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<PCシチュエーションノベル(グループ3)>


見守る会にご用心

■導入

 折角姉妹水入らずでキャンプのはずが、台無しになってしまったのは――多分、私のせいだ。
「え〜〜っ、これからいい所なのにぃー」
 不満そうに口を尖らせたのはみあお。
「でも、霊脈を制御していた石だったんでしょ? 早く取り戻さないと、大変なことになるんじゃ……」
 冷静に状況を分析したのはみなも。
「そうですわね。残念ですけど、キャンプは一時中断して、力を合わせて奪回しましょう」
 みそのにそう促されると、みあおも渋々と頷いた。それを確認して、みそのが私に視線を移す。
「ではお父様、もっと詳しく説明していただけますか?」
 私は軽く頷くと、3人に座るよう促した。薪で熾した火を囲んで、私の長い話が始まる。

     ★

 日本一と名高い富士の山。
 ”山”には昔から霊的な噂がつきものだが、中でも富士山は噂の宝庫であった。
 その最大の理由は、富士山麓の青木ヶ原樹海で多発する自殺である。今でも毎年50人もの人がその樹海で命を絶つという。
 ではそこが自殺の場所として選ばれる理由はといえば、第一に遺体が見つかりにくい場所であるということ。樹海の総面積は48平方キロメートルもあり、鬱蒼と生い茂る樹木がこれでもかというほどに視界を遮る。
 そして第二に、死に易い場所であるということ。これには2つの意味がある。誰に見咎められることもないという意味と、たとえ生きていく気力を取り戻したとしても、樹海から出るのが難しいということだ。
 先に触れたように広大な面積があるのはもちろん、この樹海ではなんと方位磁針が使えない。それは樹海の地盤に鉄分が含まれており、それが方位磁針を狂わせてしまうからだ。その鉄分はどこから来ているのかといえば、かつて富士山が噴火した際に流れ出た溶岩である。つまり青木ヶ原樹海は、その溶岩の上に樹木が生えることによってできた樹海なのである。
 ではその樹海で亡くなった人の魂は、一体どこへ行くのだろう。果たして安らかに眠れるのだろうか。
 そう考えた人物がいた。
 その人は死を選ばねばならなかった人々のために、死してからは迷わぬよう霊脈をつくり魂を富士山頂へと導いた。それにより魂はそこから天へ召されるようになり、富士の霊的な噂や現象は減ったのだという。
 ――ただ、その人の命は当然永遠ではなかった。最期にその霊脈を制御できる要石を設置し、その人は逝った。それからは、その人の代わりにその石が、病める魂を救っていたのである。
 問題は、ここからだ。
 なんと先ほど、その要石が取り払われてしまったと連絡が入ったのだ。しかも犯人たちは、要石を持って樹海に立て篭もってしまったそうだ。
 ――そう、”たち”と言ったところからもわかるように、犯人は複数――というか団体である。「自然の宝庫であるこの樹海に、人工物などけしからん」と訴える、過激な環境団体・富士山麓を見守る会のメンバーだ。
 そこで私は娘たちに協力してもらって、要石を取り戻しそして設置してもらおうと思ったのだった。もしそのままにしておけば、以前にもまして自殺者が増加傾向にある今、成仏することのできない魂たちが一体どんな影響を及ぼすかわからない。できる限り早い対応が必要だった。

     ★

「――では作戦を立てましょう」
 仕切るみそのに、みなもとみあおは頷く。そしてみなもから口を開いた。
「あたし、周辺を回って霊脈のことや富士山麓を見守る会のことを聞きこみしてくるわ。要石がないことで霊脈にどんな影響が出るかわからないし、その人たちが何を考えているんだかもよくわからないし」
 それに続けとばかりにみあおが手を上げる。
「じゃーみあおはね、鳥になって空から見守る会の人たち捜すよ。あと要石も、霊気で探ればわかると思うし」
「ではわたくしは、その間富士に悪い影響が出ないように、霊溜りで祈りを捧げたいと思いますわ。もちろん富士の神様にご挨拶申し上げてから」
 話し合うまでもなく、作戦は決まったようだ。
 私は一度また合流してから、取り返しに行く時は皆で行こうと提案する。3人は頷いた。
 そうして、それぞれ目的の場所へと散っていった。



