|
猫とウサギと座敷童子
0.オープニング
このところ、草間興信所には…ナマモノが住み着いている。
まず、頭乗り猫・焔。
前に事件で助けた洋服姿の座敷童子・五月
饅頭から変身したらしいウサギ
とてもにぎやかではある。
その分経費がかさむというもの(五月はともかくナマモノは)
零は、彼女らが大好きであるが、兄草間はあまり良く思っていない。
そこで、草間は…有る試験を与えた。
「五月、猫とウサギを引き連れてこの迷い人をさがすんだ」
と写真と依頼人と名前などの書類(コピー)を渡した。
「え〜」
「うにゃにゃ!」
不平を言う五月と焔。
「兄さんあんまりです。五月ちゃん、焔ちゃんは賢いしウサギのすぴちゃんかわいいです…」
「おいおい、このナマモノはな…」
「兄さん非道いです!」
零は怒って興信所から出て行ってしまう。力任せにドアを閉めたものだから、蝶番が壊れドアはボロボロに…。
「あ…」
「いじめた〜」
「にゃー」
「すぴすぴ」
「五月蠅い。お前達が居座り続けたいのなら、俺の仕事を手伝え…」
「むー?」
写真を見る五月。
「あ、おじいさん」
「ああ、…行方不明になっている老人、浅羽武を探してきてほしい。何か事件に巻き込まれたそうだ」
浅羽とは古美術商を営む老人だが、行方不明になったので薫が急いで助けを呼んだのだ。
「他の助っ人と共に、探してきてくれ…お使い」
「大事なお仕事…でも…引き受ける!」
1.散々言われる草間
その場にいたのは、榊船亜真知とシュライン・エマだった。
亜真知は、五月が焔とすぴ(ウサギ)といっしょに
「エイエイオー」
と、かけ声を言って、浅羽の消息を調べる計画を立てていた。
「そとまわり〜」
「にゃー」
「すぴー」
と五月はもうお仕事やる気満々である。
苦笑しながら、シュラインは草間にこういった。
「あのね、武彦さん。子供と猫とウサギに外回りの仕事だなんて、…余計怪奇探偵の噂広がるわよぅ」
その言葉にもう文句が言えない草間。
「日に日に、人間の比率が下がっていくねぇ…ほんま、其処までせっぱ詰まっているんか?草間さん」
大曽根つばさが壊れて開きっぱなしのドアになった玄関で一部始終を聞いていたようだ。
その後ろから、鈴代ゆゆがヒョッコリ顔をだす。
「あたしもお手伝いする〜人捜しは得意じゃないけど3人が頑張ろうとしているんだから、あたしも頑張らなきゃ!」
と言って、ウサギを抱いて和んでいる。
そして、またうしろで御影涼がやってくる。
「何事でしょうか?…ほうほう、五月ちゃん達がお仕事ですか。俺も手伝おう♪」
と、感心し納得する。
この状況を見て、シュラインが、
「猫やウサギの経費ぐらい、こうしてくる人達の事考えれば安いものだと思うのだけど?」
とため息を吐いて、草間に追い打ちをかけた。
仕事以外で、暇つぶしに遊びに来たり、屋上で宴会したり、応接間を喫茶店にしてしまうと言う集団もいる。そう考えればペットの世話代なんてたいしたことがない。いつの間にか、焔は草間の頭の上に乗って、
「如何にも」
と言わんばかりの顔をしている。
「…」
言葉が出ない草間。何故そう言ってしまったのか自分でも後悔しているが、
「薫というのは…座敷童子でな……五月なら座敷童子同士で何かできると思ったんだよ!」
と言い訳。
そんなの言い訳にもなりやしない。
「それ以前に、ナマモノに頼むこと自体おかしいとちゃうか?」
つばさが突っこむ。
其れに、焔がうんうんと頷いている。彼女は不思議な猫であるから人語が理解できるのだ。
「五月ちゃんがやる気満々ですから、わたくし達はお手伝いと言うことで分担しましょう♪」
と、亜真知は焔を手招きしながら、にこやかに提案した。焔は、そのまま草間の頭から亜真知の頭まで跳び爪も立てずに着地して丸くなる。その距離6メートル以上はあるだろう…。
そして、シュラインを除いて五月と共に興信所を出て行った。
「さてと…」
シュラインは物置から何かを取り出して、皆に散々言われて凹みがちの草間に其れを手渡した。
「武彦さんのお仕事」
「なんだこれ?」
「見て分からないの?仕事用具よ?」
渡されたのは、大工工具…。
「零ちゃん帰ってくるまで、ドアの修理お願いね♪」
と、彼女は手のひらをヒラヒラふって、皆の後を追った。
「はぁ」
と草間はため息をついた。
2.原因は?
