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『人形師の思惑は永久に』
【オープニング】
「う〜ん、編集長…お願いします。没はやめてください。経費が足りません。えっ、取材費を自費だなんて…」
などと三下忠雄が仕事にはシビアな美貌の女上司である碇麗香の悪夢にうなされていると、突然携帯が鳴り響いた。
「……は、はい…って、あ、おはようございます。編集長。…へ？ パソコン」
パソコンを起動させる。言われた通りネットに繋ぎ…
「＊＊美術館から、人形師海道薫の最後の人形が盗まれる、って…これって編集長……」
『ええ、そうよ。江戸末期に活躍した天才人形師海道薫、最後の人形のテーマは永遠に動き続ける人形。そのために彼はその人形にある魔性の細工をした。それはその人形が絶えずさ迷う人の魂を呼び寄せ、そのボディーにその呼び寄せた人の魂を宿らせるということ。そしてその目論見は成功した。人形には人の魂が宿り、人形は動き出した。そう、その魂の体となった。そして色んな事件を引き起こしたわよね。想いを遂げて人形に宿っていた魂が成仏しても、次の魂がまるで順番を待っていたかのように空席となったその人形に即座に宿るから…永久に動き続ける人形…海道薫の願いは叶った』
三下は魂が群がる人形を想像して、ぞくっと鳥肌がたって、椅子の上で体を丸めた。実は彼は先々月号の時にこの数十年ぶりにある素封家の蔵で発見されたその人形（人形には呪符によって封印がされていた）の取材をしたのだ。（その時に人形に怒り、憎悪、悲しみ、喜びなどがブレンドされたような異様な雰囲気を感じて気絶してしまったのは碇には秘密だ）
「だ、だけど、この人形が消えたって…まさかｗ大学の大月教授がナンセンスだって呪符を剥がしたせいで人形に魂が宿って…それで人形がって言うかその人が想いを成就させるために消えた……？」
『ええ、そうね。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。とにかく面白いネタには違いないわよ。三下君。さっそくこの現世に蘇った魂が宿る人形が紡ぐ物語を調査してちょうだい』
MELODY♪ 夢
夢を見たの。
心地良いまどろみの海から意識が醒めても、それでも見た夢の残滓はまだあたしの胸にあって。
だからあたしは胸にぽぉっと灯ったその優しい温もりを想って涙を一筋流したの。
見た夢はたくさんの人の邪な心に触れて淫魔として現代に生きるようになる前の人形だった頃のあたしにたくさんの愛情を注いでくれたあたしのお父さんの夢。
耳を澄ませば聞こえてくる、お父さんがいつも人形だったあたしを膝の上に乗せて丁寧に髪を櫛で梳きながら願ってくれていた言葉が。
『おまえは私が心を込めて作り上げた最高の人形なのだよ。綺麗に美しく。丁寧に心を込めて作り上げたね。私の願いはただ一つ。いつかそんなおまえがおまえを心の奥底から本当に大事に愛でてくれる人に出会える事だよ。だからどうかいつかそんなにお人に巡り合って幸せになっておくれ』
あたしは胸にあるその懐かしい記憶の灯火を消してしまわないようにそっと自分の体を抱きながら体を丸めて、しばらく泣いた。
MELODY♪♪ でこ（人形）
（あ〜ぁ、今日はせっかくの休みだってのによ）
それは聞こえるというのとは感覚が違うの。心の奥底から声が染み出してくるという感じ。いつもは仲がいい弟の日向のそんな愚痴にも優しいお姉さんのあたしは反応してあげるんだけど、今日は違う。あたしは愚痴る日向をずっと無視してる。
（おい、聞いてるのかよ、日和。日和だって買い物に行きたいって言ってたじゃん。ほんと、ついてないよな。せっかくの休みに日舞の練習が入るなんてさ。あ〜ぁ）
「・・・」
…無視するつもりだったけど、あたしはいい加減我慢できなくって、握り締めた拳を震わせながら立ち止まった。
「って、せっかくの休みに日舞の練習になったのは誰のせいなのよ？ 日向が先週の練習日にナンパしてきた男の人達と喧嘩してお師匠様の練習に遅れたからでしょう。そうよ。そうなのよ…そいじゃけー、あたしがしごんぼーのわれの……って…ばりかわいい♪」
