃないかしら?」
「幽体離脱……」
キリートの呟きにシュラインはしょうたの前に膝を付いた。
「ねぇ、しょうた君。自分の今の状態が少し変だってわかるでしょ?今のままだとダメなの。わかる?」
大人しく頷いたしょうたにシュラインは優しく微笑んだ。
「ちゃんと、自分の部屋に帰れるわね?」
『うん』
「あたし、お部屋に遊びに行ってあげる!」
『え?』
驚いたようにヴィヴィアンを振り向いたしょうたに彼女は重たそうにビニールバッグを持ち上げた。
「だってこ〜んなにオモチャ買っちゃったしぃ、折角友達になったんだしね」
にこにこ楽しそうなヴィヴィアンの笑顔にしょうたも嬉しそうに満面の笑顔を見せた。
『ボク、待ってるからね!』

笑顔と共に消えて行ったしょうたがいた場所からシュラインは病院へと視線を移した。
幽体が身体から出てまでここで遊びたかった子供の事を思い、悲しくなった。
それでも、あの子の笑顔は輝いていて、こっちが救われたような気がして、シュラインは目を細めた。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1986/キリート・サーティーン/男/800歳/吸血鬼】
【1312/藤井・葛(フジイ カズラ)/女/22歳/学生】
【0086/シュライン・エマ/女/26歳/翻訳家&幽霊作家
                    +草間興信所事務員】
【1402/ヴィヴィアン・マッカラン/女/120歳/留学生】

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■         ライター通信          ■
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どうも、壬生ナギサです。
今回のお話、如何でしたでしょうか?

今回のお話はそれぞれ個々にお話が少し違っています。

では、ご縁がありましたらまたお会いしましょう。