「古物商ってなに?」
五月が聞いてきた。
「其れはですね、昔の美しい美術品…壺やお皿を売ったり買ったりして商いをする人のことだよ」
と涼が優しく教えた。
途中コンビニによって袋を下げてくるつばさ。
「草間さん所ではろくな物をくってないんやろ?焔にウサギ」
袋の中にはキャットフードと、野菜サラダだった。
焔とウサギは目を光らせてつばさにまとわりつき、
(ちょーだい!)
と催促する。
やはり動物。食い物には目がない。
「はいはい、焔、おちつき。ウサギ!そこで興奮してあんこをまき散らさない!」
つばさがナマモノに怒鳴りながら餌を与える。
ゆゆと亜真知と涼はジュースをのんで推理をすることにした。
「薫って子も座敷童子というと…浅羽という人は…」
「そうですわね、草間さんも知っているようですし…」
と2人は考える。
「前に浅羽さんから家でした薫ちゃんを捜してくれという依頼が来たのよ」
とシュラインがやってきて答えた。
浅羽は人間の家族がいないし、親戚もいない天涯孤独の身らしい。薫だけが唯一の家族だそうだ。薫の姿は女武芸者の出で立ちで二本差しという変わった姿(五月も洋服であるが)、浅羽は人の良い顔の老人という。
「成る程、それなら草間さんの所に薫ちゃんが来るわけですね」
亜真知が納得。
「問題は…何故行方不明になったか、よね…」
皆は考え込む。
「内は地道に探す。ただ古美術には色々厄介な物があるさかい…そのことも考えてなあかんて」
つばさが懐かれた焔たちに餌をあげながら言った。
「そうですわね」
「武彦さんもそんなに危険な事を子供達に任せることはないから…万が一のためにね…」
と、皆は話をまとめていた。
「あたし、どうすればいいの?」
と五月が訊ねる。
シュラインは身をかがめて、優しく
「えっとね、まずは薫ちゃんとお話しして、何時からいなくなったか聞いてみましょう」
「うん」
元気な返事をする五月。
「では、わたくしはネットカフェで古美術などに関するトラブルを調べてみますね」
「うちは、店で聞き込みや」
「あたしも周りを聞き込みしてくるね」
「決まりね、分かったら電話で連絡、現場が分かれば即直行で」
と皆が散り散りに行動した。
3A五月組
浅羽の住宅がある区域は何かの違和感を覚えた。
「たぶん、悲しみの霊気」
五月が呟く。
「泣いているのかな?」
涼が首を傾げる。
霊感のないシュラインでもこの波動は並の物ではない。
動物は怯えて身動きできないようだ。
よほどのことなのだろう。
「急いで行きましょう」
シュラインが駆けていった。
浅羽邸のインターホンを押そうとするシュラインだが…。
「痛っ!」
と、静電気が走った感覚で手を押さえる。
「結界でも張っているのかしら?障壁?」
考えてみれば、薫が座敷童子と言うこと以外ファイルにはない。
単に前に調査した助っ人の話では、かなり霊力が高いことだけだ。しかし、それだけで術が行使できるという確証はない。五月自体、〈鬼殺し〉という神器刀の安全装置の立場であるのだが、それ以外では只の座敷童子だ。
涼が霊気に〈触って〉薫とコンタクトを取ろうと試みた。
「誰?」
と、ダイレクトに脳に響く女の子の声。
「俺は御影涼。草間さんから依頼の助っ人ですよ」
「…ほんと」
「ホントだよ」
暫く沈黙。
一瞬にして霊気の障壁が無くなった。
「信頼してくれたようです」
暫くして、扉を通り抜けて薫が現れて、皆にお辞儀をした。
一行は中で薫と話をするわけだが、その交渉は五月に任すことにする。
「あたし、五月っていうの」
「…うん、私薫」