（なんだよ？ …それだから、あたしが悪戯っ子の俺の…って、はあ？）
「だから、ほら、あの公園の桜の樹の下にいる娘がすごくかわいいって」
あたしが興奮しながら指差すその子は見た感じは保育園の年長さんぐらい。
髪は艶やかな黒で、腰までの長さ。
着ている服はだいぶレトロな感じの着物だけど、その小っちゃな娘にとても似合ってる。
顔はとても小さくって、肌は新雪のように透けるように白くって、眉毛の上で切り揃えられた前髪を額の上で躍らせながら飛び跳ねる彼女の大きな黒瞳はひらひらと降るように落ちてくる淡い薄紅色の桜の花びらを見つめていて。
なんとなくそんな彼女は見た感じは生まれたばかりの仔犬か仔猫が溢れる好奇心を押さえきれなくって、それでそれを体で目一杯に表現してるって感じ。だから見ていてとても、
「かわいいなー♪」
思わず顔がにへらーとなってしまう。
その娘は本当に生まれたばかりの仔犬か仔猫のように、風に舞って自分を包み込んでくれる薄紅の舞姫たちに瞳を輝かせながらきゃっきゃっと喜んで、そうかと思えばひらひらと飛ぶ蝶々を見つけてはそれを追いかける。
本当にものすごくかわいい。だけど彼女を見ていると…
（なあ、日和。おまえも感じる？）
「あ、やっぱり日向も」
そう、あの娘を見てると、胸の辺りがこうきゅっとなるこの感触。なんだろう、このなんか懐かしいような感じは？
蝶々はあたし達の方へと飛んできて、進路の先にいるあたしを避けるように急上昇。そしてその蝶々を追いかけて走ってきたその娘はあたしの前で立ち止まると、高度をあげて青い空に向かって飛んでいった蝶々をじっと視線で追う。本当にその感じは生まれたばかりの好奇心に溢れる仔犬か仔猫みたいだ。きっと、あたしの事も目には入っていない。
そんな彼女の前であたしはしゃがみこんで、視線を彼女と合わせると話し掛けた。
「こんにちわ♪」
と、そのあたしの声に誘われるようにあたしの顔を見るその娘。小首を傾げて、さらりと揺れた黒髪が顔にかかって、それからきっちりと６秒後…
「うひゃぁ」と、体を後ろに思いっきり逸らして、そのまま尻餅をついてしまう。
「うわぁ。ごめん。大丈夫？ 驚かせちゃったね」
あたしはその娘を慌てて抱き起こした。
その娘はまだ驚いているようで、目と口を大きく開いて瞬きもしないであたしの顔を見つめてくる。ちょっと、そんなに見つめられるとさすがのあたしも…、
「やーねー。いくらあたしがかわいいからってそんな見られると照れるじゃない♪」
（よくもまぁー、しゃあしゃあとそんなセリフを）
「われは黙っとれ」
などと他人にはわからない姉弟の心和む会話を交わしてると、小首をかわいらしく傾げてマジマジとあたしの顔を覗き込んでいたその娘は、さらりと揺れた前髪の下にある顔に不思議そうな表情を浮べた。
「人形の私が動いていても驚かないの？」
「人形？」と小首を傾げて、…３秒後「え、われもでこぉー」
あたしは思いっきり大声でいがっていた。
（大声で叫ぶなよ、恥ずかしい）
MELODY♪♪♪ 花言葉
「はい。アイスケーキ。冷たくって美味しいよ」
足をぶらぶらとさせながら青い空を見上げていたでこちゃんは、渡されたアイスケーキに目を大きくさせて、ちろりと舐めた。転瞬、ものすごくかわいらしく顔を綻ばせる。
「ほぉー。冷たーい。甘ぁーい。美味しいぃー」
「うんうん。冷たくって、甘くって、美味しいよね、アイスケーキ♪」
（アイスケーキじゃなくって、アイスクリームだろ。広島弁じゃなくって標準語で教えてやれよ）
「日向、うるっさい。それに広島に失礼！」
（あー、…はいはい）
あたしもでこちゃんの隣に座って、同じくアイスクリームをぺろりと舐めて顔を綻ばせる。そして隣で夢中になってアイスクリームを舐めているでこちゃんに話し掛けた。
「それにしても驚いたなー。あたし以外にも心を持った人形がいるなんて。それも人間になってるんだもん」
と、何気なく言ったあたしの言葉から３秒後にあたしの顔を口の周りをアイスクリームで汚した顔でマジマジと見て、そして更に６秒後に目と口を大きく開けて驚く彼女。
「えー。私、人間になってるのぉー？」
「え、あ、うん」
