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笑うペンダント
オープニング
「どうか何も言わずにこれを引き取って欲しい」
いきなり興信所に現れた男がそういって机の上に置いたのは真っ赤なルビーがあしらわれた西洋風のペンダントだった。
「まぁ、綺麗」
零がそのペンダントを覗き込みながら呟いた。
「それは、幸せになるペンダントなんだ」
その言葉に草間武彦が男に疑問の表情を向けた。
「なら、ご自分で持っていられては?」
「いや、幸せにはなるんだが、【身につけたもの】だけが幸せになれるんだ」
男の話を聴いていると、身につけた者に幸福が訪れる代わりにまわりの人間に災いがいくらしい。
「そんなもの持って帰ってくれ!」
草間は半分怒鳴るような感じで言い、ペンダントを男に返そうとしたが。そのペンダントが見当たらない。
「これ似合いますか?」
なんと、零が身につけてるではないか。慌てて零の所に行き外すように言おうとするが…。
だが……。
「宅急便で~す」
ちょうど宅急便が来て、止める間もなく零はそちらに行く。
「わぁ。前に送った懸賞があたってる」
零の喜ぶ声とは裏腹に草間の顔色は悪くなっていく。
ふらふらと椅子に座ろうとした時、草間の腕が机の上の湯飲みに当たり、中身は草間の足に零れた。
「あち!」
早くも草間に災いが降りかかった。
「ね?嘘じゃないでしょう?私の友人は宝くじの一等が当たる代わりに妻を亡くしました」
その言葉を聞いて、草間の顔色はますます悪くなってくる。
「では、処分ができましたら、こちらまで電話をください、謝礼金をお渡ししますので」
男はそういって机の上にあるメモに名前と携帯の電話番号を書いて出て行った。
残されたのは、懸賞に当たって喜んでいる零と頭を抱える草間の姿。
そして元凶のペンダントは頭を痛める草間をあざ笑うかのようにキラリと光るのだった。
視点⇒セレスティ・カーニンガム
草間さんからの電話で「面倒ごとを引き受けてくれないか?」とあった。別に暇ではないんですが、他ならぬ草間さんからの頼みですからね。
話の内容を聞くと、自分を幸せにして、他人を不幸にするという何とも興味深いペンダントの事だった。
「所有者等を調べてもらえたら助かるんだが…」
「分かりました。今回は私だけですか?」
「いや、御影君にも頼んである」
御影・涼。それは数少な…くはないが友人の一人だ。
「分かりました。ではお昼過ぎに伺いますね」
電話を切り、ふぅ…と溜め息を一つ漏らした。それから私はパソコンや新聞などと睨み合いながら少しでも役に立つ情報を集める。
「あれ…この名前…」
最近の新聞に出ていた名前は先程草間さんから聞いた依頼人の名前と同じだった。
「…トラックに跳ねられ…ですか」
時期的に偶然とはとても思えない。過去の所有者も変死としか書いてなく、どうもこのペンダントに関わると死ぬというのは嘘ではないらしい。
「これは…急いだ方がいいかもしれませんね」
私は車を出してもらい、興信所まで行ってもらう。車を降ると心配そうな顔をした運転手がいた。
「ここで大丈夫ですよ」
にっこりと笑って言うと、そうですか、といって運転手は車に乗り、去っていった。
もちろん帰っていいといったのは私です、いつまでここにいるかわかりませんから…。
興信所の中に入ると、ちょうど涼君がテレパシーでペンダントを視ていた。
「何か分かりましたか?」
彼は一瞬驚いたようだが、私だと気づき振り返る。
「あー…雅彦って男が死んだのが原因みたいだ…」
…結論から言われてしまいました。私としては少し前から言ってほしかったのですが、まぁ…いいでしょう。
「そう、ですか。私は所有者関係を調べてみたんですよ」
私は調べた記事をまとめたファイルを彼に渡す。
「所有者?」
彼はパラパラとページをめくる。
「なんだ…これ…変死ばかりじゃないか」
「ペンダントに関わった人物の友人、親、兄弟達です。最後のページを見て下さい」
最後?と彼は首を傾げながら、彼は最後のページを見た。だが、何のことだか分からないだろうと苦笑しつつ。私はその姿を見ている。
「ペンダントの所有者の最後です。五人目はペンダントを押し付けてきた人物ですよ」
その言葉に彼は驚いたのか、慌てて依頼書の名前と記事の名前を交互に見比べている。
「所有者も最後はペンダントに殺されてしまうみたいですね…」
「じゃあ…零ちゃんも?」
このままペンダントを身につけ続ければ、この新聞の記事と同じようになってしまうだろう。
「じゃあ、早く封印するか、破壊するかしないと…」
「う〜ん…ペンダント見せてもらえます?」
私は彼からペンダントを受け取り、目の高さまであげた。
「宝石というものはいわくつきのほうが美しいといいますが本当ですね」
私はどちらかと言うとペンダントの破壊には反対だった。美しいものを破壊するなんてことは考えられなかったが零ちゃんの身の安全がかかっているのなら、答えは皆無だ。
「少し休みませんか?きみも疲れたでしょう?封印にしろ破壊にしろするのは夜になりそうですから…」
どうも彼の顔色が悪い。恐らく原因は先程のテレパシーだと思う。死者を何人も出しているペンダントを視たのだ。負担がかからないはずはない。
「それじゃあ…少し休ませてもらうよ」
そう言って彼は隣の仮眠室に消えていった。
それから日が落ちるまで、私はソファに座り本を読んでいた。
