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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


別れ…

0.
大物タレント葛城輝が、ある人を捜して欲しいと草間に依頼してきた。
彼は春先に、あやかし荘TV取材でリポーターをした、ドラマでも人気のある凄腕タレントである。
「探す人の特徴を教えてくれませんか?」
「分かりました」
恋人の早乙女礼子のことをはなす。
前に自分が稽古中に重傷を負ってから、本格的につきあい始めた女性で、25歳前後、長い黒髪、優しい黒い瞳の元・劇団部員という。
一週間前に突如姿を見せなくなったのだ。
「愛し合っていたのに…どうして居なくなったのか…」
すでに、自分が可能なことは試みた(過去の友人に訊いたりや警察に失踪届をだした)が万策つきたので、「能力者」の集う草間興信所に頼る事にしたのだ。
「しかし、何故私のことを知っておられるのですか?」
「あやかし荘に住む方が教えてくださいました」
「あ、そうですか…分かりました」
草間は一寸した疑問を葛城に訊いたがすぐに納得した。
―それなら俺の所が分かるよな…其処の誰だか知らないけどな(草間の心の声)
「では、写真を取って最前を尽くします」
「ありがとう…」

1.
皇騎は実家の所用で興信所の近くをよった。
「久々に、顔出しするかな?」
と、気楽な気持ちで中に入るが、丁度仕事の話と遭ってしまったようだ。
葛城と草間が話し合っているところにかち合ったわけである。
珈琲の言い香りがする。シュラインが淹れているのだろう。
零は、焔とすぴと五月のお守りをしているようだ。すっかりお姉さん気分。
怪奇探偵事務所としてはいつもの風景だろう。

皇騎は、葛城輝が自分の“表”関係で世話になっているので、ひとまず挨拶し、すぐ本題にうつる。
既にほとんどの事情を知っているので、皇騎は葛城にこう訊いた。
「葛城さん」
「はい…」
「なにか、礼子さんと喧嘩などしたことや、何か変わったことはありませんか?」
「いえ、楽しく暮らしていましたが…ただ…」
「只?」
「そろそろ…結婚を考えていたのですが…その矢先のことなので」
「結婚ですか…」
葛城と礼子の「裏」事情は、あやかし荘やアトラスの事などで分かっている皇騎。礼子は葛城の決意を感じ取って心の整理のために消えたのだろうか?
敢えて、皇騎は葛城にこう訊いた。
「葛城さん、この先どんなことがあっても受け入れる覚悟はありますか?」
「もちろんです。彼女が居なかったら私は此処まで役者として成長できませんでした。それ以上に彼女を深く愛しています」
葛城は真剣な眼差しで返答する。
「聞いて安心しました。任せてください」
と、皇騎は微笑んだ。
皆の分の珈琲を差し出して、一部始終聞いていたシュラインも頷く。
「あたしも、アトラス関係で手伝っていた知人から話を聞いているし、皆で探した方が良いと思うわね」
と、言う。
「ありがとうございます」
葛城は深々と礼をする。
皇騎も、シュラインにしても礼子の「正体」を知っている。最悪なことが無ければ良いのだが…、と不安になる。