「うーん、そっかー。私は人間になってるのかー。困ったー」
と、今度はあたしが小首を傾げる。
「え、どういう意味？ なんで人間になったのが困るの？」
あたしは心と肉体を得た時はものすごく嬉しくって、それは今も変わらなくって、だから彼女の言ってる意味が理解できない？ だって、だからアイスクリームだって食べられるんだよ？
「んー、私、美術館に帰ろうと思ってたから」
「え？ え？？ え？？？ なして美術館にいぬる？」
アイスクリームを舐めながら小首を傾げる彼女。
（広島弁で言われたって、こいつにはわかんないだろう。落ち着けって、日和）
「え、あ、そっかー。えっと、どうしてでこちゃんは美術館に帰るの？」
「ん？ だってそれが私の存在理由だから。私はね、たくさんの人間さんの体になったり、私を見に来てくれた人達に喜んでもらうのが存在理由なの。私を作ったお父さんや館長さんがそう言ってたの。だからもう少し遊んだら帰らなきゃ。あ、でも、私は人間になったんだっけー。うーん、そうなるとどうなるんだろー。困ったー」
コーンをぱりぱりと食べ終わると、胸の前で腕を組んででこちゃんは顔を傾げた。
（日和）
うん、わかってる。
「あのね、でこちゃん」
「ん？」
あたしはあたしの顔を見上げるでこちゃんの口の周りをそっとハンカチで拭きながら、心の中にあるずっとあたしがあたしになってから想ってきた物を上手く表現できるかわからないけどとにかくそれを口から紡いでみる。
「素直に生きればいいと思うよ」
「え？」
「えっと、でこちゃんが言ったのはでこちゃんが人形の時の存在理由でしょう？ でも、でこちゃんは今は心と体を持った人間じゃない。その人間のでこちゃんには人間のでこちゃんの存在理由があるんだよ」
「そうなの？」
小首を傾げるでこちゃん。頷くあたし。
「んーと、その私の存在理由ってなに？」
「えっと、それはあたしにもわかんない。でもね、それはいつか絶対に見つかるからだからそれまではでこちゃんがやりたいと想う気持ちに素直に生きればいいんだと思うよ」
「そうなの？」
「うん、そうなの。あたしも前は人形だった。あたしのお父さんはあたしがあたしを大事にしてくれる人と出会える事を望んでくれていたの。それが人形のあたしの存在理由だったと想うのね。いつかそういう人と出会って大切にしてもらえることが。だけどあたしはほら、でこちゃんみたいに心を持ってこうなったでしょう。だから人形の時の存在理由も変わちゃったの。だけどあたしはそれでも自分の想いに正直に素直に生きたよ。それで今は幸せ一杯夢一杯、恋も一杯で元気にやってるの。それはお父さんが願ってくれていた事とも通じていると想うのね。とても大切に想える彬とも出会えたんだしね♪ それが今はあたしの一番なの。うん、だからでこちゃんも自分の今ある気持ちに素直になればいいと思うよ。人形だった頃の存在理由に縛られずにさ。そしたらいつかでこちゃんの新しい存在理由になる大切な物にも出会えるから。だからそれまではそのためにも生きようよ。せっかく心と体を手に入れたんだから。ねえ、でこちゃんはどうしたい？」
あたしがそう言うと、でこちゃんは腕を組みながら小首を傾げて、だけどすぐにこう言った。
「知りたい。色んな綺麗な物を見て、楽しい事やって、アイスケーキみたいな美味しい物をたくさん食べたい」
「うん、そっかー。だったらそうしようよ。その想いに素直に生きればいいんだよ」
そこであたしはとてもいいアイデアが浮かんで、それで胸の前でぱんと手を叩いた。
「だったらでこちゃんがでこちゃんになれたのを祝って、あたしが名前をつけてあげる」
「名前？」
「うん、名前。でこちゃんの誕生日は四月四日でしょう。その日の誕生花はカスミソウ。だからでこちゃんの名前は今日から香澄♪」
「香澄？」
「うん、香澄。カスミソウの花言葉はね、清い心なんだよ。香澄ちゃんにぴったりでしょう」
「香澄」と、何回も呟いていた香澄ちゃんは「香澄！」と嬉しそうに叫ぶと、ものすごく嬉しそうに微笑んで、そしてベンチの上に立つと、あたしの頬にキスをした。あたしがびっくりして、頬を押さえると、香澄ちゃんはえへへと微笑んで、そして…