子供の自己紹介から色々な他愛のない話を始める五月。その方法はシュラインが前もって彼女に教えていた。子供は危機感を持つと心を閉ざす。ならば、心を開かせて、リラックスさせた方が良いと。丁度同じ座敷童子同士だからうまくいくだろう。その間は子供をあやすようなものだ。
時間は掛かるが、確実に状況を聞き出すにはこれが良い。タイミングを見計らって、五月が本題にはいるように言えばいいのだから。
「でね、薫ちゃん、おじいちゃんは何時頃からいなくなったのかな?」
「…」
本題に入った。薫は泣きそうになる。霊力が上がり又障壁が生み出されようとしている。
シュラインは、優しく薫を抱っこする。五月は彼女の頭を撫で、ウサギのすぴが擦り寄ってきた。
そうすると、薫が泣きながらも…
「●月×日に…武蔵陶器店という人の所に行くといったの…それっきり…でも私其処知らないの…」
と答えてくれた。
「電話の下にメモがないかしら?」
「電話帳調べてみます」
涼が電話のある方に向かった。焔は彼についていく。
悲しみで泣いている薫を五月がずっと抱きしめていた。
「あたしと同じ…独りぼっちはイヤだよね…」
と、五月は呟いた。
4.対壺
「武蔵陶器」に向かうシュライン達。
シュラインの電話が鳴る。
「もしもし、つばさちゃん?」
返事がない…。
「おかしいわ?もしもし?もしもし!」
「なにか遭ったのでしょうか?」
と涼が言った。
「何かって?」
「つばささん達に何かが起こった…と言うことです」
「にゃ!」
焔はすぴと共に駆けていく。
「あ、待って!」
その丁度に亜真知からの念話がシュライン達に伝わった。
魔器の所為で、周りの生物が危機に瀕していると言うことを。おそらく其れにより浅羽が倒れているのではないかと…。
武蔵陶器店にたどり着いたのは同時だった。
つばさと、かなり弱っているゆゆが倒れていた。シュライン達は彼女らを助けいったん離れる。
ショウウィンドウの綺麗な壺を見て亜真知は確信する。
「皆さん下がってください。近寄ると危険です」
理力で結界を作り、壺を睨む。
流石に封印をしたいのだが、ガラスを破壊しないことには封印のしようがない…。
「にゃ!」
「すぴ!」
動物が何かを訴えた。
シュラインは猫に
「どうしたの?」
と訊くのだが、流石に猫語は分からない。
「あのね…あたし達で中に入って壺を壊すって言っている」
五月が通訳した。
「危ないわ」
「にゃ!にゃ!」
「わたしも虹猫の一匹。只の猫ではないことを証明してみせるのって」
今度は亜真知が通訳した。よほど、ナマモノ扱いがイヤだったのだろう。
「すぴ〜」
すぴは倒れている倒れたゆゆを心配している。
つばさとゆゆが起きたあと、事情を訊く。
「いきなり、壺に生気を吸われた感覚で…」
「あのなかに、浅羽さんたちが…」
と話した。
壺に至っては、今のところ動きは見せない。おそらく自分の意志で力を発動しているのだろう。
「壺を壊すしかあらへんな」
元気を取り戻したつばさが言った。
「命の方が大事や。それにうちは壺の価値なんかしらん」
「ドアをこじ開ける?ガラスを割る?」
シュラインが考える。
「良い方法あるよ。それにあたしと焔とすぴの仕事だもん!」
五月が言った。
「あぶないわよ?」
「〈鬼殺し〉召還するの」
「「へ?」」
シュライン達は驚きの声を上げた。
そしてシュラインだけはあの事を思い出す。
「あんな大きな刀どうやって!」
化け物並の大きな日本刀〈鬼殺し〉現在はある神の元に封印されているのだが…。
「焔は扉を破壊するって言ってるから、あたしは鬼殺しで〈壺の鬼〉をたおすの」
こんな小さな身体で扱えるのだろうか?
