コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


『メール』
【オープニング】
「なによぉ? なにがどうなってるっていうのぉ? これはなんなのぉ…」
 私は携帯の液晶画面に次々と表示されるメールの着信記録を眺めながらうめいた。
 夕暮れ時の公園には誰もいない。
 砂場はただの小さな砂漠。忘れられていったスッコプがささってる。
 ブランコも静止したまま。錆びた鎖が軋む音すらあげない。
 滑り台の階段を昇っていく子どもらの軽やかな足音もしない。
 この公園のあちこちに染み付いた幼かった自分がこの夕暮れ時の公園から帰りたくないとぐずった声が聞こえてきそうなほどに、その小さな公園は沈黙に包まれていた。
 だって私以外には誰もそこにはいないから…。
 いや、この公園を出れば、なぜか墓標のように胸に不吉なざわつきと狼狽を私の心に与える夕暮れ時の橙色の光に包まれた観覧車をどこからでも眺められるこの街の至る所に人はいる。
 だけどその誰もが私には仮面をつけているように見えた。無表情と言う無機質な仮面を。
 私は小山形の滑り台の中央を走るトンネルの中で、両手で抱えた膝に涙に濡れた顔を押し付けた。
 わからない…。何がどうなっているのか、まるでわからないんだ…。
 相変わらず携帯電話には次々とメールが着信する。
 8年間、両親が離婚して離れ離れになりはしたが、姉が看護学校を卒業し働くようになったのを機に8年ぶりに一緒に姉妹2人で暮らせるようになった大好きなお姉ちゃんからのメールが…。
 だけど私にはそのお姉ちゃんが別人のように思えて……。
 そしてお姉ちゃんからのメールと一緒に、私にそう思わせるほどにお姉ちゃんの顔色を真っ青にし、明らかに挙動不信にさせた意味不明の『助けてぇ。私はここだよぉ…』というメールが次々に着信するのだ。
 私にはわからない。
 このメールはただの悪戯で、小さい頃から悪戯心一杯だったお姉ちゃんならこんな悪戯メール、小生意気そうな仔猫のように不敵に笑いながら撃退してくれると思っていたのに…。
 だけど、お姉ちゃんはこのメールを見て……。
「このメールは一体何なの?」
 そして恐怖を音声化させた私の涙に濡れた視界に映ったのは足下に落書きされたゴーストネットOFFというサイトのアドレスだった…。

【新着】三柴 綾香 mail  

 助けてください。訳のわからないメールが来て…。アドレスは****です。誰か、このメールの主が誰なのかを調べてください。これがどういう意味で、そしてなぜ、私の携帯に来て、お姉ちゃんとはどういう関係で…そういうのほんとにわからなくって知りたいんです。だけど私は怖くって…。怖い? そう、私は怖いんです。だってこのメールが来てから私は自分がいるこの世界にも疑問を覚えて…。ここは本当に私がいるべき世界なのって…? これ、どういう意味ですか。…怖い。怖いよ。本当に私が抱くすべての想いが怖いよ。
 お願いします。誰かこのメールを調べてください。そして私の不安を疑問を解消してください。どうか、本当にお願いします。
 誰か、助けてぇ。

LUNET 具現化した闇
 誰もいない深夜のインターネットカフェゴーストネットOFFで、ぶちっという静かな起動音と共に一台のパソコンが立ち上がった。
 そのパソコンの画面には三柴綾香の書き込みが表示されている。そしてその文面から感じられる一番色濃い恐怖に呼応するかのようにして他のパソコンもすべてが起動していく。
 最前のパソコンのように起動したそれらは自動的に掲示板に繋がり、そして画面上では三柴綾香の書き込みにレスが付けられていく……

『……条件が……揃ったか………』
 
 そこにあるパソコンのデスクトップすべてから発せられる光が持つ闇の気配が部屋の中央、一番最初に起動したパソコンの前に寄り集まっていく。
 濃密な闇の粒子が寄り集まり、それが凝縮して、 
 そして闇から闇が浮き上がる。
 いつの間にか起動しているパソコンは最初の一台のみになっていた。そしてそのパソコンの前に一人の背の高い細身の青年が立っていた。デスクトップから零れる光に照らされる彼の金髪の下にある容貌は蝋のように白く、そして画面に表示される三柴綾香の書き込みを見つめる瞳は血のように赤い。
 闇の麗人は純粋な闇の音色を奏でる。
「……純粋な『恐怖』……だが…まだ弱い……始まったばかり…か………この世界には……まだ上の……恐怖が…ある……」
 彼の呟きに応えるように、画面もぷつりと消えて、そして一条の光もなくなっただけど闇の麗人の持つ闇に比べればあまりにも希薄なその闇に溶け込むようにして、彼も消えた。
 後に残されたのはただ闇だけだった。

