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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・仮面の都 札幌>


調査コードネーム:激突! 魔競馬!!
執筆ライター  :水上雪乃
調査組織名   :界境線『札幌』
募集予定人数  :1人〜3人

------<オープニング>--------------------------------------

 秋風が芝の上を滑る。
 涼しいというより、寒いと表現する方が近いかもしれない。
 だが、スタンドの熱気は最高潮に達している。
 札幌競馬場。
 秋のGTラッシュに先駆けおこなわれる札幌ステークス。
 二四〇〇メートルの距離を争うクラシックレースだ。
 もちろん重賞である。
 ここで調子を高め、有馬記念へと秋のGTに挑む。
 いわば前哨戦なのだ。
 ひしめきあって、いななく名馬、名牝たち。
 ハンデ戦ではない。
 それだけに、実力がそのままでるといえるだろう。
「さて‥‥これは勝たないといけないわね」
 にやりと笑うのは、新山綾。
 日本で一〇人もいない女性ジョッキーだ。
 ただ、この覚悟はいささか不見識というべきである。
 負けても良い戦いなど、あるはずもない。
 とはいえ、トップでゴールゲートをくぐるのは一頭だけ。
 電光掲示板にのるのも、五着までだ。
「一番なければ、意味がないんだけどね」
 呟き。
 黒い瞳が、爛々と輝いていた。
 ファンファーレが、鳴り響く。










※魔シリーズです。パラレルです。コメディーです。
 参加は、ジョッキー、観客、あるいは、サラブレッドでもかまいません。
 馬参加の場合は、名前もお願いします☆
 例)クサマトップロード
※水上雪乃の新作シナリオは、通常、毎週月曜日にアップされます。
 受付開始は午後8時からです。

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激突! 魔競馬!!

 パドックをサラブレッドたちが歩く。
 誇らしく胸を張り。
 秋風が黒いたてがみを揺らし、ハイジーザスはぶるるんと鼻を鳴らした。
 天気が良い。気温は少し低めだが、一二ハロンの距離を争うにはちょうど良いだろう。芝も良馬場のようだ。
 黒鹿毛の馬体。堂々とした四肢。
 馬体重は五〇〇キログラム。
「長かったぜ‥‥ここまでの道は‥‥」
 内心に呟く。
 彼は五歳馬である。
 三歳の時も四歳の時も無名の存在だった。
 未勝利を脱出したのだって、四歳になってからなのだ。
 その彼の運命が開けたのは、古馬と呼ばれる年齢となった今年の初めのことだ。
 彼の背中に乗るジョッキーが変わったのである。
 日本に一〇人もいない女性騎手。
 新山綾。
 ハイジーザスにとって、運命の出会いだった。
 彼の走法を完璧に理解できる騎手は、彼女以外には存在しなかった。
 彼女の技量に完全に応えられる馬は、彼以外には存在しえなかった。
 ハイジーザスと綾がコンビを組んで四戦。
 一着が三回、二着が一回。「連」に絡めなかったことは一度としてない。
 そして、ついに重賞へのチャレンジだ。
 グレードツー。
 いわゆるGUレースである。
 ここで勝利し、秋のGTロードへ殴り込みをかける。
 最終的な目標は有馬記念。
 一年の最後を飾るレースで優勝するのだ。
「綾‥‥お前を日本ではじめて有馬を獲った女にしてやるぜ‥‥」
 ハイジーザスの決意は固い。
 騎乗命令が響き、騎手たちが一斉に愛馬へと走る。
「いくぜっ! 綾っ!」
 黒鹿毛の馬がいななき、
「勝つわよっ! ハイジーザスっ!!」
 美貌のジョッキーが、背に飛び乗った。