何人か興信所に入ってきた。零が五月と一緒に対応する。
「いらっしゃいませ草間興信所ですが、どのようなご用件でしょうか?」
「ごようけんでしょうか?」
と、2人は相手に訊いたが
「あら、みなもちゃんにエディーくん…それと」
「こんにちは、零さん」
「やぁ、元気にしてるか?零ちゃん」
あらかじめ、手伝ってくれる助っ人を呼んでいた草間。海原みなもと淡兎エディヒソイ(以降エディー)だ。もう1人は、異国の風貌を見せる落ち着いた紳士である。
「漁火汀さん、いらっしゃいませ」
と、つい最近顔見知りになった人物に零が挨拶する。
「いらっしゃいませー」
五月と焔が漁火に懐く。ウサギはゲージの中でかまって欲しく暴れている。
なんとか五月達を「仕事だから」と宥めて外に遊びに連れて行く零。
応接室には、葛城を囲んで再度どうするか話し合った。
先にみなもが、葛城に
「詳しく知らないのですけど、出来ればお二人のなれそめを…」
と、真剣な眼差しで訊いた。
「良いですよ」
葛城は、昔の事を話す。
元は売れなかった上がり性の、人間だったこと。そして劇団で知り合った礼子と恋に落ち、一緒に練習して、この地位を得たこと。何より、演劇の稽古の途中自分が瀕死の重傷を負って、死の境を彷徨っているときでも彼女が側にいてくれたことなどを正直に語ってくれた。
ソレはもちろん、アトラスで三下のインタビュー記事に答えた事も含まれているし、それ以外もあった。
「彼女は不思議な感覚がするのです。かなり前…高校の時に出会ったような気がするんですけどね…」
と最後に付け加える。
(おそらく、高校の時…狐の姿の礼子さんを助けた時のことかも)
と皇騎、シュラインは思った。
漁火は彼の話を聞いて、何か考えている。
エディーは、話を聞いているのは聞いているが…真相がはっきりしない…しかし…
「ひょっとして、葛城はんの地獄特訓を再開するために山篭もりしてるかもなぁ」
と、冗談半分に言う。
「山篭もり…」
皆の目線がエディーに集まる。
「可能性はありますね…」
漁火が妙に納得。
「ひょっとすると…ありますね…今の時代役者って厳しいみたいですし…言い役者さんが亡くなってますから…葛城さんは期待の役者のお一人ですし」
と、みなもも納得。
「そうかもしれないわね…」
妙に意味深に頷くシュライン…。
「え?」
―マジに受け取ったんですか?(エディーの心の声)
「今は近辺を調査してからですね。最終的には、山を探しましょう」
皇騎がトドメ。
「…え?マジでか?」
―んな、アホな(心の声2)。


2b.シュラインとみなも、エディー
葛城をマンションまで送った後、登山用具を買い出しに行く。詳しい情報収集は皇騎と漁火が調べているし、シュラインは礼子が葛城と「結婚」するかどうか悩んだ為に1人で考えていると推測した。ならば、初めてあった山に向かう可能性は高い。
エディーは何か複雑な心境で登山用具を物色している。まさか冗談半分の意見が採用されるなんてなぁと言った具合だ。
それでも、後にシュラインから聞いたことで、結果オーライという気楽な考えと交錯しているわけだ。
みなもはどうやって説得しようか考えている。その真剣な姿勢はシュラインにも感じ取れた。
前に、猫と人の恋愛事件を共に解決したり零の恋心の真意を調べたりと、彼女は恋愛がらみになるとかなり真剣になる。自分が人魚の血をひいているからだろうか…。
葛城と礼子が初めてであった山は万年雪らしく。大体日本アルプスの奥らしい。其処の主が「そうしている」のかは判らないが、1人で考えるなら一番良い所だろう。
「一通り買ってきたで」
エディーが登山用品を抱えて持ってきた。みなもとシュラインは缶詰などを買っている。
「礼子さんが白狐とは知りませんでした。でも何とかなりますよね」
不安そうにみなもは言う。
「そうね…最悪の事態は拭いきれないけど…」
最悪の事態…それは礼子が死んでしまって何らかの媒体で葛城の力を維持していることだ。彼女の命が途絶えた時も術が解ける…。
「兎に角行動やな」
エディーは大きな荷物をキャリーに詰めて動かす。
その時、風が…言葉を運んできた。漁火の声だった。
「礼子さんは誘拐されました…場所は…」
「大変、急ぎましょう!」
シュラインは携帯で興信所に向かうよう2人に連絡をした。
一刻を争う…。


