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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


枯れた広場

●消えた子供たち

 とある山間の小さな町で、少年少女の行方不明事件が多発していた。
 普通ならば警察が捜査を進め、警備を強化するところなのだが・・・・・。
 この行方不明事件、実はいくつかおかしなところがあった。
 子供たちはみな例外なく、夜のうちに姿を消している。
 しかも外から侵入された形跡は一切なし。まるで子供が自ら姿を消しているかのような状況なのだ。

「ふーん・・・」
 新聞の片隅を賑わせているその記事を見つめ、麗香は目を細めた。
 麗香の勘が、これは絶対怪奇事件だと告げている。
 だがこの記事だけでは足りない。麗香はネットを使い、ザッとその記事についての情報を集めてみた。
 結果わかったことは、子供たちの性別や成績などに共通性はなし。年齢は十二、三歳程度までが多いが、中にはもう少し年上の――それでも十四か五くらいまでか――子供もいた。
 範囲はある山を中心にした半径数キロ以内。
「この山が怪しいわね」
 ガタンと音を立てて椅子から立ち上がった麗香は、編集部内に響きわたる声をあげた。
「三下クン! 調査協力者を集めてちょうだい」
 なにやら原稿を書いていた三下がビクっと立ちあがり、勢いで原稿用紙を床にばら撒いていた。
「・・・・・・・」
 いつものことながら、まったく溜息がでる。
 ようやっとやってきた三下に、さっき集めたばかりの情報を見せ、
「この事件の調査をしてくれる人を探してきなさい」
 麗香はきぱりと言い放った。


●ドライブ

 行方不明事件が起こっている町へ向かうワゴン車の中は、ずいぶんと賑やかだった。
 一番賑やかなのは、最年少の海原みあお。次いで賑やか・・・というより騒がしいと言った方がピタリとはまる鬼頭郡司。二人は一番後ろの後部座席で、お菓子片手に今回の事件について真面目に話し合っていた。
 真中の席にはセレスティ・カーニンガムと真名神慶悟。後ろの二人の会話に加わり、今後の方針について話している。
 運転席には不幸の代名詞、三下忠雄。助手席に座ってナビをしているのは前もってこの辺りの地形情報を調べていたシュライン・エマ。
 全部で六人の一行が向かっているのは、最近子供の行方不明事件で話題になっているとある街だ。
「山の中の何者かが、子供たちを呼んでいるのでしょうか?」
「はいはーいっ。みあおもその意見に賛成。きっとお山に天狗か笛吹きが住んでるんだよ」
「妥当な意見だな。・・・・悪意ある者でなければ良いが・・・」
 慶悟は、エマが調べてくれた資料を取りだし、改めて情報を整理しなおす。全員に確認してもらう意味も含めてのことだ。
 事件が起こり始めたのは一ヶ月前。原因の可能性となりうるものは一応、いくつかあった。
 だがどれも決め手には欠ける。
 かつて山神を奉る行事が行われていたらしいが、取りやめになったのは戦後まもなく――五十年以上も前のこと。なぜ今になって行方不明事件が起こるのか、時期にずれがありすぎる。
 山で工事が行われたとか、崖崩れのようなものが起こった記録はなし。
「ふーん・・・。とにかくさあ、相手を見極めなきゃ話になんないだろ? 囮が一番手っ取り早ぇと思うけど」
「囮、ねえ」
 助手席で話を聞いていたエマが、ひょいと後ろに顔を見せた。慶悟、みあお、セレスティの三人も続いて郡司の方へ視線を向ける。
 郡司は視線の意味がわからずしばらくきょとんとしていたが、
「こういうのは言い出した人間が実行するものよね」
 エマの言葉にようやっと現実を理解した。
「・・・・・・俺? 俺が囮!?」
 一瞬みあおに目を向けたが、女の子――しかも最年少の――を囮にするのは気が引ける。
「よし、決まりだな。ついたら夕方までは聞き込み調査。夜は子供がいる家を中心に見張りと、囮捜査だ」
 ぱたんと資料をしまいつつ、慶悟がその場をまとめた。
 一人を除く全員が真面目に頷く中、郡司の叫びが車内に響いたとか。