 競馬を見にくる客は、大きく三種類に分けられる。
 一つめは、もちろん勝馬投票券を購入し、それによって利益を得ようとたくらむギャンブラー。
 もうひとつは家族連れ。これは、競馬というより競馬場にピクニックに来ているようなものだ。ここには多くのレジャー施設やイベントが待っているのだから。
 最後の例は、純粋に馬が好きな客、である。
 優美な馬体、人馬一体となって駆ける姿、千分の一秒を争う緊迫感。
 そういったものを楽しむのである。
 むろん、馬券を買わないというわけではないのだが。
 シュライン・エマは、三番目のケースだった。
「むぅむぅ‥‥やっぱりこの二頭よね‥‥」
 パドックから客席に戻る途中、悩みながらも彼女は馬券を購入した。
 馬番連勝複式、四−九。
 一点買いである。
 なかなか強気な買い方だ。
「同じ女としては、頑張って欲しいものね」
 頷く。
 馬番号九番とは、ハイジーザスのことである。
 ちなみに四番はクサマトップロードという馬だ。
 どうしてシュラインがこの馬を選んだのか、答えはわざわざ明記するまでもないだろう。
 恋人と同じ名前だったからだ。
 無茶苦茶な買い方のような気もするが、あくまで楽しむためなのでこれは問題ない。
 とはいうものの、ハイジーザスもクサマトップロードも、人気としては低くない。
 前者は四番人気。後者は五番人気である。
 競馬新聞などでは三角マークあたりが付くだろう。
 その意味では、まったく的はずれな買い方ではないのだ。
「でも、当てようと思ってるわけじゃないわよ」
 誰にともなくいうシュラインであった。


 スターターを乗せた台が、ゆっくりとせり上がってゆく。
 吹奏楽団が華やかなファンファーレを奏でる。
 一頭、また一頭と、ゲートに入ってゆくサラブレッドたち。
 さすがに重賞。むずかる馬はいない。
 走り去る係員。
 開くゲート。
 各馬が一斉に飛び出す。
 綺麗に揃ったスタート、ではなかった。
 最も良いスタートを切ったのはクサマトップロード。
 その後に三頭ほどが続く。
 一頭だけ出遅れてしまったのは、一枠一番のサンシタパシリーだが、これは最低人気の馬なので観客の悲鳴は少なかった。
 トップスピードに乗った馬たちが、第一コーナーを回り、向こう正面へと走り去ってゆく。
 ハイジーザスは、中段からやや後方あたりだ。
「まずは予想通りの展開だな‥‥やっぱりクサマは逃げるか‥‥」
 胸中に呟く黒馬。
 彼ら競走馬の戦い方は、四通りに分かれる。
 逃げ、先行、差し、追い込み、である。
 逃げ馬とは、レース序盤から先頭に立って、そのまま逃げ切るという馬だ。
 クサマトップロードやセナヒトットビあたりがそれに当たるだろう。
 ハイジーザスは、追い込み馬だ。
 レース終盤まで後方で待機して、最後の直線に勝負をかける。
 これは、彼の性格とは逆の特性である。
 本当は積極攻撃が好きなのだ。
 だが、騎手となった綾は、ハイジーザスの脚特性を考え、この戦法を選択した。
 それ以前の彼は、ペースを無視してがむしゃらに前に出たため、終盤にスタミナ切れを起こしてしまっていたのである。
 サラブレッドの体力だって無限ではないのだ。
 当然、ペース配分も必要になってくるし、駆け引きだって重要だ。
 たとえば、
「ちょっとペースが遅いわね‥‥このままだと逃げ残られるかも」
 綾が呟く。
 逃げ馬にとってはスローペースの方が有利だ。良いペースで逃げることができるから。
 逆に、追い込み馬にとっては先行する馬たちにできるだけ序盤で体力を消耗してもらいたい。
「軽く動いてみようかしら」
 不敵に微笑した綾が、左手のムチをハイジーザスに見えるように動かす。
 いわゆる「見せムチ」だ。
 手綱とムチ。この二つで彼女は愛馬と意思疎通するのだ。
「了解だぜ。綾」
 少しだけ速度を増すハイジーザス。
 するすると順位があがってゆく。
 釣られるように、他の馬たちもペースをあげた。
 もちろん、先頭のクサマトップロードも。
「かかったな‥‥」
 にやりと笑うハイジーザス。
 彼はまだ力を温存している。