3.登山
車でどれぐらい時間が経ったのだろうか?山に着いた。今は登山口である。
ナンバーの割だしで、皇騎の「裏の力」から行き先を割り当てた。葛城は同伴させていない。
事が事であるため、礼子の正体が判ってしまうと葛城の命が危ないからだ。
行き先は哀しいかな、あの2人が初めてであった山だった。
「うーさむ…へっくし!」
流石に万年雪の山。エディーの第一声である。
登山服のベルトには改造モデルガン、そして専用弾(ペイント、BB弾など)がおさまっている。
標高は高いのだが、探す範囲は漁火が風で教えてくれるので重装備にはならない。
「判らないことがあるわ」
シュラインが、ぽつりという。
「漁火さんの言った事が本当だとしても…何故この場所を?其れに動機は?」
「その術師が、この山の主か…全てを知ったライバルかですよ…」
皇騎が答えた。
「山の主の手の者なら、彼女は封印され彼との永遠の別れ…。ライバルなら…彼女を脅して葛城さんの利用ですね」
「そんな、酷いこと!」
みなもが怒りで答える。
「会ってみないと判らないってこっちゃな」
鼻水を垂らしながらエディーは答え、歩き出した。
此処で幾ら考えていても推測しかない。真実は…自分の目で見るしかないのだ。

2人の出逢いの場所にたどり着いた。
雪化粧の木々と少し先に、周りを見渡せる雪原…。なんとも不思議な場所だった。
雪原からは、他の山々や真下の村も見える絶景だった。
この区域は、禁猟区と聞いている。しかし、それを破って罠などが仕掛けられている。
霊視すると…何かの術を施されていた。
「霊狩り?」
皇騎は驚く。
狐のほかに、雪女などの「妖」の類を捕らえるものだったのだ。
「では前に、捕まった礼子さんは…捕まえようとした術者?」
シュラインは皇騎に聞くと、彼はおそらくと答える。
「そのようです…風が…此処の主の声を運んできました」
漁火が口を開いた。
主曰く、「妖」の楽園として万年雪にしているのだが、人間の欲は文明の利器によってほとんど無効化されているという。かといって、怒りにまかせて不届きな輩を自然災害で亡き者にすることは出来ないと嘆いているのだ。
「此処から、3キロほどに、礼子さんが居ますと…」
漁火は行き先を指さす。
「相手が術者でも、同じ人間や!相手したる!」
「霊水持ってきて良かった」

礼子が囚われている場所にたどり着く。山小屋があるので其処にいるのだろう。
「正面突破は止めていた方が良いか」
エディーは呟く。
射撃の巧さと、射撃の師伝授の勘でなにかあると見切ったエディー。
シュラインは音(生物の動きや、山小屋周辺の異様な静けさ)、漁火は風、皇騎は霊感、みなもは霊水の力で見切る。
暫く霊視する皇騎が能力を込めたBB弾をエディーに渡す
「?なんや?これ?」
「あの先を狙ってくれないか?」
結界の穴を見つけた皇騎は「穴」を指さした。かなり遠いので、エディーの力が必要のようだ。
「任しとき!」
素早く装填し、風と温度の環境…そして自分の基本能力「重力生成」でねらいを定める。
音も無く…その「穴」を打ち抜く…
ラップ音に似た音がする。結界が解けたことの証だった。
山小屋から数人出てくる。狩人風の男達だ。
手には、ライフル銃や術具を持っている。
「誰だ!」
男達が叫んだ。
「痛!」
銃を持った男にBB弾が当たり、銃を落とする
「そこまで…私たちに刃向かうのはよした方が良い」
皇騎が堂々と立ち上がって姿を見せる。
「何だ、貴様ら?」
「妖怪密猟者に遭うというのは、イヤなものだ…この呪符の紋章を見ろ…」
皇騎は怒りを露わにして、言った。
「な!宮小路!?だと!」
男達は驚く。巨大な組織が些細な誘拐で動くとは思わなかったようだ。
「動かない方が良いですよ…こちらには…凄腕のスナイパーがいますからね…」
漁火が姿をだす。
「何のために礼子さんを誘拐したか教えて貰いましょうか?あんたたち?」
次にシュラインが現れる。
エディーとみなもは藪に隠れている。
「決まった事よ…昔に狩り損ねた白狐を捕らえ、こいつの彼氏から多額の身代金を要求しようとしたところだ。ついでに言うなら、白狐はいい霊的媒体になるからな」
「下賤な人間ですね…」
漁火の口から吐かれる。
「礼子さんは?」
「ああ、狐なら無事さ…封印させて貰っているが、言い金蔓だからな」
「!?」
「下手に解呪すると…死ぬぜ?其れに今から攻撃しても俺らの意志一つで殺せる様にしている…」
「何処までも卑劣!」
皇騎が叫んだ。
しかし叫んだところでどうする手だてがない…。