●ふもとの町、到着

 町に着いた一行は、さっそく聞き込みのために各人別行動することとなった。
 エマがやってきたのは村の役所だ。伝承や郷土の逸話などは出来る限りネットで調べたが、最近の状況はやはり地元で聞かねばわからない。それに、ネットで見つけられなかった話も聞けるかもしれないと思ったゆえだ。
「すみません、ちょっと聞きたいことがあるんですけど」
「おや、珍しいね。外の人が役所に来るなんて」
 人の良さそうな中年男性が、エマに答えてにこりと笑った。
「一ヶ月くらい前、山で何か――工事だとか、崖崩れだとかが起こっていないか知りたいんです」
 エマの問いに男性はしばらく考え込んだあと、資料でも見にいったのか一度部屋の奥に引っ込み、数分で戻ってきた。
「工事はないが、崖崩れは絶対ないとは言えないな。祭がなくなって以来、山に入る人間もとんと減ったから、起こっていても気付いていない可能性がある」
「そうですか・・・どうもありがとうございます」
 ペコリとお辞儀をして、エマは役所を出た。気象情報を調べてみる必要があるかもしれないと思いつつ。


●夜

 各自それぞれ収集してきた情報を纏めると、問題が山にあるのは確実のように思われた。
 五十年前に取りやめになってしまったという山神を奉る行事、山に呼ばれて言ったという植物たちの証言、残っているのにその大元を探れない気配。
 それなりの力を持つ山神が、なんらかの理由で子供を連れ去っているということだ。
「多分、直接の原因はこれね」
 エマが、一ヶ月ほど前の気象情報をプリントした紙を取り出した。
 一ヶ月前――事件が起こる直前。この辺りは集中豪雨に見舞われていたのだ。
「山神にとって大事な何かが、崖崩れかなにかの被害に遭った、ということか」
「じゃあ、話し合いでなんとかなるかなあ?」
「そうですね・・・それが一番良いのですが」
 車の中で、外の様子――正確には、囮ということで一人布団に入っている郡司のいる部屋付近――を見張りつつ、一行は小声で会話を続けていた。
 慶悟だけは郡司の様子ではなく、式神を使いなるたけ多くの子供たちを見張ることになっている。
 そして三下は運転手。子供たちを連れて帰ることも考えて、行けるぎりぎりまでは車で行こうという話になったのだ。
 それから待つこと数十分後。
「・・・始まったらしい」
「え?」
 突然の慶悟の呟きに、エマはひょいと後部座席に振り向いた。
「あっちだっ!」
「鬼頭さん?」
 直後、声とともにバタバタと駆けて来た郡司は、ビシリと山の一方向を指差した。
「わかるの?」
 一片の迷いもない郡司に、セレスティとみあおは思わず聞き返した。
「彼の言うことは正しい。他の子供たちもみなそっちに向かっているようだ」
 式神で子供たちを追っている慶悟が答えると、エマはすぐさま地図を開いた。
「・・・行きましょう」
 一行を乗せた車は、子供たちを追って、夜の山の中へと走り出した。