「……誰かきましたね」
私は本を閉じ、ソッと隠れその人物がくるのを待った。夜の闇に輝く金の髪、映える赤い瞳の男が入ってきた。
「どちら様ですか?営業時間はとっくに過ぎてるんですけど」
とりあえず笑って言ったが、男が怪しい事に変わりがない。
「セレスティ・カーニンガム……排除します」
名も名乗らない彼は、勢いよく私に飛び掛ってくる。私はそれを間一髪で避ける。
(この男……強い)
男は周りなど気にしない様子で、攻撃により本棚は倒れ、金魚のいない金魚鉢は床に落ちて割れる。
「セレスティ!」
この騒動では流石に安眠できなかったのか、涼君が慌てて隣の部屋から出てきた。
「御影・涼…ちょうどいい。貴方も始末してあげましょう」
「誰だ…お前…」
その疑問は正しい。名も名乗らない奴から命を狙われるいわれはないのだから。
「私はキリート・サーティーン。出来損ないの吸血鬼ですよ」
キリートはわざとらしく頭を下げて、以後お見知りおきをと付け足した。
「何のために私達と戦うんです?」
私は戦闘態勢を崩さずに問う。
「それは貴方達が私の主人を壊そうとするからですよ。私はあれほどの激情とも言える感情の持ち主に出会ったのは初めてです。この世の全てを破壊すら出来うる」
「だったら俺は黙ってるわけにはいかない」
涼君が『正神丙霊刀・黄天』を構え、キリートに向ける。今にも襲い掛からんとする彼に私はソッと話した。
「私があの男を何とかします。ですからキミはペンダントを破壊しに行ってください」
彼が少しだが不服そうに「分かった」と答え、隣の部屋まで走る。キリートは小さく舌打ちをして涼君を追う。
「させませんよ」
私はここにある全ての水を使いキリートを抑える。
「どきなさい!」
吠えるように叫ぶと同時にキリートは私を斬りつけてきた。
だが、キリートの表情は驚きに満ちている。その一瞬の隙をついて彼の首もとにナイフをあてる。
「!」
「こんなことをしても無意味です。もうやめませんか?」
「貴方達がペンダントを渡してくれるなら大人しく引き下がりますよ」
どこまでも強気な男ですね。二人の意見は平行線のようにかみ合う事はない。
「感じるでしょう?あの激しい感情を。あれは貴方達の手におえる物ではありませんよ」
その言葉に自然と笑いが零れた。
「貴方こそ、彼、御影・涼を見くびりすぎですよ。彼がただの大学生だったなら今回の仕事は任されなかった」
その瞬間、隣からの落胆、憎悪、負の感情が少しずつ消えていくのを感じた。
「……どういう事です?」
「彼は自分でも気づかないうちに人を穏やかにさせるんですよ。それがどんな悪霊であろうとね」
完全に負の感情が消えるまでに、そう長い時間はかからなかった。
「裏切られたのは…私のほうですか…」
ポツリとつぶやいたのは彼だった。私はゆっくりとナイフを下ろす。負の感情が消えた今、彼と戦う理由はないのだから。
「今日、引くべきは私のほうですね。次にあったときはこうはいきませんよ?」
では、といって彼は姿を消した。彼が消えたのを確認して私は涼君のところに行く。
「終わったんですか?」
「あぁ…あのキリートとか言う男は?」
「彼女が昇っていったのを感じたようで消えましたよ」
「何がしたかったのだろう」
裏切られたのは私−そういった時の彼の表情は少しだけ淋しそうにも見えた。
「草間さんも、これで安心だろ」
「そうとも言えませんよ?悲しむ人がいます…」
私の言葉に「え?」と言った表情で涼君が振り向く。
「わかりませんか?」
「………あ………零ちゃん…」
そう、ペンダントの事件で一番得をしていた彼女だ。
「怒られるでしょうね」
「……覚悟しとこうぜ」
そして、次の日。
予想通り、彼女から説教を食らった。私はと言えば、興信所を水浸しにした事もかねて、草間さんからも説教を食らった。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】
1831/ 御影・涼 /男/19/大学生兼探偵助手
1986/キリート・サーティーン/男/800/吸血鬼
1883/セレスティ・カーニンガム/男/725/財閥総帥・占い師・水霊使い
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■ ライター通信 ■
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>御影・涼様、キリートサーティーン様、セレスティ・カーニンガム様
初めまして、瀬皇緋澄です〜!
今回は『笑うペンダント』を発注してくださりありがとうございました(感謝!
この話は皆様、プレイングがバラバラでしたので、個々の話では他の皆様の出番が少ないかと思います。
あくまで、『その方視点』をしてみました。
ですので、同じ『笑うペンダント』でも他の方の話では、最後の方でしか出てなかったりかと思います。
少しでも面白かったと思っていただければ幸いです。
何かご意見等ありましたら遠慮なくどうそ。
>セレスティ・カーニンガム様
初めまして、
この度は「笑うペンダント」に発注をかけてくださりありがとうございます!
また、お会いできる機会がありましたら、よろしくお願いします♪
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