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ゴミ屋敷の恐怖!〜探索編
●怪盗からの予告
草間興信所からの依頼で、貴方はとあるゴミ屋敷の掃除に駆り出されていた。
これがまた、一筋縄ではいかない重労働。
家具は動くわ、ツボを覗いたら魔物が出てきたり、おかしな奇声をあげる本もあったり。
しかもそれらは曲がりなりにも屋敷の主のコレクション。捨てる前にいちいち確認を取らなきゃならないって言うんだからまたさらに大変。
時々人員が入れ替わりつつも、着々と掃除を進めていたある日のこと。
「なんじゃ、こりゃあ!」
屋敷の主である老人が不機嫌な声をあげた。
一同全員が老人の元へと集まる。
老人が手にしていたのは一枚のカード。
そこには流暢な文字で、近い内にこの屋敷にある宝を盗みに入る旨が記されている。
だが!
「宝・・・・・? はて、どこにやったかのう?」
どうやら、集めに集めたコレクションに埋もれて、怪盗が示す宝をどこにしまったのか見当もつかないらしい。
「いくら埃を被っておる宝とはいえ、盗まれるのは癪に障る。追加料金は払うから、怪盗より先に宝を見つけて守ってくれ!」
●カードを囲んで
その予告が来た日に掃除に来ていたシュライン・エマ、沖真砂、天音神孝、真名神慶悟、ラクス・コスミオン、綾和泉汐耶、岐阜橋矢文、鬼頭郡司、風野想貴、セレスティ・カーニンガム――計十人は、比較的人が集まれる中庭に集合していた。
他の部屋では物が溢れすぎていて、この人数が入ることはできなかったのだ。
「んで、これが予告カード?」
郡司はカードを手に取り、物珍しそうに弄くりまわしている。
「物好きな怪盗さんですね。考えようによっては清掃人員一人確保にならないかしら?」
汐耶は至極淡々と告げ、ざっと全員に向けて視線を巡らせた。
「・・・これも縁という奴か。俺としてもこの因業屋敷は綺麗に片付けたい所だしな」
「そうねえ、宝を探すにしても下手に目的の物だけ探し出そうとするとまた散らかるでしょうし」
溜息をついた慶悟に、シュラインが冷静な声で同意した。
「普通は予告状を出されたら狙われている品の警備を厳重にしたり、違う場所に移動したり・・・・現場の混乱を狙って出すものだろうけど。今回はゴミ整理を促すためってところかな」
真面目に分析をしている想貴の横で、真砂が納得の意を示して頷いている。
「それで、その・・・今回は皆様、どこを探すのですか?」
ラクスが、おずおずとした口調で言葉を挟んだ。
各人、考えたのは一瞬。
答えが出たのはすぐ。
居間はシュライン、真砂、郡司、孝。老人の私室にセレスティと慶悟。書庫にラクス、汐耶、想貴。そして中庭に矢文という分担に決定した。
「物置は誰も行かなくていいのか?」
「見つからなかったら物置に行けば良い」
孝の問い対し、単純明快な答えを返した矢文に一同頷いて。
一行はそれぞれ分担の部屋へ向かった。
●桐タンスの少年、他多数
前回の掃除でだいぶ物は減っていたが――特に問答無用に暴れていた輩――まだまだ、中庭には山と言えるだけの大型物品が放置されていた。
老人が捨てないでくれと言っていた物は一応横に避けてあるが、下に埋もれて見えない品もまだ多数。ある程度整理をしたらまた聞く必要がありそうだ。
「・・・宝を守るのは当然として・・・・・・怪盗ということは、逃がしたら駄目なのではないのか?」
作業に取り掛かりつつ、矢文は頭に浮かんだ思考をポツリと口に出した。
「怪盗?」
真横から声が聞こえて振り返ると、そこには先日の掃除の時にも会った十二、三歳くらいの和服の少年が、にこにこと無邪気に笑って立っていた。
「こんにちわ、おにいさん。今日もお掃除? 大変そうだねえ。この前一緒だったおねえさんは?」
「今日は俺一人だ」
少年はひょいと桐のタンスに腰掛けて――矢文から少し離れている場所にあるにも関わらずそこに陣取るのは、多分それが少年の本体だからなのだろう。
「ねえねえ、怪盗ってなあに?」
矢文はここで少し考えた。
彼らに怪盗捕獲に一役買ってもらえないかと思ったのだ。もし上手く捕まえられたらそのまま防犯システムとして利用してもらえるかもしれない。
本来の使われ方と違うのが不満だと言うならば無理強いをする気はないが、引き取れる数にも限りがあるし、かといって捨てるのも良い気分はしない。
「この屋敷にある宝・・・。女性の姿を象った全長五センチほどの彫像を盗むと言う予告があったんだ」
「へぇ〜、面白そう。ねえねえ、僕もなんか役に立てない?」
わくわくとした表情で瞳を輝かせて言ってくるその様は、幼い子供そのものだ。
「他の物の説得を手伝ってくれないか? 外から来る以上、絶対に庭は通るはずだ」
「ああ、おにいさん頭良いっ。僕らは物だからあんまり警戒されないもんね。警備要員にはぴったりってわけだ。うん、いいよ」
ひょいとタンスから飛び降りた少年は、すっと右手を差し出した。
「僕、桐鳳(きりたか)って言うんだ。よろしくね」
