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笑うペンダント
オープニング
「どうか何も言わずにこれを引き取って欲しい」
いきなり興信所に現れた男がそういって机の上に置いたのは真っ赤なルビーがあしらわれた西洋風のペンダントだった。
「まぁ、綺麗」
零がそのペンダントを覗き込みながら呟いた。
「それは、幸せになるペンダントなんだ」
その言葉に草間武彦が男に疑問の表情を向けた。
「なら、ご自分で持っていられては?」
「いや、幸せにはなるんだが、【身につけたもの】だけが幸せになれるんだ」
男の話を聴いていると、身につけた者に幸福が訪れる代わりにまわりの人間に災いがいくらしい。
「そんなもの持って帰ってくれ!」
草間は半分怒鳴るような感じで言い、ペンダントを男に返そうとしたが。そのペンダントが見当たらない。
「これ似合いますか?」
なんと、零が身につけてるではないか。慌てて零の所に行き外すように言おうとするが…。
だが……。
「宅急便で~す」
ちょうど宅急便が来て、止める間もなく零はそちらに行く。
「わぁ。前に送った懸賞があたってる」
零の喜ぶ声とは裏腹に草間の顔色は悪くなっていく。
ふらふらと椅子に座ろうとした時、草間の腕が机の上の湯飲みに当たり、中身は草間の足に零れた。
「あち!」
早くも草間に災いが降りかかった。
「ね?嘘じゃないでしょう?私の友人は宝くじの一等が当たる代わりに妻を亡くしました」
その言葉を聞いて、草間の顔色はますます悪くなってくる。
「では、処分ができましたら、こちらまで電話をください、謝礼金をお渡ししますので」
男はそういって机の上にあるメモに名前と携帯の電話番号を書いて出て行った。
残されたのは、懸賞に当たって喜んでいる零と頭を抱える草間の姿。
そして元凶のペンダントは頭を痛める草間をあざ笑うかのようにキラリと光るのだった。
視点⇒キリート・サーティーン
今宵も月が綺麗だ。特にこの身に届く落胆の感情。
「私を呼んだのはあなたですか?」
目の前には赤いペンダント。それに憑いている念の正体は若い女性だった。
『雅彦さん…雅彦さん…』
繰り返し『雅彦』という名前を言うばかりで、彼女はこちらに気づいてさえいない。
「貴方の望みを言ってください。私は貴方を裏切らない」
その言葉にようやく彼女がこちらに気づく。
『雅彦さんを死なせた…この世界を壊したい』
その瞬間、全身に何かが走るのを感じた。別に彼女に恐怖したわけではない。むしろ、その逆で嬉しかった。このような感情を持つ者に出会えたのだから。
「分かりました。貴方の望みを叶えましょう…まずは貴方を排除しようとする者…私が排除して差し上げますよ」
クックッと私の笑う声が夜の闇に響いた気がした。
翌日。
ペンダントは草間武彦という人物の手に渡った。渡した人物は帰る際にトラックに跳ねられて死亡した。彼女は幸せにした人物が離れていくのを許さないのだ。
ペンダントは草間零という女性が身につけ、その力を発揮している。零に幸運が訪れるたびに草間武彦に災いが降りかかっている。それは、もう見ていて哀れになるくらいだった。懸賞に当たったと零が騒げば、草間武彦に熱いお茶が零れ、ペア旅行が当たったと騒げば本棚が倒れてくるなど見ていて笑いが溢れてくるほどだ。
草間興信所に誰かは入ってくる。あれは…御影・涼。排除するべき人物の一人だ。御影の持つ『正神丙霊刀・黄天』は凄まじい威力を持つと聞いている。戦う際には気をつけなくてはいけない。御影・涼に遅れること三十分、もう一人の排除すべき人物、セレスティ・カーニンガムが車椅子に乗りながら草間興信所に入っていった。
時刻はまだ昼過ぎ…。まだ私が行動を起こすには早い時間だ。陽の光も全くダメというほどではないが苦手だ。それにこの時間、ここら一帯は人ごみで混雑する。どうもそれが苦手なのだ。若い女性はなぜか、私に近寄ってきて「お茶しない?」などと言ってくる。気色悪い事この上ない。まぁ、それはどうでもいいことかな、と思いながら夜を待つ事にした。
「そろそろですか…」
月が真上に見え始め、私は興信所に向かう。興信所の中には草間武彦と零の姿はない。ペンダントは気配からして、この部屋ではないですね…。
「どちら様ですか?営業時間はとっくに過ぎてるんですけど」
ニッコリと穏やかな表情で言ってはいるが本心でないことは明らかだ。
「セレスティ・カーニンガム……排除します」
私は勢いよくセレスティに飛び掛る、…だが、寸での所でかわされた。このような怪奇現象の調査員をしているだけあって、やはり強い。最もそれだけではないはずだが…。
「セレスティ!」