LUNEU 願いを叶える者
 彼は叶える者。
 800年前に吸血鬼によって作られた13番目の出来損ないで、吸血行為を戒められた吸血鬼。限りなく概念に近い存在であり、四つの条件を満たした者の願いを叶えるべく闇より具現化し、そしてその願いを叶えればまた闇へと消えゆく者。それが彼、キリート・サーティーン。
 だから彼は三柴綾香ではなく…
 彼女以上の恐怖を持つ者の前に現れる。
 そこは深夜の公園。
願いを叶えるための条件…1、時間帯が夕方から夜であること…
「だ、誰、貴方ぁ?」
 深夜の公園で携帯電話を持って泣いていた彼女は、涙と鼻水でぐしゃぐしゃに歪んだ顔に恐怖に近い困惑の表情を浮かべた。
 無意識に後ずさっていた彼女は足をもつれさせて、その場に尻餅をついてしまう。そんな彼女を嘲るでもなく突如、公園にあった夜の闇より浮き上がるようにして現れた闇の麗人は静かな声で一片の不純物も無い闇の音色を奏でた。
「私はキリート。キリート・サーティーン。三柴綾香ではなく、あなたの願いを叶える為に具現化した闇」
 …2、願いを叶えるための対象が1人であること。彼は複数は叶えられない。
 彼女はいやいやをするように顔を横に振った。
「知らない。私は貴方なんか知らない。なによぉ、あなたぁはぁ? なんなのよぉ」
 癇癪を起こした子どものように喚き散らしながら携帯を投げつけた彼女にしかしキリートはただ丁寧に答える。
「あなたのその色濃き恐怖故に」
 …3、恐怖、絶望、悲しみ、落胆、この四つの感情の内の一つを強く発していること。
「だから私はこの世界に具現化する事ができました。あなたの願いを叶える為に、三柴綾乃様…いえ、あなた様は……」
「やめろぉー」
 キリートの声は彼女の声に掻き消される。
 世界がざわりとざわめいて、異常な狂気に歪んだ。
 そしてその時にはキリートは彼女が見た白昼夢であったかのように消えていた。

LUNEV 観覧車
 三柴綾香は深夜の街を走っていた。どこまで行ってもそこは深い夜の闇に包まれていて、そしてどこまで行っても出会う人の顔は仮面を付けているように見えた。
「なによぉ、これはぁ。なんでぇ、どうしてぇ、どこまで行ってもぉ街から出られないのよぉ?」
 そう、彼女は彼女が住む街から出られない。そして彼女がそれに気づいた途端に携帯にメールが着信する。それにはこう書かれていた。

 ー 私はここだよぉ。気づいて。助けてぇ −

 それを読んだ彼女は虚脱したようにその場に座り込んでしまった。
 そしてしばし茫然。
 それから彼女はぎこちない動きで携帯を操作し始めた。数秒後に流れたのはメールの送信音だ。
 そしてその次の瞬間にメールの着信音。
「私は観覧車の中にいるよ…観覧車に来いって言うのね」
 ぼそりとそう呟いた彼女は頼りない感じで立ち上がり、そしてふらふらとした足取りで観覧車に向かった。
 そしてそれを闇に紛れながら見つめていたキリートも闇へと溶け込んでいった。