 ターフビジョンに向こう正面の様子が映し出される。
 序盤はスローペースで展開するかのように思われたレースだが、第二コーナーをまわったあたりから加速をはじめ、かなりハイペースな試合展開となっていた。
 手に汗握って大画面を見つめるシュライン。
「頑張ってっ!」
 思わず声が出る。
 戦況は、彼女の買ったクサマトップロードに不利だった。
 こんなハイペースで駆ければ、ラストスパートに使う体力が残らない。
 逃げて逃げて逃げて玉砕、というパターンになってしまう。
 ジョッキーにはなにか計算があるのか。それともレース展開を見誤ったか。
 いずれにしても、シュラインには応援することしかできない。
 クサマトップロードのような逃げ馬といえば、昭和五〇年に日本ダービーを制したカブラヤオーが、まず思い出される。
 一三戦一一勝、二着一回、着外一回という成績を残し、最強馬と讃える人も多い。
 単に戦績だけなら、かのシンボリルドルフだってひけをとらないが、それでもカブラヤオーなのだ。
 精密機械のようなシンボリルドルフと違い、彼の走りには魂とロマンがあったらしい。
 彼はその生涯で、二度GTを獲った。
 皐月賞と日本ダービーだ。
 ことにダービーのときの奮戦は、いまだに伝説として語り継がれている。
 このレースと同じ二四〇〇メートル。
 日本で最も長い東京競馬場の直線。
 後半、カブラヤオーの体力は目に見えてなくなっていた。
 しかし、それでも彼は、なみいる名馬たちを振り切り、抑え、一着でゴールゲートをくぐる。
 ぼろぼろになりながらも戦う姿は、人々の目に感動を焼き付けることとなった。
 多くの観客は涙を流したという。
 おそらく彼にとって、優勝トロフィー以上の名誉だったろう。
 そのカブラヤオーも、今年の八月に永眠した。
 享年三一歳。安らかな老衰死だった。
 むろん、シュラインはカブラヤオーの現役時代を知らない。
 まだ生まれる前の話だ。
 あくまで写真や伝え聞いた話で知るだけだ。
 それでもクサマトップロードに、カブラヤオーの影を重ねてしまう。
「頑張ってっ! あと少しよっ!!」
 スタンディングオベーション。
 立ちあがって応援するシュライン。
 ターフ上では、先頭集団が第三コーナーに差し掛かろうとしていた。


 差馬たちが動き出す。
「そろそろ仕掛けるか? 綾」
 ぶるるんと、ハイジーザスが鼻を鳴らした。
「まだよ。四コーナー抜けるまでは我慢するの」
 慎重に手綱を操る綾。
 ここでスピードアップすれば、遠心力の関係でアウトコースに振られる。
 距離的にロスになってしまうのだ。
 それは、最終局面に向けて力を溜めているハイジーザスにとって、面白いことではなかった。
 現在、このコンビより前にいるのは六頭。
 クサマトップロード、セナヒトットビ、イナヅミマルキン、イカリクイーン、ニャルラインケンオー、タマモキツネオー、の順である。
 ようするに彼は、ほぼ真ん中あたりにいるわけだ。
 有利な位置とはいえない。
 それでも、
「四コーナーでみんな仕掛けるはずよ。ということは、大きく膨らむわ」
「前が開くな‥‥」
「そう。それまで我慢よ。そして‥‥」
「前が開いた瞬間に仕掛けるか‥‥ギャンブルだな」
「ギャンブルは嫌い?」
「いいや‥‥大好きだぜっ!!」
 それは、馬と人間との心の交流。
 勝負師たちの共感。
 やがてサラブレッドたちは運命の最終コーナーをまわる。
「開いた! いくわよっ!!」
「応っ!!」
 一気に加速するハイジーザス。
 まるで、閃光だった。
 ニャルラインケンオーとタマモキツネオーを抜き去り、イカリクリーンへと襲いかかる。
 それもまた一瞬だった。
「ハイジーザス‥‥!?」
「わりぃなイカリクリーン。先に行かせてもらうぜっ!!」
 さらに加速してゆく黒鹿毛。
 速い。
 いや、速いなどという表現では事実に追いつかない。
 たとえるなら、疾風か稲光。
 セナヒトットビとイナヅミマルキンも撃砕し、クサマトップロードの背後に迫る。
 その差は三馬身。
 のこす距離は二〇〇メートルを切った。
 届くかっ!?
「届かせてみせるっ!」
「させるかぁっ!!」
 黒鹿毛のハイジーザスと芦毛のクサマトップロードが吠える。
 逃げに逃げる芦毛。
 追いつめにかかる黒鹿毛。
 じりじりとその差が縮んでゆく。
 あと二馬身‥‥一馬身‥‥。
「くっ‥‥届かない‥‥」
 絶望が、綾の内心を蚕食する。
 ゴールが見えたのだ。
 このままでは、逃げ切られてしまう。
 二着の終わってしまうのか‥‥。
「綾っ!」
 そのとき、ハイジーザスがいななく。
「ムチだっ! ムチをくれっ!!!」
 気合いを入れ、さらに加速させろということである。
 だが、いかなハイジーザスといえども、これ以上速度を上げたら壊れてしまうかもしれない。
 躊躇うジョッキー。
「俺たちがここにいるのは何のためだっ! 勝つためじゃねぇのかっ!!」
 野生馬のような激走を続けながら吠える。
「そう‥‥そうよねっ!!」
 綾の左手が振りあがり、激しく振りおろされる。
「応ともよっ!!」
 最終加速。
「なにぃ‥‥っ」
 クサマトップロードの声が「横」から聞こえる。
「俺たちの勝ちだぁぁぁぁぁぁっ!!!」
 思い切り鼻先を伸ばし、ゴールに飛び込むハイジーザス。
 遠くで歓声が聞こえていた。