●枯れた広場

 舗装された道路から外れたところで、車の留守番に三下を残し。一行は徒歩で山の奥へと入って行った。
 繁みの多いうえに暗いため、子供たちを見失わないよう気をつけつつも――まあ、郡司は何者かの呼び声が聞こえていたので、そう困ることはなかったが。
 念の為にと小鳥の姿に変化して空から山の様子を観察に行っていたみあおが、パタパタと翼をはばたかせて戻ってきた。
「あっちのほうに、木が途切れてるとこがあったよ。子供たちは見つかんなかったけど・・・お社もあった」
「多分そこだな。声もそっちのほうから聞こえてる」
「ですが、子供たちの姿が見えないのは・・・社の中にいるのでしょうか?」
「結界を張って隠しているという可能性もあるな」
「とにかく、そこに行ってみましょう」
 みあおが見たという社は、そう遠い場所ではなかった。足が弱いセレスティでも充分に辿り着ける距離だ。
 木々が途切れ、一行の行く先に社が見え始める。
 そう大きくはない社だが、きちんと境内もあり、鳥居も建てられていた。だがやはり子供たちの姿は見当たらない。
 一行は周囲に警戒しつつも、社に向かうべく鳥居をくぐった――途端に、景色が変わる。
 夜の闇に染まっていたはずの空は明るい陽射しに照らされ、目の前には楽しそうにはしゃぐ子供たち。
「うわあ、すごーい」
 それは思わず口に出したみあおに限らず、他の者も似たような感情を持ってその光景を見つめていた。
「とりあえず、元気そうでよかったわねえ」
 確かにエマの言う通り、子供たちはみな元気いっぱいに遊んでいる。
『お待ちしておりました』
「あいつだ!」
「この声が、そうなのですか?」
 今度は郡司だけでなく、全員の耳に――郡司が聞いていたらしい呼び声が聞こえた。
「あっちの方から聞こえてきたな」
 一行は声を追って、社の裏手に回る。
 そこにあったのは横倒しになっている一本の大木と、そして和服を着た、一人の男性。
『・・・子供たちを呼んでいたのは、私です』
「どうしてこんなことをしたんだ」
『私はこの山を守る精です。人々に奉られていたころは、充分な力を持ってこの地を守ることができました』
「なぜ今になって?」
 エマの問いに、男はついと後ろの大木に目を向けた。
『一ヶ月前の集中豪雨で、この山で大きな役割を果たしている木が、倒れてしまったのです。
 祭が行われなくなって力を失いかけていたうえに、この山の神の象徴ともなっていた木が倒れてしまったせいでこの地には今ほとんど守りの力が働いていません』
「でも、なんで子供ばっかりなの?」
 境内で遊ぶ子供たちに目を向け、みあおが首を傾げた。
『呼びかけに答えてくれたのが、子供たちだけだったんです。神を忘れ現実に生きる大人たちは、私の声を聴いても気のせいですませてしまったのでしょう』
「もしかして、この一ヶ月、ずぅっと祭やってたわけ?」
 この場合、郡司の言う祭りは”神を奉る行事”という意味での祭だ。
 男はこくりと頷いて、申し訳なさそうに俯いた。
『おかげで最低限の守りは維持できているんですけど・・・。力が足りなくて子供たちを返すに返せない状態が続いてしまっているんです』
「では、お祭りを復活させれば、子供たちを呼ぶ必要はなくなるわけですね」
 セレスティの提案に、男はゆっくりと顔を上げた。
「そっか、皆に思い出してもらえばいいんだもんね」
「そうね・・・お祭りのほうは必ずなんとかするから、子供たちを返してもらえないかしら?」
『ええ。よろしくお願いします』
 続くみあおとエマの意見に男は迷う様子もなく即座に頷いて、深々とお辞儀をして返した。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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整理番号|PC名|性別|年齢|職業

1415|海原みあお|女|13|小学生

1838|鬼頭郡司 |男|15|高校生

0389|真名神慶悟|男|20|陰陽師

0086|シュライン・エマ|女|26|翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

1883|セレスティ・カーニンガム|男|725|財閥総帥・占い師・水霊使い

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、いつもお世話になっております。日向 葵です。
 依頼をお受け頂きありがとうございました。

 探索方法が結構割れていたので、その部分が個別となっております。
 いつもの如く、それぞれのPC視点ごとに微妙に文章が違う場面もありますが。

 少しでも楽しんでいただければ、嬉しく思います。 
 では・・・またお会いする機会がありましたら、その時はよろしくお願いします。