「俺は岐阜橋矢文だ」
差し出された右手に握手を返すと――実際には彼の姿は透けていて、触ることができなかったが――桐鳳は楽しげに笑ってふわりと身軽にタンスから飛び降りた。
「じゃあさあ、悪いけど、その引出し、開けてもらって良い?」
「これ、か?」
開ける。
中にあったのは木彫りの鳥。どうやらこれも桐で出来ているようだ。
木彫りの鳥は受け取った桐鳳の手の中に消えていった。桐鳳は大きく伸びをして、コキコキと肩を鳴らす。
「ありがと〜。んー、これで自由に動ける」
桐タンスの傍にばかりいたから、てっきりあのタンスが本体なのかと思っていたら、どうやらこっちの彫り物が本体だったらしい。
その様子をじっと見つめている矢文に、桐鳳は苦笑を浮かべて事情を説明した。所用でちょっと離れている間に本体がタンスの中に入れられてしまい、本体と離れた状態では物に触れられずに引出しから出すこともできず困っていたそうだ。
しかし、矢文が問題視していたのは桐鳳の事情ではない。
「・・・・・・もしかして、これみたいに引出しの中に彫像や何かが入っている家具は多いのか?」
桐鳳は顎に人差し指を当ててしばらく考えたのち、こくんと頷いた。
「多分」
「・・・・・・・・・・・・そうか」
どうやら説得よりも先に、引出しの総点検が必要なようだ。
●彫像、発見
なんとか全員が集まれる程度に片付いた居間で――でもやっぱりまだ完全には片付いていない―― 一行は、聞いた特徴そのままの姿の小さな女性を囲んでいた。
老人の私室で発見された彼女が噂のお宝彫像。どういう曰く付きなのかは知らないが、動く程度ならばこの家には他にいくらでもある。そう驚くほどのものではない。
「さて、あとはいかに彼女を守るか、ね」
あの予告状にはいつ盗みに来るかは一言も書いていなかった。
「だからさあ、こっちから捕まえに行ったほうが早いって」
「でも、怪盗を探す手がかりはこのカードだけですよ?」
単純明快な郡司の意見に、汐耶が冷静な答えを返す。
「中庭から不審者が来たら、中庭の者たちが知らせてくれる」
「問題は家の中の警備か」
矢文の言葉に続き、想貴が腕を組んで考えこむ。
実際怪盗が現われた時のことも考えると、物が多いこの家ではある程度の立ちまわりをする場所を確保するだけでも大変なのだ。
「一番動きやすそうなのは、居間・・・でしょうか?」
書庫は論外。物置はもっと酷いだろうし、私室はもともとの部屋が他に比べて狭い。
ラクスの意見に、一同こくりと頷いた。
「じゃあ、全員で居間を片してもう少し動きやすくするか?」
「・・・・賛成」
足元に人形をはべらしている真砂が、孝の意見に一番に同意した。
さすがに十人でかかれば――二人は警戒にまわっていたので、実質掃除要員は八人だったが――早かった。居間が動くのに支障ない程度に片付くまで一時間と少し。
その間、怪盗らしき気配はなし。
日付も時間もわからないから、実際に怪盗が現われるまで気は抜けないのだが、かといって他に本業を持っている者もいる。
かくして、時折人員は入れ替わりつつ、長期戦覚悟の彫像警備が行われることになったのであった。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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整理番号|PC名|性別|年齢|職業
0086|シュライン・エマ |女| 26|翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
1963|ラクス・コスミオン |女|240|スフィンクス
0711|風野想貴 |男| 17|時空跳躍者?
1990|天音神孝 |男|367|フリーの運び屋・フリーター・異世界調査員
0389|真名神慶悟 |男| 20|陰陽師
1883|セレスティ・カーニンガム|男|725|財閥総帥・占い師・水霊使い
1571|岐阜橋矢文 |男|103|日雇労働者
1449|綾和泉汐耶 |女| 23|都立図書館司書
1838|鬼頭郡司 |男| 15|高校生
1987|沖真砂 |男| 19|大学生
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■ ライター通信 ■
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こんにちは、日向 葵です。
お掃除&彫像探索お疲れ様でした。
屋敷の中はそれなりに綺麗になってきた模様です(笑)
さて、次回はゴミ屋敷編最終回。
時間とお金に余裕があれば、怪盗確保に協力してくださいませ。
それでは、今回は依頼参加ありがとうございました。
またお会いする機会がありましたら、その時はよろしくお願いします。
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