 電光掲示板に、写の文字が浮かんでいる。
 一着二着は写真判定にもつれ込んだようだ。
「着順が確定するまで、お手持ちの勝ち馬投票券はお捨てにならずに‥‥」
 ウグイス嬢の場内アナウンスが響く。
 シュラインは、じっとターフビジョンを見つめていた。
 非常に微妙だ。
 幾度も幾度も繰り返されるゴール時の映像。
「ハイジーザスの方が、少しだけ前のようにも見えるけど、角度によるかも」
 だが、その顔に深刻さはあまりない。
 なぜならば、彼女の馬券は的中が保証されたようなものだからだ。
 クサマトップロードが勝とうとハイジーザスが勝とうと、あるいは同着だろうと。
 馬番連複四−九は、的中しているのだ。
 配当は六二二〇円。
 シュラインは一〇〇〇円買ったのだから、六二二〇〇円になる。
 なかなかの収益である。
 むろん彼女は学生でも未成年でもないので、ちゃんと配当金を受け取る資格がある。
 やがて、掲示板に確定を示す赤いランプが灯った。
「そっかぁ。ハナ差かぁ」
 納得したように頷き、
「表彰式、見に行ってあげようっと」
 席を立つシュラインであった。
 鳴りやまぬ歓声がスタジアムを包んでいた。


  エピローグ

 焚かれるフラッシュ。
 勝負用ではなく、礼装用の飾り鞍。
 馬体にかけられた、深紅の優勝服。
 鞍上、昂然と胸を張る女性ジョッキー。
「よく頑張ったわね。ハイジーザス」
「だが、疲れたぜ‥‥」
「わたしもよ。表彰式が終わったら一眠りしたいわね‥‥」
「同感だ」
「次は、秋の天皇賞かしらね」
「ああ。そして最終的には‥‥」
「もちろん」
『有馬を獲るっ』
 心の中で会話を繰り広げる綾とハイジーザス。
 どこまで緑の芝と、漆黒の馬体。
 日差しが降りそそぐ。
 秋のGTラッシュへと誘うように。









                         終わり


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0143/ 巫・灰慈     /男  / 26 / 今回は馬☆
  (かんなぎ・はいじ)
0086/ シュライン・エマ /女  / 26 / 翻訳家 興信所事務員
  (しゅらいん・えま)


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■         ライター通信          ■
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お待たせいたしました。
「激突! 魔競馬!!」お届けいたします。
いかがだったでしょうか。
ちなみにこれは、出走馬一覧です☆

1枠1番  サンシタパシリー
1枠2番  イカリクイーン
2枠3番  ミウラサンダー
2枠4番  クサマトップロード
3枠5番  ムテキサトル
3枠6番  ライハンドレット
4枠7番  タマモキツネオー
4枠8番  タンホイザーエリカ
5枠9番  ハイジーザス
5枠10番 セナヒトットビ
6枠11番 ファルコンゼロ
6枠12番 イナヅミマルキン
7枠13番 ドラキュラマキムー
7枠14番 ニャルラインケンオー
8枠15番 ナナエスプリント
9枠16番 シチジョウドワイト

楽しんで頂けたら幸いです。
それでは、またお会いできることを祈って。