物音に驚いてやってきたのだろう。御影・涼が隣の部屋から出てきた。
「御影・涼…ちょうどいい。貴方も始末してあげましょう」
「誰だ…お前…」
「私はキリート・サーティーン。出来損ないの吸血鬼ですよ。以後、お見知りおきを」
私は頭を丁寧に下げた。まぁ、ココで死んでしまう貴方達には覚えてもらう必要はないですけど…。と心の中で毒づく。
「何のために私達と戦うんです?」
セレスティが戦闘態勢を崩さないまま問いかけてくる。
「それは貴方達が私の主人を壊そうとするからですよ。私はあれほどの激情とも言える感情の持ち主に出会ったのは初めてです。この世の全てを破壊すら出来うる」
それは本当の事だった。目の前の彼らは分からないと言った表情で私を見ている。
「だったら俺は黙ってるわけにはいかない」
御影・涼が『正神丙霊刀・黄天』を取り出し、私の方に構える。だが、その時セレスティが御影・涼に何かを話している。
「分かった」
御影・涼がそう呟くと隣の部屋に向かって走っていく。恐らくペンダントは隣の部屋にあるのだろう。
「ちっ」
私は小さく舌打ちをして、御影・涼を追う。
「させませんよ」
だが、セレスティの操る水が行く手を阻んできた。…鬱陶しい。
「どきなさい!」
私は吠えるように叫び、ざしゅ、とセレスティを斬りつける。この感触では相当深いところまでいったはずだ。だが、セレスティの表情に変化はない。驚く私の前でセレスティが水へと変わった。水を己そっくりにしてダミーを作ったのだ。
「!」
首の辺りにヒタと冷たい感触がした。セレスティが私の首にナイフをあてていた。
「こんな事しても無意味です。もうやめませんか?」
「貴方達がペンダントを渡してくれるなら大人しく引き下がりますよ」
あくまで二人の意見はばらばらだ。
「感じるでしょう?あの激しい感情を。あれは貴方達の手におえる物ではありませんよ」
するとセレスティはクスとあざ笑うように笑んだ。
「貴方こそ、彼、御影・涼を見くびりすぎですよ。彼がただの大学生だったなら今回の仕事は任されなかった」
その瞬間だった。隣の部屋からの彼女の感情が少しずつ小さくなっていることに気づいたのは…。
「……どういう事です?」
「彼は自分でも気づかないうちに人を穏やかにさせるんですよ。それがどんな悪霊であろうとね」
次第に彼女が消えていくのを感じた。
−私は貴方を裏切らない。
「裏切られたのは…私のほうですか…」
クックと笑う。セレスティはそんな私の姿を何も言わずに見ている。
「今日、引くべきは私のほうですね。次にあったときはこうはいきませんよ?」
では、といって頭を下げ私は彼らの前から姿を消した。別に私の条件を満たす者は彼女だけではない。
この世に人間という生き物が生きている限り憎悪、落胆、悲しみ、これらの感情が消える事はない。
『…………ぃ……』
ほら、また。
私を呼ぶ声は途絶える事を知らない。
「私を呼んだのは貴方ですか?私は裏切らない、嘘をつかない・・・・さぁ、願いをおっしゃってください・・・」
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】
1831/ 御影・涼 /男/19/大学生兼探偵助手
1986/キリート・サーティーン/男/800/吸血鬼
1883/セレスティ・カーニンガム/男/725/財閥総帥・占い師・水霊使い
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■ ライター通信 ■
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>御影・涼様、キリートサーティーン様、セレスティ・カーニンガム様
初めまして、瀬皇緋澄です〜!
今回は『笑うペンダント』を発注してくださりありがとうございました(感謝!
この話は皆様、プレイングがバラバラでしたので、個々の話では他の皆様の出番が少ないかと思います。
あくまで、『その方視点』をしてみました。
ですので、同じ『笑うペンダント』でも他の方の話では、最後の方でしか出てなかったりかと思います。
少しでも面白かったと思っていただければ幸いです。
何かご意見等ありましたら遠慮なくどうそ。
>キリート・サーティーン様
キリート・サーティーン様、初めまして。
この度は『笑うペンダント』に発注をかけてくださいまして本当にありがとうございます!
キリート・サーティーン様はどちらかというと悪役になってしまってます(汗
では、またお会いできる機会がありましたらよろしくお願いします♪
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