「日和ちゃん、ありがとう」
と、言って、そして突然吹いた一陣の風に咲いていた桜の花すべての花びらが舞い散ったかのような薄紅の嵐に包まれて、そしてその中に溶け込んでしまうかのようにあたしに両手で手を振りながら消えていった。後に残されたのは桜の花びらにコーディネートされたあたしと薄紅の花霞み。あたしはしばしその無限とも思える薄紅の花びら舞い漂う夢幻の光景に茫然とした。
（香澄は人間じゃなくって神様の部類の奴だったんだな）
「だね」
あたしはこくりと頷いた。そして胸にある灯火が消えてしまわないようにそっと胸に手をやりながら、あたしの半身に話し掛ける。
「ねえ、日向…」
（あん？）
「…ううん、なんでもない」
（なんだよ、変な奴）
だけどそれを言うのはやめた。きっと日向は口に出さなくってもわかっててくれるから。
（なあ、ところでよ、日和）
「ん？」
（いいのかよ、お師匠様の練習に行かなくって？）
「……あ」
すっかりと忘れていた。でもまぁー、
「いいのよ、次の練習日に日向に怒られてもらうから」
（なんだよ、それ…。あ〜ぁ、日和には敵わないよ）
日向の辟易とした声。あたしはくすっと笑ってしまう。
「そうよ。恋する乙女は強いのよ★」
（あー、はいはい…）
あたしと日向はそうやって笑いながら、舞い漂う薄紅の花びらをしばし見つめていた。香澄ちゃんのように♪
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■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
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【整理番号 ／ ＰＣ名 ／ 性別 ／ 年齢 ／ 職業】
2021／馬渡 日和／女／15／中学生（淫魔）
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■ ライター通信 ■
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こんにちは、初めまして。
このたび担当させていただいたライターの草摩一護です。
どうでしょうか、お客様。
今回の小説、お気に召していただけたでしょうか？
プレイングにほのぼの雰囲気、そして日和さんのお人形だった過去が、
書いてあったので、それらを最大限に生かし、
尚且つ幸せ一杯夢一杯、恋も一杯の日和さんの純真さとかが感じられるようにと書かせていただいたのですが？
もしもお気に召していただけたのなら作者冥利に尽きます。
えっと、ところでこの小説では日和と日向がこのように普通にしゃべりあっている形で書かせていただいたのですが、これはよろしかったですか？
もしもここら辺がお客様のイメージと違っていたら、すみません。＾＾；
二人は基本的に別人格で、姉弟のような感じとなっていたので、じゃあ日和＝日向ということで、
こういう形にしようと想って書いたのですが。
もしも、この二人の感じがお客様のイメージ通りだったらものすごく嬉しいです。
僕自身、この二人のやり取りを書くのはとても楽しかったので。
この小説は春・桜・カスミソウ、ととても綺麗で優しい物を詰めました。
これは日和さんの設定を読みながら無意識に脳裏に映像が浮かんできたのです。
もう人形はかわいらしい座敷わらしのような感じで、桜の樹の下で花びらと戯れていて、
それで日和さんと出会ってって。
もしもまた宜しければ、日和＆日向を書かせてくださいね。
この子たちを使ってまた心温まるストーリーが書けたらなーと想いますので。＾＾
その時は誠心誠意書かせていただきますので。
クリエーターズショップでドリームコーディネートという部屋を作っているので、
そこでまたちょくちょくと情報を載せていくので宜しければ見てやってください。
それでは失礼します。
PS広島弁はネットで調べて書いたのですが、文法とかが間違っていたらすみませんです。＾＾；
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