LUNEW 箱庭
 綾乃が観覧車に行った時にはもうすべてが遅かった。
 綾香は綾乃をとても悲しげな瞳で見た。
「す、すべてを知ってしまったのぉ?」
 綾香は綾乃に頷いた。
 そして綾乃は綾香と手を繋ぐ8歳の頃の綾香をものすごい形相で睨みつけた。幼き日の綾香は今の綾香の陰に隠れてしまう。そして綾香はそんな綾乃に涙声で謝った。
「ごめん。ごめんね。私が弱いばかりに…。私が弱くって現実を受け入れられなかったから…だからこんな事になってしまって……だけどもういいの。もういいのよ」
 それに綾乃が……
「何がヨぉ。何がもういいのよぉ? あんた、怖いんでしょう。お姉ちゃんがいない世界が怖いんでしょう。たった独りぼっちになってしまって、未来にも希望も持てなくって、無慈悲なだけの現実が怖くって、怖くって、怖くってしょうがなくって…それでェッ」
「うん、自殺したんだよね。お姉ちゃんのお葬式が終わった夜に」
 綾香が泣き笑いの表情を浮かべながら漏らした言葉に、彼女の前にいた綾乃は虚脱したようにがくりと座り込んだ。いや、その姿はいつの間にかもう一人の高校生の三柴綾香になっていた。
「ここは私が作り出した世界。死に逝くほんの一瞬の時間に見ている長き夢の世界。観覧車の中で…8年前にお姉ちゃんと泣きながらいつか一緒に二人で暮らそうと約束しあった観覧車に貴女に閉じ込められていたのは未来に希望を見る私の心。そしてこの世界を作ったのはお姉ちゃんがいなくなった世界に独りぼっちになることを嫌った私の悲しみと恐怖の結晶である貴女。貴女はそんな私のためにお姉ちゃん役をやっていてくれていたのね。ありがとう。そしてごめんね。だけど私は…もう…」
 綾香に未来に希望を見る心が同化していく。それを見ながら彼女はいやいやをするように顔を横に振った。そしてそんな彼女に綾香が泣き笑いのだけどとても綺麗に見える笑みを浮かべながら手を伸ばして…
「いやぁー。私は、私は、この世界から目覚めたくなんかないぃ」
「それがあなたの願いなのですか?」
 いつの間にか世界の時間が止まっていて、そしてキリートが彼女の後ろにいた。
「あ、あなた…どうして…」
「あなたは四つの条件を揃えられた」
 …4、その場に死の気配があること。
「私は条件を揃えられた方の願いを具現化できる。死や記憶や感情にいたるまでを現実から切り離し消し去ることができます。さぁ、願いをおっしゃってください」
 
PLENE
「お姉ちゃん、早く。早く」
「もう、急かさないでよ、綾香。そんなに慌てなくたって観覧車は逃げやしないわよ」
「えー、だって8年ぶりなんだよ。しかもあの観覧車はぁ…二人の約束の…場所……」
「どうしたの、綾香?」
「え、あ、うん。なんかわかんないけど…観覧車が墓標みたいに見えて…」
 と、その言葉を観覧車を指差したまま口の中で綾香が呟いた時、彼女の鞄に入れられている携帯がメールの着信を知らせた。
 ーFINー

『私は裏切らない、嘘をつかない……さぁ、願いをおっしゃってください……』

□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

1986/キリート・サーティーン/男/800/吸血鬼

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

こんにちは。初めまして。
このたび担当させていただいたライターの草摩一護です。

最初、キリートのデーターを見た時はその魅力に舌を巻いてしまいました。
OMC様にライター登録させていただけて何が面白いって、
やっぱりそれは多くの色んなキャラに出会える事です。
キリート、僕の心をがっちりと掴んでくれました。
今回の『メール』はそんなキリートにぴったりな物語だと想うのですが、
お客様はどうでしょう?(ちなみに今回の物語はお客様が最初で最後のお客様なのですよ♪)
ラストはちょっと意味深で、いったいキリートは姉の死を無かった事にしたのか?
それとも作り出された夢の世界が永遠に続く事を叶えたのか?
と、ちょっとわかりませんよね。^^
お客様はこの二つのどちらだと思いますか?^^
僕もキリートの設定表を見ながら、色んなラストを考えたのですが、
その結果がこのようなラストでした。
彼は願いを叶える者。故に四つの条件を揃えた者の願いは絶対に叶える。
ならばそれがどんな事であろうと・・・
そんな彼の姿を描けたら、と思いまして。
どうでしょうか、お客様?
今回の物語、気にいっていただけたでしょうか?
もしも気に入っていただけたのでしたら、作者冥利に尽きます。

また、ご縁がありましたら、その時はどうか僕にキリートを書かせてください。
その時は誠心誠意書かせていただきます。
それでは失礼します。