「手伝えないか?」
つばさが訊いた。
「お姉ちゃんならだいじょうぶ」
「わたくしは、結界をはりましょう」
亜真知は薄い障壁をつばさ達に張った。
「俺たちは、浅羽さん達を救う事を優先した方が良いな」
涼がドアの先を見る。
焔は、店に駆け寄ってドアのガラス窓を手で溶かした。
其れを見た一同は驚くばかり。
「にゃ!」
自分が入れるぐらいの大きさにガラスを切り抜いて、シャッターを上げた。かなり器用と言うか賢い。
五月は、何かを念じて、〈鬼殺し〉を召還し、つばさにわたした。
流石にでかい日本刀なのだが……重量が感じられないし、半透明でほとんどの物質と干渉しない。
つばさはビックリする。
「さっさっと壊してくるわ!」
つばさは、店の中に入った。その後にシュライン達が追いかける。
ゆゆが浅羽達の倒れているところを案内する。
その間に、つばさが大きな刀を振り上げ…
「消えろ!魔め!」
と上段から壺を斬った。
しかし、壺には傷一つ無い…。
「なんにもおこらへんやん!…って、あ…妖気が消えた…」
同時に〈鬼殺し〉も消える。
「刀は仕舞ったから」
と五月。
「しかし、あの刀が魔物以外通り抜けるんならあのままで良いのとちゃうか?」
「ううん。今回〈鬼殺し〉は直接〈魔〉に当てないと効果がないように弱めたから」
「そか。ま、結果オーライで良いか」
つばさと五月の会話のあとに、浅羽達を保護できた事を告げるため、焔が駆け寄ってきた。
5.相変わらず散々言われる草間
あのあと、浅羽たちの生気は回復し、少し病院で手当を受けたあと、薫との再会を果たした。
壺は、霊力も魔力も感じられなくなったが、念のため亜真知の親戚に預けることになる。
浅羽と武蔵陶器の店主、薫と交えてお茶会が応接間で行われていた。
「武彦さん…何故危険な仕事をあの子達に?」
「分かるか!魔器が絡んでいるなんて」
「酷い兄さんです!」
「其れをちゃんと調べるのがあなたの仕事でしょ!」
シュラインと零に怒られる草間。
「でも、これで五月ちゃん達が役に立つってことを証明出来たわけです」
涼が、お茶をすすって、すぴを撫でる。
「えっへん」
「にゃー」
「どうだ!ざまあみろと仰ってますわ」
亜真知は、クスクスと笑って通訳する。
「しかしまぁ、死なずに済んだわ。幸運やな」
「五月ちゃんと薫ちゃんのおかげだよ。座敷童子は幸運を運ぶんだから!」
つばさの言葉にゆゆが答えた。
「にゃ〜!」
同意する猫。
焔の力は炎を纏わせ物体を燃やしたり溶かしたり出来る。五月に至ってはこの事件で〈鬼殺し〉をある程度召還可能。すぴにいたっては…
「場を和ませるですね、ありがとう皆さん」
浅羽は薫がすぴと遊んでいる姿を見てから礼を言った。武蔵陶器の店主も深々と礼をする。
そして、草間いぢめも終わり、皆でのんびりとお茶会を楽しむことになった。
もちろん、怪奇探偵という名を轟かせることは変わりない。
「これからも頑張る!」
と、五月はガッツポーズをする。その仕草がとても可愛かった。
End
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【0086 /シュライン・エマ /女 /26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト】
【0428 / 鈴代・ゆゆ / 女 / 10 / 鈴蘭の精】
【1411 / 大曽根・つばさ / 女 / 13 / 中学生・退魔師】
【1593 / 榊船・亜真知 / 女 / 999 / 超高位次元生命体:アマチ…神さま!?】
【1831 / 御影・涼 / 男 / 19 / 大学生】
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■ ライター通信 ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
滝照直樹です。
『猫とウサギと座敷童子』に参加してくださりありがとうございます。
やっぱり、猫の焔とウサギのすぴはけったいなナマモノでした。
五月については本当に座敷童子なのか…という感じですが…。
怪奇探偵に強力な助手がついたわけです。すぴは別として。
又機会があればお会いしましょう。
滝照直樹拝
|
|
|