一方、隠れているエディーとみなも。
「あの符が怪しいと思うのですが…」
「たしかに、一枚だけってのもおかしいわな…」
みなもは、霊水の入った瓶のふたを開け、雪に数滴垂らす。
「山の神が怒る芝居をしようかな?」
「へ?」
「いきなり雪崩やUMAが現れたら…驚くかもしれません…そこを…」
「念じる時間さえも与えないわけやな」
2人は頷く。

対峙して時間が過ぎている。
何かおかしな音がしていた…。
「な、雪崩か?」
轟くような音が近づいてくる…。
皇騎達も不安になる。
(皆さん伏せて)
皆もがこっそり言った。
みなもは、霊水入りの雪を操って雪柱を作り、男達を宙に浮かせたのだ。
「しまった!」
その不意打ちは男の1人が持っている呪符が宙に舞う。
エディーが石ころを持ち走って、その呪符に向かって跳ぶ。
「重力領域生成!」
石を宙に浮かせ、其れを踏み台にし、巧く呪符を掴んだ。
「これで形勢逆転や!…ってうわ!」
そのまま落下して雪に埋もれるエディー。
呪符はしっかり無事だと其れを持っている手を振った。

倒れた男達の目の前には皇騎、漁火、シュラインが立ちふさがる。
媒体の呪符がなければ封印された礼子に何かすることは無理なのは判っているので…。
男達は、思いっきり懲らしめられた。


4.しばしの別れ…
ロープで縛られ、身動きも念じることも出来ないようになった犯人は、漁火が風で呼んだ獣に見張りをして貰っている。「山の神様が怒った」と更に付け加えることで、男達は黙したままだった。
其れより、問題は礼子の封印である。
氷漬けにされているのだ。生命の反応は正常なのは判る。呪符は、一種の起爆装置…首元に付けられたナイフと同じ役目を果たしているのだ。厄介なことに、この術は犯人にも解けないように入り組んでしまっている。生兵法というやつだろう。
「ここでは…解呪出来ません…」
皇騎が悔しがる。
「どれぐらい掛かるの?」
「たぶん…私の実家に預けても…半年は…」
「そう…」
シュラインは皇騎の言葉に項垂れた。
「で、でも必ず解けるのですよね?」
みなもは心配になって訊く。
「ええ、大丈夫です…」
「オイ、此処に…なにか落ちているで?」
エディーが指さした。
部屋の隅の方に手紙のようなものがある。
皇騎が其れを拾って、読んでみた…。
「私のところで責任持って解呪をします…」
彼は笑顔で言って、皆にその手紙を見せた。読んだ者は、笑顔を見せる。
「頼みます」
皆が皇騎に期待を寄せていった。

手紙にはこう書かれている。

「輝…今は私1人で考えたいことがあるの…。探さないでね。でもね、輝なら私が暫く居なくても大丈夫。貴方が、本当の役者になれる。だって私と一緒に頑張ったもの。
貴方の気持ち既に気づいていた。しかし、今は考えさせて。暫く旅に出ます…。でも、必ず戻ってくるから。
その時は…、貴方の気持ち嬉しいから。再び逢えるときはずっと一緒よ…
                                           礼子」

この手紙を渡した時、葛城はどういう顔をするだろう…。
彼は必ず待つに違いない。
そう確信した皆だった。


End

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0086  / シュライン・エマ / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト】
【0461 / 宮小路・皇騎 / 男 / 20 / 大学生(財閥御曹司・陰陽師)】
【1207 / 淡兎・エディヒソイ/ 男 / 17/高校生】
【1252 / 海原・みなも / 女 / 13 / 中学生】
【1998 / 漁火・汀 / 男 / 285 / 画家、風使い、武芸者】

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■         ライター通信          ■
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滝照です。
『別れ…』に参加して頂きありがとうございます。
バッドエンドを危惧しておられるプレイング内容は感動いたしまいた。
結局、暫く2人は逢えないだけで、宮小路家に礼子は保護されることになりますが、早い内に2人は再会出来るでしょう。

又機会が有れば、お会いしましょう。

滝照直樹拝