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<東京怪談ノベル(シングル)>


巫女ノ種

 妹たちにとって、ある意味わたくしは未知の存在なのかもしれません。
(実際に血が繋がっていないのはもちろん)
 あの娘たちは”深淵の巫女”というものを、わたくしが教えるまでほとんど知らなかったのですから。
 わたくしがあの深い海の底で、一体どんな生活をしてきたのか。
(問われたので)
 わたくしは教えました。
 わたくしの想いもすべて。



 ”深淵の巫女”は、あの方の夜伽や話し相手を務めるために存在しています。あの方を眠りから覚まさぬために。
(そしてわたくしは)
 その中の1人に、すぎません。
 深淵の巫女は現在全部で12人おりますが、これは人数が決められているわけではなく。かつては1人だったこともあれば数十人いたこともあるそうです。
(そんなことを聞くと)
 想像してしまうのは、きっとわたくしだけではないでしょう。
(もしも今)
 自分1人だったなら。
(どんなにか嬉しかったでしょう)
 と。
 しかしそう思う一方で、どんなにか大変でしょうとも思うのです。
 何故ならわたくしたちは、巫女であるのと同時に各分野の”顧問”としての役割も持っているから。
(たとえば……)
 わたくしが司るのは”流れ”です。
 主に海流や地脈、マグマや大陸の動きなど、あらゆる”流れ”に関係するものが管轄となります。
 その他”知識”を司る方や”存在”を司る方などがいて、そうしてようやくこの世界を保っているのです。
 それなのに。
(もしも巫女が1人だったなら)
 支えるべきものが多く、とても大変でしょう。それ以上にあの方から素晴らしいものをいただけるのでしょうが……まずは多くを司るだけの強さが必要です。
(きっとわたくしには――まだない)
 これから身につけるべきもの。
 身につけて、自分を磨かなければならないのです。
(11人もの)
 恋敵に勝つために。
 そう、他の11人の巫女たちは、わたくしにとって恋敵なのです。
(基本的に)
 わたくしたちが呼ばれるのは、わたくしたちの下で働いている数百人の人魚たちではどうにもできなくなった時。
 そんな時になってやっと、わたくしたちは初めてそれぞれの持つ”力”を行使します。無闇に使ってはならないのは当然のこと。
(そしてその機会は)
 均等に訪れるのです。
 あの方の傍へゆく機会は。
(――あの方は)
 巫女同士の諍いをよしとはしません。
 ですからわたくしは、絶えず自分を磨き続けるしかないのです。そして誰よりも、どの巫女よりも前へ、進むしかないのです。
(少しでも永く)
 少しでも多く。
 あの方がわたくしを感じて下さるように。
 想って下さるように。
(わたくしにとっては)
 陸(おか)にて事件を解決しようと頑張ることも、すべてそのため。
 すべてあの方へと、繋がっているのです――。



 わたくしが説明し終った時、妹たちはわたくしを励ましてくれました。
(わたくしはそれが)
 本当に嬉しかったのです。
 きっと今日も頑張れる。
 明日も、明後日も、ずっと。
 わたくしの頑張りを、見守ってほしいと思いました。
(磨かれてゆくわたくしを――)







(了)