■偵察

 3人がそれぞれ行動をしている間、私は――何もしない。しいていえば、3人がうまくやっているかどうか見ている。それが私のいつものスタンスだった。
(私が手を出すと)
 コトが簡単に収まりすぎるから。
 知りすぎている私は、手を出してはいけない。
 それは私が自分自身に課したルールだった。
(より楽しく、生きるために)
 ――ではまずみなもから、見てみようか。
 みなもは富士山麓周辺の家々を回って、話を聞いていた。
 この辺りは以前某ルート5事件の関係施設があったせいか、住民は怪しい団体にはかなり否定的なようだった。あの富士山麓を見守る会も十分怪しい団体に入るらしく、住民の反応は冷ややかだ。
 では次はみそのを見てみよう。
 みそのは無事に霊溜りを探り当てたようで、立ち膝をつき両手を組んで、祈りを捧げていた。みそのの周りの空気から徐々に澄んでゆく。それはみそのの力によって魂の救済が行われている証拠だろう。
 では最後にみあおだが、小鳥に変化したみあおは既に見守る会のメンバーを発見していた。今は霊気によって要石のありかを探っているところのようだ。団体は全部で10人ほど。スムーズにそれを取り返すためには、誰が持っているのかを知っておくのが重要である。
 やがてみあおはそれを見つけたらしく、満面の笑みを見せると合流地点へと向かってそのまま飛んで行った。
 私も急いで戻ることにする。



■合流

 まずは結果報告からだ。
「多くの魂が歪んだ霊脈に惑わされ、1ヶ所に集まっていましたわ。もう少し行くのが遅かったら、穴が開いていたところでした」
 胸を撫で下ろすように、みそのが告げた。
「今は大分落ち着いたようなので大丈夫ですけれど」
 付け足す。
 続いてみあおが。
「みあおも見つけてきたよ! 樹海のホント真ん中辺りにいたの。集まってたから何か企んでるのかも……」
 それなら急がねばならない。
 最後にみなもが口を開いた。
「霊脈に関しては、大体予想どおりのお話が聞けたの。皆それを信じているし、たまに霊脈が横切ることがあると、一瞬道を辿る魂たちが見えることがあるんだって」
「横切るって?」
 問ったのはみあおだ。みなもは軽く頷き。
「霊脈は常に同じ場所にあるんじゃないの。大気の流れや気の流れに反応して、移動してる。その移動の時に、人の上を通ることがあるんですって。もちろん完全に目に見えるわけじゃないけど……」
「ふーん」
「富士山麓を見守る会の方はどうでしたの?」
 みそのが問いを振ると、みなもは思い出したように声を高めた。
「そうだわ! その人たち、予想以上に嫌われていたの。”過激な”部分が不審に見えるみたいで。前にね、『ゴミを捨てるな』とか『自殺禁止』って看板を県が立てていたら、”それも一部の環境破壊だ”って言って勝手に外しちゃったんですって」
「あらら」
「どうやら”元に戻す”ことにこだわっているみたいなの。――だから、ちょっと嫌な予感がするんだよね」
 みなもはそこで一度言葉を切ると。
「要石をも元に戻そうとしたら……石を壊しちゃうんじゃないかと思って」
「あ、そっか。もともとなかった物だもんね」
 みあおが納得する。納得してから、「あれ?」と首を傾げた。
「じゃあもしかして、樹海の真ん中で集まってたのって……」
「要石を破壊するため?!」
 3人の声が揃った。それはとめなければならない。
「――行きましょう」
 返事をするよりも早く、走り出していた。



■設置

 奪回は予想よりずっと、うまくいった。
 富士山麓を見守る会のメンバーたちは、みなもが予想したとおり樹海の真ん中で要石を壊し、すべてを元に戻そうとしていたのだった。
(それがどんな役目を持っていたのかも知らずに)
 そこへみなもとみそのが乗り込んでいって、その場を攪乱した。突然若い女の子2人が乱入してきたのだから、彼らの驚きは尋常ではなかった。
 そしてその混乱の隙に、みあおが小鳥の姿のまま要石を取り戻したのだ。それを確認すると、2人もすぐに引きあげた。
「ここでこうして騒ぐことも、この樹海に足を踏み入れることでさえ、あなた方にとっては環境破壊に繋がるのではありませんか?」
 そう釘を刺すことも、忘れなかった。
 それから私たちは元々要石の安置してあった場所へと向かい、力を合わせて設置し直すことにする。この手の石はただ置くだけではダメなのだ。
 みなもが空気中の水蒸気を使い、空気そのものを浄化し、みあおが霊気でその辺りの悪いものをすべて払った。そしてみそのの祈りが、要石が再びその地に眠ることを許可させる。もう一度、迷いし魂を導けるように。
 やがて――乱れに乱れていた霊脈は元に戻り、青木ヶ原はいつもの静けさを取り戻した。



 彼らが無事に樹海から出ることができたのか。
 私たちは知らない。
 それはおそらく、私たちなりの罰だったのだ。
 真に大切に想うことと、過保護は違うのだから。
 私はそれを、娘たちで実践している。
 大切に想うからこそ、自分たちで道を切り拓いていけるように――。







(了)